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2年生2学期
9月20日(火)曇り時々雨 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その9
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連休と台風後に迎えた火曜日。
この日に台風は温帯低気圧に変わったようで、我が家や学校の近辺でも目立った被害はなかった。
ただし、風の影響から電車が運行できないので、遠くから学校に通う人はまた休まなければいけなかった。
最近は大雨が降りやすいので、電車通学の人はかなり大変だ。
そんな今日は体育祭が日曜日に迫っているのもあって本番に向けた練習が始まる。
今日の種目は……フォークダンスだった。
「産賀先輩! なんでフォークダンスあるの教えてくれなかったんすか!」
放課後の文芸部。桐山くんはその件で僕を責めてくる。
「なんでと言われても、逆になんで教えなきゃいけなかったの?」
「だって……姫宮さんと手を繋いで踊れる可能性があるってことじゃないですか……」
今度は小声で周りに聞こえないようそう言ってきた。
なるほど、その発想は全くなかった。
いや、そもそも今日練習すると聞かされるまでフォークダンスのことなんてすっかり忘れていたのだ。
なにせ去年の印象のうち、半分は練習の時に女子から踊るのを拒否されたことだったから。
今日の練習ではそんなこともなかったけど、やると聞かされた時、頭によぎったのはそのことだった。
「で、実際のところどうなんすか……意中の相手と踊れる裏技とかあります?」
「ないと思う」
「本当っすか? 何か打ち合わせとかしないんすか?」
そう言われても僕に関しては流れに任せて踊っただけだから、打ち合わせがあったとしても僕が全く関与していない。
そこで、去年と同じく僕は藤原先輩に聞いてみることにした。
「……そういうのがあったとしても……オレは関わったことないからわからない……」
しかし、返答は僕とだいたい同じ内容だった。
勝手に巻き込んでしまうけど、僕や藤原先輩は男子間のその手の話題へ積極的に首を突っ込むタイプではない。
「そうっすか……あっ」
「どうしたの?」
「それなら俺がその流れを作れば良くないっすか!?」
「流れって……意中の相手と踊れるように仕込むようにするってこと? いやいや、位置取りとかしっかり決めるわけじゃないからそれは不可能だと思うよ」
「産賀先輩……男にはやらなきゃならない時があるんすよ」
「その台詞、ちょっと前にも聞いたな……」
「俺、なんとかできるように働きかけてみますね!」
ポジティブな宣言を残して桐山くんはそのまま作業に戻っていった。
僕は桐山くんの交流範囲がどんなものか全く知らないけど、体育祭の実行委員に知り合いでもいるのだろうか。
だとしても一個人の、しかもかなり個人的な願いで立ち位置やクラスの組み合わせ固定できるとは思えないけど。
「産賀くん……」
「あっ、はい。どうしました?」
「もしかして……桐山くんは好きな子、いるの……?」
藤原先輩にそう言われて、そういえばその事実を知っていたのが僕だけだったことを覆い出す。
それから桐山くんを呼び戻した後、藤原先輩にも桐山くんの事情を知って貰った。
まぁ、そうしたところで何か変わるわけではないし、藤原先輩は3年で忙しいだろうから、何か関わることもないとは思う。
僕はとりあえず今年も踊りで足手まといにならないように、今日の練習を思い出しておこう。
この日に台風は温帯低気圧に変わったようで、我が家や学校の近辺でも目立った被害はなかった。
ただし、風の影響から電車が運行できないので、遠くから学校に通う人はまた休まなければいけなかった。
最近は大雨が降りやすいので、電車通学の人はかなり大変だ。
そんな今日は体育祭が日曜日に迫っているのもあって本番に向けた練習が始まる。
今日の種目は……フォークダンスだった。
「産賀先輩! なんでフォークダンスあるの教えてくれなかったんすか!」
放課後の文芸部。桐山くんはその件で僕を責めてくる。
「なんでと言われても、逆になんで教えなきゃいけなかったの?」
「だって……姫宮さんと手を繋いで踊れる可能性があるってことじゃないですか……」
今度は小声で周りに聞こえないようそう言ってきた。
なるほど、その発想は全くなかった。
いや、そもそも今日練習すると聞かされるまでフォークダンスのことなんてすっかり忘れていたのだ。
なにせ去年の印象のうち、半分は練習の時に女子から踊るのを拒否されたことだったから。
今日の練習ではそんなこともなかったけど、やると聞かされた時、頭によぎったのはそのことだった。
「で、実際のところどうなんすか……意中の相手と踊れる裏技とかあります?」
「ないと思う」
「本当っすか? 何か打ち合わせとかしないんすか?」
そう言われても僕に関しては流れに任せて踊っただけだから、打ち合わせがあったとしても僕が全く関与していない。
そこで、去年と同じく僕は藤原先輩に聞いてみることにした。
「……そういうのがあったとしても……オレは関わったことないからわからない……」
しかし、返答は僕とだいたい同じ内容だった。
勝手に巻き込んでしまうけど、僕や藤原先輩は男子間のその手の話題へ積極的に首を突っ込むタイプではない。
「そうっすか……あっ」
「どうしたの?」
「それなら俺がその流れを作れば良くないっすか!?」
「流れって……意中の相手と踊れるように仕込むようにするってこと? いやいや、位置取りとかしっかり決めるわけじゃないからそれは不可能だと思うよ」
「産賀先輩……男にはやらなきゃならない時があるんすよ」
「その台詞、ちょっと前にも聞いたな……」
「俺、なんとかできるように働きかけてみますね!」
ポジティブな宣言を残して桐山くんはそのまま作業に戻っていった。
僕は桐山くんの交流範囲がどんなものか全く知らないけど、体育祭の実行委員に知り合いでもいるのだろうか。
だとしても一個人の、しかもかなり個人的な願いで立ち位置やクラスの組み合わせ固定できるとは思えないけど。
「産賀くん……」
「あっ、はい。どうしました?」
「もしかして……桐山くんは好きな子、いるの……?」
藤原先輩にそう言われて、そういえばその事実を知っていたのが僕だけだったことを覆い出す。
それから桐山くんを呼び戻した後、藤原先輩にも桐山くんの事情を知って貰った。
まぁ、そうしたところで何か変わるわけではないし、藤原先輩は3年で忙しいだろうから、何か関わることもないとは思う。
僕はとりあえず今年も踊りで足手まといにならないように、今日の練習を思い出しておこう。
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