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2年生夏休み

8月3日(水)晴れ 松永浩太との夏歓談

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 夏休み14日目。この日は昼から松永が我が家にやって来る。理由は何となく暇だったからだそうで、僕は思わず「それなら伊月さんに会えばいいのでは?」と聞くと、「言わせんな。りょーちゃんと明莉ちゃんに会いたかったんだよ」とよくわからない返しをされた。僕と明莉にかっこつけても仕方ないけど、松永らしい感じはする。

「明莉ちゃん! 彼氏できたんだって!? どんな子なのさ~」

 そして、家に着いたら開口一番にそれを聞いてくる。そういえばそれを教えた後で明莉とは会わせていなかった。明莉に会いたいのはこれを聞きたかったのもあるかもしれない。
 しかし、対する明莉の反応は僕以上にドライだった。

「えっ。なんでまっちゃんに教えないといけないの」

「ええっ!? 俺の彼女については喜んで聞いてきたのに!?」

「それとこれとは話が別。まっちゃんはりょうちゃんの友達であって身内じゃないんで」

「ひどい! 小さい頃からあれだけ遊んだのに! もう実質的に兄弟みたいなもんじゃん!」

「何回も言ってるけど、それはないから」

「うぅ……りょーちゃん!」

 冷たくあしらわれた松永は僕へ泣きついてくる。あんな拒否をされたら僕も泣いてしまうと思うので、今回ばかりは松永の味方をしたくなった。

「まぁまぁ、明莉。これでもそのことを話した時は僕と同じくらい焦ってたんだぞ?」

「そもそもりょうちゃんが焦るのが間違いだと思うんですけど」

「そ、それは……そうかも」

「負けるな、りょーちゃん!」

「で、でも、ちょっとくらい教えてあげてもいいんじゃない?」

「じゃあ、りょうちゃんが説明しといて。あかりはお勉強しなきゃいけないんで」

 そう言いながら明莉は自分の部屋に行ってしまった。正直に言うと、明莉のことだから聞かれたら自慢するくらいだと思っていたから意外だ。自分のことに関しては恥ずかしいのか、それとも松永に本気で教えたくないだけなのか。

「りょーちゃん、今まで考えたくなかったんだけどさ。俺……明莉ちゃんにマジで嫌われてる?」

「そんなことはないとは思うけど……妹心を把握してあげるべきだったかもしれない。今回はちょっとしつこかったのかも」

「そっかぁ。やっぱり真の兄にはなれないかぁ……それはともかく、りょーちゃんから聞かせて貰おうじゃない。うちの明莉を取った男の詳しい情報を」

「勝手にうちのにするな。えっと……」

 そこから僕は桜庭くんについて松永へ説明していく。とはいっても僕が会ったのは初回の挨拶とこの前家に来た時のすれ違い様くらいなので、未だに名前よりも明莉の彼氏さんの印象が強い。あとは……彼が来たせいで僕が家を出なきゃいけなかったとか。

「りょーちゃん、結構根に持ってるじゃん」

「だって、僕の家なんだし……いや、やめよう。あんまり言ってて明莉に聞かれると僕の評価が下がる」

「兄妹だと色々大変なんだなー あっ、そういえば。この日曜日に文芸部でプール行くらしいじゃん」

 松永からそう言われて僕は忘れていたわけじゃないけどハッとする。部活の後輩とはいえ、伊月さんの水着を拝むことになるのは、少々気まずいことを思い出した。

「あ、ああ。えっと……なるべく見ないようにするから」

「えっ? 何の話? それよりもいいよなー みんなでプールなんて。テニス部もみんなで遊ぶことはあるけど、女子テニス巻き込んでプール行くとかできないからなぁ」

「なんで女子テニス部を巻き込む必要があるんだ」

「そりゃあ、もちろん水着見られるから!」

 前言撤回。僕が考えるべきなのは松永への気まずさではなく、伊月さんへの申し訳なさだった。たぶん、伊月さんが聞いたら普通に怒られるやつだ。

「1年生に可愛い女子2人いるんでしょ? いいなー」

「どこからその情報が入ってくるんだよ」

「茉奈ちゃんに決まってるじゃん。結構クセつよだけど、2人とも可愛いって」

「僕は今のところクセつよの方しか感じ取れてないな」

「ははっ。楽しい後輩じゃん。うちも男子は男子で可愛い後輩いるし、夏休み中にどこか遊びに行かないとな」

「あっ。松永、ちょうど聞きたいことがあったんだ。その……文芸部のある後輩男子に悩みなんだけど……」

「文芸部の後輩男子って1人しかいないのでは……?」

「そこは気にしないでくれ。それでだな……」

 その後、僕は桐山くんのことで松永に色々と質問していき、本番に向けた対策方法を一緒に考えて貰った。結果的に松永が遊びに来てくれたおかげで、僕の手札が増やせたから僕に会いたくなってくれて良かったと思う。LINEだと詳しく説明して貰うのに時間がかかるから。

「いやぁ~ いいね、青春って感じで。りょーちゃんもこの波に乗っていこう!」

「乗らないよ。とりあえず……日曜日の伊月さんは僕がちゃんとガードするから」

「えっ……今のキュンときた」

「なんでだよ」

 それはそれとして、やっぱり松永との定期的な話し合いは楽しいものだと思った。
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