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2年生夏休み
7月30日(土)曇り 岸本路子との夏創作Ⅱ その2
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夏休み10日目。この日は火曜日に約束した通り……路ちゃんが水着を買いに行くに同行することになった。改めて自分で書いておきながら何を言っているのかわからないけど、なってしまったものは仕方ない。一人で買いに行くのが心細いということもあるだろう。
「良助くん、今日は本当にありがとう」
「い、いや! 全然これくらい!」
けれども、緊張しないと言われたら嘘になるので、僕は昨日の桐山くんと似たような状態になっていた。この状況を潜り抜けた先には桐山くんの悩みを解決できるものが見つかる……かもしれない。
集合した僕と路ちゃんはその足で高校付近のファッションセンターへ向かう。僕も去年この店で水着を買ったけど、女性用の水着はその倍以上種類がある。夏本番の8月来ることから店に入ってすぐにコーナーも用意されていた。
そんな水着コーナーを見学し始める路ちゃんを僕は少し後ろから見守る。何か言われることはないだろうけど、僕がそのコーナーを近くで見ているのは絵面的に良くないからだ。
でも、来てしまったからには否が応でも水着は目に入ってしまう。だから、路ちゃんはいったいどれを選ぶのだろうか……いやいや、僕が考えてどうする……色的には……なとど、余計なことを考えてしまった。
すると、10分ほどして路ちゃんは何も持たずに僕のところへ近づいて来た。
「良助くん……」
「ど、どうしたの?」
「……全然わからない」
「えっ」
「なんで水着ってお腹とか背中とか出さなきゃいけないの……?」
水着を買いに来た人とは思えない根本的な問題を路ちゃんは指摘する。
「いけないわけじゃないと思うけど、そうじゃないとスウェットスーツみたいやつになっちゃうのでは」
「それは……それで嫌だけれど……」
「路ちゃん的には水着を着るのってそんなに乗り気じゃなかったの?」
「……うん。だって、その……他人に晒していいような感じじゃないし」
路ちゃんがそう言うので、僕は無意識に路ちゃんの体を見てしまった。別に自虐するような感じではないと思ったけど……その感想は絶対に口にしてはいけない。
「りょ、良助くん!」
「な、なに!? 僕は何も考えてないけど!?」
「ううん、今から考えて欲しくて。わたしが……どんな水着を選んだらいいか」
「ぼ、僕が選ぶの!?」
「遊びに行くのだから、結果的に一番目にするのは良助くんたちだし、良助くんが目にしてもいいような水着ならそれでいいと思って」
なるほど。だから僕が呼ばれた……って納得できるわけがない。なんて重大な責任を押し付けてくるんだ。僕はコーディネーターじゃないんだから、相応しい水着なんて選べるはずがなかった。
「路ちゃん、そういう時は自分が好きな奴を選ぶのが一番いいと思う。別にトレンドとか誰かに見られるとかは考えなくてもいいから」
「見られるのは考えないとダメだと思うのだけれど」
「いや……」
「良助くんが選ぶなら文句は言わないから」
そんなつもりはないのだろうけど、路ちゃんは追い詰めるように言う。
「……わ、わかった。でも、僕だけで選ぶのは無理だから……一緒に見てくれる?」
「う、うん!」
その言葉に負けてしまった僕は観念して水着コーナーに近づくことになってしまった。他の人の目線が気になる前に早く決めてしまおう。そう思って僕は商品を確認していく。
「……あっ。これとかいいんじゃない? お腹も隠れるやつだし」
「これ……わたしにはお洒落過ぎる気がするのだけど……」
「全然そんなことないよ。色は赤と黒か。路ちゃんは……」
「どっちの色がいいと思う?」
「えっ。まぁ……黒かな。でも、あれか。黒だと熱を吸収しちゃうから……おお。こっちも服っぽい水着だ。路ちゃんはこういうパステルカラーの方が似合うんじゃないかな?」
「そ、そう……?」
「うん。水色か……翡翠色?っていうのかなこの感じ。路ちゃんは……」
「どっちがの色がいいと思う?」
「うーん……水色かな。どっちも爽やかでいいと思うけど」
「じゃあ……ちょっと試着してみるね」
路ちゃんがそう言いながら水着を手に取った試着室へ向かったので、僕はひとまずホッとした。想像していたよりも早く決着が付いた。
だけど、同時に早く決め過ぎてしまったとも思ってしまう。これだけラインナップがあるなら、もう少し探せばもっといい物も見つかるかもしれない。
「お買い上げありがとうございました」
それを言う暇もなく路ちゃんは購入してしまった。それでもミッションは完了した。70点くらいは貰える動きだったと思う。
「良助くんのおかげでちゃんと選べたわ」
「いやいや。その……着てみた感じ、本当に良かったの?」
「……さっき確認したかった?」
「ち、違うよ」
「……したくないと言われると、ちょっと凹むのだけれど」
「あっ、いや。決して見たくないという意味じゃなくて……」
僕が誤魔化そうとする姿を見て、路ちゃんは笑う。どう返すのが正解なのかさっぱりわからない。どうせプールで見ることにはなるんだろうけど、試着室で見るのは……距離感がわからなくなってしまいそうだ。
「ふふっ。あっ、良助くん。この前のことや今回のことのお礼についてなのだけれど……今日じゃなくてもいい?」
「それはもちろん。別にお礼を貰うようなほどのことはしてないし」
「ううん。お礼はしたいの。だから……明日」
「明日……?」
「明日の夏祭りも……一緒に行かない? そこで何かおごるするから」
路ちゃんは自然に誘ってくれた。それは普段の暇人の僕からすると、凄くありがたい話である。だけど……
「ごめん。明日の夏祭りは別の人と行く予定が入ってて……」
「あ、謝らなくても。そうだよね……誘うなら前日じゃなくて、もっと早く言わないと」
そこから一瞬だけ気まずい空気が流れる。そうか、路ちゃんは……そのつもりがあって来ていたのか。本当にもう少し早く言っていれば、予定を埋められてなかったかもしれない。
「だったら、前言撤回にはなるけれど、今日何かおごらさせて。何でも好きなものでいいから」
その後、甘いものを頂いてから僕と路ちゃんは解散した。別れ際まで水着のことのお礼を何度も行ってくれながら。
だから、路ちゃんの1つ目の願いは叶えられたけど、桐山くんの悩みに対するアドバイスはまだ思い付きそうにない。なぜなら……僕と桐山くんとでは似て非なる状況だから。
「良助くん、今日は本当にありがとう」
「い、いや! 全然これくらい!」
けれども、緊張しないと言われたら嘘になるので、僕は昨日の桐山くんと似たような状態になっていた。この状況を潜り抜けた先には桐山くんの悩みを解決できるものが見つかる……かもしれない。
集合した僕と路ちゃんはその足で高校付近のファッションセンターへ向かう。僕も去年この店で水着を買ったけど、女性用の水着はその倍以上種類がある。夏本番の8月来ることから店に入ってすぐにコーナーも用意されていた。
そんな水着コーナーを見学し始める路ちゃんを僕は少し後ろから見守る。何か言われることはないだろうけど、僕がそのコーナーを近くで見ているのは絵面的に良くないからだ。
でも、来てしまったからには否が応でも水着は目に入ってしまう。だから、路ちゃんはいったいどれを選ぶのだろうか……いやいや、僕が考えてどうする……色的には……なとど、余計なことを考えてしまった。
すると、10分ほどして路ちゃんは何も持たずに僕のところへ近づいて来た。
「良助くん……」
「ど、どうしたの?」
「……全然わからない」
「えっ」
「なんで水着ってお腹とか背中とか出さなきゃいけないの……?」
水着を買いに来た人とは思えない根本的な問題を路ちゃんは指摘する。
「いけないわけじゃないと思うけど、そうじゃないとスウェットスーツみたいやつになっちゃうのでは」
「それは……それで嫌だけれど……」
「路ちゃん的には水着を着るのってそんなに乗り気じゃなかったの?」
「……うん。だって、その……他人に晒していいような感じじゃないし」
路ちゃんがそう言うので、僕は無意識に路ちゃんの体を見てしまった。別に自虐するような感じではないと思ったけど……その感想は絶対に口にしてはいけない。
「りょ、良助くん!」
「な、なに!? 僕は何も考えてないけど!?」
「ううん、今から考えて欲しくて。わたしが……どんな水着を選んだらいいか」
「ぼ、僕が選ぶの!?」
「遊びに行くのだから、結果的に一番目にするのは良助くんたちだし、良助くんが目にしてもいいような水着ならそれでいいと思って」
なるほど。だから僕が呼ばれた……って納得できるわけがない。なんて重大な責任を押し付けてくるんだ。僕はコーディネーターじゃないんだから、相応しい水着なんて選べるはずがなかった。
「路ちゃん、そういう時は自分が好きな奴を選ぶのが一番いいと思う。別にトレンドとか誰かに見られるとかは考えなくてもいいから」
「見られるのは考えないとダメだと思うのだけれど」
「いや……」
「良助くんが選ぶなら文句は言わないから」
そんなつもりはないのだろうけど、路ちゃんは追い詰めるように言う。
「……わ、わかった。でも、僕だけで選ぶのは無理だから……一緒に見てくれる?」
「う、うん!」
その言葉に負けてしまった僕は観念して水着コーナーに近づくことになってしまった。他の人の目線が気になる前に早く決めてしまおう。そう思って僕は商品を確認していく。
「……あっ。これとかいいんじゃない? お腹も隠れるやつだし」
「これ……わたしにはお洒落過ぎる気がするのだけど……」
「全然そんなことないよ。色は赤と黒か。路ちゃんは……」
「どっちの色がいいと思う?」
「えっ。まぁ……黒かな。でも、あれか。黒だと熱を吸収しちゃうから……おお。こっちも服っぽい水着だ。路ちゃんはこういうパステルカラーの方が似合うんじゃないかな?」
「そ、そう……?」
「うん。水色か……翡翠色?っていうのかなこの感じ。路ちゃんは……」
「どっちがの色がいいと思う?」
「うーん……水色かな。どっちも爽やかでいいと思うけど」
「じゃあ……ちょっと試着してみるね」
路ちゃんがそう言いながら水着を手に取った試着室へ向かったので、僕はひとまずホッとした。想像していたよりも早く決着が付いた。
だけど、同時に早く決め過ぎてしまったとも思ってしまう。これだけラインナップがあるなら、もう少し探せばもっといい物も見つかるかもしれない。
「お買い上げありがとうございました」
それを言う暇もなく路ちゃんは購入してしまった。それでもミッションは完了した。70点くらいは貰える動きだったと思う。
「良助くんのおかげでちゃんと選べたわ」
「いやいや。その……着てみた感じ、本当に良かったの?」
「……さっき確認したかった?」
「ち、違うよ」
「……したくないと言われると、ちょっと凹むのだけれど」
「あっ、いや。決して見たくないという意味じゃなくて……」
僕が誤魔化そうとする姿を見て、路ちゃんは笑う。どう返すのが正解なのかさっぱりわからない。どうせプールで見ることにはなるんだろうけど、試着室で見るのは……距離感がわからなくなってしまいそうだ。
「ふふっ。あっ、良助くん。この前のことや今回のことのお礼についてなのだけれど……今日じゃなくてもいい?」
「それはもちろん。別にお礼を貰うようなほどのことはしてないし」
「ううん。お礼はしたいの。だから……明日」
「明日……?」
「明日の夏祭りも……一緒に行かない? そこで何かおごるするから」
路ちゃんは自然に誘ってくれた。それは普段の暇人の僕からすると、凄くありがたい話である。だけど……
「ごめん。明日の夏祭りは別の人と行く予定が入ってて……」
「あ、謝らなくても。そうだよね……誘うなら前日じゃなくて、もっと早く言わないと」
そこから一瞬だけ気まずい空気が流れる。そうか、路ちゃんは……そのつもりがあって来ていたのか。本当にもう少し早く言っていれば、予定を埋められてなかったかもしれない。
「だったら、前言撤回にはなるけれど、今日何かおごらさせて。何でも好きなものでいいから」
その後、甘いものを頂いてから僕と路ちゃんは解散した。別れ際まで水着のことのお礼を何度も行ってくれながら。
だから、路ちゃんの1つ目の願いは叶えられたけど、桐山くんの悩みに対するアドバイスはまだ思い付きそうにない。なぜなら……僕と桐山くんとでは似て非なる状況だから。
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