上 下
481 / 942
2年生夏休み

7月28日(木)晴れ 大山亜里沙との夏遊びⅡ

しおりを挟む
 夏休み8日目。絶好のお出かけ日和というには暑すぎる今日だけど、今日は桜庭くんのために午前中から外に出かけなければならなかった。
 
明莉に元気よく見送られながら僕はとりあえず高校の方へ足を進めるけど、正直することは何も決まっていない。図書館で本を読むという選択肢も浮かんだけど、気分的に今日はぶらぶらしたかった。腰を落ち着けると今頃自宅で何してるんだろうと考えてしまいそうだったから。

 でも、汗がかきたいわけでもないからとりあえず涼しそうな目的地を目指そう。そう思って更に進んで適当にお店に立ち寄ってみては、出て行くのを繰り返す。
今思えば昨日の時点で誰か遊びに誘えば良かった。そうすればカラオケなり何なりに行って暇を大いに潰せたと思う。

 こうなったら思い切ってヒトカラデビューでもしてみようか……と思ったその時だった。

「あれ? うぶクン何してんの?」

 僕は偶然にも大山さんと出会う。いや、高校の方へ向かっていたから出会う可能性は低くないけど、大山さんとばったり会うのは何だか珍しい。

「暇をつぶしてる」

「おお、夏休みらしいじゃん」

「大山さんはバド部の帰り?」

「そそ……って、なんでわかったの?」

「昼前で制服だったからそうかなと」

 加えて言うと大山さんの髪の毛が少しばかり濡れていたからそう思った。暑い日ではあるけど、それほどまでになるのは運動した証拠だろう。決して汗をかいてると言いたいわけじゃない。水を被った可能性もあるから……本人に言ってないのに何を言い訳しているんだろう。

「言われてみるとそっか。で、うぶクンはこれからどこ行くの?」

「何も決まってないよ。お昼を外で食べなきゃいけないこと以外は」

「ふーん? なんか元気ないケド、何かあった?」

「……そうだ。大山さんにはお礼をしたいと思っていたんだ。もしも暇なら何か冷たいモノでもおごるよ」

「えっ!? 何でお礼言われるかわかんないケドいいの!? いただきまーす!」

 大山さんは大げさなくらいに喜ぶので僕も普通に嬉しくなる。暇つぶしに付き合って貰うことにはなるけど、お礼をしたかったのは本当だ。
 それから僕と大山さんは近くのホームセンターに入り、併設されているアイスクリーム屋に立ち寄る。時々明莉と来ることもあるけど、ここへ来るのは小さい頃の記憶の方が濃いから何だか懐かしい気分になる。

「アタシ、3段……いや、2段……」

「別に3段でいいよ」

「じゃあ、3段で! フレーバーは……」

 注文を終えてアイスを受け取った僕と大山さんはそのまま店内の椅子に座る。そこで大山さんがアイスを美味しそうに食べる姿を見ながら、僕は暇つぶしすることになった経緯を話した。

「なるほどな~ 明莉ちゃんもすっかりそういう感じかー……あむ」

「でも、それはそれとして順調なようだし、大山さんにもお世話になったから今日はそのお礼ということで」

「あっ、それだったんだ。うぶクンが事前活動でおごってくれたのかと思ってた」

「どんな事前活動なの。まぁ、部活終わりで暑そうだったから思い付いたのもあるけど」

「思い付いてくれてよかった~ ちょうど何か冷たいモノ欲しかったし」

「僕も……ちょうど愚痴れる相手が欲しかったところだった」

「あれ? 順調だからいいじゃないの?」

「いいけど……家追い出されたし」

「ぷっ……ゴメン。でも、めっちゃ気にしてるんじゃん」

「気にするよ! 自宅に2人きりなんだし!」

 その言葉を皮切りに珍しく僕はよく喋って、大山さんは程よく相槌を打ってくれた。アイスを奢っただけでこんな話を聞かされるのは、よく考えなくとも迷惑だったろうけど、アイスに免じて許して貰うしかない。

「……喋り過ぎた。ごめん、時間取って」

「全然。明莉ちゃんの最新情報はアタシも気になるところだし。ふー……あっ、もう12時じゃん」

「本当だ。アイス屋でたむろしたの初めてかもしれない」

「あんまり居座るとこじゃないもんね。じゃあ、2件目行きますかぁ」

「えっ? 2件目」

「ついでだからお昼も一緒に食べよ? アタシはどうせコンビニで買って帰るだけだったし」

「お、おう……いいの?」

「えー? 珍しくうぶクンから誘ったのにもういつもの遠慮モードになったの?」

「い、いや……わかった。どこで食べる?」

「そうだなぁ。今日は結構がっつりいきたいから……」

 その後、僕はお昼を食べ終えてからも大山さんに連れまわされて、気付いた時には17時を過ぎていた。具体的に何をしていかというと、午前中と同じように店に立ち寄っては出ていく感じだったけど、大山さんが喋り続ける分、まるで退屈はしなかった。

「た、ただいまぁ……」

「おかえり。今日はありがとね、りょうちゃ……なんでそんなに疲れてるの?」

 でも、この夏休み中で一番体力を使ったので僕はヘロヘロだった。これで大山さんは部活後だというのだから体力の差がはっきりわかる。そろそろ向き合うべきだろうか……筋トレの件。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...