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2年生夏休み
7月22日(金)晴れ時々曇り 後輩との日常・姫宮青蘭の場合その5
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夏休み2日目。本日は文芸部の活動日だ。とはいっても夏休み中は部室を開けて創作の場として使ってくださいという感じなので、これといって1日のノルマなどは存在しない。
でも、今の僕は小説のアイデアも決まってなければ、短歌のテーマも決まっていない。去年はもう少し決まっていたような気がするし、要領を得ているはずなのにまるで進んでないのはまずい気がする。
「うーん……」
しかし、今日の僕は全く思考が働かなかった。それは暑さのせいでも純粋なアイデア不足でもなく……明莉のことが気になっていたからだ。
「副部長。セミの代わりに鳴いてるんですか」
すると、そんな状態の僕を姫宮さんに発見されてしまう。心配して声をかけてくれた可能性があるけど、その台詞から始まる時点で何か別の意思を感じる。
「そこまでうるさく唸ってるつもりはなかったんだけど、気になったのならごめん」
「何かあったんですか。吐いたら楽になりますよ」
「気を遣ってくれてありがとう。でも、単にアイデアが思い付かないだけだから」
「そうですか。では出過ぎた真似かもしれませんが私からアイデアを提案させてもらいます。妹モノとかどうですか」
「な、なんで……?」
「何となくです」
姫宮さんは口元を隠しながらそう言う。僕は1年生に対しては妹がいる程度の話しかしてないはずだけど、ずばり言ってくるのは偶然なのだろうか。それとも姫宮さんには不思議な力があるのか。あり得ないはずなのに今までのやり取りからなぜか後者の方が合っている気がする。
「い、いや、妹モノと言われてもなぁ」
「そうですか。私は結構好きですが。可愛すぎるツンデレ系の妹」
「へぇ。姫宮さんはそういう作品を書く予定だったり?」
「どうでしょう。実際に妹がいないので都合のいい女にしてしまうかもしれません。そのあたりは実際に妹がいる副部長の方がリアルを交えたものが書けそうですね」
「別に想像で書くのもいいと思うけど」
「では最近あった副部長妹のリアルエピソードは」
「そ、それはその……昨日一緒に焼きそばを食べたとか」
「もっとください。具体的なやつ」
「…………じ、実は」
追い詰められてしまったのかと思ったのか、僕は明莉が彼氏の家に行くことを吐き出してしまった。実際、誰かに共有すると、少し気持ちは軽くなるんだけど……この場で言うのは間違いだった。
「ええっ!? 産賀センパイの妹さんに彼氏が!?」
「浩太くんから聞いてたあの明莉ちゃんが!?」
「ウーブ君そんな話全然してなかったじゃん!?」
みんなどうしてそのタイミングだけ耳が良くなるのか、食いつきそうなタイプの人が一斉に集まってくる。創作に集中してたんじゃなかったのかい。
「しかし彼氏の家ということは今日大人の階段を上る可能性ありますね」
「ぶっ!? な、なに言ってんの!?」
「いえ。あくまで予想です」
「でもでも、実際夏休みで彼氏の家って……そこんとこどう、茉奈?」
「えっ!? いやー……そういう話はちょっと……」
いつの間にか話の中心は僕ではなくなり、様々な方向に散らかっていく。ある意味いつも通り賑やかさだ。
「良助くん」
「あっ。ごめん、路ちゃん。僕のせいで騒がしくなって」
「ううん。それより……妹さんの彼氏って同級生?」
路ちゃん、キミもか。いや、思い返したらこういう話題好きだったような気がする。
「副部長のおかげで愉快な空気になりました。さすがです」
「褒められた気がしない……」
僕の微妙な表情を見て姫宮さんはまた口元を隠して、恐らく微笑む。これを狙っていたのだとしたら、姫宮さんは結構賑やかな方が好きなのかもしれない。
結局、この日の僕は全く創作が進まなかったけど、夏休みでも文芸部の楽しい雰囲気が感じられたのは良かったと思っておこう。妹モノ……はさすがに書かない。たぶん。
でも、今の僕は小説のアイデアも決まってなければ、短歌のテーマも決まっていない。去年はもう少し決まっていたような気がするし、要領を得ているはずなのにまるで進んでないのはまずい気がする。
「うーん……」
しかし、今日の僕は全く思考が働かなかった。それは暑さのせいでも純粋なアイデア不足でもなく……明莉のことが気になっていたからだ。
「副部長。セミの代わりに鳴いてるんですか」
すると、そんな状態の僕を姫宮さんに発見されてしまう。心配して声をかけてくれた可能性があるけど、その台詞から始まる時点で何か別の意思を感じる。
「そこまでうるさく唸ってるつもりはなかったんだけど、気になったのならごめん」
「何かあったんですか。吐いたら楽になりますよ」
「気を遣ってくれてありがとう。でも、単にアイデアが思い付かないだけだから」
「そうですか。では出過ぎた真似かもしれませんが私からアイデアを提案させてもらいます。妹モノとかどうですか」
「な、なんで……?」
「何となくです」
姫宮さんは口元を隠しながらそう言う。僕は1年生に対しては妹がいる程度の話しかしてないはずだけど、ずばり言ってくるのは偶然なのだろうか。それとも姫宮さんには不思議な力があるのか。あり得ないはずなのに今までのやり取りからなぜか後者の方が合っている気がする。
「い、いや、妹モノと言われてもなぁ」
「そうですか。私は結構好きですが。可愛すぎるツンデレ系の妹」
「へぇ。姫宮さんはそういう作品を書く予定だったり?」
「どうでしょう。実際に妹がいないので都合のいい女にしてしまうかもしれません。そのあたりは実際に妹がいる副部長の方がリアルを交えたものが書けそうですね」
「別に想像で書くのもいいと思うけど」
「では最近あった副部長妹のリアルエピソードは」
「そ、それはその……昨日一緒に焼きそばを食べたとか」
「もっとください。具体的なやつ」
「…………じ、実は」
追い詰められてしまったのかと思ったのか、僕は明莉が彼氏の家に行くことを吐き出してしまった。実際、誰かに共有すると、少し気持ちは軽くなるんだけど……この場で言うのは間違いだった。
「ええっ!? 産賀センパイの妹さんに彼氏が!?」
「浩太くんから聞いてたあの明莉ちゃんが!?」
「ウーブ君そんな話全然してなかったじゃん!?」
みんなどうしてそのタイミングだけ耳が良くなるのか、食いつきそうなタイプの人が一斉に集まってくる。創作に集中してたんじゃなかったのかい。
「しかし彼氏の家ということは今日大人の階段を上る可能性ありますね」
「ぶっ!? な、なに言ってんの!?」
「いえ。あくまで予想です」
「でもでも、実際夏休みで彼氏の家って……そこんとこどう、茉奈?」
「えっ!? いやー……そういう話はちょっと……」
いつの間にか話の中心は僕ではなくなり、様々な方向に散らかっていく。ある意味いつも通り賑やかさだ。
「良助くん」
「あっ。ごめん、路ちゃん。僕のせいで騒がしくなって」
「ううん。それより……妹さんの彼氏って同級生?」
路ちゃん、キミもか。いや、思い返したらこういう話題好きだったような気がする。
「副部長のおかげで愉快な空気になりました。さすがです」
「褒められた気がしない……」
僕の微妙な表情を見て姫宮さんはまた口元を隠して、恐らく微笑む。これを狙っていたのだとしたら、姫宮さんは結構賑やかな方が好きなのかもしれない。
結局、この日の僕は全く創作が進まなかったけど、夏休みでも文芸部の楽しい雰囲気が感じられたのは良かったと思っておこう。妹モノ……はさすがに書かない。たぶん。
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