上 下
454 / 942
2年生1学期

7月1日(金)晴れ 松永浩太との歓談その3

しおりを挟む
 7月の始まりと一週間終わりの金曜日。週末にかけて台風が上陸することからその後は少し涼しくなるらしいけど、その前に僕としてはテストと台風が被るのはあまり良い感じがしない。

「あーあ。台風でテスト延期とかならないかなー」

 一方、松永は僕と考え方が違うようで、そんなことを言い出す。今週は部活動が停止されていたけど、帰りが一緒になるのは金曜が初めてだった。

「延期になっても困るだけだろ。どうせやらなきゃいけないんだし」

「でも、仮に台風で休校になったらその日はテスト勉強できるからお得じゃん?」

「その場合松永はテスト勉強するの?」

「しないね。本来はテストを受けてる日なんだから」

 松永は開き直るようにはっきりと言う。

「いや、さすがにちょっとはするでしょ……」

「りょーちゃんは俺がそんな小心者に見えるか!?」

「そんなところで漢気とか見せなくていいから。伊月さんが悲しむよ」

「うわっ……最近のりょーちゃん、そのカード使ってくるの卑怯だわ」

「そりゃあ、完全メタカードなんだから使うよ。実際、伊月さんから上手く誘導してくださいって言われてるし」

「先輩が後輩に良いように使われてる」

「い、いや、そんなことはない……たぶん」

 今のは少し痛かった。メタカードであることは間違いないけど、完全は言い過ぎたようだ。

「話は戻るけど、マジで台風どうなるんだろ? 今までの台風でテスト延期になったことはないよね?」

「松永が覚えてないならたぶんそうじゃないかな? 何となくだけど、台風は夏真っ盛りよりも夏の終わり頃の方が激しい気がするし」

「この辺で一番ヤバかったのは20年以上前ってお袋から聞いたなぁ。その時、橋が流れたとか」

「へぇー そのレベルになると最早テストうんぬんどころじゃないし、色んな被害を考えたらやっぱり台風は来ない方がいいよ」

「それはもちろん……だけど! 休校に期待したい気持ちはあるじゃん?」

「……まぁ、無いと言えば嘘になる」

「まぁ、だから程々に外へ出られないような感じでお願いするしかない!」

「だからって、明日と明後日何もしないのは無しだぞ」

「わかってるって。りょーちゃんが心配しなくても……茉奈ちゃんが何か言ってくるだろうから」

 そう言った松永は苦笑しているように見えた。それを惚気と取るべきか、ちょっとげんなりしていると取るべきか……いや、そもそもテスト勉強しない松永が悪かった。

 そんなこんなで今日の帰り道もテストに役立つ会話はまるで無かったけど、松永と一緒に帰る時らしい内容になった。なんだかんだ松永と2人でいる時が一番平和な気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼ノ女人禁制地ニテ

フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地―― その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。 柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。 今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。 地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

樹企画第二弾作品集(Spoon内自主企画)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらはspoonというアプリで、読み手様個人宛てに書いた作品となりますが、spoonに音声投稿後フリー台本として公開許可を頂いたものをこちらにまとめました。 1:30〜8分ほどで読み切れる作品集です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

欲しい

早川
青春
人の欲の話です

サマネイ

多谷昇太
青春
 1年半に渡って世界を放浪したあとタイのバンコクに辿り着き、得度した男がいます。彼の「ビルマの竪琴」のごとき殊勝なる志をもって…? いや、些か違うようです。A・ランボーやホイットマンの詩に侵されて(?)ホーボーのように世界中を放浪して歩いたような男。「人生はあとにも先にも一度っきり。死ねば何もなくなるんだ。あとは永遠の無が続くだけ。すれば就職や結婚、安穏な生活の追求などバカらしい限りだ。たとえかなわずとも、人はなんのために生きるか、人生とはなんだ、という終極の命題を追求せずにおくものか…」などと真面目に考えては実行してしまった男です。さて、それでどうなったでしょうか。お釈迦様の手の平から決して飛び立てず、逃げれなかったあの孫悟空のように、もしかしたらきついお灸をお釈迦様からすえられたかも知れませんね。小説は真実の遍歴と(構成上、また効果の上から)いくつかの物語を入れて書いてあります。進学・就職から(なんと)老後のことまでしっかり目に据えているような今の若い人たちからすれば、なんともあきれた、且つ無謀きわまりない主人公の生き様ですが(当時に於てさえ、そして甚だ異質ではあっても)昔の若者の姿を見るのもきっと何かのお役には立つことでしょう。  さあ、あなたも一度主人公の身になって、日常とはまったく違う、沙門の生活へと入り込んでみてください。では小説の世界へ、どうぞ…。

処理中です...