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2年生1学期
6月16日(木)曇り 停滞する清水夢愛その8
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木曜日。この日の放課後、僕は清水先輩と中庭で落ち合う。微妙な天気のせいかそれほど人も多くなく、話すのには良い環境だと思った。
――日曜日に清水先輩が言いたかったこと、教えてください。
大山さんからの助言を受けて昨日1日考えて送ったのは回りまわってシンプルな言葉になった。
――僕はどんなことでも受け入れますから
そこに付け加えた言葉は何様なのだろうと思われてしまったかもしれない。清水先輩にとっての僕は単に1年後輩で、あまり多くないであろう友人の1人だ。
でも、清水先輩はそれに返事してくれ、今日僕に会ってくれた。
「お疲れ、良助」
「お疲れ様です、清水先輩」
お決まりの挨拶を交わすと、お互いに一瞬黙ってしまう。何となく気まずい空気。喧嘩したわけではないのにそうなっているのは、間違いなく緊張のせいだ。
だけど、ここで止まってしまうのはいつもの待ってばかりの僕になってしまう。
「……清水先輩、今日はわざわざありがとうございます。LINEで聞いても良かったのかもしれませんが、直接会って聞きたくて」
「私も伝えるなら会った方がいいと思っていた。いや、そもそも……あの日相談しようと思っていたんだ。でも、何となく引き延ばしてしまって……」
「じゃあ、今日は……」
「ああ。今、私が悩んでいることを聞いて欲しい」
清水先輩の言葉に僕は一度唾を飲み込む。自分の行動が間違っていなかったのは良かったけど、更に緊張は高まる。
「私は……小さい頃からずっと両親の傍にいたいと思っていた」
「傍にって……清水先輩は実家住まいなんじゃ」
「小さい頃から二人とも仕事で家を空けることが多かったんだ。たまの休みには水族館みたいに色んなところへ連れて行ってくれたが……その頃の私はそんな人が多くいる場所へ行くよりも家や近所で普通に過ごす方がいいと思っていた。その方が両親と一緒に過ごせている気がして……」
「人が多い場所だと、別のことに気が取られてしまうから……ですか」
「ああ。それから私が家に一人でいられるような年齢になってからはどこかへ連れて行って貰うことなくなって。今思えばどこかに一緒に行けていたことが貴重だったんだ。それなのに小さい頃の私はひねくれたことばかりして……」
清水先輩はそのことを思い出すように少し上を見上げた。
「両親は決して冷たいわけじゃないんだ。むしろ、いつだって私のことを受け入れてくれる。ひねくれた私を否定することはなかったし、大学進学を勧められる前は私の好きなことをしていいと言ってくれた。でも、今の私が望んでいるのは……」
「両親の……傍にいること」
僕の言葉に清水先輩は頷く。
「だから、今になってまた悩んでるんだ。実家から通える大学は限られるし、そもそも両親の傍にいたいという理由で決めるのは間違っているし……仮に実家から動かなかったところで定年するまで両親はずっと忙しくしていると思う。それで家を空けるなら私が家にいても何の意味もない」
そう言って寂しげな表情を見せる清水先輩に僕はすぐには言葉を返せなかった。思い返してみると、清水先輩の家族についてはあまり話を聞いてこなかった。それは清水先輩が両親とすれ違っているからだった。
「すまないな、良助。こんな話聞かせても困るだろうに」
「いえ、僕が聞きたいと言ったんですから。それに……すみません。今は上手く解決する方法は思い付きません」
「良助が謝らなくても……ふふっ。しょうがないか。それが良助の癖なんだし」
「はい。でも、これからは僕も一緒に考えます」
「い、一緒にか。私が親離れできてないだけと言われると思ったんだが……」
「そんなことありません。今教えて貰ったのはざっくりとした部分なので、また色々聞いていったら……」
「なぁ、良助。頼ってしまっている私が言うのも何だが……どうして良助はここまで親身になってくれるんだ? 面倒くさいと思われても仕方ないのに……」
少しだけ弱々しく言う清水先輩を見て、僕は心臓が跳ねる。僕が清水先輩に親身になる理由は、1つだけじゃないけど……一番のところを伝えるなら今かもしれない。
そう思った僕は、拳を握りながら言う。
「それは……清水先輩が……好きだからです」
「えっ」
「いや、その! はい……」
「……そうか。ありがとう、良助。そこまで友人として親しく思ってくれているなんて」
清水先輩は爽やかな笑顔でそう言った。たぶん、誤魔化しているとかではなく、本当にそういう意味で受け取っているのだろう。
僕は覚悟を決めたつもりだったけど、言うのは今じゃなかったらしい。
「うん。やっぱり人に話すと少し心が晴れるな。まだまだ悩んでしまうかもしれないが、よろしく頼むぞ、良助」
「は、はい……」
こうして、僕は清水先輩の事情を少しだけ知ることができた。清水先輩が納得できる形で解決できるかはわからないけど、少しでも気持ちが楽になるならこれからも僕は一緒に考えていきたい。
それと同時に……改めてわかった。大山さんに言い訳してしまったけど、僕は……清水先輩に惹かれている。後輩や友人だけでなく、それ以上に近づいきたいと思っている。
今日は失敗してしまったけど……いつか本当の意味を伝えられたらいいな。
――日曜日に清水先輩が言いたかったこと、教えてください。
大山さんからの助言を受けて昨日1日考えて送ったのは回りまわってシンプルな言葉になった。
――僕はどんなことでも受け入れますから
そこに付け加えた言葉は何様なのだろうと思われてしまったかもしれない。清水先輩にとっての僕は単に1年後輩で、あまり多くないであろう友人の1人だ。
でも、清水先輩はそれに返事してくれ、今日僕に会ってくれた。
「お疲れ、良助」
「お疲れ様です、清水先輩」
お決まりの挨拶を交わすと、お互いに一瞬黙ってしまう。何となく気まずい空気。喧嘩したわけではないのにそうなっているのは、間違いなく緊張のせいだ。
だけど、ここで止まってしまうのはいつもの待ってばかりの僕になってしまう。
「……清水先輩、今日はわざわざありがとうございます。LINEで聞いても良かったのかもしれませんが、直接会って聞きたくて」
「私も伝えるなら会った方がいいと思っていた。いや、そもそも……あの日相談しようと思っていたんだ。でも、何となく引き延ばしてしまって……」
「じゃあ、今日は……」
「ああ。今、私が悩んでいることを聞いて欲しい」
清水先輩の言葉に僕は一度唾を飲み込む。自分の行動が間違っていなかったのは良かったけど、更に緊張は高まる。
「私は……小さい頃からずっと両親の傍にいたいと思っていた」
「傍にって……清水先輩は実家住まいなんじゃ」
「小さい頃から二人とも仕事で家を空けることが多かったんだ。たまの休みには水族館みたいに色んなところへ連れて行ってくれたが……その頃の私はそんな人が多くいる場所へ行くよりも家や近所で普通に過ごす方がいいと思っていた。その方が両親と一緒に過ごせている気がして……」
「人が多い場所だと、別のことに気が取られてしまうから……ですか」
「ああ。それから私が家に一人でいられるような年齢になってからはどこかへ連れて行って貰うことなくなって。今思えばどこかに一緒に行けていたことが貴重だったんだ。それなのに小さい頃の私はひねくれたことばかりして……」
清水先輩はそのことを思い出すように少し上を見上げた。
「両親は決して冷たいわけじゃないんだ。むしろ、いつだって私のことを受け入れてくれる。ひねくれた私を否定することはなかったし、大学進学を勧められる前は私の好きなことをしていいと言ってくれた。でも、今の私が望んでいるのは……」
「両親の……傍にいること」
僕の言葉に清水先輩は頷く。
「だから、今になってまた悩んでるんだ。実家から通える大学は限られるし、そもそも両親の傍にいたいという理由で決めるのは間違っているし……仮に実家から動かなかったところで定年するまで両親はずっと忙しくしていると思う。それで家を空けるなら私が家にいても何の意味もない」
そう言って寂しげな表情を見せる清水先輩に僕はすぐには言葉を返せなかった。思い返してみると、清水先輩の家族についてはあまり話を聞いてこなかった。それは清水先輩が両親とすれ違っているからだった。
「すまないな、良助。こんな話聞かせても困るだろうに」
「いえ、僕が聞きたいと言ったんですから。それに……すみません。今は上手く解決する方法は思い付きません」
「良助が謝らなくても……ふふっ。しょうがないか。それが良助の癖なんだし」
「はい。でも、これからは僕も一緒に考えます」
「い、一緒にか。私が親離れできてないだけと言われると思ったんだが……」
「そんなことありません。今教えて貰ったのはざっくりとした部分なので、また色々聞いていったら……」
「なぁ、良助。頼ってしまっている私が言うのも何だが……どうして良助はここまで親身になってくれるんだ? 面倒くさいと思われても仕方ないのに……」
少しだけ弱々しく言う清水先輩を見て、僕は心臓が跳ねる。僕が清水先輩に親身になる理由は、1つだけじゃないけど……一番のところを伝えるなら今かもしれない。
そう思った僕は、拳を握りながら言う。
「それは……清水先輩が……好きだからです」
「えっ」
「いや、その! はい……」
「……そうか。ありがとう、良助。そこまで友人として親しく思ってくれているなんて」
清水先輩は爽やかな笑顔でそう言った。たぶん、誤魔化しているとかではなく、本当にそういう意味で受け取っているのだろう。
僕は覚悟を決めたつもりだったけど、言うのは今じゃなかったらしい。
「うん。やっぱり人に話すと少し心が晴れるな。まだまだ悩んでしまうかもしれないが、よろしく頼むぞ、良助」
「は、はい……」
こうして、僕は清水先輩の事情を少しだけ知ることができた。清水先輩が納得できる形で解決できるかはわからないけど、少しでも気持ちが楽になるならこれからも僕は一緒に考えていきたい。
それと同時に……改めてわかった。大山さんに言い訳してしまったけど、僕は……清水先輩に惹かれている。後輩や友人だけでなく、それ以上に近づいきたいと思っている。
今日は失敗してしまったけど……いつか本当の意味を伝えられたらいいな。
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