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2年生1学期
6月12日(日)晴れ時々曇り 停滞する清水夢愛その7
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とうとうやって来た日曜日。僕と清水先輩は午前10時にバス停へ集まり、そのままバスへ乗る。今日の目的は施設を借りて開催されている移動水族館だ。しっかりした水族館へ行くなるとかなりの遠出になるので、バスで行ける距離での開催なら比較的足を運びやすい。
そんな理由もあって今回のお出かけ先が決まったわけだけど……いざ当日になって僕は緊張していた。今までで行く場所と言えば、散歩で適当にぶらぶらしてたどり着いた場所くらいだったのが、いきなり目的地を決めて行くことになった。
それだけでも特別なことなのに、今回行く場所が簡易的でも水族館なのだから変に意識しそうになってしまう。そのせいで野島さんや明莉に聞かれた時もやんわりと誤魔化してしまった。
「うわぁ~ 良助、この魚めっちゃ変な顔……って言ったら魚に失礼か。チャーミングな顔してるぞ」
ある水槽にいた魚を見ながら清水先輩はそう言う。目的地では移動式なことから大きな生き物はいないけど、珍しい水生生物がたくさん展示されていた。
その展示を清水先輩はまるで小さな子どものように覗き込んだり、率直な感想を呟いたりしていた。相談していた時に聞いた話だと特別海の生き物や水族館が好きというわけではないようだけど、その珍しさには惹かれるところがあったようだ。
一方の僕は清水先輩の感想に相槌を打ちながら徐々に緊張を解していき、少し経つと僕も純粋に楽しむ余裕ができ始めていた。
「おー……こんなヒレがある奴もいるのか」
だけど、その楽しみというのは魚だけではなく、清水先輩の無邪気に笑う姿や楽し気な反応もあった。
「は~ 面白かった。良助はどの魚が気に入った?」
「熱帯魚のところは良いと思いました。魚自体は珍しくないかもですけど、アクアリウムとして綺麗だなと」
「あー、あれか。お金持ちが部屋の中央に置いてそうなやつ」
「確かにイメージありますけど、今回のはもっとファンシーな感じがしませんでした?」
「そうだっけ? よし、もう一度見に行ってみよう」
清水先輩がそう言うので、入り口まで引き返してお互い気になったところ再度回ることになった。それでも一周にそれほど時間がかからないことから気楽に見て回れた。
それから12時を過ぎた頃。水族館を後にした僕と清水先輩は近場にあったファミレスに寄って昼食を取る。
「良助。今日はありがとう。いつものことながらこんなところまで付き合わせてしまって」
「いえいえ。僕も楽しませて貰いました。水族館はかなり久しぶりでしたし」
僕は本心からそう言う。場所が違うからと緊張していたけど、蓋を開けてみればそれ以外はいつもの散歩とそれほど変わりがなかった。
でも、それが悪いというわけではなく、清水先輩とゆったり過ごす時間はとても居心地がいい。だから僕が邪推したり、誰かが期待するような展開が無くても、それで十分なのだ。
「そうか。良助も久しぶりだったか」
「はい、確か中2年の時が最後だったかと。清水先輩はいつが最後です?」
「幼稚園か小学校低学年の時に……両親と来たきり。でも……そんなに楽しい記憶じゃないな」
「あー……ありますよね、そういうの」
「良助にもあるのか!?」
「水族館じゃないですけど、すごく小さい頃に親戚の結婚式へ行くのを嫌がってたって今でもよく言われます。それ以外にも当時はいつもと違う場所へ怖さがあったんでしょうね」
「そ、そういうことか……」
そう言った清水先輩は少し残念そうな反応に見えた。どうやら清水先輩が思っていたことと噛み合っていなかったらしい。
それなら何が駄目だったのだろうかと僕は聞こうとするけど、その前に清水先輩は呟くように言う。
「今水族館へ行ったら……思うことも変わるんだろうか」
「家族とですか? 今日の清水先輩を見る限りなら大きな水族館でも同じように楽しめそうですけど……」
僕がそう言うと清水先輩は何とも言えない反応をする。
「すみません。なんか盛り下がること言っちゃって」
「……また良助が謝ってる。聞いたの私の方じゃないか」
「す、すみ……良くない癖ですね」
「ははっ。良助は謙虚なんだな。それに比べて……私はわがままだ」
「清水先輩……?」
先ほどから感じるいつも違う空気に僕は少しばかり困惑してしまう。
すると、清水先輩はそれを察したのか、話を切り替えるようにして言う。
「さて、ご飯を食べたら午後からはこの周辺をぶらぶらしようか。今日はとことん付き合って貰うぞ」
結局、その後も清水先輩は話を続きをすることはなかったし、僕も続きを聞くことはできなかった。
今日は確実に楽しかったけれど、行く前まであった浮ついた気持ちはどこかに消えていた。
そんな理由もあって今回のお出かけ先が決まったわけだけど……いざ当日になって僕は緊張していた。今までで行く場所と言えば、散歩で適当にぶらぶらしてたどり着いた場所くらいだったのが、いきなり目的地を決めて行くことになった。
それだけでも特別なことなのに、今回行く場所が簡易的でも水族館なのだから変に意識しそうになってしまう。そのせいで野島さんや明莉に聞かれた時もやんわりと誤魔化してしまった。
「うわぁ~ 良助、この魚めっちゃ変な顔……って言ったら魚に失礼か。チャーミングな顔してるぞ」
ある水槽にいた魚を見ながら清水先輩はそう言う。目的地では移動式なことから大きな生き物はいないけど、珍しい水生生物がたくさん展示されていた。
その展示を清水先輩はまるで小さな子どものように覗き込んだり、率直な感想を呟いたりしていた。相談していた時に聞いた話だと特別海の生き物や水族館が好きというわけではないようだけど、その珍しさには惹かれるところがあったようだ。
一方の僕は清水先輩の感想に相槌を打ちながら徐々に緊張を解していき、少し経つと僕も純粋に楽しむ余裕ができ始めていた。
「おー……こんなヒレがある奴もいるのか」
だけど、その楽しみというのは魚だけではなく、清水先輩の無邪気に笑う姿や楽し気な反応もあった。
「は~ 面白かった。良助はどの魚が気に入った?」
「熱帯魚のところは良いと思いました。魚自体は珍しくないかもですけど、アクアリウムとして綺麗だなと」
「あー、あれか。お金持ちが部屋の中央に置いてそうなやつ」
「確かにイメージありますけど、今回のはもっとファンシーな感じがしませんでした?」
「そうだっけ? よし、もう一度見に行ってみよう」
清水先輩がそう言うので、入り口まで引き返してお互い気になったところ再度回ることになった。それでも一周にそれほど時間がかからないことから気楽に見て回れた。
それから12時を過ぎた頃。水族館を後にした僕と清水先輩は近場にあったファミレスに寄って昼食を取る。
「良助。今日はありがとう。いつものことながらこんなところまで付き合わせてしまって」
「いえいえ。僕も楽しませて貰いました。水族館はかなり久しぶりでしたし」
僕は本心からそう言う。場所が違うからと緊張していたけど、蓋を開けてみればそれ以外はいつもの散歩とそれほど変わりがなかった。
でも、それが悪いというわけではなく、清水先輩とゆったり過ごす時間はとても居心地がいい。だから僕が邪推したり、誰かが期待するような展開が無くても、それで十分なのだ。
「そうか。良助も久しぶりだったか」
「はい、確か中2年の時が最後だったかと。清水先輩はいつが最後です?」
「幼稚園か小学校低学年の時に……両親と来たきり。でも……そんなに楽しい記憶じゃないな」
「あー……ありますよね、そういうの」
「良助にもあるのか!?」
「水族館じゃないですけど、すごく小さい頃に親戚の結婚式へ行くのを嫌がってたって今でもよく言われます。それ以外にも当時はいつもと違う場所へ怖さがあったんでしょうね」
「そ、そういうことか……」
そう言った清水先輩は少し残念そうな反応に見えた。どうやら清水先輩が思っていたことと噛み合っていなかったらしい。
それなら何が駄目だったのだろうかと僕は聞こうとするけど、その前に清水先輩は呟くように言う。
「今水族館へ行ったら……思うことも変わるんだろうか」
「家族とですか? 今日の清水先輩を見る限りなら大きな水族館でも同じように楽しめそうですけど……」
僕がそう言うと清水先輩は何とも言えない反応をする。
「すみません。なんか盛り下がること言っちゃって」
「……また良助が謝ってる。聞いたの私の方じゃないか」
「す、すみ……良くない癖ですね」
「ははっ。良助は謙虚なんだな。それに比べて……私はわがままだ」
「清水先輩……?」
先ほどから感じるいつも違う空気に僕は少しばかり困惑してしまう。
すると、清水先輩はそれを察したのか、話を切り替えるようにして言う。
「さて、ご飯を食べたら午後からはこの周辺をぶらぶらしようか。今日はとことん付き合って貰うぞ」
結局、その後も清水先輩は話を続きをすることはなかったし、僕も続きを聞くことはできなかった。
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