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2年生1学期
6月7日(火)曇り時々雨 後輩との日常・岸元日葵の場合その4
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はっきりしない天気の火曜日。自転車通学の僕としては途中で降られる方が困るので、登下校の間は降るならわかりやすく振ってくれた方が合羽を着るかどうかの判断がつくからありがたい。まぁ、何年経っても合羽で自転車に乗るのは慣れないからできれば着たくはないんだけど。
そんな曇り空を窓から眺めながら今日も放課後の文芸部が始まる。梅雨が近づいていることもあって、今日は梅雨の期間におすすめの本をみんなで共有することになった。湿気は本の敵だから本を借りる場合は気を付けなければならないけど、雨で出かけられない中での読書は良い時間の使い方だと思う。
「うーん……」
それから自由な時間になった時。日葵さんは珍しく(と言ったら失礼だけど)真剣な表情で悩んでいた。
文化祭に向けた作品の提出はまだまだ先だけど、アイデアをまとめているのだろうか。そんなことを考えながら僕はちょっとだけ見ているつもりだった。
「……あっ、産賀センパイ! ちょうど目が合いましたね!」
「いや……」
「まぁまぁ、そう言わないで。ちょっとこっち来てくださいよ~」
そう言われてしまったので、僕は大人しく日葵さんの元へ行く。
「何か考えてたけど、困ってることでもあるの?」
「あります。ありありです。実はですね、どれくらいまでなら課金が許されるか迷ってて……」
「課金? それはその、ソシャゲにお金入れる的な話?」
「あっ、違います。日葵が課金しようとしてるのはお布施的なやつです」
そう言いながら日葵さんがスマホで見せたのは僕も名前を見た事がある動画投稿者のチャンネルだった。
「あー、そういうやつね。僕は相場とか全然わからないんだけど、いくらくらいお布施するつもりなの?」
「それが悩みどころなんですよねぇ。やっぱり1,000円じゃ少ないと思うし……」
「えっ? 結構多くない……?」
「そうですか? 1,000円くらい1週間あればすぐに使っちゃうじゃないですか」
確かに実生活で考えたら1週間の昼食代だけでも1,000円以上になるけど、日葵さんは今その金額以上を1回のお布施で消費しようかと考えている。
かといって、お布施はその人に対する感謝とかも含まれているから、1,000円以上が高いとも言いづらい。
現にVTuberを見ている大倉は少しずつお布施を支払って、累計はどう考えても1,000円をとうに超えているけど、後悔していないと言っていた。
「やっぱり5,000円からかなぁ」
「ご、5,000円!?」
「それくらい出すと見栄え良くありません?」
「見栄えで決めるのはどうかと思うけど……それより公式グッズとか購入したらいいんじゃないかな?」
「いやいや、日葵は今回投稿されたこの歌に対して感謝の気持ちを伝えたいんですよ。もちろん、公式グッズも欲しいやつは買ってますよ?」
それはファンとして素晴らしいけれど……どうなんだろう。僕は止めるべきなんだろうか。結局、日葵さんが支払うことに価値を感じているのであれば、値段なんて関係なく払った方がいいとは思う。
しかし、5,000円支払うのはさすがに待ったをかけたくなる。ゲームソフト約1本分と僕なら換算してしまうけど……そうじゃなくても学生のお財布事情に合っていないような気がするからだ。
いや、日葵さんの月のお小遣いがめちゃめちゃ高い可能性もあるか? それなら5,000円くらいと考える可能性も――
「産賀センパイは参考にならないかぁー あっ、青蘭! ちょっと聞きたいんだけど!」
僕が悩んでいる間に日葵さんは見切りをつけて姫宮さんに聞いてしまう。仲の良い2人なのは知っているけど、この場合姫宮さんはどう答えるんだろうか。僕は思わず自分で考えるのやめて行く末を見る側になってしまった。
「なにかあったの」
「実はさ、いくらお布施しようか考えてたとこなんだけど――」
「ああ。最近匂わせ疑惑が出てる奴。たぶん黒」
「えっ」
「1週間くらい前から話題になってた」
「な、なんでもっと早く教えてくれなかったのー!? お布施なんか悩む必要ないじゃん!」
「ファンなら情報仕入れてると思った。というか2回目だし受け入れているのかと」
「2回目だとよりアウトでしょ!!!」
「別にガチ恋じゃないならいいじゃん。90円くらい払ってあげなよ」
「ガチ恋じゃなくても、なんか嫌なのー! うわーん! 今日はもう何もやる気起きなーい!」
こうして、日葵さんのお布施の悩みは意外な結末を迎えた。そういう趣味があることを始めてわかったので新たな一面が知れたけど、あんまりな終わり方だ。
一方それを知っていた姫宮さんが教えていなかったのは優しさからなのか、それとも……いや、やめておこう。
「産賀センパイー! 日葵これからどう生きていけばいいんですかー!?」
「とりあえず……今日はジュースでもおごるから元気出して」
「えっ? いいんですかー! やった~!」
まぁ、切り替えは早そうなので次に同じ話をする時はまた金額に悩んでいるかもしれない。
そんな曇り空を窓から眺めながら今日も放課後の文芸部が始まる。梅雨が近づいていることもあって、今日は梅雨の期間におすすめの本をみんなで共有することになった。湿気は本の敵だから本を借りる場合は気を付けなければならないけど、雨で出かけられない中での読書は良い時間の使い方だと思う。
「うーん……」
それから自由な時間になった時。日葵さんは珍しく(と言ったら失礼だけど)真剣な表情で悩んでいた。
文化祭に向けた作品の提出はまだまだ先だけど、アイデアをまとめているのだろうか。そんなことを考えながら僕はちょっとだけ見ているつもりだった。
「……あっ、産賀センパイ! ちょうど目が合いましたね!」
「いや……」
「まぁまぁ、そう言わないで。ちょっとこっち来てくださいよ~」
そう言われてしまったので、僕は大人しく日葵さんの元へ行く。
「何か考えてたけど、困ってることでもあるの?」
「あります。ありありです。実はですね、どれくらいまでなら課金が許されるか迷ってて……」
「課金? それはその、ソシャゲにお金入れる的な話?」
「あっ、違います。日葵が課金しようとしてるのはお布施的なやつです」
そう言いながら日葵さんがスマホで見せたのは僕も名前を見た事がある動画投稿者のチャンネルだった。
「あー、そういうやつね。僕は相場とか全然わからないんだけど、いくらくらいお布施するつもりなの?」
「それが悩みどころなんですよねぇ。やっぱり1,000円じゃ少ないと思うし……」
「えっ? 結構多くない……?」
「そうですか? 1,000円くらい1週間あればすぐに使っちゃうじゃないですか」
確かに実生活で考えたら1週間の昼食代だけでも1,000円以上になるけど、日葵さんは今その金額以上を1回のお布施で消費しようかと考えている。
かといって、お布施はその人に対する感謝とかも含まれているから、1,000円以上が高いとも言いづらい。
現にVTuberを見ている大倉は少しずつお布施を支払って、累計はどう考えても1,000円をとうに超えているけど、後悔していないと言っていた。
「やっぱり5,000円からかなぁ」
「ご、5,000円!?」
「それくらい出すと見栄え良くありません?」
「見栄えで決めるのはどうかと思うけど……それより公式グッズとか購入したらいいんじゃないかな?」
「いやいや、日葵は今回投稿されたこの歌に対して感謝の気持ちを伝えたいんですよ。もちろん、公式グッズも欲しいやつは買ってますよ?」
それはファンとして素晴らしいけれど……どうなんだろう。僕は止めるべきなんだろうか。結局、日葵さんが支払うことに価値を感じているのであれば、値段なんて関係なく払った方がいいとは思う。
しかし、5,000円支払うのはさすがに待ったをかけたくなる。ゲームソフト約1本分と僕なら換算してしまうけど……そうじゃなくても学生のお財布事情に合っていないような気がするからだ。
いや、日葵さんの月のお小遣いがめちゃめちゃ高い可能性もあるか? それなら5,000円くらいと考える可能性も――
「産賀センパイは参考にならないかぁー あっ、青蘭! ちょっと聞きたいんだけど!」
僕が悩んでいる間に日葵さんは見切りをつけて姫宮さんに聞いてしまう。仲の良い2人なのは知っているけど、この場合姫宮さんはどう答えるんだろうか。僕は思わず自分で考えるのやめて行く末を見る側になってしまった。
「なにかあったの」
「実はさ、いくらお布施しようか考えてたとこなんだけど――」
「ああ。最近匂わせ疑惑が出てる奴。たぶん黒」
「えっ」
「1週間くらい前から話題になってた」
「な、なんでもっと早く教えてくれなかったのー!? お布施なんか悩む必要ないじゃん!」
「ファンなら情報仕入れてると思った。というか2回目だし受け入れているのかと」
「2回目だとよりアウトでしょ!!!」
「別にガチ恋じゃないならいいじゃん。90円くらい払ってあげなよ」
「ガチ恋じゃなくても、なんか嫌なのー! うわーん! 今日はもう何もやる気起きなーい!」
こうして、日葵さんのお布施の悩みは意外な結末を迎えた。そういう趣味があることを始めてわかったので新たな一面が知れたけど、あんまりな終わり方だ。
一方それを知っていた姫宮さんが教えていなかったのは優しさからなのか、それとも……いや、やめておこう。
「産賀センパイー! 日葵これからどう生きていけばいいんですかー!?」
「とりあえず……今日はジュースでもおごるから元気出して」
「えっ? いいんですかー! やった~!」
まぁ、切り替えは早そうなので次に同じ話をする時はまた金額に悩んでいるかもしれない。
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