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2年生1学期
6月4日(土)晴れ 停滞する清水夢愛その6
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授業がある土曜日。やっぱり面倒くささはあるけど、今日は別で楽しみなことも待っている。
「良助、お疲れ……」
それは清水先輩と遊びに行く予定を決める約束をしているからだ。いや、別に直接会わなくても予定は立てられるのだけど、学校に来るついでに落ち合おうという流れになった。
しかし、それはよく考えると悪手だったのかもしれない。
「久しぶり、産賀くん」
集合場所の中庭にいたのは少し怯える清水先輩とにこやかな桜庭先輩だった。どういう経緯があったのかわからないけど、遊びに行く件を漏らしてしまったのだと僕は察した。
「お、お久しぶりです。桜庭先輩は……何か用事があるんですか?」
「あら? 産賀くんの顔を久々に見ようと思って来たのに、お邪魔だったかしら?」
「い、いえ! そんなことはないです!」
「ふふっ、冗談よ。何やら楽しい計画を立てるようだけど、その前に私から産賀くんへ言っておきたいことがあるの」
桜庭先輩がそう言うと、清水先輩に目線で合図を送った。
すると、清水先輩は一旦その場から少し距離を置いた。清水先輩と話しに来たつもりの僕は思わずポカンとしてしまう。
一方の桜庭先輩は更に僕の方へ近づいて来て喋り始める。
「ごめんなさいね、産賀くん。また夢愛のわがままに付き合って貰って」
「全然そんな。もしかして……テスト勉強してなかったから遊びに行かせないって話ですか」
「ああ、それは別に。さすがにそんな過保護な親みたいなことは言わないわよ。まぁ、勉強してなかったのは思うところはあるけどね」
そう言いながら桜庭先輩は少し離れた位置で退屈そうにしている清水先輩を見た。それがちょっと睨んでいる風にも見えたので本当に思うところはあるのだろう。
「じゃあ、いったい……」
「夢愛は……まだ迷ってるの。この先自分がどうしようかって」
「えっ? この先って……大学進学するって決めたのでは?」
「それは特にやりたいことがないから一旦そう言っておいただけで、本格的に進路をどうするか決めきゃいけなくなった今になってまた悩み始めてるの。そのせいか最近は言動や性格もちょっと前に逆戻りしている部分もあって。愛想が悪いわけじゃないけど、話しかけられてもボーっとすることが増えてきてるの」
「そう……だったんですか」
清水先輩がちょっと前に逆戻りしたとなると、その言動は学校生活で少し浮いてしまうものになる。最近は僕も会う機会が限られていたから、清水先輩の変化に全く気付いていなかった。
「それでここからが本題ね。そんな状態の夢愛だけど、一応、私と産賀くんの前なら素直になってくれる方なの。だから、私は夢愛があまり道を外れ過ぎないようにする鞭になるから、産賀くんは夢愛へ飴を与える役割になって欲しいとお願いしておこうと思ってね」
「ぼ、僕がですか!?」
「ああ、特別何かやってと言うわけじゃないから。今まで通り夢愛のわがままを聞きつつ、余裕があれば夢愛が興味を持てそうなことを探すのを手伝って欲しいってだけ」
「後半めちゃめちゃ重要じゃないですか」
「余裕があればって言ってるでしょ。そういうことだから遊びに行くことに関して私は何も言わないし、今回は敢えて付いていかないことにするわ」
桜庭先輩は特に感情を出さすにそう言う。
「いいんですか。桜庭先輩が……鞭の方で」
「あら? 産賀くんも夢愛に鞭打ちたい方だった?」
「ち、違います!」
「ふふっ。変わらずいい反応してくれるわね。適材適所よ。夢愛を何とかできるのが2人しかいないなら、私はそっちの方が合ってる」
桜庭先輩はそう言ってくれるけど……僕は清水先輩を何とかできるような存在なのだろうか。小さい頃から関わりのある清水先輩と違って、僕はここ1年ちょっとの限られた時間しかない。
それなのに長い関わりのある桜庭先輩が厳しい方に付いてしまうのはどうなのかと思うし、そもそも僕がそんな重要な役割についていいのかと思ってしまう。
だけど、そんな僕の不安は桜庭先輩へ察せられていた。
「大丈夫。産賀くんが思っている以上に夢愛は産賀くんのこと好きだから」
「ぶっ!? す、好きぃ!?」
「……へぇ。そこはちょっと変わったわね。産賀くん」
「な、何の話ですか」
「顔に書いてあるわ。まぁ、そういうところは若い子に任せるのでお母さんは何も言いません」
桜庭先輩は冗談めいてそう言うけど、こんな風に清水先輩を心配できるのは肉親のような距離間だと僕は思う。僕が何も知らなかった間、桜庭先輩は清水先輩のために色々と働きかけていたに違いない。
ただ、色々と考えてしまった中での僕の回答は既に決まっていた。
「……わかりました。変わらずやっていけばいいなら僕も協力します」
「……本当にありがとう。次が会ったら私も遊びに行かせて貰うわ。たまには息抜きも必要だしね。夢愛~ 私の話は終わったよー」
それから桜庭先輩は先にその場を離脱して、僕と清水先輩は楽しい打ち合わせをした。
でも、直前のことがあるから、僕は同時に寂しさも感じてしまった。
清水先輩が本当にやりたいこと。桜庭先輩が清水先輩に望むこと。両方とも上手く行ってくれるように僕は協力したいと改めて思った。
「良助、お疲れ……」
それは清水先輩と遊びに行く予定を決める約束をしているからだ。いや、別に直接会わなくても予定は立てられるのだけど、学校に来るついでに落ち合おうという流れになった。
しかし、それはよく考えると悪手だったのかもしれない。
「久しぶり、産賀くん」
集合場所の中庭にいたのは少し怯える清水先輩とにこやかな桜庭先輩だった。どういう経緯があったのかわからないけど、遊びに行く件を漏らしてしまったのだと僕は察した。
「お、お久しぶりです。桜庭先輩は……何か用事があるんですか?」
「あら? 産賀くんの顔を久々に見ようと思って来たのに、お邪魔だったかしら?」
「い、いえ! そんなことはないです!」
「ふふっ、冗談よ。何やら楽しい計画を立てるようだけど、その前に私から産賀くんへ言っておきたいことがあるの」
桜庭先輩がそう言うと、清水先輩に目線で合図を送った。
すると、清水先輩は一旦その場から少し距離を置いた。清水先輩と話しに来たつもりの僕は思わずポカンとしてしまう。
一方の桜庭先輩は更に僕の方へ近づいて来て喋り始める。
「ごめんなさいね、産賀くん。また夢愛のわがままに付き合って貰って」
「全然そんな。もしかして……テスト勉強してなかったから遊びに行かせないって話ですか」
「ああ、それは別に。さすがにそんな過保護な親みたいなことは言わないわよ。まぁ、勉強してなかったのは思うところはあるけどね」
そう言いながら桜庭先輩は少し離れた位置で退屈そうにしている清水先輩を見た。それがちょっと睨んでいる風にも見えたので本当に思うところはあるのだろう。
「じゃあ、いったい……」
「夢愛は……まだ迷ってるの。この先自分がどうしようかって」
「えっ? この先って……大学進学するって決めたのでは?」
「それは特にやりたいことがないから一旦そう言っておいただけで、本格的に進路をどうするか決めきゃいけなくなった今になってまた悩み始めてるの。そのせいか最近は言動や性格もちょっと前に逆戻りしている部分もあって。愛想が悪いわけじゃないけど、話しかけられてもボーっとすることが増えてきてるの」
「そう……だったんですか」
清水先輩がちょっと前に逆戻りしたとなると、その言動は学校生活で少し浮いてしまうものになる。最近は僕も会う機会が限られていたから、清水先輩の変化に全く気付いていなかった。
「それでここからが本題ね。そんな状態の夢愛だけど、一応、私と産賀くんの前なら素直になってくれる方なの。だから、私は夢愛があまり道を外れ過ぎないようにする鞭になるから、産賀くんは夢愛へ飴を与える役割になって欲しいとお願いしておこうと思ってね」
「ぼ、僕がですか!?」
「ああ、特別何かやってと言うわけじゃないから。今まで通り夢愛のわがままを聞きつつ、余裕があれば夢愛が興味を持てそうなことを探すのを手伝って欲しいってだけ」
「後半めちゃめちゃ重要じゃないですか」
「余裕があればって言ってるでしょ。そういうことだから遊びに行くことに関して私は何も言わないし、今回は敢えて付いていかないことにするわ」
桜庭先輩は特に感情を出さすにそう言う。
「いいんですか。桜庭先輩が……鞭の方で」
「あら? 産賀くんも夢愛に鞭打ちたい方だった?」
「ち、違います!」
「ふふっ。変わらずいい反応してくれるわね。適材適所よ。夢愛を何とかできるのが2人しかいないなら、私はそっちの方が合ってる」
桜庭先輩はそう言ってくれるけど……僕は清水先輩を何とかできるような存在なのだろうか。小さい頃から関わりのある清水先輩と違って、僕はここ1年ちょっとの限られた時間しかない。
それなのに長い関わりのある桜庭先輩が厳しい方に付いてしまうのはどうなのかと思うし、そもそも僕がそんな重要な役割についていいのかと思ってしまう。
だけど、そんな僕の不安は桜庭先輩へ察せられていた。
「大丈夫。産賀くんが思っている以上に夢愛は産賀くんのこと好きだから」
「ぶっ!? す、好きぃ!?」
「……へぇ。そこはちょっと変わったわね。産賀くん」
「な、何の話ですか」
「顔に書いてあるわ。まぁ、そういうところは若い子に任せるのでお母さんは何も言いません」
桜庭先輩は冗談めいてそう言うけど、こんな風に清水先輩を心配できるのは肉親のような距離間だと僕は思う。僕が何も知らなかった間、桜庭先輩は清水先輩のために色々と働きかけていたに違いない。
ただ、色々と考えてしまった中での僕の回答は既に決まっていた。
「……わかりました。変わらずやっていけばいいなら僕も協力します」
「……本当にありがとう。次が会ったら私も遊びに行かせて貰うわ。たまには息抜きも必要だしね。夢愛~ 私の話は終わったよー」
それから桜庭先輩は先にその場を離脱して、僕と清水先輩は楽しい打ち合わせをした。
でも、直前のことがあるから、僕は同時に寂しさも感じてしまった。
清水先輩が本当にやりたいこと。桜庭先輩が清水先輩に望むこと。両方とも上手く行ってくれるように僕は協力したいと改めて思った。
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