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2年生1学期

6月1日(水)曇り 拡散する大山亜里沙その8

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 6月が始まった水曜日。つまりは今年も残すところあと半年ということになり、何度目かわからない時間の流れの早さを感じる。
 だからこそ、高校2年生のうちにできることはもっとやっておこう……と心の中では思うけど、なかなか動き出すのは難しいものだ。

 でも、今日でテスト結果も全てわかったので、次のテストまで時間がある今こそ動き出す時なのかもしれない。

「ねぇねぇ、うぶクンは合計何点だったの?」

 そんな日の最後のテストが返却された休み時間。僕の左斜め後ろの席から大山さんは話しかけてくる。

「えっと……865点」

「うそぉ!? アタシは832点だから負けてる……」

「まぁ、平均点で見たら僅差だから」

「いや、何気にアタシがうぶクンに負けるの初じゃなかったっけ? あれ? 実力テストとかだと負けてる?」

「どうだったかな。おごってる印象しかないからいつも負けてた気もする」

「でも、毎回そういうのかけてたワケじゃないから……惜しかったねぇ、うぶクン」

 大山さんは憐れむようにそう言うけど、仮に今回勝負していたとして勝った後に困るのは僕の方だ。きっと何をおごって貰えばいいかテストの問題以上に悩んでいたに違いない。

「思ったよりもリアクションが薄い……勝者の余裕ってヤツ?」

「そ、そう言われても別に戦ってたわけじゃないし」

「……そういえばさ。うぶクンって大喜びすることあるの?」

「僕のことなんだと思ってるの……?」

「ゴメンゴメン。感情がないとか言いたいワケじゃなくて、見た覚えがなかったから。焦ったり、ツッコんだりしてる時はテンション上がってそうだケド」

「それはテンションと違う気もするけど……大喜びかぁ」

 言われてみると僕はわかりやすく喜ぶよりも噛みしめて喜ぶタイプな気がする。たとえば……ゲームで強敵や倒したりレアな素材がドロップしたりした時は小さくガッツポーズするとか。

「じゃあ、今うぶクンの買ってた100万円の宝くじが当たりました。その時のリアクションをどうぞ」

「えっ……よ、よっしぁー」

「言い慣れてないカンある」

「たぶんそうなったら現実かどうか疑うところから始めると思う」

「それもそうか……結構違うんだね」

「何が?」

「ほら、明莉ちゃんは大喜びする時とかめっちゃわかりやすいリアクションするでしょ?」

 大山さんは当然のことのように言うけど、そんなに我が妹が歓喜するところを見たことがあるのだろうか。
 いや、LINEでのやり取りからそういうところを読み取ったのかもしれないけれど。

「うぶクンもお兄ちゃんなんだからリアクションで多少似た部分があるのかなーって思ってた」

「あんまり意識したことはないけど、大山さんが言うなら違うんだろうね」

「逆にアタシの兄貴とお姉ちゃんは結構同じリアクションするんだよね。1人くらい違っても良さそうなのに」

「へー 自分でわかるくらいには似てるんだ。明莉と同じところ……」

 もう一度考えてみるけど、リアクションに限って言えばやっぱり似ているところは思い付かない。普段の会話の多くは僕がツッコミ寄りで、明莉はボケ寄りだからだろうか。

「まぁ、うぶクンもいつかは大喜びするようなことが起こったら今までにないリアクションを見せてくれるかもしれないし、期待しとこー」

「何の期待なの……それより大山さん、最近明莉とやり取りしてる件なんだけど」

「あっ。それは……乙女の秘密ということで、黙秘します」

「ええっ!?」

「あははっ。やっぱりうぶクンは驚いたりしてる時の方がテンション上がってるね!」

 大山さんはそう言いながらその場を離れていくので、僕はそれ以上追及できなかった。

 素直に聞かせて貰えるとは思ってなかったけど、秘密と言われてしまうとちょっと気になってしまう。
 でも、明莉のリアクションまで把握し始めた大山さんなら何も問題ない……けど、兄として気になる……何とも複雑な気持ちだ。
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