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2年生1学期
5月28日(土)晴れ 夢想する岸本路子その4
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自由な休日の土曜日。いつものんびりとしているけど、テスト明けだからかいつもより羽を伸ばせる気がする。
そんな気持ちから、この日は午後からぶらぶらと外出することにした。
とはいっても、1人で外出する場合は本屋やゲームショップでウインドウショッピングするだけなので、緩く楽しめても大したことは起こらないと思っていた。
しかし、この日のゲームショップで、僕は意外な人と出会う。
「良助くん……?」
僕が店を入ってすぐの新作ゲームコーナーを眺めているところに、路ちゃんはやや驚きながら声をかける。
「あ、ああ。こんにちは」
一方の僕もまさか知り合いと、しかも路ちゃんに会うと思っていなかったので、少し戸惑ってしまう。どちらかと言えば本屋で会いそうな路ちゃんがこんなところにいるのは驚きだ。普段の会話でもあまりゲームの話が出てきていないから尚更に。
「こんにちは。後姿を見てそうかなと思ったのだけれど、すごい偶然だわ」
「そうだね。路ちゃんはここよく来るの?」
「それほど多くないのだけれど、たまにDVDを借りに来ることはあるわ」
「あー、なるほど。じゃあ、今日も返却に?」
「ううん。今日は少し後に塾があるからその時間まで少し暇つぶししようと思って。他にもお店はあったのだけれど、何となくここに来てみたの」
そう言われて僕は納得がいった。路ちゃんが塾に通い出したのは最近だから、今まではここで遭遇することがなかったんだ。
「良助くんはお買い物?」
「ううん。僕も暇つぶしというか、ウインドウショッピング的な感じ。あんまりゲームショップで使う単語じゃないと思うけど」
「そんなことないと思う。商品を見るだけなら全部ウインドウショッピングになるはずだから。わたしも今日はレンタルするつもりじゃなかったし……そうだ」
「うん?」
「せっかくだから……一緒に見て回ってもいい?」
路ちゃんは微笑みながらそう聞いて来るけど、僕は一瞬返事に困ってしまった。一緒に見て回るのは一向に構わないけど、ゲームコーナーを見て回るのは路ちゃんにとって楽しいかわからないからだ。
でも、路ちゃんの方から言われてしまったのなら断るわけにもいかない。
「いいよ。僕もDVDの方を見ておきたかったから」
「えっ? ゲームじゃなくて?」
「ま、まぁ、ゲームはいつも見てるから」
僕は適当にそう返事をする。1人で暇つぶしするならゲームのパッケージを見るだけでも十分だけど、2人いるときにはそれはできないから、ここは路ちゃんに合わせることにした。
レンタルDVDのコーナーでは数ヶ月前に話題となっていた作品のレンタル開始が大きく宣伝されていて、関連シリーズが何本も並べられていた。
だけど、僕がそういう作品を見るのはよほど興味がない限りは地上波放送された時になる。
「あっ。この映画の原作は読んだことある……そういえば新装版の帯に付いていたわ」
「結構CMやってたよね」
「そうなの? テレビをあまり見ないからCMは知らなかった」
「これ、来週のロードショーで放送するやつだ。最新作公開記念で」
「わたしはノベライズしたものしか読んでないのだけれど、こういう場面だったんだ」
その空間での路ちゃんとの会話は微妙に噛み合っていないところもあったような気がするけど、教室や部室では出てこない話題も多かった。思い返せば路ちゃんとどこかに行く場合も図書室やカフェなど場所は固定されていたので、こういうエンタメ溢れる空間にいるのは珍しいことだった。
「路ちゃんが普段借りるのはどういうジャンルなの?」
「読んだことある本の映像化で気になった作品が多いと思う。今はサブスクで色々見られるけれど、家族で共有してるから……」
「えっ。そんな家族に言えないタイプの作品の映像化を……?」
「……はっ! ち、違うの! 有料配信になってるから自分で借りた方が早いと思っただけで、決して言えないような作品を見ているわけでは」
「うんうん。そりゃそうだよね」
「……今みたいなのがわたしの意図しない面白発言だったりするの?」
「や、やっぱり聞こえてたんだ」
「だとしたら、良助くんが悪いと思うのだけれど。今のは完全に誘導していたわ」
「ごめん。たまにはこんな冗談もいいかと思って」
「もう……でも、確かに1年生にもこれくらいの感じで話せた方がいいんだろうなぁ……」
路ちゃんは少しだけ寂しそうにそう言う。昨日は特に言及していなかったけど、日葵さんが言われたことについて路ちゃんも思うところはあったようだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今の1年生はみんな結構絡んできてくれるから路ちゃんも普通に絡めるようになると思う。何なら一緒に僕をいじってくれてもいいし」
「……ふふっ。良助くんはそういう趣味があったり?」
「い、いや、全然ないよ。平和に過ごさせて欲しい」
僕がそう言うと路ちゃんはまた笑う。
そう、こんな風に話せると1年生のみんなもわかれば、自然に親しみやすさは持ってくれるはずだ。そのためなら多少僕をダシに使っても構わない。
「それより路ちゃん、時間は大丈夫? 結構喋っちゃったし」
「もうそろそろいい時間だけれど……このまま塾をサボちゃおうかなって」
「えっ!? 通い始めたばかりでそれは不味いんじゃ!?」
「今のは冗談なのだけれど」
「な、なんだびっくりした……」
「……今日は楽しかった。良助くん、また月曜日に」
こうして、この日の僕は代わり映えしない外出で少し不思議な時間を過ごした。
たまにはいつもと違う場所で話すのも良いと思ったので、今度は偶然ではなく路ちゃんと遊びに行くのも良いかもしれない……もちろん、花園さんも一緒に。
そんな気持ちから、この日は午後からぶらぶらと外出することにした。
とはいっても、1人で外出する場合は本屋やゲームショップでウインドウショッピングするだけなので、緩く楽しめても大したことは起こらないと思っていた。
しかし、この日のゲームショップで、僕は意外な人と出会う。
「良助くん……?」
僕が店を入ってすぐの新作ゲームコーナーを眺めているところに、路ちゃんはやや驚きながら声をかける。
「あ、ああ。こんにちは」
一方の僕もまさか知り合いと、しかも路ちゃんに会うと思っていなかったので、少し戸惑ってしまう。どちらかと言えば本屋で会いそうな路ちゃんがこんなところにいるのは驚きだ。普段の会話でもあまりゲームの話が出てきていないから尚更に。
「こんにちは。後姿を見てそうかなと思ったのだけれど、すごい偶然だわ」
「そうだね。路ちゃんはここよく来るの?」
「それほど多くないのだけれど、たまにDVDを借りに来ることはあるわ」
「あー、なるほど。じゃあ、今日も返却に?」
「ううん。今日は少し後に塾があるからその時間まで少し暇つぶししようと思って。他にもお店はあったのだけれど、何となくここに来てみたの」
そう言われて僕は納得がいった。路ちゃんが塾に通い出したのは最近だから、今まではここで遭遇することがなかったんだ。
「良助くんはお買い物?」
「ううん。僕も暇つぶしというか、ウインドウショッピング的な感じ。あんまりゲームショップで使う単語じゃないと思うけど」
「そんなことないと思う。商品を見るだけなら全部ウインドウショッピングになるはずだから。わたしも今日はレンタルするつもりじゃなかったし……そうだ」
「うん?」
「せっかくだから……一緒に見て回ってもいい?」
路ちゃんは微笑みながらそう聞いて来るけど、僕は一瞬返事に困ってしまった。一緒に見て回るのは一向に構わないけど、ゲームコーナーを見て回るのは路ちゃんにとって楽しいかわからないからだ。
でも、路ちゃんの方から言われてしまったのなら断るわけにもいかない。
「いいよ。僕もDVDの方を見ておきたかったから」
「えっ? ゲームじゃなくて?」
「ま、まぁ、ゲームはいつも見てるから」
僕は適当にそう返事をする。1人で暇つぶしするならゲームのパッケージを見るだけでも十分だけど、2人いるときにはそれはできないから、ここは路ちゃんに合わせることにした。
レンタルDVDのコーナーでは数ヶ月前に話題となっていた作品のレンタル開始が大きく宣伝されていて、関連シリーズが何本も並べられていた。
だけど、僕がそういう作品を見るのはよほど興味がない限りは地上波放送された時になる。
「あっ。この映画の原作は読んだことある……そういえば新装版の帯に付いていたわ」
「結構CMやってたよね」
「そうなの? テレビをあまり見ないからCMは知らなかった」
「これ、来週のロードショーで放送するやつだ。最新作公開記念で」
「わたしはノベライズしたものしか読んでないのだけれど、こういう場面だったんだ」
その空間での路ちゃんとの会話は微妙に噛み合っていないところもあったような気がするけど、教室や部室では出てこない話題も多かった。思い返せば路ちゃんとどこかに行く場合も図書室やカフェなど場所は固定されていたので、こういうエンタメ溢れる空間にいるのは珍しいことだった。
「路ちゃんが普段借りるのはどういうジャンルなの?」
「読んだことある本の映像化で気になった作品が多いと思う。今はサブスクで色々見られるけれど、家族で共有してるから……」
「えっ。そんな家族に言えないタイプの作品の映像化を……?」
「……はっ! ち、違うの! 有料配信になってるから自分で借りた方が早いと思っただけで、決して言えないような作品を見ているわけでは」
「うんうん。そりゃそうだよね」
「……今みたいなのがわたしの意図しない面白発言だったりするの?」
「や、やっぱり聞こえてたんだ」
「だとしたら、良助くんが悪いと思うのだけれど。今のは完全に誘導していたわ」
「ごめん。たまにはこんな冗談もいいかと思って」
「もう……でも、確かに1年生にもこれくらいの感じで話せた方がいいんだろうなぁ……」
路ちゃんは少しだけ寂しそうにそう言う。昨日は特に言及していなかったけど、日葵さんが言われたことについて路ちゃんも思うところはあったようだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今の1年生はみんな結構絡んできてくれるから路ちゃんも普通に絡めるようになると思う。何なら一緒に僕をいじってくれてもいいし」
「……ふふっ。良助くんはそういう趣味があったり?」
「い、いや、全然ないよ。平和に過ごさせて欲しい」
僕がそう言うと路ちゃんはまた笑う。
そう、こんな風に話せると1年生のみんなもわかれば、自然に親しみやすさは持ってくれるはずだ。そのためなら多少僕をダシに使っても構わない。
「それより路ちゃん、時間は大丈夫? 結構喋っちゃったし」
「もうそろそろいい時間だけれど……このまま塾をサボちゃおうかなって」
「えっ!? 通い始めたばかりでそれは不味いんじゃ!?」
「今のは冗談なのだけれど」
「な、なんだびっくりした……」
「……今日は楽しかった。良助くん、また月曜日に」
こうして、この日の僕は代わり映えしない外出で少し不思議な時間を過ごした。
たまにはいつもと違う場所で話すのも良いと思ったので、今度は偶然ではなく路ちゃんと遊びに行くのも良いかもしれない……もちろん、花園さんも一緒に。
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