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2年生1学期
5月26日(木)曇り 大倉伴憲との日常その14
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席替えして心機一転の木曜日。雨が降りそうな天気だったけど、僕が帰宅する時間帯までは何とかもってくれたので、合羽を着る煩わしいを感じずに済んだ。
そして、話はまた席替えの件に戻るけど、大倉くんと席が離れたことで休み時間中にたむろする場所も少し変わった。僕の席だとすぐ入り口があって邪魔になるので、これからは大倉くんの席の方に行くことが多くなりそうだ。
そんな大倉くんの席は窓側の時からそのまま横にスライドして、真ん中の列の後ろから2番目になっていた。
「あ、あんまり景色は変わらないけど、贅沢は言えないよね。あっ、そういえばボクの隣の席は岸本さんだったよ」
「そうらしいね」
「……こ、こういう場合って、ボクから何か話しかけた方がいいのかな?」
「えっ? どういうこと?」
「知り合いの知り合いだと何も話さないのもどうかと思って……い、いや、普段はそんなこと全然考えてないんだけど……」
大倉くんは眉をひそめながらそう言う。それを自分の立場に当てはめて考えてみると、少々気まずい気持ちになるのはわかる。
ただ、結局その2人が知らない同士であるなら無理に喋る必要はないはずだ。僕がそう言おうとすると、大倉くんは続けて言う。
「じ、実は……ボクと岸本さん、同じ中学出身なんだ」
「あっ、そうか。確かに2人とも北中って言ってたね」
「で、でも、同じクラスになったのは1年生の時だけで……正直言うと、僕もふんわりとしか覚えてなくて」
「なるほど……うん。僕も中1の同じクラスの女子はすぐ思い出せない」
「だ、だから、この何とも言えない状況を……産賀くんが何とかしてくれたらと!」
「何とかと言われても……改めて紹介するのも変な感じだし……」
「じゃ、じゃあ、話しかけないでいた方がいいのかなぁ」
大倉くんにはそう言われるけど、僕はそれ同意せずに考え始める。
この状況が少し難しく感じるのは路ちゃんがそれほど積極的に話せないタイプであるからだ。この席は暫く変わらないのだから、変に話す方向にしてしまうと、かえって気まずくなってその空気のまま過ごさなければならない可能性がある。
一方で、路ちゃんの方も現時点で喋らないことの気まずさを感じているなら一度話してしまった方がいい可能性もある。
ただ、その場合は僕が間に入るべきなんだろうか。一応顔だけ知っている人を紹介するのは変な空気になってしまわないだろうか。
「あっ、良助くん」
僕と大倉くんが唸りながら考えているうちに、当の本人である路ちゃんが席に帰ってきた。まだ何も解決策が思い付いていないから、僕は路ちゃんにひと声かけてそのまま撤退しようとした……その時だった。
「えっと……大倉くん、だよね?」
まさかの路ちゃんの方から大倉くんへ喋りかける。僕がこの場にいたおかげか、それとも話そうと思っていたタイミングだったのか。どちらかわからないけど、これなら――
「初めまして、わたしは良助くんと同じ文芸部の岸本っていいます。1年生の頃に良助くんと一緒にいるところは一方的に見ていたのだけれど……」
「「えっ!?」」
「えっ? わたし、何かおかしなことを……」
ポカンとする路ちゃんに何か返す前に、僕は大倉くんの方を見る。すると、大倉くんは全て受け入れるようにゆっくりと首を横に振った。
「な、なんでもない。廊下とかで見かけたりしてたんだ?」
「うん。2人は……って、そろそろ休み時間終わるから、また今度2人のこと聞かせて貰っていい?」
「も、もちろん。じゃあ、僕も戻るね」
そう言いながら僕は路ちゃんと大倉くんの元を去るけど、心の中では「すまない大倉くん……!」と思っていた。
中学時代の路ちゃんの話を聞く限りは、路ちゃん自身が色々大変だったから、周りの人間を覚える余裕がなかったことは何となく想像できる。
それはそれとして、自分は覚えているのに相手から覚えられていないというのは、たとえそんなに親しくない人でも悲しいことに違いない。
でも、大倉くんはあの瞬間、路ちゃんが高校で初めて会う男子になることを選んだのだ。僕はその大倉くんの気遣いと彼の存在を永遠に忘れることはない――
「中学の頃のボクは全然目立ったから仕方ない……仕方ない」
「……大倉くん、今日の帰りどこか寄ろう。何かおごるから」
そして、話はまた席替えの件に戻るけど、大倉くんと席が離れたことで休み時間中にたむろする場所も少し変わった。僕の席だとすぐ入り口があって邪魔になるので、これからは大倉くんの席の方に行くことが多くなりそうだ。
そんな大倉くんの席は窓側の時からそのまま横にスライドして、真ん中の列の後ろから2番目になっていた。
「あ、あんまり景色は変わらないけど、贅沢は言えないよね。あっ、そういえばボクの隣の席は岸本さんだったよ」
「そうらしいね」
「……こ、こういう場合って、ボクから何か話しかけた方がいいのかな?」
「えっ? どういうこと?」
「知り合いの知り合いだと何も話さないのもどうかと思って……い、いや、普段はそんなこと全然考えてないんだけど……」
大倉くんは眉をひそめながらそう言う。それを自分の立場に当てはめて考えてみると、少々気まずい気持ちになるのはわかる。
ただ、結局その2人が知らない同士であるなら無理に喋る必要はないはずだ。僕がそう言おうとすると、大倉くんは続けて言う。
「じ、実は……ボクと岸本さん、同じ中学出身なんだ」
「あっ、そうか。確かに2人とも北中って言ってたね」
「で、でも、同じクラスになったのは1年生の時だけで……正直言うと、僕もふんわりとしか覚えてなくて」
「なるほど……うん。僕も中1の同じクラスの女子はすぐ思い出せない」
「だ、だから、この何とも言えない状況を……産賀くんが何とかしてくれたらと!」
「何とかと言われても……改めて紹介するのも変な感じだし……」
「じゃ、じゃあ、話しかけないでいた方がいいのかなぁ」
大倉くんにはそう言われるけど、僕はそれ同意せずに考え始める。
この状況が少し難しく感じるのは路ちゃんがそれほど積極的に話せないタイプであるからだ。この席は暫く変わらないのだから、変に話す方向にしてしまうと、かえって気まずくなってその空気のまま過ごさなければならない可能性がある。
一方で、路ちゃんの方も現時点で喋らないことの気まずさを感じているなら一度話してしまった方がいい可能性もある。
ただ、その場合は僕が間に入るべきなんだろうか。一応顔だけ知っている人を紹介するのは変な空気になってしまわないだろうか。
「あっ、良助くん」
僕と大倉くんが唸りながら考えているうちに、当の本人である路ちゃんが席に帰ってきた。まだ何も解決策が思い付いていないから、僕は路ちゃんにひと声かけてそのまま撤退しようとした……その時だった。
「えっと……大倉くん、だよね?」
まさかの路ちゃんの方から大倉くんへ喋りかける。僕がこの場にいたおかげか、それとも話そうと思っていたタイミングだったのか。どちらかわからないけど、これなら――
「初めまして、わたしは良助くんと同じ文芸部の岸本っていいます。1年生の頃に良助くんと一緒にいるところは一方的に見ていたのだけれど……」
「「えっ!?」」
「えっ? わたし、何かおかしなことを……」
ポカンとする路ちゃんに何か返す前に、僕は大倉くんの方を見る。すると、大倉くんは全て受け入れるようにゆっくりと首を横に振った。
「な、なんでもない。廊下とかで見かけたりしてたんだ?」
「うん。2人は……って、そろそろ休み時間終わるから、また今度2人のこと聞かせて貰っていい?」
「も、もちろん。じゃあ、僕も戻るね」
そう言いながら僕は路ちゃんと大倉くんの元を去るけど、心の中では「すまない大倉くん……!」と思っていた。
中学時代の路ちゃんの話を聞く限りは、路ちゃん自身が色々大変だったから、周りの人間を覚える余裕がなかったことは何となく想像できる。
それはそれとして、自分は覚えているのに相手から覚えられていないというのは、たとえそんなに親しくない人でも悲しいことに違いない。
でも、大倉くんはあの瞬間、路ちゃんが高校で初めて会う男子になることを選んだのだ。僕はその大倉くんの気遣いと彼の存在を永遠に忘れることはない――
「中学の頃のボクは全然目立ったから仕方ない……仕方ない」
「……大倉くん、今日の帰りどこか寄ろう。何かおごるから」
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