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2年生1学期
5月13日(金)雨 伊月茉奈との日常その2
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梅雨が早まったように感じる金曜日。でも、天気に左右されない文芸部は平常運転で進んでいく。最近は1年生のために小説の書き方や表現技法などの座学が中心で、僕も改めて学べている。
それが終わった後は一応自分の創作を考える時間になっているけど、実際は去年から引き続きの雑談タイムになっていた。
そんな中、今日は伊月さんが僕のところにやって来てくれる。入部する前は友達の彼女という印象が強くて、文芸部内ではどういう感じになるだろうと少し思っていたけど、伊月さん自身はいい子なので全く心配する必要はなかった。
「産賀さん、聞いてください!」
「えっ、どうしたの?」
「浩太くんひどいんですよ!」
そう、基本的には伊月さんはいい子である。だけど、ここ数回会った時に松永に関する愚痴というか、物申したいことを聞かされているのは気のせいではなかった。
歓迎会で日葵さんが口走って部内に彼氏がいることが広まったせいか、開き直って周りに聞こえてもいいような声量で話してくる。
「今度は何やらかしたの」
「昨日の夜、通話してたんですけど、ちょっと飲み物取ってくるって言ってから暫く反応が無くて。凄く心配して大きな声で呼んでしまったんですけど、急に眠くなって30分くらい意識飛んでたって言ったんですよ!」
「おお、それは……」
「別に放置されたことは構いません。わたしが浩太くんが眠いのに気付かずに話過ぎたのもあると思います。でも、それなら眠いって言ってくれても良かったと思いませんか?」
一つフォローを入れておくとすれば伊月さんの愚痴は罵倒ではなく、どこか可愛らしいものだということだ。
そして、大抵松永の方が悪いけど、自分にも非があると認めた上で本当はこうして欲しかったと愚痴っている。
ただ、そんな小さな愚痴から亀裂が入る可能性もあるので、僕も答える言葉は慎重に選んでいる。
「確かに言わない松永が悪いと思う。でも、なんていうかその……飲み物取りに行く前は松永も夢中で話してて眠気に気付いてなかったんじゃないかな」
「そうですかね……産賀さんも浩太くんにこういう風に放置された経験ありますか?」
「うーん……あんまり電話で話さないから同じような状況はないかな。遊びに行く時に遅刻したり、勝手にどこか行ったりすることもないし。たぶん、家だから気が緩んでたのか……伊月さんの前だから甘えているのもあるかも」
「……産賀さん的には浩太くんが甘えてると?」
「ああ見えて普段は気遣いできる方だし、伊月さんはそうしなくてもいい相手なんだろうね。もちろん、勝手に寝るのは論外なんだけど」
「そ、それならいいんですけど……」
伊月さんは少し照れ気味に言う。これはお世辞で言っているわけではなく、伊月さんから聞かされる松永の言動は僕が見てきた松永と少し違うところがあって、今日聞かされたように抜けているところもある。
いや、よく考えたらどうして僕が松永のために好意的に解釈して、伊月さんを納得させなければならないのだろうか。そもそも伊月さんが愚痴るなら僕よりも他の女性陣の方が良さそうなのに。
「それはウーブ君がマナマナの彼氏さんのトリセツを持ってるからじゃない?」
伊月さんとの会話が終わった後、その疑問を野次馬的に来たソフィア先輩にぶつけるとそう言われた。
「なんで僕が持ってるんですか」
「だって、ウーブ君はマナマナ以上に長い付き合いなんでしょ? だから、色々知ってると思って聞いてるんだと思う」
「それが彼氏彼女の関係でも当てはまるんですかね……?」
「全く当てはまらないことはないんじゃない? 友達から仲が深まってカップルになることもあるんだし」
ソフィア先輩は色々考えて答えてくれるけど、何分僕の恋愛経験値が低いからいまいちピンと来ていない。
まぁ、どういう事情があっても悪い気がするわけじゃないので、伊月さんが僕へ言った方が良いと思っているなら、今後も愚痴は聞いていこうと思う。
「……ところで、今度2年生の教室へ行く時があったらマナマナの彼氏さんがどの子か教えてね! どんな感じなのかめちゃめちゃ気になってるから!」
その間に伊月さんが話す範囲で文芸部内の松永像ができあがっていくけど……そこはいつか本人に釈明して貰おう。
それが終わった後は一応自分の創作を考える時間になっているけど、実際は去年から引き続きの雑談タイムになっていた。
そんな中、今日は伊月さんが僕のところにやって来てくれる。入部する前は友達の彼女という印象が強くて、文芸部内ではどういう感じになるだろうと少し思っていたけど、伊月さん自身はいい子なので全く心配する必要はなかった。
「産賀さん、聞いてください!」
「えっ、どうしたの?」
「浩太くんひどいんですよ!」
そう、基本的には伊月さんはいい子である。だけど、ここ数回会った時に松永に関する愚痴というか、物申したいことを聞かされているのは気のせいではなかった。
歓迎会で日葵さんが口走って部内に彼氏がいることが広まったせいか、開き直って周りに聞こえてもいいような声量で話してくる。
「今度は何やらかしたの」
「昨日の夜、通話してたんですけど、ちょっと飲み物取ってくるって言ってから暫く反応が無くて。凄く心配して大きな声で呼んでしまったんですけど、急に眠くなって30分くらい意識飛んでたって言ったんですよ!」
「おお、それは……」
「別に放置されたことは構いません。わたしが浩太くんが眠いのに気付かずに話過ぎたのもあると思います。でも、それなら眠いって言ってくれても良かったと思いませんか?」
一つフォローを入れておくとすれば伊月さんの愚痴は罵倒ではなく、どこか可愛らしいものだということだ。
そして、大抵松永の方が悪いけど、自分にも非があると認めた上で本当はこうして欲しかったと愚痴っている。
ただ、そんな小さな愚痴から亀裂が入る可能性もあるので、僕も答える言葉は慎重に選んでいる。
「確かに言わない松永が悪いと思う。でも、なんていうかその……飲み物取りに行く前は松永も夢中で話してて眠気に気付いてなかったんじゃないかな」
「そうですかね……産賀さんも浩太くんにこういう風に放置された経験ありますか?」
「うーん……あんまり電話で話さないから同じような状況はないかな。遊びに行く時に遅刻したり、勝手にどこか行ったりすることもないし。たぶん、家だから気が緩んでたのか……伊月さんの前だから甘えているのもあるかも」
「……産賀さん的には浩太くんが甘えてると?」
「ああ見えて普段は気遣いできる方だし、伊月さんはそうしなくてもいい相手なんだろうね。もちろん、勝手に寝るのは論外なんだけど」
「そ、それならいいんですけど……」
伊月さんは少し照れ気味に言う。これはお世辞で言っているわけではなく、伊月さんから聞かされる松永の言動は僕が見てきた松永と少し違うところがあって、今日聞かされたように抜けているところもある。
いや、よく考えたらどうして僕が松永のために好意的に解釈して、伊月さんを納得させなければならないのだろうか。そもそも伊月さんが愚痴るなら僕よりも他の女性陣の方が良さそうなのに。
「それはウーブ君がマナマナの彼氏さんのトリセツを持ってるからじゃない?」
伊月さんとの会話が終わった後、その疑問を野次馬的に来たソフィア先輩にぶつけるとそう言われた。
「なんで僕が持ってるんですか」
「だって、ウーブ君はマナマナ以上に長い付き合いなんでしょ? だから、色々知ってると思って聞いてるんだと思う」
「それが彼氏彼女の関係でも当てはまるんですかね……?」
「全く当てはまらないことはないんじゃない? 友達から仲が深まってカップルになることもあるんだし」
ソフィア先輩は色々考えて答えてくれるけど、何分僕の恋愛経験値が低いからいまいちピンと来ていない。
まぁ、どういう事情があっても悪い気がするわけじゃないので、伊月さんが僕へ言った方が良いと思っているなら、今後も愚痴は聞いていこうと思う。
「……ところで、今度2年生の教室へ行く時があったらマナマナの彼氏さんがどの子か教えてね! どんな感じなのかめちゃめちゃ気になってるから!」
その間に伊月さんが話す範囲で文芸部内の松永像ができあがっていくけど……そこはいつか本人に釈明して貰おう。
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