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2年生1学期
5月6日(金)晴れ 後輩との日常・姫宮青蘭の場合
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人によってはGW8日目の金曜日。この金曜日と月曜日はGWの谷間と呼ばれているらしく、どう過ごすべきか悩ましいという声も出ているようだ。
でも、考えようによっては1日行くだけで2日間も休めるという風にも見られるので、僕はそちらのスタイルでいこうと思う。
そして、本来なら活動がある文芸部についてはGWだから休みになっていた。つまり、岸本さんと岸元さんの名前呼びについての宿題の提出日まで、もう少しだけ猶予があるということだ。
「副部長」
そんな中、僕が登校して駐輪場から下駄箱へ向かう途中に慣れない呼称で呼び止められる。
その声の主は落ち着いている印象があって、桐山くんが密か(?)に思いを寄せる姫宮さんだった。今日はこの前見た時とは違う髪飾りで前髪を留めている。
「おはよう、姫宮さん」
「おはようございます」
そう言った姫宮さんはそのまま下駄箱に向かわず、何故か僕の目の前に立ちふさがって足を止める。
正直なところ、僕が姫宮さんについて知っているのはさっき挙げた情報が全てなので、どういう絡み方をしたらいいかわからない。
「えっと……僕に何か用事ある感じ?」
「いえ。この前の歓迎会では副部長とあまり話せなかったので交流をはかってみようかと」
「確かにそうだったね。じゃあ、ちょっと話しながらいこうか」
「すみません。本当は視界に入ったのに挨拶しないのはどうかと思って少しばかり悩んだ結果呼んでみてから考えようと思っただけでした」
「えっ。つまりは……別に話したいわけではないと?」
その言葉に対して姫宮さんは頷く。でも、表情は申し訳ないという感じではなく、平静を保ったままだった。
この時点で姫宮さんが他の新入部員よりも大変かもしれないと僕は思ってしまう。
「わ、わかった。それじゃあ、今日は部活がないからまた来週」
「行ってしまうんですか」
「話すの嫌じゃなかったの……?」
「いえ。副部長がわざわざ話しながらと言ったので何か話したいことがあるのかと思って」
「それはその……そこまで考えてなかったよ」
「では副部長もだいたい私と同じ感情だったと」
「そ、そうなるのかな。でも、姫宮さんが良ければまた今度の機会に話して貰えると嬉しい」
「どっちなんですか」
「……話して貰えると嬉しい方です」
姫宮さんは別に怒っているわけじゃないけれど、淡々と言われるのでそういう気持ちになってくる。
「副部長」
「は、はい!」
「面白いですね」
「どこの話が……?」
「私に翻弄されているところです」
「……わかってて言ってたの」
「いえ。あまり男子とそれも先輩と話す機会がなかったのでこういう展開になると思っていませんでした。日葵や茉奈から少しだけ情報を貰っていましたが副部長はいい人ですね」
「あ、ありがとう?」
「弄ってもいい人」
「そういう意味!?」
僕がそう言うと、姫宮さんは口元を片手で抑える。それは恐らく笑っているのだろうけど、わかりやすく笑っているわけじゃないので嘲笑されているようにも見えた。
「失礼します。また火曜日に」
「……お疲れ」
僕がぼそりと呟く頃には姫宮さんは視界からいなくなっていた。
その日、僕が疲れを感じていたのは4日ぶりの学校だからではなく、姫宮さんに翻弄されたからだと思う。
姫宮さん的に好感触だったのならひとまず良しとするけど、今後もこういう感じで絡まれるのはかなり疲れてしまうかもしれない。
でも、考えようによっては1日行くだけで2日間も休めるという風にも見られるので、僕はそちらのスタイルでいこうと思う。
そして、本来なら活動がある文芸部についてはGWだから休みになっていた。つまり、岸本さんと岸元さんの名前呼びについての宿題の提出日まで、もう少しだけ猶予があるということだ。
「副部長」
そんな中、僕が登校して駐輪場から下駄箱へ向かう途中に慣れない呼称で呼び止められる。
その声の主は落ち着いている印象があって、桐山くんが密か(?)に思いを寄せる姫宮さんだった。今日はこの前見た時とは違う髪飾りで前髪を留めている。
「おはよう、姫宮さん」
「おはようございます」
そう言った姫宮さんはそのまま下駄箱に向かわず、何故か僕の目の前に立ちふさがって足を止める。
正直なところ、僕が姫宮さんについて知っているのはさっき挙げた情報が全てなので、どういう絡み方をしたらいいかわからない。
「えっと……僕に何か用事ある感じ?」
「いえ。この前の歓迎会では副部長とあまり話せなかったので交流をはかってみようかと」
「確かにそうだったね。じゃあ、ちょっと話しながらいこうか」
「すみません。本当は視界に入ったのに挨拶しないのはどうかと思って少しばかり悩んだ結果呼んでみてから考えようと思っただけでした」
「えっ。つまりは……別に話したいわけではないと?」
その言葉に対して姫宮さんは頷く。でも、表情は申し訳ないという感じではなく、平静を保ったままだった。
この時点で姫宮さんが他の新入部員よりも大変かもしれないと僕は思ってしまう。
「わ、わかった。それじゃあ、今日は部活がないからまた来週」
「行ってしまうんですか」
「話すの嫌じゃなかったの……?」
「いえ。副部長がわざわざ話しながらと言ったので何か話したいことがあるのかと思って」
「それはその……そこまで考えてなかったよ」
「では副部長もだいたい私と同じ感情だったと」
「そ、そうなるのかな。でも、姫宮さんが良ければまた今度の機会に話して貰えると嬉しい」
「どっちなんですか」
「……話して貰えると嬉しい方です」
姫宮さんは別に怒っているわけじゃないけれど、淡々と言われるのでそういう気持ちになってくる。
「副部長」
「は、はい!」
「面白いですね」
「どこの話が……?」
「私に翻弄されているところです」
「……わかってて言ってたの」
「いえ。あまり男子とそれも先輩と話す機会がなかったのでこういう展開になると思っていませんでした。日葵や茉奈から少しだけ情報を貰っていましたが副部長はいい人ですね」
「あ、ありがとう?」
「弄ってもいい人」
「そういう意味!?」
僕がそう言うと、姫宮さんは口元を片手で抑える。それは恐らく笑っているのだろうけど、わかりやすく笑っているわけじゃないので嘲笑されているようにも見えた。
「失礼します。また火曜日に」
「……お疲れ」
僕がぼそりと呟く頃には姫宮さんは視界からいなくなっていた。
その日、僕が疲れを感じていたのは4日ぶりの学校だからではなく、姫宮さんに翻弄されたからだと思う。
姫宮さん的に好感触だったのならひとまず良しとするけど、今後もこういう感じで絡まれるのはかなり疲れてしまうかもしれない。
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