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2年生1学期
5月4日(水)晴れ 名前呼びと恥ずかしさ
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GW6日目のみどりの日。この日は先日僕から提案したカラオケへ行く日だ。昨日のファミレスと同じく先に予約を取っていたので部屋にはすぐに入れた。フリータイムにはできなかったけど、4人で3時間のカラオケなら十分楽しめるものだ。
「……みんなに相談があるんだけど」
「どしたの、りょーちゃん。まさかクインテット希望とか?」
「いや、そうじゃなくてカラオケ関係ない個人的な相談なんだけど……女の子を名前の方で呼ぶ時ってどうしたらいいと思う?」
しかし、そんな楽しい空気の中で僕はみんなから少しだけ時間を頂くことにした。昨日の歓迎会から帰った後も色々考えてみたけど、どうにも一人では解決できそうになかったからだ。
「どうしたらって普通に呼べばいいじゃん」
それに対して、あっさりと答えたのは松永だった。うん、そこは予想通りだけど、それができないから困っているのである。
「そもそもなんでその話が出てきたのか経緯を説明してくれないと何とも言えない。何があったんだ?」
本田くんにそう言われたので、僕は文芸部の苗字被り問題について3人に説明する。確かにここを言わなければ僕の発言はあまり唐突過ぎる。
「なるほどねぇ。じゃあ、聞いた上で言うけど、やっぱり普通に呼べば良くない?」
「そ、そうなるのか……」
「実際問題、今までのりょーたちゃんも同級生で苗字被ってたら自然に呼び捨てなり、名前の方で付けたニックネームで呼んだりしてるじゃん。ほら、佐藤と池田はいっぱいいたし」
「だって、それは男子の話だし……」
「いやいや、男子も女子も関係ないでしょ。ねぇ……あれ?」
松永が本田くんと大倉くんに向けて言うと、二人は微妙な反応で返す。その瞬間、僕の心は少しだけ明るくなった。同類を見つけた喜びで。
「えっ、ぽんちゃんもクラさんも女子の名前呼び捨てに抵抗あるタイプ……?」
「む、むしろ松永くんが抵抗ないのにびっくりなんだけど」
「まぁ、距離間によるな。いきなり呼ぶのは抵抗がある」
「へ~ そうなんだぁ」
「そう言ってる松永だってあんまり名前呼びしてない気がするけど」
僕は松永の呼び方を思い出して指摘した。男子は今みたいにニックネームで呼ぶことが多いけど、女子は苗字にちゃん付けしている気がする。
「そりゃあ、まぁ女子全員名前呼びってわけじゃないよ。呼ぶにしても時と場所を選ばらないとね」
「そう言われてしまうと何も言えない」
「茉奈ちゃんだって二人でいる時は普通に呼び捨てにするし」
「聞いてないし、それは僕の相談している状況とは違う」
「おっと失敬。それはそれとして苗字被りでわかりづらいなら呼ぶしかないんだし、りょーちゃんには腹をくくれとしか言えないなぁ」
「わ、わかったよ……」
「それとも何かニックネーム考えて欲しい? 呼ぶ時の罪悪感薄めのやつ」
松永にそう言われて一瞬頼みそうになってしまうけど、何とか踏みとどまる。
そもそも僕は名前で呼ぶことに罪悪感を覚えているのだろうか。いや、そうではない。罪悪感で言うならこうやって呼ぶかどうかを悩んでいることの方で覚えている。
それならどうして呼ぶのに抵抗があるのかと言われたら……単純な話、恥ずかしいからだ。
だって、一般的に誰かを呼ぶ時は苗字で十分なのだから、わざわざ名前を呼ぶというのはそれだけ仲が深まっていると思われるものだ。それが名前を呼ぶことで、自分の耳にも他人の耳にも聞こえてしまうのが、何だか恥ずかしい。
それに、苗字呼びが定着していれば、その人を呼ぶ時の口の形は自然とそうなってしまう。そこから急に変えようすると、変に口ごもってしまいそうで、それもまた恥ずかしい。
だけど、松永が言う通り避けられないことなのだから僕が腹をくくるしかない。初めからわかっていたことだけど、誰かに話を聞いて欲しかったところはあるからその目的は果たせた。
「いや、ニックネーム呼びするにしても自分で考えてみるよ。みんな時間取らせてごめん」
「別にいいって。困ったことがあったらお互い様だぜ」
「……だったら、最後にもう一つだけ。後輩からさん付け以外の呼び方がいいって言われたんだけど、ちゃん付けと呼び捨てだとどっちが呼びやすいと思う?」
「……どっちもそんなに変わらなくない?」
「変わるから聞いてるだよ!」
そんなこんなで3時間のうち30分くらいは僕の相談に時間を使ってしまった。
最後の質問については呼び捨ての方が馴れ馴れしい、ちゃん付けの方が恥ずかしい可能性があるなど色々な意見が出たので、結局は僕の心持ち次第ということになった。
でも、今回の件で大倉くんと本田くんも僕と同じ感覚だったことは安心した。
というか、男子的には恥ずかしく感じる方が普通だと思ってたんだけど……実際どうなんだろう。僕に関しては感覚が高校生になっていないのかもしれない。
「……みんなに相談があるんだけど」
「どしたの、りょーちゃん。まさかクインテット希望とか?」
「いや、そうじゃなくてカラオケ関係ない個人的な相談なんだけど……女の子を名前の方で呼ぶ時ってどうしたらいいと思う?」
しかし、そんな楽しい空気の中で僕はみんなから少しだけ時間を頂くことにした。昨日の歓迎会から帰った後も色々考えてみたけど、どうにも一人では解決できそうになかったからだ。
「どうしたらって普通に呼べばいいじゃん」
それに対して、あっさりと答えたのは松永だった。うん、そこは予想通りだけど、それができないから困っているのである。
「そもそもなんでその話が出てきたのか経緯を説明してくれないと何とも言えない。何があったんだ?」
本田くんにそう言われたので、僕は文芸部の苗字被り問題について3人に説明する。確かにここを言わなければ僕の発言はあまり唐突過ぎる。
「なるほどねぇ。じゃあ、聞いた上で言うけど、やっぱり普通に呼べば良くない?」
「そ、そうなるのか……」
「実際問題、今までのりょーたちゃんも同級生で苗字被ってたら自然に呼び捨てなり、名前の方で付けたニックネームで呼んだりしてるじゃん。ほら、佐藤と池田はいっぱいいたし」
「だって、それは男子の話だし……」
「いやいや、男子も女子も関係ないでしょ。ねぇ……あれ?」
松永が本田くんと大倉くんに向けて言うと、二人は微妙な反応で返す。その瞬間、僕の心は少しだけ明るくなった。同類を見つけた喜びで。
「えっ、ぽんちゃんもクラさんも女子の名前呼び捨てに抵抗あるタイプ……?」
「む、むしろ松永くんが抵抗ないのにびっくりなんだけど」
「まぁ、距離間によるな。いきなり呼ぶのは抵抗がある」
「へ~ そうなんだぁ」
「そう言ってる松永だってあんまり名前呼びしてない気がするけど」
僕は松永の呼び方を思い出して指摘した。男子は今みたいにニックネームで呼ぶことが多いけど、女子は苗字にちゃん付けしている気がする。
「そりゃあ、まぁ女子全員名前呼びってわけじゃないよ。呼ぶにしても時と場所を選ばらないとね」
「そう言われてしまうと何も言えない」
「茉奈ちゃんだって二人でいる時は普通に呼び捨てにするし」
「聞いてないし、それは僕の相談している状況とは違う」
「おっと失敬。それはそれとして苗字被りでわかりづらいなら呼ぶしかないんだし、りょーちゃんには腹をくくれとしか言えないなぁ」
「わ、わかったよ……」
「それとも何かニックネーム考えて欲しい? 呼ぶ時の罪悪感薄めのやつ」
松永にそう言われて一瞬頼みそうになってしまうけど、何とか踏みとどまる。
そもそも僕は名前で呼ぶことに罪悪感を覚えているのだろうか。いや、そうではない。罪悪感で言うならこうやって呼ぶかどうかを悩んでいることの方で覚えている。
それならどうして呼ぶのに抵抗があるのかと言われたら……単純な話、恥ずかしいからだ。
だって、一般的に誰かを呼ぶ時は苗字で十分なのだから、わざわざ名前を呼ぶというのはそれだけ仲が深まっていると思われるものだ。それが名前を呼ぶことで、自分の耳にも他人の耳にも聞こえてしまうのが、何だか恥ずかしい。
それに、苗字呼びが定着していれば、その人を呼ぶ時の口の形は自然とそうなってしまう。そこから急に変えようすると、変に口ごもってしまいそうで、それもまた恥ずかしい。
だけど、松永が言う通り避けられないことなのだから僕が腹をくくるしかない。初めからわかっていたことだけど、誰かに話を聞いて欲しかったところはあるからその目的は果たせた。
「いや、ニックネーム呼びするにしても自分で考えてみるよ。みんな時間取らせてごめん」
「別にいいって。困ったことがあったらお互い様だぜ」
「……だったら、最後にもう一つだけ。後輩からさん付け以外の呼び方がいいって言われたんだけど、ちゃん付けと呼び捨てだとどっちが呼びやすいと思う?」
「……どっちもそんなに変わらなくない?」
「変わるから聞いてるだよ!」
そんなこんなで3時間のうち30分くらいは僕の相談に時間を使ってしまった。
最後の質問については呼び捨ての方が馴れ馴れしい、ちゃん付けの方が恥ずかしい可能性があるなど色々な意見が出たので、結局は僕の心持ち次第ということになった。
でも、今回の件で大倉くんと本田くんも僕と同じ感覚だったことは安心した。
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