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2年生1学期
4月22日(金)晴れ 新入生見参その2
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またも気温が上がった金曜日。1年生の入部受付については特に期限が決められているわけではないけど、部活側もずっと説明する状態で待つわけにはいかないので、GW前の今週から来週辺りで多くの部活は通常の活動に戻ることになる。
1年生側で考えてもGWまでに見学へ来ないのであれば帰宅部になるだろうし、そもそも我が高校では部活の入部は強制されていないから、多くの1年生は部活をどうするかもう決めているものだ。
そして、文芸部も例に違わずGWを目途に1年生の勧誘は区切りを付けようという話になっていた。
「岸本さ~ん、産賀く~ん。ちょっといいかしら?」
そんな中、昨日の放課後のこと。帰りのホームルームを終えた際に豊田先生が僕と岸本さんを呼ぶ。1年から引き続き古典の担で今年のクラス担任であるけれど、二人が同時に呼んだのはあまり顔を見せない文芸部の顧問としての話だった。
「実はね、今週のうちに文芸部の入部届を出してくれた子が四人もいたの。それで金曜日にまた来て貰うように言っておいたから、明日は一旦の顔合わせの日にしてもいいかしら? 先生も顔を見せるから」
豊田先生がそう言われると、僕と岸本さんは顔を見合わせてから頷く。その四人について思い当たるところはあったけど、本当に入部してくれると思っていなかった。
それから本日の放課後。一応、今日の見学者も待っていたけど来る気配はなかったので、ミーティング兼顔合わせが始まる。
「今日は連絡した通り、新入部員が四人来てくれたので、簡易的ですけれど、顔合わせをしたいと思います。えっと……四人とも、前に出てきて貰っていいでしょうか?」
岸本さんがそう言うと、四人は黒板前に一列に並ぶ。
「それじゃあ、一人ずつ自己紹介してください。私から見て右から順番に」
「はい。伊月茉奈と言います。文芸部は高校で初めて入部しますが、興味があった分野なので積極的に活動していこうと思っています。これからよろしくお願いします」
先陣を切ったのは伊月さんだった。あれから他の部活も見学したのかもしれないけど、本当に入部を決めてくれたようだ。
「姫宮青蘭です。よろしくお願いします」
次に自己紹介したのは先週見学に来た落ち着いている印象だった女の子だ。その印象は今日も大きく変わらないけど、何となく独特の空気感がある子のような気がする。
「ちょっと青蘭。それで終わり?」
「……一発ギャグとかいる?」
「それだと日葵と男子くんのハードルが爆上がっちゃうから……まぁ、いいか。岸元日葵でーす! あんまり本読まなさそうだなーってよく言われるんですけど、こう見えても読書ガールなので文芸部の活動めっちゃ楽しみにしてます! よろしくでーす!」
そのままの流れで喋りだしたのは元気な印象だった女の子で、そちらの印象も変わらない。だけど、岸元さんの言った通りの偏見を僕も持ってしまったので反省……いや、特筆すべきはそこじゃない。
僕は岸元さんの自己紹介が終わった瞬間、岸本さんの方を見てしまう。
すると、岸本さんは岸元さんの方を驚いた表情で見ていた。先週名前を聞いていなかったけど、まさか同じ苗字(正確にはきしの漢字が違う)だなんて予想していなかった。
「1年の桐山宗太郎です――よろしくお願いします!」
その苗字に気を取られたせいでせっかく来てくれた唯一の男子の自己紹介があまり頭に入ってこなかった。
「四人とも自己紹介ありがとうございます。座って貰って大丈夫です」
「はーい、岸本センパ……って、ええっ!? 日葵って、もしかして岸本センパイと苗字同じ!?」
「今気付いたの」
「逆に青蘭は気付いてたんかい! いや、自分で言っといて気付いてなかった日葵も日葵だけど!」
「え、えっと……」
「やば! すっごい偶然じゃないですか、岸本センパイ!」
「そ、そうだね……」
その後はそれぞれ1年生と喋る時間になったけど、岸本さんは岸元さんにめちゃくちゃ絡まれていて、終始押され気味だった。
その様子に僕はデジャブを感じるけど、そうであるなら岸本さんが慣れることで上手い方向へ行くはずだ。
「産賀先輩! 藤原先輩! 改めてよろしくお願いします!」
「ああ、うん。よろしく、桐山くん。男子が入ってくれて嬉しいよ」
一方の僕は藤原先輩と共に桐山くんと少しばかり話をすることになった。さすがに今日だけで色々知るのは難しいけど、桐山くんは真っすぐでいい子のようなので、幽霊部員にならないよう繋ぎ止めたいと思う。
こうして、四人の新入部員が増えた文芸部だけど……大変なのはこれからのような気がした。
1年生側で考えてもGWまでに見学へ来ないのであれば帰宅部になるだろうし、そもそも我が高校では部活の入部は強制されていないから、多くの1年生は部活をどうするかもう決めているものだ。
そして、文芸部も例に違わずGWを目途に1年生の勧誘は区切りを付けようという話になっていた。
「岸本さ~ん、産賀く~ん。ちょっといいかしら?」
そんな中、昨日の放課後のこと。帰りのホームルームを終えた際に豊田先生が僕と岸本さんを呼ぶ。1年から引き続き古典の担で今年のクラス担任であるけれど、二人が同時に呼んだのはあまり顔を見せない文芸部の顧問としての話だった。
「実はね、今週のうちに文芸部の入部届を出してくれた子が四人もいたの。それで金曜日にまた来て貰うように言っておいたから、明日は一旦の顔合わせの日にしてもいいかしら? 先生も顔を見せるから」
豊田先生がそう言われると、僕と岸本さんは顔を見合わせてから頷く。その四人について思い当たるところはあったけど、本当に入部してくれると思っていなかった。
それから本日の放課後。一応、今日の見学者も待っていたけど来る気配はなかったので、ミーティング兼顔合わせが始まる。
「今日は連絡した通り、新入部員が四人来てくれたので、簡易的ですけれど、顔合わせをしたいと思います。えっと……四人とも、前に出てきて貰っていいでしょうか?」
岸本さんがそう言うと、四人は黒板前に一列に並ぶ。
「それじゃあ、一人ずつ自己紹介してください。私から見て右から順番に」
「はい。伊月茉奈と言います。文芸部は高校で初めて入部しますが、興味があった分野なので積極的に活動していこうと思っています。これからよろしくお願いします」
先陣を切ったのは伊月さんだった。あれから他の部活も見学したのかもしれないけど、本当に入部を決めてくれたようだ。
「姫宮青蘭です。よろしくお願いします」
次に自己紹介したのは先週見学に来た落ち着いている印象だった女の子だ。その印象は今日も大きく変わらないけど、何となく独特の空気感がある子のような気がする。
「ちょっと青蘭。それで終わり?」
「……一発ギャグとかいる?」
「それだと日葵と男子くんのハードルが爆上がっちゃうから……まぁ、いいか。岸元日葵でーす! あんまり本読まなさそうだなーってよく言われるんですけど、こう見えても読書ガールなので文芸部の活動めっちゃ楽しみにしてます! よろしくでーす!」
そのままの流れで喋りだしたのは元気な印象だった女の子で、そちらの印象も変わらない。だけど、岸元さんの言った通りの偏見を僕も持ってしまったので反省……いや、特筆すべきはそこじゃない。
僕は岸元さんの自己紹介が終わった瞬間、岸本さんの方を見てしまう。
すると、岸本さんは岸元さんの方を驚いた表情で見ていた。先週名前を聞いていなかったけど、まさか同じ苗字(正確にはきしの漢字が違う)だなんて予想していなかった。
「1年の桐山宗太郎です――よろしくお願いします!」
その苗字に気を取られたせいでせっかく来てくれた唯一の男子の自己紹介があまり頭に入ってこなかった。
「四人とも自己紹介ありがとうございます。座って貰って大丈夫です」
「はーい、岸本センパ……って、ええっ!? 日葵って、もしかして岸本センパイと苗字同じ!?」
「今気付いたの」
「逆に青蘭は気付いてたんかい! いや、自分で言っといて気付いてなかった日葵も日葵だけど!」
「え、えっと……」
「やば! すっごい偶然じゃないですか、岸本センパイ!」
「そ、そうだね……」
その後はそれぞれ1年生と喋る時間になったけど、岸本さんは岸元さんにめちゃくちゃ絡まれていて、終始押され気味だった。
その様子に僕はデジャブを感じるけど、そうであるなら岸本さんが慣れることで上手い方向へ行くはずだ。
「産賀先輩! 藤原先輩! 改めてよろしくお願いします!」
「ああ、うん。よろしく、桐山くん。男子が入ってくれて嬉しいよ」
一方の僕は藤原先輩と共に桐山くんと少しばかり話をすることになった。さすがに今日だけで色々知るのは難しいけど、桐山くんは真っすぐでいい子のようなので、幽霊部員にならないよう繋ぎ止めたいと思う。
こうして、四人の新入部員が増えた文芸部だけど……大変なのはこれからのような気がした。
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