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2年生1学期
4月20日(水)晴れ 松永浩太の嘆きその3
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心地よい陽気の水曜日。昨日の伊月さんの訪問はさすがに報告すべきと思って松永に連絡したところ、この日の昼休みに4組の教室へ呼び出しを喰らう。
ついでに昼食と取ろうと思って大倉くんと共に訪れると、本田くんとぐったりした松永が待っていた。
「お疲れ。この席の椅子借りても大丈夫かな?」
「ああ。いつも別の場所で食べてる子の席だから大丈夫」
「ありがとう。それと……そこの奴も大丈夫な感じ?」
「良ちゃんがわからないならオレにはわからん」
本田くんは呆れたように首を横に振るので朝からこのテンションのようだ。
「おい、松永。何もそんなに凹むことないじゃないか。テニス部に来ないのは残念だろうけど、伊月さんは一緒の高校であること自体は嬉しいって言ってたし」
「……違うよ、りょーちゃん。俺がショックなのは茉奈ちゃんが文芸部に行くことなんだよ」
「えっ? なんで?」
「だってさ、茉奈ちゃんがそんなに本好きって俺は聞いたことなかったから、それで文芸部に行く理由って……」
そう言いながら松永は僕のことを見つめる。その意味はさすがに鈍感な僕でもわかった。
「違う違う! 文芸部に興味あっただけの話!?」
「でもさ、これまで話した限りでも茉奈ちゃんはりょーちゃんのこと結構気に入ってるのは知ってるし……」
「ま、松永? さすがにそれは考え過ぎというか――」
「茉奈ちゃんの方がりょーちゃんに会いやすいとかズルいじゃん!?」
「……は?」
松永のひと言に僕は目をパチパチとさせる。それを見て本田くんは箸を止めて噴き出した。
「……松永、朝からずっとこうなんだよ」
「は、はぁ!? どういう方向の嫉妬なんだよ!?」
「だってぇ、りょーちゃんってば結局今日みたいに誘わない限りはお昼食べに来てくれないし、LINEくれる回数少なくなってきてるの、寂しいじゃん!」
「大倉くん、クラス戻ろう」
「あー!? 冗談……ってわけじゃないけど、悪ノリし過ぎた! ごめん!」
「……冗談にしてもタチが悪いぞ」
「ま、まぁまぁ、産賀くん」
珍しく不機嫌になってしまった僕を大倉くんがなだめる。それでも僕はやや不満な表情を隠せなかった。
「本田くんも知ってて黙ってたの?」
「すまん。ただ、こいつが良ちゃんに会いたがってるのは本当なんだ」
「だったら、普通に声かければいいのに……」
「そうは言うけど、りょーちゃんは基本誘わないと動いてくれないから俺と温度差を感じるんだよね」
「別にいいだろう。それより伊月さんのことで嘆いてたんじゃないのか」
「もちろんそれもあったけど、まぁりょーちゃんがLINEでも言ってたように茉奈ちゃんが好きなことやってくれた方がいいから納得した。でも、りょーちゃんの方は納得していない」
「確かに僕がちょっと薄情なところはあるかもしれないけど、松永は松永で寂しがり過ぎじゃないか? 前にも言ったけど、クラス別だったことは何回もあったろうに」
「それは中学までの話でしょ。高校で暫く会わずに連絡も少なくなったら、そのうち疎遠になっちゃうから」
「そ、そういうものか……」
「それで茉奈ちゃんが文芸部に入部したら、りょーちゃんを取られちゃう!」
「何の話なんだよ!?」
調子よく話しだした松永に僕がツッコみを入れると、今度は大倉くんも笑い出した。
「い、いつの間にか産賀くんを取り合う話になってる?」
「良ちゃん、モテ期到来か?」
「いやいや、こう見えてうちのりょーちゃんのモテ期はだいぶ前から来てますよ。たとえば……」
「や、やめろー! 噂話は懲り懲りなんだ!」
それから昼休みの間は4組で過ごしたけど、終始僕が弄られる時間になった。
松永が伊月さんの件を何も気にしていないのは良かったけど、肝心の僕の方が問題があったようだ。
今日のノリは少々うっとうしいと思ったけど、松永が指摘する通り一方的に働きかけるばかりでは、いつか働きかけてくれる側が止めてしまった時に、その関係は消えてしまう。
それを考えると……松永とはそうなりたくないので、たまには僕からも声をかけるよう心がけようと思った。
ついでに昼食と取ろうと思って大倉くんと共に訪れると、本田くんとぐったりした松永が待っていた。
「お疲れ。この席の椅子借りても大丈夫かな?」
「ああ。いつも別の場所で食べてる子の席だから大丈夫」
「ありがとう。それと……そこの奴も大丈夫な感じ?」
「良ちゃんがわからないならオレにはわからん」
本田くんは呆れたように首を横に振るので朝からこのテンションのようだ。
「おい、松永。何もそんなに凹むことないじゃないか。テニス部に来ないのは残念だろうけど、伊月さんは一緒の高校であること自体は嬉しいって言ってたし」
「……違うよ、りょーちゃん。俺がショックなのは茉奈ちゃんが文芸部に行くことなんだよ」
「えっ? なんで?」
「だってさ、茉奈ちゃんがそんなに本好きって俺は聞いたことなかったから、それで文芸部に行く理由って……」
そう言いながら松永は僕のことを見つめる。その意味はさすがに鈍感な僕でもわかった。
「違う違う! 文芸部に興味あっただけの話!?」
「でもさ、これまで話した限りでも茉奈ちゃんはりょーちゃんのこと結構気に入ってるのは知ってるし……」
「ま、松永? さすがにそれは考え過ぎというか――」
「茉奈ちゃんの方がりょーちゃんに会いやすいとかズルいじゃん!?」
「……は?」
松永のひと言に僕は目をパチパチとさせる。それを見て本田くんは箸を止めて噴き出した。
「……松永、朝からずっとこうなんだよ」
「は、はぁ!? どういう方向の嫉妬なんだよ!?」
「だってぇ、りょーちゃんってば結局今日みたいに誘わない限りはお昼食べに来てくれないし、LINEくれる回数少なくなってきてるの、寂しいじゃん!」
「大倉くん、クラス戻ろう」
「あー!? 冗談……ってわけじゃないけど、悪ノリし過ぎた! ごめん!」
「……冗談にしてもタチが悪いぞ」
「ま、まぁまぁ、産賀くん」
珍しく不機嫌になってしまった僕を大倉くんがなだめる。それでも僕はやや不満な表情を隠せなかった。
「本田くんも知ってて黙ってたの?」
「すまん。ただ、こいつが良ちゃんに会いたがってるのは本当なんだ」
「だったら、普通に声かければいいのに……」
「そうは言うけど、りょーちゃんは基本誘わないと動いてくれないから俺と温度差を感じるんだよね」
「別にいいだろう。それより伊月さんのことで嘆いてたんじゃないのか」
「もちろんそれもあったけど、まぁりょーちゃんがLINEでも言ってたように茉奈ちゃんが好きなことやってくれた方がいいから納得した。でも、りょーちゃんの方は納得していない」
「確かに僕がちょっと薄情なところはあるかもしれないけど、松永は松永で寂しがり過ぎじゃないか? 前にも言ったけど、クラス別だったことは何回もあったろうに」
「それは中学までの話でしょ。高校で暫く会わずに連絡も少なくなったら、そのうち疎遠になっちゃうから」
「そ、そういうものか……」
「それで茉奈ちゃんが文芸部に入部したら、りょーちゃんを取られちゃう!」
「何の話なんだよ!?」
調子よく話しだした松永に僕がツッコみを入れると、今度は大倉くんも笑い出した。
「い、いつの間にか産賀くんを取り合う話になってる?」
「良ちゃん、モテ期到来か?」
「いやいや、こう見えてうちのりょーちゃんのモテ期はだいぶ前から来てますよ。たとえば……」
「や、やめろー! 噂話は懲り懲りなんだ!」
それから昼休みの間は4組で過ごしたけど、終始僕が弄られる時間になった。
松永が伊月さんの件を何も気にしていないのは良かったけど、肝心の僕の方が問題があったようだ。
今日のノリは少々うっとうしいと思ったけど、松永が指摘する通り一方的に働きかけるばかりでは、いつか働きかけてくれる側が止めてしまった時に、その関係は消えてしまう。
それを考えると……松永とはそうなりたくないので、たまには僕からも声をかけるよう心がけようと思った。
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