上 下
381 / 942
2年生1学期

4月19日(火)曇り時々晴れ 伊月茉奈との日常

しおりを挟む
 少しどんよりした天気が続く火曜日。先週から引き続き文芸部は見学を受け付けているけど、月曜の来訪者はいなかった。それに金曜に来てくれたはずの三人も入部したという知らせは聞いていない。

 そろそろ焦りが見え始める(主に僕と岸本さん)中、部室の扉がノックされる。

「失礼します。文芸部の見学に来たんですけど……」

 そして、入って来た女の子を見て僕は驚いた。

「どうぞどうぞ~ あっ、3年生のソフィアでーす!」

「1年の伊月茉奈です。よろしくお願いします。あっ……!」

「えっ? 産賀くんが……どうしたの?」

 ソフィア先輩は僕と伊月さんを交互に見ながら言う。僕が何と説明しようか迷っていると、先に伊月さんが喋りだす。

「同じ中学の先輩だったんです」

「えー!? そうなんだ~!」

「はい。あの……今日来てるのはわたしだけでしょうか? 一人だけ説明を受けるのが駄目なようでしたら……」

「ううん。全然大丈夫だよ! あと5分くらい待って来なかったら説明始めるから」

「ありがとうございます」

 伊月さんは丁寧にお辞儀した後、軽く僕の方にも会釈しながら席についた。突然のことで焦っている僕よりもよっぽどしっかりしている。

 それから追加の見学者が来ることはなく、岸本さんから文芸部の説明が始まった。

「……説明は以上になります。ここからは質問を受け付けます」

「えっと……本は読まないわけじゃないんですけど、それほどたくさん読むわけじゃなくて、自分で作品を作ったこともないんですが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です。今入部している部員も創作したことがない人が多いですし、文芸部に入ったからといって読書は強制されるわけではありません」

「そうなんですね。ありがとうございます。それと……」

 説明が終わると、伊月さんは丁寧に質問をしていく。てっきり松永から見学者が来ていない話を聞いて、知り合いのよしみで様子を見に来てくれたのかと思っていたけど、本当に入部するつもりなのだろうか。

「……産賀さん、ちょっと話してもいいですか?」

 そんなことを考えていると、説明を聞き終わった伊月さんが話しかけてきた。まだ部員ではないので廊下に出ると、伊月さんは小さく息を吐く。

「はぁー 緊張したぁ」

「えっ? 緊張してたんだ?」

「さすがに一人だと思ってなかったので。でも、他の先輩方も優しくて良かったです」

「もしかして……文芸部に入部してくれるの?」

「はい。そのつもりで見学に来たんですけど……?」

 伊月さんは少し困惑気味にそう言う。よく考えれば見学に来た人に対して聞く質問ではない。

「い、いや、松永と一緒に見た運動会の時のイメージで、伊月さんは何となく運動部系だと思っていたから……」

「そうだったんですね。わたし、運動は嫌いじゃないですけど、部活でやるほど得意ってわけじゃないので」

「あー だから、テニス部も……」

「それはちょっと違う理由なんです。確かに一緒の高校なのは嬉しいですけど、部活まで一緒はどうかなぁと思ってて。浩太くん的には入って欲しそうでしたけど」

「なるほどね。でも、その方がいいと思うよ」

 僕は心の中で松永に悪いと思いながらそう言う。

「産賀さんにそう言って貰えると助かります。浩太くんにも釘を刺しやすくなるので」

「ははは。あっ、そういえば先週1年生の女子二人が見学に来てくれて、入部してくれそうな感じだったから、もし伊月さんが入部しても一人にはならないと思うよ」

「そうなんですか。今日一人だったのでちょっと不安でしたけど、誰かいてくれるなら嬉しいです」

「うん。僕の時は今の部長と二人だけだったから、伊月さんたちが入部してくれるなら本当にありがたいな……って、強制してるわけじゃないからね? 他の部活に興味があるなら全然変えても大丈夫だから」

「ありがとうございます。そうですね……一緒に見学しようって友達に誘われてるところもあるんですけど、今のところは文芸部にするつもりです。あっ、すみません。長く喋っちゃって。今日はこれで失礼します」

 伊月さんはまた軽く会釈をしてそのまま帰って行った。

 そんなこんなで伊月さんが文芸部に入部してくれる可能性が出てきた。僕としては意外だったけど、伊月さんがいい子なのはよくわかっているし、来てくれる分には嬉しいことだ。
 ただ、1つだけ問題があるとしたら……松永に何か言われるかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

女神と共に、相談を!

沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。 私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。 部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。 まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry 重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。 そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。 『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。 部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

#星色卒業式 〜きみは明日、あの星に行く〜

嶌田あき
青春
 2050年、地球の自転が止まってしまった。地球の半分は永遠の昼、もう半分は永遠の夜だ。  高校1年の蛍(ケイ)は、永遠の夜の街で暮らしている。不眠症に悩む蛍が密かに想いを寄せているのは、星のように輝く先輩のひかりだった。  ある日、ひかりに誘われて寝台列車に乗った蛍。二人で見た朝焼けは息をのむほど美しかった。そこで蛍は、ひかりの悩みを知る。卒業したら皆が行く「永遠の眠り」という星に、ひかりは行きたくないと言うのだ。  蛍は、ひかりを助けたいと思った。天文部の仲間と一緒に、文化祭でプラネタリウムを作ったり、星空の下でキャンプをしたり。ひかりには行ってほしいけれど、行ってほしくない。楽しい思い出が増えるたび、蛍の胸は揺れ動いた。  でも、卒業式の日はどんどん近づいてくる。蛍は、ひかりに想いを伝えられるだろうか。そして、ひかりは眠れるようになるだろうか。  永遠の夜空に輝くひとつの星が一番明るく光るとき。蛍は、ひかりの驚くべき秘密を知ることになる――。

陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君
青春
俺に青春など必要ない。 新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!? 絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく… 本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ! なろう、カクヨムでも連載中! カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601 なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/

処理中です...