374 / 942
2年生1学期
4月12日(火)晴れ 停滞する清水夢愛
しおりを挟む
1年生が宿泊研修から帰還する火曜日。明日も普通に授業があるのは自分の時もなかなか大変だと思ったけど、学校が決めていることだから仕方ない。きっとここで休みを挟むよりは続けてやった方がクラスに馴染みやすいとか、そういう理由だろう。
そんな風にまた1年生の行事の方へ意識が行ってしまう3時間目の休み時間。今日は母さんがお弁当を作れなかったので、久しぶりに購買へ足を運んだ時だった。
「むぅ……」
僕が春休み中に一番会ったと言っても過言ではない清水先輩と遭遇する。でも、3年生になってから出会うのは今日が初めてだった。
購買の窓口を睨み付けながら悩んでいる光景は何だか懐かしい。
「何買うか迷ってるんですか?」
「おお、良助か。そうなんだよ。新学期になっても特にラインナップは変わらなくてな」
「やっぱり生徒総会で通らないと駄目なんですかね。自販機はちゃんと新しいやつ入ってましたし」
「こうなったら小織に直談判するしかないか」
「桜庭先輩にそれを決定する権力はないと思いますけど……」
現副会長の顔を思い浮かべながら僕はそう言うけど……なぜだろう。清水先輩が頼んだらワンチャンス動く可能性があるような気もする。
「それよりも良助が来るのは珍しいな。購買には滅多に来ないのに」
「基本は弁当ですからね。だから、今日は結構楽しみにしてたんですよ。僕にとってはどれも新鮮ですから」
「……よし。じゃあ、良助と同じやつを買おう」
「えっ……それ責任重大じゃないですか」
「いやいや、私が合わせるんだから文句は言わない。基本的に食べられないものはないし」
清水先輩はそう言いながら僕の背中を押してくる。だけど、清水先輩の昼食までかかってくると、僕も気軽には選べない。残念ながらそういう性格なのだ。
あまり悩んでも購買の人に迷惑をかけてしまうので、僕は清水先輩の食についてすぐに思い返す。
他人に任せてしまうくらいにはこだわりがない人なんだけど、甘すぎるやつはそんなに好きじゃないと言っていた……けど、シュークリームとかは普通に食べていたので、大げさに言うほどじゃないのだろう。現に僕が作ったげんこつドーナツは問題なく食べている。
逆に毎回美味しいと言っていたのはコンビニのフライドチキンだ。となると、自分で好きだとは思ってないけど、案外ジャンク系に惹かれるのかもしれない。
そこから導き出される答えは……
「焼きそばパンとウィンナーロールを一つずつください」
まぁ、色々考えた割には惣菜パンという無難な選択になってしまった。でも、それ以外だとメロンパンやクリームパンになってしまうのであまり良くない。
「良助、2つで足りるのか?」
宣言通り同じものを買ってきた清水先輩は待っていた僕に向けて言う。
「あー……たぶん大丈夫です。パンって意外とボリュームありますし。清水先輩はパン買うときはどれくらい買うんです?」
「大抵1個かな」
「す、すみません。多めに買わせちゃって」
「なんで良助が謝るんだ。私が聞いたのは良助が私に合わせて買ったんじゃないかと思ったからだぞ。ほら、男の子は食べ盛りだし」
「その理屈、前にも聞きましたけど、僕はそんなに食べるタイプじゃないので」
「そうかそうか。まぁ、心配しなくても2個くらい食べられる。今日は良助の顔を思い浮かべながら昼食を取るとしよう」
「なっ……!?」
「えっ? そのために合わせて買ったんだが」
清水先輩は何か悪いことをしたのかという表情で見てくるので、僕は首を横に振った。
こうして、今日の昼食は清水先輩と同じものを食べる……じゃなくて、清水先輩が同じものを食べることになったけど、3年生になっても相変わらず無意識に出される発言には注意しようと思った。
そんな風にまた1年生の行事の方へ意識が行ってしまう3時間目の休み時間。今日は母さんがお弁当を作れなかったので、久しぶりに購買へ足を運んだ時だった。
「むぅ……」
僕が春休み中に一番会ったと言っても過言ではない清水先輩と遭遇する。でも、3年生になってから出会うのは今日が初めてだった。
購買の窓口を睨み付けながら悩んでいる光景は何だか懐かしい。
「何買うか迷ってるんですか?」
「おお、良助か。そうなんだよ。新学期になっても特にラインナップは変わらなくてな」
「やっぱり生徒総会で通らないと駄目なんですかね。自販機はちゃんと新しいやつ入ってましたし」
「こうなったら小織に直談判するしかないか」
「桜庭先輩にそれを決定する権力はないと思いますけど……」
現副会長の顔を思い浮かべながら僕はそう言うけど……なぜだろう。清水先輩が頼んだらワンチャンス動く可能性があるような気もする。
「それよりも良助が来るのは珍しいな。購買には滅多に来ないのに」
「基本は弁当ですからね。だから、今日は結構楽しみにしてたんですよ。僕にとってはどれも新鮮ですから」
「……よし。じゃあ、良助と同じやつを買おう」
「えっ……それ責任重大じゃないですか」
「いやいや、私が合わせるんだから文句は言わない。基本的に食べられないものはないし」
清水先輩はそう言いながら僕の背中を押してくる。だけど、清水先輩の昼食までかかってくると、僕も気軽には選べない。残念ながらそういう性格なのだ。
あまり悩んでも購買の人に迷惑をかけてしまうので、僕は清水先輩の食についてすぐに思い返す。
他人に任せてしまうくらいにはこだわりがない人なんだけど、甘すぎるやつはそんなに好きじゃないと言っていた……けど、シュークリームとかは普通に食べていたので、大げさに言うほどじゃないのだろう。現に僕が作ったげんこつドーナツは問題なく食べている。
逆に毎回美味しいと言っていたのはコンビニのフライドチキンだ。となると、自分で好きだとは思ってないけど、案外ジャンク系に惹かれるのかもしれない。
そこから導き出される答えは……
「焼きそばパンとウィンナーロールを一つずつください」
まぁ、色々考えた割には惣菜パンという無難な選択になってしまった。でも、それ以外だとメロンパンやクリームパンになってしまうのであまり良くない。
「良助、2つで足りるのか?」
宣言通り同じものを買ってきた清水先輩は待っていた僕に向けて言う。
「あー……たぶん大丈夫です。パンって意外とボリュームありますし。清水先輩はパン買うときはどれくらい買うんです?」
「大抵1個かな」
「す、すみません。多めに買わせちゃって」
「なんで良助が謝るんだ。私が聞いたのは良助が私に合わせて買ったんじゃないかと思ったからだぞ。ほら、男の子は食べ盛りだし」
「その理屈、前にも聞きましたけど、僕はそんなに食べるタイプじゃないので」
「そうかそうか。まぁ、心配しなくても2個くらい食べられる。今日は良助の顔を思い浮かべながら昼食を取るとしよう」
「なっ……!?」
「えっ? そのために合わせて買ったんだが」
清水先輩は何か悪いことをしたのかという表情で見てくるので、僕は首を横に振った。
こうして、今日の昼食は清水先輩と同じものを食べる……じゃなくて、清水先輩が同じものを食べることになったけど、3年生になっても相変わらず無意識に出される発言には注意しようと思った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
女神と共に、相談を!
沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。
私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。
部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。
まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry
重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。
そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。
『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。
部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──
終わりに見えた白い明日
kio
青春
寿命の終わりで自動的に人が「灰」と化す世界。
「名無しの権兵衛」を自称する少年は、不良たちに囲まれていた一人の少女と出会う。
──これは、終末に抗い続ける者たちの物語。
やがて辿り着くのは、希望の未来。
【1】この小説は、2007年に正式公開した同名フリーノベルゲームを加筆修正したものです(内容に変更はありません)。
【2】本作は、徐々に明らかになっていく物語や、伏線回収を好む方にお勧めです。
【3】『ReIce -second-』にて加筆修正前のノベルゲーム版(WINDOWS機対応)を公開しています(作品紹介ページにて登場人物の立ち絵等も載せています)。
※小説家になろう様でも掲載しています。
サ帝
紅夜蒼星
青春
20××年、日本は100度前後のサウナの熱に包まれた!
数年前からサウナが人体に与える影響が取りだたされてはいた。しかし一過的なブームに過ぎないと、単なるオヤジの趣味だと馬鹿にする勢力も多かった。
だがサウナブームは世を席巻した。
一億の人口のうちサウナに入ったことのない人は存在せず、その遍く全ての人間が、サウナによって進化を遂げた「超人類」となった。
その中で生まれた新たなスポーツが、GTS(Golden Time Sports)。またの名を“輝ける刻の対抗戦”。
サウナ、水風呂、ととのい椅子に座るまでの一連のサウナルーティン。その時間を設定時間に近づけるという、狂っているとしか言いようがないスポーツ。
そんなGTSで、「福良大海」は中学時代に全国制覇を成し遂げた。
しかしとある理由から彼はサウナ室を去り、表舞台から姿を消した。
高校生となった彼は、いきつけのサウナで謎の美少女に声を掛けられる。
「あんた、サウナの帝王になりなさい」
「今ととのってるから後にしてくれる?」
それは、サウナストーンに水をかけられたように、彼の心を再び燃え上がらせる出会いだった。
これはサウナーの、サウナーによる、サウナーのための、サウナ青春ノベル。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
片思いに未練があるのは、私だけになりそうです
珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。
その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。
姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。
そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。
少女が過去を取り戻すまで
tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。
玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。
初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。
恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。
『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』
玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく────
※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです
※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります
内容を一部変更しています
※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです
※一部、事実を基にしたフィクションが入っています
※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます
※イラストは「画像生成AI」を使っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる