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2年生1学期
4月11日(月)晴れのち曇り 大山亜里沙と岸本路子その3
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1年生が宿泊研修に出発した月曜日。ここ数日は2年生になったことよりも自分が1年生だった頃のことを思い出してしまうのは、完全にそういう行事に引っ張られているの原因だと思う。2年生ならでは行事が来るのはまだ先になるので、とりあえず今は通常授業をしっかり受けていくつもりだ。
そんな日の朝。新学期らしい変化が起ころうとしていた。
「うぶクン……と岸本さん、おはよー」
遠慮がちに岸本さんのことを呼んだ大山さんは、そのまま岸本さんの方を見る。
「お、おはよう……ございます」
それに対して、岸本さんは小さな声で挨拶を返した。何とも言えない間が流れる中、僕は二人のいる方へ体を向けて「おはよう」と返す。
すると、その言葉を合図とするように、大山さんは岸本さんの席へ椅子を寄せて話し始めた。
「岸本さん!」
「は、はい!?」
「あっ、ごめん。朝から声大きいし、テンション高過ぎるよね、アタシ」
「いえ……」
「それはともかく……アタシは岸本さんともっと話したいと思ってるんだケド」
「えっ……」
「それで……えっと……ああもう、うぶクン!」
いきなり呼ばれたので僕はびくりと肩が動いてしまった。というか、大山さんが今言ったのは僕が先日横流しにした情報そだった。大山さんなら上手く料理して会話に組み込んでくれるものだと思っていたけど、まさかそのまま使ってしまうとは。
「ごめん、岸本さん。部室で聞いたこと大山さんにも伝えたんだけど……」
「だって、話す時にあんまり考えるタイプじゃないから、怖がられてるかもしれないところ意識しながら喋ろうとすると、何話していいかわかんなくなって」
「いや、別に怖がられてるわけじゃないから」
「そんなこと言って、うぶクンもさっき呼んだ時ビビッてたじゃん!」
「そ、それはこっちに来ると思ってなかったから……」
「……ふふっ」
割り込んだ声の方に僕と大山さんは目を向けると、岸本さんが手で口元を隠していた。岸本さんがこんな風に反応するところを僕は前にも見たことがある。
「あっ、岸本さん笑った!」
「……はっ! ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
「全然いいって! まぁ、そんなワケでアタシが岸本さんともっと話したいのはホントなんだケド……岸本さん的にダメなところがあったら教えて。アタシ、なるべく抑えるようにするから!」
「ダメなところなんてないです。ただ……わたしが大山さんみたいな人と話せるような話題があるか不安で、どうしても緊張してしまって」
「話題なんて何でもあるから大丈夫。アタシ、文芸部の話とかもちょー気になるし、先週の休み時間に何の本読んでたのかなーとか、可愛いポーチ持ってるなーとか聞きたいことが……って、これじゃあアタシばっかりになっちゃうか」
「ま、まだ一緒のクラスになって時間が経ってないのに、わたしのことそんなにいっぱい見てるんですか……?」
「うん。興味がないと話しかけようと思わないし! だから……まずはそういうところから聞いてみてもいい?」
大山さんは優しくそう言う。それを見た岸本さんは「はい」と返事をしながらゆっくりと頷いた。
それから、僕は二人の会話から外れた後も順調に会話が続いているように見えた。
その結果だけ見ると、僕が部活で岸本さんに聞いたり、大山さんに情報を流したりしたことは余計なお世話だったように思える。開き直った大山さんの語りかけの方がよっぽど岸本さんの心を開くのに効果的だったし、女子同士ならいずれ時間が解決していた可能性が高い。
「いやー、話せて良かったー うぶクンのおかげだよ」
「うん。産賀くんがいてくれたから……」
だけど、二人がそう言ってくれるので無意味な行動ではなかった……
「うぶクンっていう共通の話題があるから助かっちゃった。ねー?」
「はい……あっ、悪い話じゃないから!」
……と思いたい。いったい二人が何を話していたのか気になるけど、隣の席だからといって聞き耳を立てるようなことは今後もしないでおこう。
そんな日の朝。新学期らしい変化が起ころうとしていた。
「うぶクン……と岸本さん、おはよー」
遠慮がちに岸本さんのことを呼んだ大山さんは、そのまま岸本さんの方を見る。
「お、おはよう……ございます」
それに対して、岸本さんは小さな声で挨拶を返した。何とも言えない間が流れる中、僕は二人のいる方へ体を向けて「おはよう」と返す。
すると、その言葉を合図とするように、大山さんは岸本さんの席へ椅子を寄せて話し始めた。
「岸本さん!」
「は、はい!?」
「あっ、ごめん。朝から声大きいし、テンション高過ぎるよね、アタシ」
「いえ……」
「それはともかく……アタシは岸本さんともっと話したいと思ってるんだケド」
「えっ……」
「それで……えっと……ああもう、うぶクン!」
いきなり呼ばれたので僕はびくりと肩が動いてしまった。というか、大山さんが今言ったのは僕が先日横流しにした情報そだった。大山さんなら上手く料理して会話に組み込んでくれるものだと思っていたけど、まさかそのまま使ってしまうとは。
「ごめん、岸本さん。部室で聞いたこと大山さんにも伝えたんだけど……」
「だって、話す時にあんまり考えるタイプじゃないから、怖がられてるかもしれないところ意識しながら喋ろうとすると、何話していいかわかんなくなって」
「いや、別に怖がられてるわけじゃないから」
「そんなこと言って、うぶクンもさっき呼んだ時ビビッてたじゃん!」
「そ、それはこっちに来ると思ってなかったから……」
「……ふふっ」
割り込んだ声の方に僕と大山さんは目を向けると、岸本さんが手で口元を隠していた。岸本さんがこんな風に反応するところを僕は前にも見たことがある。
「あっ、岸本さん笑った!」
「……はっ! ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
「全然いいって! まぁ、そんなワケでアタシが岸本さんともっと話したいのはホントなんだケド……岸本さん的にダメなところがあったら教えて。アタシ、なるべく抑えるようにするから!」
「ダメなところなんてないです。ただ……わたしが大山さんみたいな人と話せるような話題があるか不安で、どうしても緊張してしまって」
「話題なんて何でもあるから大丈夫。アタシ、文芸部の話とかもちょー気になるし、先週の休み時間に何の本読んでたのかなーとか、可愛いポーチ持ってるなーとか聞きたいことが……って、これじゃあアタシばっかりになっちゃうか」
「ま、まだ一緒のクラスになって時間が経ってないのに、わたしのことそんなにいっぱい見てるんですか……?」
「うん。興味がないと話しかけようと思わないし! だから……まずはそういうところから聞いてみてもいい?」
大山さんは優しくそう言う。それを見た岸本さんは「はい」と返事をしながらゆっくりと頷いた。
それから、僕は二人の会話から外れた後も順調に会話が続いているように見えた。
その結果だけ見ると、僕が部活で岸本さんに聞いたり、大山さんに情報を流したりしたことは余計なお世話だったように思える。開き直った大山さんの語りかけの方がよっぽど岸本さんの心を開くのに効果的だったし、女子同士ならいずれ時間が解決していた可能性が高い。
「いやー、話せて良かったー うぶクンのおかげだよ」
「うん。産賀くんがいてくれたから……」
だけど、二人がそう言ってくれるので無意味な行動ではなかった……
「うぶクンっていう共通の話題があるから助かっちゃった。ねー?」
「はい……あっ、悪い話じゃないから!」
……と思いたい。いったい二人が何を話していたのか気になるけど、隣の席だからといって聞き耳を立てるようなことは今後もしないでおこう。
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