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2年生1学期
4月8日(金)晴れ 大山亜里沙と岸本路子その2
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通常授業が始まった金曜日。でも、すぐに土日になるので本格的に体を慣らすのは来週からになりそうだった。
そんな来週の月曜日から2日間、新入生は宿泊研修に出ることになるので、部活へ見学に来る機会も今日が一区切りになる。
しかし、ここ3日間岸本さんと一緒に待機している文芸部の部室には今のところ見学者は一人も来ていなかった。
「まだ始まったばかりだし、決めるまで時間はかかると思うのだけれど……やっぱり外回りして勧誘しに行った方がいいのかな……」
部室内の黒板前に座る岸本さんはそう呟く。
むやみに動いても仕方ないという結論になって、新入生への直接的な勧誘は入学式からやっていなかった。
そうなると、その時に配ったチラシと現在2か所に掲示されているポスターの宣伝効果だけが頼りになる。
文芸部は部室前で楽器を弾いたり、実際に動く姿を見て貰ったりすることができないから、ここへ来て今後の説明を聞いて貰うしかないのだ。
「見学に来たのはちょうど宿泊研修の前だった気がするけど、その時は月曜始まりだったし、まだ焦る時間じゃないと思うよ」
「それならわたしが部室で初めて産賀くんを見たのも宿泊研修の前だったんだ。入学してからすぐは緊張しててあまり覚えてなかったけれど……」
「うん、僕も見返さないと思い出せなかったかも」
「見返す……?」
「あっ、いや……当時の写真とかね」
思わずに日記のことを口走りそうになった僕は慌てて誤魔化す。今更恥ずかしがる必要もないのかもしれないけど、今までも何となく言ってこなかったから隠すようになっていた。
「写真って……宿泊研修の時とか?」
「う、うん。カレー作った時の時間帯だけスマホ使って良くて、確か大山さんが……」
「お、大山さん……」
岸本さんは名前を聞いただけなのに椅子ごと少し後退りした。怖がっているわけではないと大山さんに言ってしまったけど、嘘をついてしまったかもしれない。
「えっと……岸本さんが困ってるなら協力できると思うけど」
「……困ってるというより、今まであんな風に話しかけてくれる女子がいなかったから、どうしたらいいかわからない……って、それが困ってるってことなんだよね。こういう態度ばかり取るからわたしはずっと……」
「待って待って。そんなにネガティブにならなくても。テンションが合わないタイミングは誰でもあるから」
「でも、このままだと……」
「岸本さんは、大山さんと仲良く……とまではいかなくても話してみたいと思ってる?」
「それはもちろん。できることなら、だけれど……」
「だったら、来週は僕も会話に混ざるよ。僕も最初は大山さんの性格やテンションに合わせられかと思っていたけど、実際話してみると全然大丈夫だと思うから」
「……うん。ありがとう」
僕が話す流れに持っていってしまったような気がするけど、とりあえず岸本さんがマイナスな感情を持っていないのがわかって良かった。今日は話しかけずに様子見していた大山さんにも情報を共有しておけばお互いに上手く話せることだろう。
「産賀くんは……大山さんと2年連続で同じクラスで、しかも隣の席だったんだよね」
「そうだよ。席替えした後も近い席が多くてさ。そのおかげか結構話しかけて貰えてる感じ」
「席替えしても……」
「この春休みもカラオケに誘って貰ったりしたし……」
「……カラオケ」
「あっ、ちなみに後ろの席の大倉くんも……」
その後、見学者が来なかったので、僕は珍しく結構喋ってしまった。いや、冷静に考えると、来てない状況について何か作戦を立てた方が良かった気がするけど、きっと宿泊研修の後には誰か見学に来るはずだ。
そんな来週の月曜日から2日間、新入生は宿泊研修に出ることになるので、部活へ見学に来る機会も今日が一区切りになる。
しかし、ここ3日間岸本さんと一緒に待機している文芸部の部室には今のところ見学者は一人も来ていなかった。
「まだ始まったばかりだし、決めるまで時間はかかると思うのだけれど……やっぱり外回りして勧誘しに行った方がいいのかな……」
部室内の黒板前に座る岸本さんはそう呟く。
むやみに動いても仕方ないという結論になって、新入生への直接的な勧誘は入学式からやっていなかった。
そうなると、その時に配ったチラシと現在2か所に掲示されているポスターの宣伝効果だけが頼りになる。
文芸部は部室前で楽器を弾いたり、実際に動く姿を見て貰ったりすることができないから、ここへ来て今後の説明を聞いて貰うしかないのだ。
「見学に来たのはちょうど宿泊研修の前だった気がするけど、その時は月曜始まりだったし、まだ焦る時間じゃないと思うよ」
「それならわたしが部室で初めて産賀くんを見たのも宿泊研修の前だったんだ。入学してからすぐは緊張しててあまり覚えてなかったけれど……」
「うん、僕も見返さないと思い出せなかったかも」
「見返す……?」
「あっ、いや……当時の写真とかね」
思わずに日記のことを口走りそうになった僕は慌てて誤魔化す。今更恥ずかしがる必要もないのかもしれないけど、今までも何となく言ってこなかったから隠すようになっていた。
「写真って……宿泊研修の時とか?」
「う、うん。カレー作った時の時間帯だけスマホ使って良くて、確か大山さんが……」
「お、大山さん……」
岸本さんは名前を聞いただけなのに椅子ごと少し後退りした。怖がっているわけではないと大山さんに言ってしまったけど、嘘をついてしまったかもしれない。
「えっと……岸本さんが困ってるなら協力できると思うけど」
「……困ってるというより、今まであんな風に話しかけてくれる女子がいなかったから、どうしたらいいかわからない……って、それが困ってるってことなんだよね。こういう態度ばかり取るからわたしはずっと……」
「待って待って。そんなにネガティブにならなくても。テンションが合わないタイミングは誰でもあるから」
「でも、このままだと……」
「岸本さんは、大山さんと仲良く……とまではいかなくても話してみたいと思ってる?」
「それはもちろん。できることなら、だけれど……」
「だったら、来週は僕も会話に混ざるよ。僕も最初は大山さんの性格やテンションに合わせられかと思っていたけど、実際話してみると全然大丈夫だと思うから」
「……うん。ありがとう」
僕が話す流れに持っていってしまったような気がするけど、とりあえず岸本さんがマイナスな感情を持っていないのがわかって良かった。今日は話しかけずに様子見していた大山さんにも情報を共有しておけばお互いに上手く話せることだろう。
「産賀くんは……大山さんと2年連続で同じクラスで、しかも隣の席だったんだよね」
「そうだよ。席替えした後も近い席が多くてさ。そのおかげか結構話しかけて貰えてる感じ」
「席替えしても……」
「この春休みもカラオケに誘って貰ったりしたし……」
「……カラオケ」
「あっ、ちなみに後ろの席の大倉くんも……」
その後、見学者が来なかったので、僕は珍しく結構喋ってしまった。いや、冷静に考えると、来てない状況について何か作戦を立てた方が良かった気がするけど、きっと宿泊研修の後には誰か見学に来るはずだ。
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