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1年生春休み
3月29日(火)曇り時々晴れ 岸本路子との春創作
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春休み4日目。この日は文芸部への新入生勧誘に関する準備のために学校へ行った。4日ぶりということでそんなに期間が空いたわけじゃないけど、長期休みに浸っているせいか何故か久しぶりな感じもする。
「一昨日、わたしの家に来て絵を描いて貰ったので、今日は文字入れをお願いします」
岸本さんがそう言うと、少し大きい2種類のポスターと1枚のチラシが僕と手伝い来てくれた森本先輩の前に配られる。このうちチラシの方はコピーして配布する予定だ。
「いやー それにしても本当に上手い子なんだねー 何だかあたしの文字入れるのが申し訳なくなっちゃうわー」
森本先輩はそう言いながらも書き始めるけど、僕と岸本さんは反対に一旦手が止まってしまった。せっかく花園さんが描いてくれたものを台無しにするわけにはいかないと思うと、普通に緊張してしまう。
「産賀くん、一回コピー取ってから書くのってありだと思う……?」
「それだと絵だけコピーで浮いちゃいそうだから良くないかも。とりあえず下書きしてから書くのは……」
「岸本ちゃん書けたよー あれ? 二人とも何やってるのー?」
うだうだ相談している間に森本先輩は文字入れを終わらせていた。こういう時にすぐ動けないのは新部長と副部長の改善すべき点かもしれない。
そんなこともありつつ、ポスターとチラシは無事に完成してコピーも完了したので、続いては入学式当日について話し合いをすることになった。
新入生の部活勧誘については自由にやっていいわけではなく、生徒会が提示したある程度のルールに従わなければいけないようになっている。
圧をかけて無理矢理入部させたり、部活内容を誇張して知らせたりしてはいけないという基本的な部分の他にも、勧誘できる場所や時間帯が制限されていた。
「校門前や1年生の廊下、自転車置き場での勧誘は禁止だから……やっぱり中庭とか下駄箱付近とかになるのかな……産賀くんはどこで見かけたとか覚えてる?」
「うーん……確か入学式が終わった後、下駄箱から出てすぐのところに先輩方の列が出来てたのは覚えてるけど、僕は避けて帰っちゃったから他の場所は覚えてないなぁ」
「わたしも初日はそれどころじゃなくて、すぐ帰った記憶がある……」
「ということは、入学式以外の日も勧誘をがんばった方がいいのかな。去年はどういう感じでした?」
「……どういう感じだっけー?」
森本先輩に聞き返されてしまったので、去年のことはそのままLINEのグループで聞くことになった。この緩さはいいところもあるけど、反面教師にしなければいけない時もあるかもしれない。
その質問から数分後、今日は用事で来れなかった水原先輩から返信が来る。それによると、去年は中庭に構えていたけど、人が多くてなかなかチラシを手に取って貰えなかったらしい。その後は場所を分かれてみたけど、その頃には僕と岸本さんと同じように新入生も帰ってしまったようだ。
「それなら中庭に行かない……ってわけにもいかないよね。そうなると、声を出して呼び止める…………わたし、戦力外かもしれないわ」
「いやいや、そんなことはないよ。とりあえず当日に何人手伝って貰えるか聞いてみて、配置を決めよう」
「うん。森本さんは……森本さん?」
岸本さんがポカンとした顔で森本先輩の方を見ていたので、僕も目線を向けてみると、森本先輩はにんまりとしていた。
「いやー 二人とも部長と副部長っぽくなってるねー これは今年度も安心だー」
「そ、そうですか……?」
「特に岸本ちゃんがはきはきしてるのは感動してるよー あっ。あたしは基本暇なのでじゃんじゃん指示してくれていいからねー」
「あ、ありがとうございます。でも、森本さんも4月からは色々忙しく……」
「やめるんだ、岸本ちゃんー 元部長はまだ3年生になる現実を受け入れられてないんだからー」
それについては笑っていいのかわからなかったけど、岸本さんが真面目に励ます姿が何だかシュールだったから、僕はそっちで笑ってしまった。
こうして、大まかな準備は完了したので、あとは当日の賑わい方次第になる。埋もれないように僕も声出しの練習をしておこうと、冗談ではなく思った。
「一昨日、わたしの家に来て絵を描いて貰ったので、今日は文字入れをお願いします」
岸本さんがそう言うと、少し大きい2種類のポスターと1枚のチラシが僕と手伝い来てくれた森本先輩の前に配られる。このうちチラシの方はコピーして配布する予定だ。
「いやー それにしても本当に上手い子なんだねー 何だかあたしの文字入れるのが申し訳なくなっちゃうわー」
森本先輩はそう言いながらも書き始めるけど、僕と岸本さんは反対に一旦手が止まってしまった。せっかく花園さんが描いてくれたものを台無しにするわけにはいかないと思うと、普通に緊張してしまう。
「産賀くん、一回コピー取ってから書くのってありだと思う……?」
「それだと絵だけコピーで浮いちゃいそうだから良くないかも。とりあえず下書きしてから書くのは……」
「岸本ちゃん書けたよー あれ? 二人とも何やってるのー?」
うだうだ相談している間に森本先輩は文字入れを終わらせていた。こういう時にすぐ動けないのは新部長と副部長の改善すべき点かもしれない。
そんなこともありつつ、ポスターとチラシは無事に完成してコピーも完了したので、続いては入学式当日について話し合いをすることになった。
新入生の部活勧誘については自由にやっていいわけではなく、生徒会が提示したある程度のルールに従わなければいけないようになっている。
圧をかけて無理矢理入部させたり、部活内容を誇張して知らせたりしてはいけないという基本的な部分の他にも、勧誘できる場所や時間帯が制限されていた。
「校門前や1年生の廊下、自転車置き場での勧誘は禁止だから……やっぱり中庭とか下駄箱付近とかになるのかな……産賀くんはどこで見かけたとか覚えてる?」
「うーん……確か入学式が終わった後、下駄箱から出てすぐのところに先輩方の列が出来てたのは覚えてるけど、僕は避けて帰っちゃったから他の場所は覚えてないなぁ」
「わたしも初日はそれどころじゃなくて、すぐ帰った記憶がある……」
「ということは、入学式以外の日も勧誘をがんばった方がいいのかな。去年はどういう感じでした?」
「……どういう感じだっけー?」
森本先輩に聞き返されてしまったので、去年のことはそのままLINEのグループで聞くことになった。この緩さはいいところもあるけど、反面教師にしなければいけない時もあるかもしれない。
その質問から数分後、今日は用事で来れなかった水原先輩から返信が来る。それによると、去年は中庭に構えていたけど、人が多くてなかなかチラシを手に取って貰えなかったらしい。その後は場所を分かれてみたけど、その頃には僕と岸本さんと同じように新入生も帰ってしまったようだ。
「それなら中庭に行かない……ってわけにもいかないよね。そうなると、声を出して呼び止める…………わたし、戦力外かもしれないわ」
「いやいや、そんなことはないよ。とりあえず当日に何人手伝って貰えるか聞いてみて、配置を決めよう」
「うん。森本さんは……森本さん?」
岸本さんがポカンとした顔で森本先輩の方を見ていたので、僕も目線を向けてみると、森本先輩はにんまりとしていた。
「いやー 二人とも部長と副部長っぽくなってるねー これは今年度も安心だー」
「そ、そうですか……?」
「特に岸本ちゃんがはきはきしてるのは感動してるよー あっ。あたしは基本暇なのでじゃんじゃん指示してくれていいからねー」
「あ、ありがとうございます。でも、森本さんも4月からは色々忙しく……」
「やめるんだ、岸本ちゃんー 元部長はまだ3年生になる現実を受け入れられてないんだからー」
それについては笑っていいのかわからなかったけど、岸本さんが真面目に励ます姿が何だかシュールだったから、僕はそっちで笑ってしまった。
こうして、大まかな準備は完了したので、あとは当日の賑わい方次第になる。埋もれないように僕も声出しの練習をしておこうと、冗談ではなく思った。
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