347 / 942
1年生3学期
3月16日(水)晴れ時々曇り 清水夢愛の願望その10
しおりを挟む
春を通り越して初夏じゃないかと思ってしまう水曜日。学期末テストも続々と返却されていき、三連休に入る前には全体の結果もわかりそうだ。
しかし、ホワイトデーとその他諸々へすっかり意識を取られていた僕は、大山さんとの勝負で勝った時のことをまだ考えられていない。今回も全部の結果が出るまでは個別の点数は明かしていないので、その話題に触れることはないけど、本当にそろそろ考えなければ。
「あっ、産賀くん。月曜日はゴチになりましたー これはちょっとしたお返しということで」
そんな日の昼休み。野島さんは僕にお菓子の包みを一つ差し出してきた。
「わざわざありがとう」
「いや、義理チョコすら渡してないくせに貰いっぱなしは良くないと思ってね。それにお菓子はいつも持って来てるから。今回はちょっとだけあげる用にちょっと奮発したけど」
「へー 野島さんってお菓子好きだったんだ」
「そういうわけじゃなくて、茶道部でお菓子欲しいなーって時があるから何か持ち歩く癖ができちゃったの。ほら、毎回お茶の席に合いそうな和菓子用意できるわけじゃないし」
「なるほど。そういう理由なんだ」
「なーんていうのは建前で、だいたいはお喋りのおつまみ用なんだけど」
野島さんは笑いながら言う。でも、どちらにせよお菓子を食べられる雰囲気の部活は普通に楽しそうだと思った。
「あっ、そういえば産賀くんから貰った話を清水先輩にもしたんだけど……私も食べたかったーって言ってたよ?」
「えっ、そうなの?」
「というか、私としてはてっきり清水先輩にもあげてるものだと思ってた」
「それは……あくまで今回はお返しのために作ったから」
「私やクラスの人には配ったのに?」
「だ、だって、みんな食べたいって言うから……」
「まぁ、それはそうなんだけど、配る気で持って来てた気がするから余計にあげてないのは意外」
野島さんは本当に驚いているようだけど、僕だって一瞬渡そうかと考えた。でも、できなかった理由がある。
クラスでは大山さんへ渡すことで他のみんなにも配りやすいし、岸本さんへ返すなら花園さんにあげても特に違和感はない。
でも、そもそもチョコを貰っていない清水先輩へいきなりホワイトデーに何か渡すのは……めちゃくちゃハードルが高いのだ。日頃お世話になっているからといって、一応はお返しの日に渡してしまうのは押しつけがましい。
「そんなに難しくないなら今度作ってあげるといいんじゃない?」
「ど、どのタイミングで……?」
「別にタイミングなんて何でもいいと思うけどなぁ。食べたいって聞いたので清水先輩のためだけに作ってきました!とか」
「……なんか楽しそうに言ってない?」
「全然。渡した時は私にも一報くれると助かる!」
野島さんはそれだけ言い残して去って行った。
確かに先日の材料がちょっとだけ余っているから、作る事自体は簡単だし、食べたいと言ってくれるならその希望を叶えるべきなのかもしれない。
――あっ、その話聞いたのか
――おお! 作ってくれるのか!
――じゃあ、土曜日に散歩へ行くついでに貰おう!
清水先輩へ話題を振ると、とんとん拍子に話が進んで渡す日まで指定されてしまった。野島さんがどんな風に言ったのかはわからないけど、げんこつドーナツ自体はそんなに大したものではない。
――楽しみにしてる
だからこそ、わざわざ自分から作ると言ったり、手渡すのが恥ずかしいと思ってしまったけど、そう言われてしまったからには最大限がんばろうと思った。
しかし、ホワイトデーとその他諸々へすっかり意識を取られていた僕は、大山さんとの勝負で勝った時のことをまだ考えられていない。今回も全部の結果が出るまでは個別の点数は明かしていないので、その話題に触れることはないけど、本当にそろそろ考えなければ。
「あっ、産賀くん。月曜日はゴチになりましたー これはちょっとしたお返しということで」
そんな日の昼休み。野島さんは僕にお菓子の包みを一つ差し出してきた。
「わざわざありがとう」
「いや、義理チョコすら渡してないくせに貰いっぱなしは良くないと思ってね。それにお菓子はいつも持って来てるから。今回はちょっとだけあげる用にちょっと奮発したけど」
「へー 野島さんってお菓子好きだったんだ」
「そういうわけじゃなくて、茶道部でお菓子欲しいなーって時があるから何か持ち歩く癖ができちゃったの。ほら、毎回お茶の席に合いそうな和菓子用意できるわけじゃないし」
「なるほど。そういう理由なんだ」
「なーんていうのは建前で、だいたいはお喋りのおつまみ用なんだけど」
野島さんは笑いながら言う。でも、どちらにせよお菓子を食べられる雰囲気の部活は普通に楽しそうだと思った。
「あっ、そういえば産賀くんから貰った話を清水先輩にもしたんだけど……私も食べたかったーって言ってたよ?」
「えっ、そうなの?」
「というか、私としてはてっきり清水先輩にもあげてるものだと思ってた」
「それは……あくまで今回はお返しのために作ったから」
「私やクラスの人には配ったのに?」
「だ、だって、みんな食べたいって言うから……」
「まぁ、それはそうなんだけど、配る気で持って来てた気がするから余計にあげてないのは意外」
野島さんは本当に驚いているようだけど、僕だって一瞬渡そうかと考えた。でも、できなかった理由がある。
クラスでは大山さんへ渡すことで他のみんなにも配りやすいし、岸本さんへ返すなら花園さんにあげても特に違和感はない。
でも、そもそもチョコを貰っていない清水先輩へいきなりホワイトデーに何か渡すのは……めちゃくちゃハードルが高いのだ。日頃お世話になっているからといって、一応はお返しの日に渡してしまうのは押しつけがましい。
「そんなに難しくないなら今度作ってあげるといいんじゃない?」
「ど、どのタイミングで……?」
「別にタイミングなんて何でもいいと思うけどなぁ。食べたいって聞いたので清水先輩のためだけに作ってきました!とか」
「……なんか楽しそうに言ってない?」
「全然。渡した時は私にも一報くれると助かる!」
野島さんはそれだけ言い残して去って行った。
確かに先日の材料がちょっとだけ余っているから、作る事自体は簡単だし、食べたいと言ってくれるならその希望を叶えるべきなのかもしれない。
――あっ、その話聞いたのか
――おお! 作ってくれるのか!
――じゃあ、土曜日に散歩へ行くついでに貰おう!
清水先輩へ話題を振ると、とんとん拍子に話が進んで渡す日まで指定されてしまった。野島さんがどんな風に言ったのかはわからないけど、げんこつドーナツ自体はそんなに大したものではない。
――楽しみにしてる
だからこそ、わざわざ自分から作ると言ったり、手渡すのが恥ずかしいと思ってしまったけど、そう言われてしまったからには最大限がんばろうと思った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
檸檬色に染まる泉
鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
終わりに見えた白い明日
kio
青春
寿命の終わりで自動的に人が「灰」と化す世界。
「名無しの権兵衛」を自称する少年は、不良たちに囲まれていた一人の少女と出会う。
──これは、終末に抗い続ける者たちの物語。
やがて辿り着くのは、希望の未来。
【1】この小説は、2007年に正式公開した同名フリーノベルゲームを加筆修正したものです(内容に変更はありません)。
【2】本作は、徐々に明らかになっていく物語や、伏線回収を好む方にお勧めです。
【3】『ReIce -second-』にて加筆修正前のノベルゲーム版(WINDOWS機対応)を公開しています(作品紹介ページにて登場人物の立ち絵等も載せています)。
※小説家になろう様でも掲載しています。
サ帝
紅夜蒼星
青春
20××年、日本は100度前後のサウナの熱に包まれた!
数年前からサウナが人体に与える影響が取りだたされてはいた。しかし一過的なブームに過ぎないと、単なるオヤジの趣味だと馬鹿にする勢力も多かった。
だがサウナブームは世を席巻した。
一億の人口のうちサウナに入ったことのない人は存在せず、その遍く全ての人間が、サウナによって進化を遂げた「超人類」となった。
その中で生まれた新たなスポーツが、GTS(Golden Time Sports)。またの名を“輝ける刻の対抗戦”。
サウナ、水風呂、ととのい椅子に座るまでの一連のサウナルーティン。その時間を設定時間に近づけるという、狂っているとしか言いようがないスポーツ。
そんなGTSで、「福良大海」は中学時代に全国制覇を成し遂げた。
しかしとある理由から彼はサウナ室を去り、表舞台から姿を消した。
高校生となった彼は、いきつけのサウナで謎の美少女に声を掛けられる。
「あんた、サウナの帝王になりなさい」
「今ととのってるから後にしてくれる?」
それは、サウナストーンに水をかけられたように、彼の心を再び燃え上がらせる出会いだった。
これはサウナーの、サウナーによる、サウナーのための、サウナ青春ノベル。
女神と共に、相談を!
沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。
私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。
部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。
まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry
重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。
そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。
『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。
部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
少女が過去を取り戻すまで
tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。
玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。
初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。
恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。
『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』
玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく────
※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです
※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります
内容を一部変更しています
※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです
※一部、事実を基にしたフィクションが入っています
※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます
※イラストは「画像生成AI」を使っています
片思いに未練があるのは、私だけになりそうです
珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。
その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。
姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。
そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる