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1年生3学期
3月16日(水)晴れ時々曇り 清水夢愛の願望その10
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春を通り越して初夏じゃないかと思ってしまう水曜日。学期末テストも続々と返却されていき、三連休に入る前には全体の結果もわかりそうだ。
しかし、ホワイトデーとその他諸々へすっかり意識を取られていた僕は、大山さんとの勝負で勝った時のことをまだ考えられていない。今回も全部の結果が出るまでは個別の点数は明かしていないので、その話題に触れることはないけど、本当にそろそろ考えなければ。
「あっ、産賀くん。月曜日はゴチになりましたー これはちょっとしたお返しということで」
そんな日の昼休み。野島さんは僕にお菓子の包みを一つ差し出してきた。
「わざわざありがとう」
「いや、義理チョコすら渡してないくせに貰いっぱなしは良くないと思ってね。それにお菓子はいつも持って来てるから。今回はちょっとだけあげる用にちょっと奮発したけど」
「へー 野島さんってお菓子好きだったんだ」
「そういうわけじゃなくて、茶道部でお菓子欲しいなーって時があるから何か持ち歩く癖ができちゃったの。ほら、毎回お茶の席に合いそうな和菓子用意できるわけじゃないし」
「なるほど。そういう理由なんだ」
「なーんていうのは建前で、だいたいはお喋りのおつまみ用なんだけど」
野島さんは笑いながら言う。でも、どちらにせよお菓子を食べられる雰囲気の部活は普通に楽しそうだと思った。
「あっ、そういえば産賀くんから貰った話を清水先輩にもしたんだけど……私も食べたかったーって言ってたよ?」
「えっ、そうなの?」
「というか、私としてはてっきり清水先輩にもあげてるものだと思ってた」
「それは……あくまで今回はお返しのために作ったから」
「私やクラスの人には配ったのに?」
「だ、だって、みんな食べたいって言うから……」
「まぁ、それはそうなんだけど、配る気で持って来てた気がするから余計にあげてないのは意外」
野島さんは本当に驚いているようだけど、僕だって一瞬渡そうかと考えた。でも、できなかった理由がある。
クラスでは大山さんへ渡すことで他のみんなにも配りやすいし、岸本さんへ返すなら花園さんにあげても特に違和感はない。
でも、そもそもチョコを貰っていない清水先輩へいきなりホワイトデーに何か渡すのは……めちゃくちゃハードルが高いのだ。日頃お世話になっているからといって、一応はお返しの日に渡してしまうのは押しつけがましい。
「そんなに難しくないなら今度作ってあげるといいんじゃない?」
「ど、どのタイミングで……?」
「別にタイミングなんて何でもいいと思うけどなぁ。食べたいって聞いたので清水先輩のためだけに作ってきました!とか」
「……なんか楽しそうに言ってない?」
「全然。渡した時は私にも一報くれると助かる!」
野島さんはそれだけ言い残して去って行った。
確かに先日の材料がちょっとだけ余っているから、作る事自体は簡単だし、食べたいと言ってくれるならその希望を叶えるべきなのかもしれない。
――あっ、その話聞いたのか
――おお! 作ってくれるのか!
――じゃあ、土曜日に散歩へ行くついでに貰おう!
清水先輩へ話題を振ると、とんとん拍子に話が進んで渡す日まで指定されてしまった。野島さんがどんな風に言ったのかはわからないけど、げんこつドーナツ自体はそんなに大したものではない。
――楽しみにしてる
だからこそ、わざわざ自分から作ると言ったり、手渡すのが恥ずかしいと思ってしまったけど、そう言われてしまったからには最大限がんばろうと思った。
しかし、ホワイトデーとその他諸々へすっかり意識を取られていた僕は、大山さんとの勝負で勝った時のことをまだ考えられていない。今回も全部の結果が出るまでは個別の点数は明かしていないので、その話題に触れることはないけど、本当にそろそろ考えなければ。
「あっ、産賀くん。月曜日はゴチになりましたー これはちょっとしたお返しということで」
そんな日の昼休み。野島さんは僕にお菓子の包みを一つ差し出してきた。
「わざわざありがとう」
「いや、義理チョコすら渡してないくせに貰いっぱなしは良くないと思ってね。それにお菓子はいつも持って来てるから。今回はちょっとだけあげる用にちょっと奮発したけど」
「へー 野島さんってお菓子好きだったんだ」
「そういうわけじゃなくて、茶道部でお菓子欲しいなーって時があるから何か持ち歩く癖ができちゃったの。ほら、毎回お茶の席に合いそうな和菓子用意できるわけじゃないし」
「なるほど。そういう理由なんだ」
「なーんていうのは建前で、だいたいはお喋りのおつまみ用なんだけど」
野島さんは笑いながら言う。でも、どちらにせよお菓子を食べられる雰囲気の部活は普通に楽しそうだと思った。
「あっ、そういえば産賀くんから貰った話を清水先輩にもしたんだけど……私も食べたかったーって言ってたよ?」
「えっ、そうなの?」
「というか、私としてはてっきり清水先輩にもあげてるものだと思ってた」
「それは……あくまで今回はお返しのために作ったから」
「私やクラスの人には配ったのに?」
「だ、だって、みんな食べたいって言うから……」
「まぁ、それはそうなんだけど、配る気で持って来てた気がするから余計にあげてないのは意外」
野島さんは本当に驚いているようだけど、僕だって一瞬渡そうかと考えた。でも、できなかった理由がある。
クラスでは大山さんへ渡すことで他のみんなにも配りやすいし、岸本さんへ返すなら花園さんにあげても特に違和感はない。
でも、そもそもチョコを貰っていない清水先輩へいきなりホワイトデーに何か渡すのは……めちゃくちゃハードルが高いのだ。日頃お世話になっているからといって、一応はお返しの日に渡してしまうのは押しつけがましい。
「そんなに難しくないなら今度作ってあげるといいんじゃない?」
「ど、どのタイミングで……?」
「別にタイミングなんて何でもいいと思うけどなぁ。食べたいって聞いたので清水先輩のためだけに作ってきました!とか」
「……なんか楽しそうに言ってない?」
「全然。渡した時は私にも一報くれると助かる!」
野島さんはそれだけ言い残して去って行った。
確かに先日の材料がちょっとだけ余っているから、作る事自体は簡単だし、食べたいと言ってくれるならその希望を叶えるべきなのかもしれない。
――あっ、その話聞いたのか
――おお! 作ってくれるのか!
――じゃあ、土曜日に散歩へ行くついでに貰おう!
清水先輩へ話題を振ると、とんとん拍子に話が進んで渡す日まで指定されてしまった。野島さんがどんな風に言ったのかはわからないけど、げんこつドーナツ自体はそんなに大したものではない。
――楽しみにしてる
だからこそ、わざわざ自分から作ると言ったり、手渡すのが恥ずかしいと思ってしまったけど、そう言われてしまったからには最大限がんばろうと思った。
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