346 / 942
1年生3学期
3月15日(火)曇りのち晴れ 岸本路子の成長その14
しおりを挟む
3月も折り返しの火曜日。この日は文芸部で全体ミーティングをした後、先週決まった新しい部長と副部長の細かい引き継ぎを説明される。
直近にある初めての仕事は新入生を勧誘するためのポスターや配布するチラシについて考えることで、作成自体は得意な人に任せてもいいけど、全体的な管理は部長と副部長が中心に行っていくことになる。
「まー、そんなにガチガチに作成しなきゃいけないわけでもないから、暇な時間に考えるくらいで大丈夫だよー 実際、入りたい人はポスターなんて関係なく来るもんだしー」
森本先輩はそう言うけれど、部活動としての存在感を示すためにはポスターやチラシも手を抜かない方がいいとは思う。最もその辺りのデザインや誘い文句のセンスがあると言われると別だけど。
「わかりました。産賀くんと一緒に考えておきます。いいよね、産賀くん?」
「えっ!? ああ、うん……」
不意に岸本さんから振られて僕はキョドってしまった。昨日はホワイトデーという勢いに乗って何とか話せていたけど……花園さんが言っていたことはまだ解決していない。
でも、改めてげんこつドーナツを食べた感想を貰ったり、少し喋ったりした分には、特に何かを感じることはない。
いや、そもそもの話、特別な感情というのは僕が想像しているものと全く違うものかもしれない。たとえば尊敬とか、同感とか、そういったものも特別な感情と言えるはずだ。
「ウーブ君、何悩んでるの?」
そんな状態の僕を見て声をかけたのはソフィア先輩だった。
「な、悩んでるように見えました?」
「考えごとっていうよりは悩んでる感じだったよ? 副部長で色々やることもあると思うけど、何かあったらソフィアを頼ってね。ソフィアは部長も副部長もやってないけど、近くで見ててわかることもあると思うから!」
「ありがとうございます。でも、今悩んでるのはそれとは別で……」
「ええー!? なになに? 何があったの!?」
放っておいて貰うつもりが逆に興味を持たせてしまった。悩んでいるのに少し楽し気な食い付き方をされるのは僕の悩みが見透かされているのだろうか。
「そんな大したことではないんで……」
「昨日何か起こったとか?」
「昨日……は特に何も」
「それじゃあ、1ヶ月前?」
「1ヶ月前? 先月に何かありましたっけ?」
「いやいや、ウーブ君。昨日が何の日か忘れちゃったの?」
そう指摘されて僕は理解した。ソフィア先輩は僕の悩みがバレンタイン及びホワイトデーに関わることだと思っていることを。
「ソフィア先輩、残念ながらそういう悩みじゃないんですよ」
「えっ、そうなの? ……ゴメン。真剣に悩んでたのにちょっと野次馬っぽく聞いちゃって」
「いえいえ。でも、なんでホワイトデーで悩んでると思ったんですか?」
「それは……」
ソフィア先輩は目線をとある人物に向けた。それは今も森本先輩へ熱心に質問している岸本さんだった。
「なんか最近の岸本ちゃんが……」
「き、岸本さんが?」
「……やっぱり何でもない! ウーブ君の悩みには関係ないもんね」
「えっ!? いや、それは……」
「ところで、本当の悩みについても相談しても大丈夫だよ? もうすぐ進級だし、クラス替えの不安とか、勉強に付いていけるとか、色々あるよね」
「あっ……そ、そうですねー」
何か貴重な意見が聞けそうだったのに誤魔化したせいで聞き逃してしまった。
その後もさっきの話の続きをと言うわけにもいかず、僕はやんわりと悩みそうなことをソフィア先輩に話す時間を過ごした。
今度、ソフィア先輩が気にかけてくれる時があれば……素直に話せるだろうか。聞いてみたいようで、聞かない方がいいような、微妙な感じがする。
直近にある初めての仕事は新入生を勧誘するためのポスターや配布するチラシについて考えることで、作成自体は得意な人に任せてもいいけど、全体的な管理は部長と副部長が中心に行っていくことになる。
「まー、そんなにガチガチに作成しなきゃいけないわけでもないから、暇な時間に考えるくらいで大丈夫だよー 実際、入りたい人はポスターなんて関係なく来るもんだしー」
森本先輩はそう言うけれど、部活動としての存在感を示すためにはポスターやチラシも手を抜かない方がいいとは思う。最もその辺りのデザインや誘い文句のセンスがあると言われると別だけど。
「わかりました。産賀くんと一緒に考えておきます。いいよね、産賀くん?」
「えっ!? ああ、うん……」
不意に岸本さんから振られて僕はキョドってしまった。昨日はホワイトデーという勢いに乗って何とか話せていたけど……花園さんが言っていたことはまだ解決していない。
でも、改めてげんこつドーナツを食べた感想を貰ったり、少し喋ったりした分には、特に何かを感じることはない。
いや、そもそもの話、特別な感情というのは僕が想像しているものと全く違うものかもしれない。たとえば尊敬とか、同感とか、そういったものも特別な感情と言えるはずだ。
「ウーブ君、何悩んでるの?」
そんな状態の僕を見て声をかけたのはソフィア先輩だった。
「な、悩んでるように見えました?」
「考えごとっていうよりは悩んでる感じだったよ? 副部長で色々やることもあると思うけど、何かあったらソフィアを頼ってね。ソフィアは部長も副部長もやってないけど、近くで見ててわかることもあると思うから!」
「ありがとうございます。でも、今悩んでるのはそれとは別で……」
「ええー!? なになに? 何があったの!?」
放っておいて貰うつもりが逆に興味を持たせてしまった。悩んでいるのに少し楽し気な食い付き方をされるのは僕の悩みが見透かされているのだろうか。
「そんな大したことではないんで……」
「昨日何か起こったとか?」
「昨日……は特に何も」
「それじゃあ、1ヶ月前?」
「1ヶ月前? 先月に何かありましたっけ?」
「いやいや、ウーブ君。昨日が何の日か忘れちゃったの?」
そう指摘されて僕は理解した。ソフィア先輩は僕の悩みがバレンタイン及びホワイトデーに関わることだと思っていることを。
「ソフィア先輩、残念ながらそういう悩みじゃないんですよ」
「えっ、そうなの? ……ゴメン。真剣に悩んでたのにちょっと野次馬っぽく聞いちゃって」
「いえいえ。でも、なんでホワイトデーで悩んでると思ったんですか?」
「それは……」
ソフィア先輩は目線をとある人物に向けた。それは今も森本先輩へ熱心に質問している岸本さんだった。
「なんか最近の岸本ちゃんが……」
「き、岸本さんが?」
「……やっぱり何でもない! ウーブ君の悩みには関係ないもんね」
「えっ!? いや、それは……」
「ところで、本当の悩みについても相談しても大丈夫だよ? もうすぐ進級だし、クラス替えの不安とか、勉強に付いていけるとか、色々あるよね」
「あっ……そ、そうですねー」
何か貴重な意見が聞けそうだったのに誤魔化したせいで聞き逃してしまった。
その後もさっきの話の続きをと言うわけにもいかず、僕はやんわりと悩みそうなことをソフィア先輩に話す時間を過ごした。
今度、ソフィア先輩が気にかけてくれる時があれば……素直に話せるだろうか。聞いてみたいようで、聞かない方がいいような、微妙な感じがする。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜
136君
青春
俺に青春など必要ない。
新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!?
絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく…
本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ!
なろう、カクヨムでも連載中!
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601
なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/
檸檬色に染まる泉
鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件
中島健一
青春
織原朔真16歳は人前で話せない。息が詰まり、頭が真っ白になる。そんな悩みを抱えていたある日、妹の織原萌にVチューバーになって喋る練習をしたらどうかと持ち掛けられた。
織原朔真の扮するキャラクター、エドヴァルド・ブレインは次第に人気を博していく。そんな中、チャンネル登録者数が1桁の時から応援してくれていた視聴者が、織原朔真と同じ高校に通う国民的アイドル、椎名町45に属する音咲華多莉だったことに気が付く。
彼女に自分がエドヴァルドだとバレたら落胆させてしまうかもしれない。彼女には勿論、学校の生徒達や視聴者達に自分の正体がバレないよう、Vチューバー活動をするのだが、織原朔真は自分の中に異変を感じる。
ネットの中だけの人格であるエドヴァルドが現実世界にも顔を覗かせ始めたのだ。
学校とアルバイトだけの生活から一変、視聴者や同じVチューバー達との交流、eスポーツを経て変わっていく自分の心情や価値観。
これは織原朔真や彼に関わる者達が成長していく物語である。
カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる