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1年生3学期
3月10日(木)晴れ 清水夢愛の願望その9
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気持ちのいい天気の木曜日。それは本日の卒業式を祝福するようだった。有名な卒業ソングの日付は昨日だったけど、うちの卒業生はまた別の卒業ソングを式の終盤に歌っていた。
卒業生代表には体育祭や文化祭でも顔を見た覚えがある男子の先輩が読み上げていて、そういう目立っている人が代表を任されるんだなぁと、恐らく中学の時も思ったであろう感想を抱く。
「新山先輩、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、産賀くん。来年こそたくさん男子の後輩入ってくるといいね」
式が終わった後、文芸部も一瞬だけ集まることになって、新山先輩を含めた3年生を見送る。
その中には僕が火曜日と金曜日に来ていた限りでは見かけなかった先輩もいて、僕や岸本さんはふんわりとした卒業の言葉を送るけど、その先輩は普通に感動していて、どうリアクションしていいか困ってしまった。
やっぱりこれで最後となったから今の2年生に顔を見せておこうと思ったのだろうか。
そんな集まりも解散して、校内はまだ帰るのを惜しむ卒業生が残る中、在校生はぞろぞろと帰り始める。
僕も松永と一緒に校門を出て、今日の卒業式で懐かしい中学の先生がいただとか、あの来賓の話が長かっただとか、他愛のない会話をしながらそのまま帰ろうとする。
「良助!……と松永くん」
その声に振り向くと、清水先輩が桜庭先輩を連れてこちらへ近づいて来る。それに対して真っ先に反応したのは松永の方だった。
「お久しぶりです、清水さん!」
「ああ、久しぶり。それより良助」
「りょーちゃん、それよりって言われちゃった……」
悲しそうにする松永を宥めて僕が返事をすると、清水先輩は続けて喋り出す。
「この前悩んでいた件なんだが……さっきしっかり断ってきたから解決した!」
「おお、それは良かっ……断る?」
「ああ。実は少し前に3年から告白されていたんだが……」
さらりと言う清水先輩に対して、僕とついでに聞いていた松永は驚く。
いや、僕は2日前にその前振りのようなものを見ていたから同時に納得していたけど、本当にいきなり聞かされた松永は大そう驚いていたことだろう。
「どうやって断ろうかずっと悩んでいてな」
「こ、断るのに悩んでいたんですか」
「いや、以前のアタシならそのまましらばっくれていてもおかしくはなかったんだが、さすがに卒業前という大事な時期に言ってきたのだから、相手も背水の陣で挑んできていると思って。それなら誠意ある断りを入れるべきかと」
清水先輩は真面目にそう言っているのだろうけど、松永は僕に目で訴えてくる。「それは告った男子側からしたら酷なことだ」と言わんばかりに。
「良助には悩んでいたのを気にかけて貰ってたから、後で報告しようと思っていたが、ちょうど後ろ姿を見つけたわけだ」
「そうそう。産賀くんはとっても気にしてたんだから。火曜日にはあんなことをしちゃうくらい」
「あんなこと……って、どんなことだ?」
「どんなことでしょうね?」
話に割り込んできた桜庭先輩は意地悪そうな顔で僕を見てくる。それについては桜庭先輩も共犯者のはずだけど、知られて困るのは僕だけのような気がする。
「と、ともかく解決できたなら良かったです!」
「ありがとう。それじゃあ、今日はこの後小織と予定があるから、また今度!」
「さようなら。あっ、松永くんは巻き込んでごめんなさいね」
言いたいことを言い終えた清水先輩は嵐のように過ぎ去って行った。本当にそれを報告するためだけに呼び止めたのだとすると、桜庭先輩が言ったように松永には悪いことをした。
「りょーちゃん……なんでこんな面白そうな話題隠してたの!?」
前言撤回だ。卒業式のやや固い空気に疲れていたはずの松永は生き生きしだす。
「いや、今の話聞いてなかったのか。僕も今日詳しいこと知ったんだよ」
「そんなこと言ってちょっとくらい予想してたんじゃないのー?」
「か、仮にそうだとしても確証がないのに言いふらせないだろ」
「それもそうか。でも、本当に良かったね、りょーちゃん」
「な、何が?」
「それは……清水さんの悩みが解決したことに決まってるじゃん」
含みのある言い方に僕は眉をひそめてしまうけど、それについては本当のことだ。
詳しいことまで聞けなかったから、清水先輩が悩んでいた時と2日前に見た男子の先輩が同じ人を指しているかわからない。
最近はあまり気にしなくなってしまったけど、これでも清水先輩は五大美人やら文化祭のミスコンやらで、学年外でも知っている人がいる。
だから、どんな人から告白されてもおかしくないけど……清水先輩は卒業式というシチュエーションがあっても攻略できないみたいだ。
その結果は何となくわかっていたけど、報告して貰えると安心する……って、僕が何を安心しているのだろうか。僕が良かったと思っているのはあくまで悩みが解決したことで……それ以上も以下もない、はずだ。
卒業生代表には体育祭や文化祭でも顔を見た覚えがある男子の先輩が読み上げていて、そういう目立っている人が代表を任されるんだなぁと、恐らく中学の時も思ったであろう感想を抱く。
「新山先輩、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、産賀くん。来年こそたくさん男子の後輩入ってくるといいね」
式が終わった後、文芸部も一瞬だけ集まることになって、新山先輩を含めた3年生を見送る。
その中には僕が火曜日と金曜日に来ていた限りでは見かけなかった先輩もいて、僕や岸本さんはふんわりとした卒業の言葉を送るけど、その先輩は普通に感動していて、どうリアクションしていいか困ってしまった。
やっぱりこれで最後となったから今の2年生に顔を見せておこうと思ったのだろうか。
そんな集まりも解散して、校内はまだ帰るのを惜しむ卒業生が残る中、在校生はぞろぞろと帰り始める。
僕も松永と一緒に校門を出て、今日の卒業式で懐かしい中学の先生がいただとか、あの来賓の話が長かっただとか、他愛のない会話をしながらそのまま帰ろうとする。
「良助!……と松永くん」
その声に振り向くと、清水先輩が桜庭先輩を連れてこちらへ近づいて来る。それに対して真っ先に反応したのは松永の方だった。
「お久しぶりです、清水さん!」
「ああ、久しぶり。それより良助」
「りょーちゃん、それよりって言われちゃった……」
悲しそうにする松永を宥めて僕が返事をすると、清水先輩は続けて喋り出す。
「この前悩んでいた件なんだが……さっきしっかり断ってきたから解決した!」
「おお、それは良かっ……断る?」
「ああ。実は少し前に3年から告白されていたんだが……」
さらりと言う清水先輩に対して、僕とついでに聞いていた松永は驚く。
いや、僕は2日前にその前振りのようなものを見ていたから同時に納得していたけど、本当にいきなり聞かされた松永は大そう驚いていたことだろう。
「どうやって断ろうかずっと悩んでいてな」
「こ、断るのに悩んでいたんですか」
「いや、以前のアタシならそのまましらばっくれていてもおかしくはなかったんだが、さすがに卒業前という大事な時期に言ってきたのだから、相手も背水の陣で挑んできていると思って。それなら誠意ある断りを入れるべきかと」
清水先輩は真面目にそう言っているのだろうけど、松永は僕に目で訴えてくる。「それは告った男子側からしたら酷なことだ」と言わんばかりに。
「良助には悩んでいたのを気にかけて貰ってたから、後で報告しようと思っていたが、ちょうど後ろ姿を見つけたわけだ」
「そうそう。産賀くんはとっても気にしてたんだから。火曜日にはあんなことをしちゃうくらい」
「あんなこと……って、どんなことだ?」
「どんなことでしょうね?」
話に割り込んできた桜庭先輩は意地悪そうな顔で僕を見てくる。それについては桜庭先輩も共犯者のはずだけど、知られて困るのは僕だけのような気がする。
「と、ともかく解決できたなら良かったです!」
「ありがとう。それじゃあ、今日はこの後小織と予定があるから、また今度!」
「さようなら。あっ、松永くんは巻き込んでごめんなさいね」
言いたいことを言い終えた清水先輩は嵐のように過ぎ去って行った。本当にそれを報告するためだけに呼び止めたのだとすると、桜庭先輩が言ったように松永には悪いことをした。
「りょーちゃん……なんでこんな面白そうな話題隠してたの!?」
前言撤回だ。卒業式のやや固い空気に疲れていたはずの松永は生き生きしだす。
「いや、今の話聞いてなかったのか。僕も今日詳しいこと知ったんだよ」
「そんなこと言ってちょっとくらい予想してたんじゃないのー?」
「か、仮にそうだとしても確証がないのに言いふらせないだろ」
「それもそうか。でも、本当に良かったね、りょーちゃん」
「な、何が?」
「それは……清水さんの悩みが解決したことに決まってるじゃん」
含みのある言い方に僕は眉をひそめてしまうけど、それについては本当のことだ。
詳しいことまで聞けなかったから、清水先輩が悩んでいた時と2日前に見た男子の先輩が同じ人を指しているかわからない。
最近はあまり気にしなくなってしまったけど、これでも清水先輩は五大美人やら文化祭のミスコンやらで、学年外でも知っている人がいる。
だから、どんな人から告白されてもおかしくないけど……清水先輩は卒業式というシチュエーションがあっても攻略できないみたいだ。
その結果は何となくわかっていたけど、報告して貰えると安心する……って、僕が何を安心しているのだろうか。僕が良かったと思っているのはあくまで悩みが解決したことで……それ以上も以下もない、はずだ。
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