上 下
334 / 942
1年生3学期

3月3日(木)晴れ 松永浩太との昔話その7

しおりを挟む
 桃の節句の木曜日。そんな空気感は全く感じられない中、学期末テストが開始される。この日は大きな問題なく終わったけど、土日を挟んで水曜日までテストがあるので油断できない。

「りょーちゃんの家って今日はひな人形飾ってるの?」

 そんな僕とは違って帰り道の松永はちゃんと今日の話題に乗っかっていた。

「いや、飾ってない」

「あれ? 前この時期に行った時には飾ってあったような……」

「明莉が小学校高学年になってからは飾らなくなってるから結構前の話だよ」

 僕自身はひな祭りに関係ないけど、妹の明莉が生まれた時にはちゃんとひな人形を購入して、小さい頃には僕も飾るを手伝っていた。でも、用意するだけでも結構大変なのでここ数年は省略されている。

「まぁ、形式上は飾った方がいいのかもしれないけど」

「いや、そうじゃなくて明莉ちゃんは飾りたいって言わなくなったの? 俺の家……というか、親戚含めて女の子がほとんどいないからわからないけど、女の子にとってひな人形って憧れるもんじゃないの?」

「うーん……確かに小さい頃は明莉も喜んで出してたような気がするけど、最近はひなより団子になってるかな」

「あっ、それで言うなら給食のちらし寿司と三食餅! あれは俺も結構楽しみだったりした」

「なんか特別感あるよな」

「えっ? りょーちゃんは毎回食べてるんじゃないの?」

「給食があった時は家で食べた覚えはない……あれ? 何なら最近も食べてないわ」

 そう考えると、我が家からひな祭りらしい要素がすっかり消えている。いや、明莉は中学の給食があるから恐らくそのひな祭りセットを頂いているのだろうけど。

「なーんだ。じゃあ、俺とりょーちゃんで大した違いはないわけだ」

「むしろ何であると思ったんだ。女の子が主体の日だから仮に何かあっても僕は関係ないぞ」

「そこは妹いるから違うのかなーって思っただけ。あとは昨日の夜に茉奈ちゃんから話を振られたけど、なんもわからなかったから情報収集したかった」

「そういうことか。悪いな、何も参考にならなくて」

「いいよいいよ。りょーちゃんも同じって思ったら昨日苦いリアクションされたのは誰でもそうなったと思えるから」

 松永は笑い飛ばしながらそう言う。ということは、松永はひな祭りに関して空気が読めないことを伊月さんに口走ってしまったのかもしれない。色々と話を合わせられる松永もそういう失敗をすることもあるのだ。

 そうやって男子目線のひな祭りの話をしているうちに僕は家へ到着した。テスト中だというのに今日の感想も明日以降の話も出ないのは松永との会話らしい。

 そして、その日の晩御飯はやっぱりひな祭り感はない食卓だったし、明莉から給食の話を聞いたらいつものセットだったようなので、今年もひな祭りは明莉の特権だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼ノ女人禁制地ニテ

フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地―― その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。 柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。 今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。 地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――

サ帝

紅夜蒼星
青春
20××年、日本は100度前後のサウナの熱に包まれた! 数年前からサウナが人体に与える影響が取りだたされてはいた。しかし一過的なブームに過ぎないと、単なるオヤジの趣味だと馬鹿にする勢力も多かった。 だがサウナブームは世を席巻した。 一億の人口のうちサウナに入ったことのない人は存在せず、その遍く全ての人間が、サウナによって進化を遂げた「超人類」となった。   その中で生まれた新たなスポーツが、GTS(Golden Time Sports)。またの名を“輝ける刻の対抗戦”。 サウナ、水風呂、ととのい椅子に座るまでの一連のサウナルーティン。その時間を設定時間に近づけるという、狂っているとしか言いようがないスポーツ。 そんなGTSで、「福良大海」は中学時代に全国制覇を成し遂げた。 しかしとある理由から彼はサウナ室を去り、表舞台から姿を消した。 高校生となった彼は、いきつけのサウナで謎の美少女に声を掛けられる。 「あんた、サウナの帝王になりなさい」 「今ととのってるから後にしてくれる?」 それは、サウナストーンに水をかけられたように、彼の心を再び燃え上がらせる出会いだった。 これはサウナーの、サウナーによる、サウナーのための、サウナ青春ノベル。

終わりに見えた白い明日

kio
青春
寿命の終わりで自動的に人が「灰」と化す世界。 「名無しの権兵衛」を自称する少年は、不良たちに囲まれていた一人の少女と出会う。 ──これは、終末に抗い続ける者たちの物語。 やがて辿り着くのは、希望の未来。 【1】この小説は、2007年に正式公開した同名フリーノベルゲームを加筆修正したものです(内容に変更はありません)。 【2】本作は、徐々に明らかになっていく物語や、伏線回収を好む方にお勧めです。 【3】『ReIce -second-』にて加筆修正前のノベルゲーム版(WINDOWS機対応)を公開しています(作品紹介ページにて登場人物の立ち絵等も載せています)。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神と共に、相談を!

沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。 私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。 部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。 まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry 重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。 そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。 『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。 部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

処理中です...