328 / 942
1年生3学期
2月25日(金)晴れ 岸本路子の成長その11
しおりを挟む
久々に晴れ間が見えた金曜日。本日の文芸部は通常通りの集まりではなく、一度目の作品提出日になる。他のいくつかの部活動は既に来週から始まるテスト習慣に向けて休止期間になっているけど、文芸部は今日と来週の火曜日は部長と副部長が部室に滞在して提出を待つことになる。
「まぁ、部室でも勉強はできるから問題ない。それで産賀はもう完成してるのか?」
何やら作業中の森本先輩に代わって水原先輩がそう聞く。
「後はタイトルを付けたら完成します」
「そうなのか。一応は来週もあるから今日絶対提出しなくてもいいが、思い付きそうだったらそこで書くといい」
水原先輩は以前と同じように置かれた数台のノートパソコンを指差す。僕もそうさせて貰うつもりだけど……その前に終わらせておかなければならないことがある。
「はい。でも、もう少しだけここで考えさせて貰っていいですか?」
「もちろん。おっ、岸本も今日来たのか。お疲れ」
「お疲れ様です。あっ……」
ちょうど部室へ入ってきた岸本さんと目が合うけど、岸本さんの方は少し顔を逸らしてしまう。結局、LINEで連絡はしていないからあの火曜日以来に岸本さんと絡むことになる。
「岸本さん、提出が終わった後でいいからちょっと話を聞いて貰える……?」
「……う、うん。わかったわ」
そう言った岸本さんはパソコンを使っ5分程度で提出を終える。そのまま部室で話す感じではないと思っていたので、僕と岸本さんは一旦廊下に出る。
そして、僕は昨日から考えていた……ことは何もないので、その場の勢いで話し始める。
「岸本さん、火曜日の時のことなんだけど……変な気遣い方してごめん。花園さんならその方がいいって勝手に決めつけてせっかくの岸本さんの提案を断るようなことしたのは本当に良くなかった」
「…………」
「だから、岸本さんが良ければ僕もテスト後に祝うことについて……」
「どうして……」
「えっ?」
「どうして産賀くんから謝るの? 今回のことはわたしが悪いのに」
気が付くと岸本さんは少し涙ぐんでいた。
「わたしだって勝手に産賀くんのこと決めつけて……急に怒って……突き放すようなこと言ったのに……本当にごめんなさい」
「いや、岸本さんは……ううん。じゃあ、お互いに悪いところがあったということで、この件は終わりにしよう」
岸本さんが悪いわけじゃないと言おうとしたけど、そうするとまたお互いに自分の責任と言い出しそうだったので、何とか引っ込めた。
しかし、岸本さんの方はまだ何か言いたげだった。
「……産賀くんに提案を断られた時、信じられないと思っていたわ。産賀くんのことは少しわかってきたつもりで、かりんちゃんの誕生日についても同じように考えてくれていると考えていたから。だから、咄嗟にあんなことを……」
「予想外のことが起こったらそういうこともあるよ」
「……ありがとう。でも、この前のことであんなことを言ったのにはもう一つ理由があるの」
そう言った岸本さんは少し下を向いていた。それは僕に対して後ろめたいことなのかもしれないけど、ここまで言われたら僕は聞くしかない。
「理由って?」
「わたし……最近、産賀くんのこと、男の子だって意識し始めてて……」
「なるほ……えっ!?」
岸本さんの言葉に僕は固まってしまう。こんな羽目で岸本さんが冗談を言うはずがないのはわかっているけど、それを言葉のままの意味で取ると……
「だから、女の子二人に混じっていると不都合なことがあったり、気まずく感じているんじゃないかと思うようになっていたの。それで、産賀くんが友達として距離を置き始めたのかと不安になってつい……産賀くん? わたし、何か変なこと言ってる……?」
「……い、いや! そっちの意味でね!」
危うく墓穴を掘るところだった。岸本さんがいきなりそんな飛躍したことを言うわけがない。何を違う意味で取ろうとしているんだ。
「今までも産賀くんを無理に付き合わせていたんじゃないかと思っていたのだけれど……」
「そ、そんなことないよ。……岸本さん、これだけ言わせて貰ってもいいかな?」
「な、なに……?」
「そんなに身構えないで。文句を言いたいわけじゃないんだ。ただ、これからも僕は岸本さんが期待するような言葉をかけられないことはあると思う。だから、その時は……僕もそういう駄目なところがあるんだって思って欲しい」
「駄目だなんてそんな……わたしの方が駄目なところだらけなのに……」
「それをわかってるって言うと失礼かもしれないけど、僕も岸本さんのそういうところがあるって思っておくから。これからまたすれ違うようなことがあってもそれがわかっていたら気まずくなることも避けられるし」
「産賀くん……わかったわ。わたしもそのつもりでいる」
それは来年以降も文芸部の部長と副部長としてやっていくためにも必要だと思った。傍から見ればいちいち話す必要がない些細なことかもしれないけど、僕も岸本さんも性格的に気にしがちで引きずりがちだから、しっかり口にしておいた方がいい。
「それはそれとして……実は今回の作品のタイトルをどうすればいいか決め兼ねてるんだ。今日中に提出したいから……相談に乗ってくれる?」
「……うん。わたしで良ければ、喜んで」
そう言ってくれた岸本さんはいつも通りの表情に戻っていた。
その後、岸本さんのアドバイスを参考にしながら何とかこの日のうちに作品提出を終える。結果として両方のことが上手く収まったから良かったけど、いろいろ考えたせいか帰宅した後の疲労感はいつも以上だった。
でも、岸本さんが急に僕のことを男の子だと思ったのには……どういうことだろう。最初の頃に男子学生の話をしていた頃は男子と認識されていなかったのか。逆にここ最近で男子と思われるようなことは……余計なことはテストが終わってから考えよう。
「まぁ、部室でも勉強はできるから問題ない。それで産賀はもう完成してるのか?」
何やら作業中の森本先輩に代わって水原先輩がそう聞く。
「後はタイトルを付けたら完成します」
「そうなのか。一応は来週もあるから今日絶対提出しなくてもいいが、思い付きそうだったらそこで書くといい」
水原先輩は以前と同じように置かれた数台のノートパソコンを指差す。僕もそうさせて貰うつもりだけど……その前に終わらせておかなければならないことがある。
「はい。でも、もう少しだけここで考えさせて貰っていいですか?」
「もちろん。おっ、岸本も今日来たのか。お疲れ」
「お疲れ様です。あっ……」
ちょうど部室へ入ってきた岸本さんと目が合うけど、岸本さんの方は少し顔を逸らしてしまう。結局、LINEで連絡はしていないからあの火曜日以来に岸本さんと絡むことになる。
「岸本さん、提出が終わった後でいいからちょっと話を聞いて貰える……?」
「……う、うん。わかったわ」
そう言った岸本さんはパソコンを使っ5分程度で提出を終える。そのまま部室で話す感じではないと思っていたので、僕と岸本さんは一旦廊下に出る。
そして、僕は昨日から考えていた……ことは何もないので、その場の勢いで話し始める。
「岸本さん、火曜日の時のことなんだけど……変な気遣い方してごめん。花園さんならその方がいいって勝手に決めつけてせっかくの岸本さんの提案を断るようなことしたのは本当に良くなかった」
「…………」
「だから、岸本さんが良ければ僕もテスト後に祝うことについて……」
「どうして……」
「えっ?」
「どうして産賀くんから謝るの? 今回のことはわたしが悪いのに」
気が付くと岸本さんは少し涙ぐんでいた。
「わたしだって勝手に産賀くんのこと決めつけて……急に怒って……突き放すようなこと言ったのに……本当にごめんなさい」
「いや、岸本さんは……ううん。じゃあ、お互いに悪いところがあったということで、この件は終わりにしよう」
岸本さんが悪いわけじゃないと言おうとしたけど、そうするとまたお互いに自分の責任と言い出しそうだったので、何とか引っ込めた。
しかし、岸本さんの方はまだ何か言いたげだった。
「……産賀くんに提案を断られた時、信じられないと思っていたわ。産賀くんのことは少しわかってきたつもりで、かりんちゃんの誕生日についても同じように考えてくれていると考えていたから。だから、咄嗟にあんなことを……」
「予想外のことが起こったらそういうこともあるよ」
「……ありがとう。でも、この前のことであんなことを言ったのにはもう一つ理由があるの」
そう言った岸本さんは少し下を向いていた。それは僕に対して後ろめたいことなのかもしれないけど、ここまで言われたら僕は聞くしかない。
「理由って?」
「わたし……最近、産賀くんのこと、男の子だって意識し始めてて……」
「なるほ……えっ!?」
岸本さんの言葉に僕は固まってしまう。こんな羽目で岸本さんが冗談を言うはずがないのはわかっているけど、それを言葉のままの意味で取ると……
「だから、女の子二人に混じっていると不都合なことがあったり、気まずく感じているんじゃないかと思うようになっていたの。それで、産賀くんが友達として距離を置き始めたのかと不安になってつい……産賀くん? わたし、何か変なこと言ってる……?」
「……い、いや! そっちの意味でね!」
危うく墓穴を掘るところだった。岸本さんがいきなりそんな飛躍したことを言うわけがない。何を違う意味で取ろうとしているんだ。
「今までも産賀くんを無理に付き合わせていたんじゃないかと思っていたのだけれど……」
「そ、そんなことないよ。……岸本さん、これだけ言わせて貰ってもいいかな?」
「な、なに……?」
「そんなに身構えないで。文句を言いたいわけじゃないんだ。ただ、これからも僕は岸本さんが期待するような言葉をかけられないことはあると思う。だから、その時は……僕もそういう駄目なところがあるんだって思って欲しい」
「駄目だなんてそんな……わたしの方が駄目なところだらけなのに……」
「それをわかってるって言うと失礼かもしれないけど、僕も岸本さんのそういうところがあるって思っておくから。これからまたすれ違うようなことがあってもそれがわかっていたら気まずくなることも避けられるし」
「産賀くん……わかったわ。わたしもそのつもりでいる」
それは来年以降も文芸部の部長と副部長としてやっていくためにも必要だと思った。傍から見ればいちいち話す必要がない些細なことかもしれないけど、僕も岸本さんも性格的に気にしがちで引きずりがちだから、しっかり口にしておいた方がいい。
「それはそれとして……実は今回の作品のタイトルをどうすればいいか決め兼ねてるんだ。今日中に提出したいから……相談に乗ってくれる?」
「……うん。わたしで良ければ、喜んで」
そう言ってくれた岸本さんはいつも通りの表情に戻っていた。
その後、岸本さんのアドバイスを参考にしながら何とかこの日のうちに作品提出を終える。結果として両方のことが上手く収まったから良かったけど、いろいろ考えたせいか帰宅した後の疲労感はいつも以上だった。
でも、岸本さんが急に僕のことを男の子だと思ったのには……どういうことだろう。最初の頃に男子学生の話をしていた頃は男子と認識されていなかったのか。逆にここ最近で男子と思われるようなことは……余計なことはテストが終わってから考えよう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サマネイ
多谷昇太
青春
1年半に渡って世界を放浪したあとタイのバンコクに辿り着き、得度した男がいます。彼の「ビルマの竪琴」のごとき殊勝なる志をもって…? いや、些か違うようです。A・ランボーやホイットマンの詩に侵されて(?)ホーボーのように世界中を放浪して歩いたような男。「人生はあとにも先にも一度っきり。死ねば何もなくなるんだ。あとは永遠の無が続くだけ。すれば就職や結婚、安穏な生活の追求などバカらしい限りだ。たとえかなわずとも、人はなんのために生きるか、人生とはなんだ、という終極の命題を追求せずにおくものか…」などと真面目に考えては実行してしまった男です。さて、それでどうなったでしょうか。お釈迦様の手の平から決して飛び立てず、逃げれなかったあの孫悟空のように、もしかしたらきついお灸をお釈迦様からすえられたかも知れませんね。小説は真実の遍歴と(構成上、また効果の上から)いくつかの物語を入れて書いてあります。進学・就職から(なんと)老後のことまでしっかり目に据えているような今の若い人たちからすれば、なんともあきれた、且つ無謀きわまりない主人公の生き様ですが(当時に於てさえ、そして甚だ異質ではあっても)昔の若者の姿を見るのもきっと何かのお役には立つことでしょう。
さあ、あなたも一度主人公の身になって、日常とはまったく違う、沙門の生活へと入り込んでみてください。では小説の世界へ、どうぞ…。
サ帝
紅夜蒼星
青春
20××年、日本は100度前後のサウナの熱に包まれた!
数年前からサウナが人体に与える影響が取りだたされてはいた。しかし一過的なブームに過ぎないと、単なるオヤジの趣味だと馬鹿にする勢力も多かった。
だがサウナブームは世を席巻した。
一億の人口のうちサウナに入ったことのない人は存在せず、その遍く全ての人間が、サウナによって進化を遂げた「超人類」となった。
その中で生まれた新たなスポーツが、GTS(Golden Time Sports)。またの名を“輝ける刻の対抗戦”。
サウナ、水風呂、ととのい椅子に座るまでの一連のサウナルーティン。その時間を設定時間に近づけるという、狂っているとしか言いようがないスポーツ。
そんなGTSで、「福良大海」は中学時代に全国制覇を成し遂げた。
しかしとある理由から彼はサウナ室を去り、表舞台から姿を消した。
高校生となった彼は、いきつけのサウナで謎の美少女に声を掛けられる。
「あんた、サウナの帝王になりなさい」
「今ととのってるから後にしてくれる?」
それは、サウナストーンに水をかけられたように、彼の心を再び燃え上がらせる出会いだった。
これはサウナーの、サウナーによる、サウナーのための、サウナ青春ノベル。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
女神と共に、相談を!
沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。
私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。
部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。
まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry
重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。
そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。
『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。
部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──
片思いに未練があるのは、私だけになりそうです
珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。
その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。
姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。
そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。
少女が過去を取り戻すまで
tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。
玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。
初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。
恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。
『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』
玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく────
※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです
※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります
内容を一部変更しています
※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです
※一部、事実を基にしたフィクションが入っています
※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます
※イラストは「画像生成AI」を使っています
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる