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1年生3学期
2月25日(金)晴れ 岸本路子の成長その11
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久々に晴れ間が見えた金曜日。本日の文芸部は通常通りの集まりではなく、一度目の作品提出日になる。他のいくつかの部活動は既に来週から始まるテスト習慣に向けて休止期間になっているけど、文芸部は今日と来週の火曜日は部長と副部長が部室に滞在して提出を待つことになる。
「まぁ、部室でも勉強はできるから問題ない。それで産賀はもう完成してるのか?」
何やら作業中の森本先輩に代わって水原先輩がそう聞く。
「後はタイトルを付けたら完成します」
「そうなのか。一応は来週もあるから今日絶対提出しなくてもいいが、思い付きそうだったらそこで書くといい」
水原先輩は以前と同じように置かれた数台のノートパソコンを指差す。僕もそうさせて貰うつもりだけど……その前に終わらせておかなければならないことがある。
「はい。でも、もう少しだけここで考えさせて貰っていいですか?」
「もちろん。おっ、岸本も今日来たのか。お疲れ」
「お疲れ様です。あっ……」
ちょうど部室へ入ってきた岸本さんと目が合うけど、岸本さんの方は少し顔を逸らしてしまう。結局、LINEで連絡はしていないからあの火曜日以来に岸本さんと絡むことになる。
「岸本さん、提出が終わった後でいいからちょっと話を聞いて貰える……?」
「……う、うん。わかったわ」
そう言った岸本さんはパソコンを使っ5分程度で提出を終える。そのまま部室で話す感じではないと思っていたので、僕と岸本さんは一旦廊下に出る。
そして、僕は昨日から考えていた……ことは何もないので、その場の勢いで話し始める。
「岸本さん、火曜日の時のことなんだけど……変な気遣い方してごめん。花園さんならその方がいいって勝手に決めつけてせっかくの岸本さんの提案を断るようなことしたのは本当に良くなかった」
「…………」
「だから、岸本さんが良ければ僕もテスト後に祝うことについて……」
「どうして……」
「えっ?」
「どうして産賀くんから謝るの? 今回のことはわたしが悪いのに」
気が付くと岸本さんは少し涙ぐんでいた。
「わたしだって勝手に産賀くんのこと決めつけて……急に怒って……突き放すようなこと言ったのに……本当にごめんなさい」
「いや、岸本さんは……ううん。じゃあ、お互いに悪いところがあったということで、この件は終わりにしよう」
岸本さんが悪いわけじゃないと言おうとしたけど、そうするとまたお互いに自分の責任と言い出しそうだったので、何とか引っ込めた。
しかし、岸本さんの方はまだ何か言いたげだった。
「……産賀くんに提案を断られた時、信じられないと思っていたわ。産賀くんのことは少しわかってきたつもりで、かりんちゃんの誕生日についても同じように考えてくれていると考えていたから。だから、咄嗟にあんなことを……」
「予想外のことが起こったらそういうこともあるよ」
「……ありがとう。でも、この前のことであんなことを言ったのにはもう一つ理由があるの」
そう言った岸本さんは少し下を向いていた。それは僕に対して後ろめたいことなのかもしれないけど、ここまで言われたら僕は聞くしかない。
「理由って?」
「わたし……最近、産賀くんのこと、男の子だって意識し始めてて……」
「なるほ……えっ!?」
岸本さんの言葉に僕は固まってしまう。こんな羽目で岸本さんが冗談を言うはずがないのはわかっているけど、それを言葉のままの意味で取ると……
「だから、女の子二人に混じっていると不都合なことがあったり、気まずく感じているんじゃないかと思うようになっていたの。それで、産賀くんが友達として距離を置き始めたのかと不安になってつい……産賀くん? わたし、何か変なこと言ってる……?」
「……い、いや! そっちの意味でね!」
危うく墓穴を掘るところだった。岸本さんがいきなりそんな飛躍したことを言うわけがない。何を違う意味で取ろうとしているんだ。
「今までも産賀くんを無理に付き合わせていたんじゃないかと思っていたのだけれど……」
「そ、そんなことないよ。……岸本さん、これだけ言わせて貰ってもいいかな?」
「な、なに……?」
「そんなに身構えないで。文句を言いたいわけじゃないんだ。ただ、これからも僕は岸本さんが期待するような言葉をかけられないことはあると思う。だから、その時は……僕もそういう駄目なところがあるんだって思って欲しい」
「駄目だなんてそんな……わたしの方が駄目なところだらけなのに……」
「それをわかってるって言うと失礼かもしれないけど、僕も岸本さんのそういうところがあるって思っておくから。これからまたすれ違うようなことがあってもそれがわかっていたら気まずくなることも避けられるし」
「産賀くん……わかったわ。わたしもそのつもりでいる」
それは来年以降も文芸部の部長と副部長としてやっていくためにも必要だと思った。傍から見ればいちいち話す必要がない些細なことかもしれないけど、僕も岸本さんも性格的に気にしがちで引きずりがちだから、しっかり口にしておいた方がいい。
「それはそれとして……実は今回の作品のタイトルをどうすればいいか決め兼ねてるんだ。今日中に提出したいから……相談に乗ってくれる?」
「……うん。わたしで良ければ、喜んで」
そう言ってくれた岸本さんはいつも通りの表情に戻っていた。
その後、岸本さんのアドバイスを参考にしながら何とかこの日のうちに作品提出を終える。結果として両方のことが上手く収まったから良かったけど、いろいろ考えたせいか帰宅した後の疲労感はいつも以上だった。
でも、岸本さんが急に僕のことを男の子だと思ったのには……どういうことだろう。最初の頃に男子学生の話をしていた頃は男子と認識されていなかったのか。逆にここ最近で男子と思われるようなことは……余計なことはテストが終わってから考えよう。
「まぁ、部室でも勉強はできるから問題ない。それで産賀はもう完成してるのか?」
何やら作業中の森本先輩に代わって水原先輩がそう聞く。
「後はタイトルを付けたら完成します」
「そうなのか。一応は来週もあるから今日絶対提出しなくてもいいが、思い付きそうだったらそこで書くといい」
水原先輩は以前と同じように置かれた数台のノートパソコンを指差す。僕もそうさせて貰うつもりだけど……その前に終わらせておかなければならないことがある。
「はい。でも、もう少しだけここで考えさせて貰っていいですか?」
「もちろん。おっ、岸本も今日来たのか。お疲れ」
「お疲れ様です。あっ……」
ちょうど部室へ入ってきた岸本さんと目が合うけど、岸本さんの方は少し顔を逸らしてしまう。結局、LINEで連絡はしていないからあの火曜日以来に岸本さんと絡むことになる。
「岸本さん、提出が終わった後でいいからちょっと話を聞いて貰える……?」
「……う、うん。わかったわ」
そう言った岸本さんはパソコンを使っ5分程度で提出を終える。そのまま部室で話す感じではないと思っていたので、僕と岸本さんは一旦廊下に出る。
そして、僕は昨日から考えていた……ことは何もないので、その場の勢いで話し始める。
「岸本さん、火曜日の時のことなんだけど……変な気遣い方してごめん。花園さんならその方がいいって勝手に決めつけてせっかくの岸本さんの提案を断るようなことしたのは本当に良くなかった」
「…………」
「だから、岸本さんが良ければ僕もテスト後に祝うことについて……」
「どうして……」
「えっ?」
「どうして産賀くんから謝るの? 今回のことはわたしが悪いのに」
気が付くと岸本さんは少し涙ぐんでいた。
「わたしだって勝手に産賀くんのこと決めつけて……急に怒って……突き放すようなこと言ったのに……本当にごめんなさい」
「いや、岸本さんは……ううん。じゃあ、お互いに悪いところがあったということで、この件は終わりにしよう」
岸本さんが悪いわけじゃないと言おうとしたけど、そうするとまたお互いに自分の責任と言い出しそうだったので、何とか引っ込めた。
しかし、岸本さんの方はまだ何か言いたげだった。
「……産賀くんに提案を断られた時、信じられないと思っていたわ。産賀くんのことは少しわかってきたつもりで、かりんちゃんの誕生日についても同じように考えてくれていると考えていたから。だから、咄嗟にあんなことを……」
「予想外のことが起こったらそういうこともあるよ」
「……ありがとう。でも、この前のことであんなことを言ったのにはもう一つ理由があるの」
そう言った岸本さんは少し下を向いていた。それは僕に対して後ろめたいことなのかもしれないけど、ここまで言われたら僕は聞くしかない。
「理由って?」
「わたし……最近、産賀くんのこと、男の子だって意識し始めてて……」
「なるほ……えっ!?」
岸本さんの言葉に僕は固まってしまう。こんな羽目で岸本さんが冗談を言うはずがないのはわかっているけど、それを言葉のままの意味で取ると……
「だから、女の子二人に混じっていると不都合なことがあったり、気まずく感じているんじゃないかと思うようになっていたの。それで、産賀くんが友達として距離を置き始めたのかと不安になってつい……産賀くん? わたし、何か変なこと言ってる……?」
「……い、いや! そっちの意味でね!」
危うく墓穴を掘るところだった。岸本さんがいきなりそんな飛躍したことを言うわけがない。何を違う意味で取ろうとしているんだ。
「今までも産賀くんを無理に付き合わせていたんじゃないかと思っていたのだけれど……」
「そ、そんなことないよ。……岸本さん、これだけ言わせて貰ってもいいかな?」
「な、なに……?」
「そんなに身構えないで。文句を言いたいわけじゃないんだ。ただ、これからも僕は岸本さんが期待するような言葉をかけられないことはあると思う。だから、その時は……僕もそういう駄目なところがあるんだって思って欲しい」
「駄目だなんてそんな……わたしの方が駄目なところだらけなのに……」
「それをわかってるって言うと失礼かもしれないけど、僕も岸本さんのそういうところがあるって思っておくから。これからまたすれ違うようなことがあってもそれがわかっていたら気まずくなることも避けられるし」
「産賀くん……わかったわ。わたしもそのつもりでいる」
それは来年以降も文芸部の部長と副部長としてやっていくためにも必要だと思った。傍から見ればいちいち話す必要がない些細なことかもしれないけど、僕も岸本さんも性格的に気にしがちで引きずりがちだから、しっかり口にしておいた方がいい。
「それはそれとして……実は今回の作品のタイトルをどうすればいいか決め兼ねてるんだ。今日中に提出したいから……相談に乗ってくれる?」
「……うん。わたしで良ければ、喜んで」
そう言ってくれた岸本さんはいつも通りの表情に戻っていた。
その後、岸本さんのアドバイスを参考にしながら何とかこの日のうちに作品提出を終える。結果として両方のことが上手く収まったから良かったけど、いろいろ考えたせいか帰宅した後の疲労感はいつも以上だった。
でも、岸本さんが急に僕のことを男の子だと思ったのには……どういうことだろう。最初の頃に男子学生の話をしていた頃は男子と認識されていなかったのか。逆にここ最近で男子と思われるようなことは……余計なことはテストが終わってから考えよう。
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