323 / 942
1年生3学期
2月20日(日)曇り時々晴れ 明莉との日常その38
しおりを挟む
冬季オリンピックが終わりを迎えた日曜日。この日は久しぶりに我が家へ原田さんがやって来た。明莉も時々誰かの家に遊びに行くことはあるようだけど、最近自分の家に連れてくるのは原田さんばかりだ。それは明莉にとって原田さんが一番仲良くしている証拠だろう。
「あか兄さんお久しぶりです! 今日もお邪魔しまーす!」
そんな原田さんは相変わらず元気いっぱいだった。最近の話で言うと、最初は明莉が事前に原田さんが来ることを知らせてくれていたけど、ここ数回は直前に来ることを知るので居間で油断している時に会うことになっている。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「はーい。あっ、そういえばあたしが作ったチョコ食べてくれました? あかちにちょっと分けてあげてって言ったんですけど」
「……明莉さん?」
僕はそのまま明莉に視線を移すけど、明莉は完全に今思い出した表情になる。
「ごめん。すっかり忘れたから全部あかりが食べちゃった」
「えー!? それじゃあ、あか兄さんにホワイトデーのお返し貰えないじゃん!?」
「大丈夫。お兄ちゃんならちゃんとお願いすればおごってくれるから」
「本当っすか!? いや~ じゃあ、お願いしても……」
「いやいや。何で信じちゃってるの」
原田さんはどちらかと言えば良い子だと思っていたけど、慣れてきたのか明莉と似たような振りもしてくるようになってしまった。たぶん、おごって貰える話は明莉から聞かされたのだろうけど。
「冗談ですって。でも、来年はあか兄さんの分も作るようにしておきます。それにしてもあかちがちゃんとチョコ作ってきたのはびっくりしたなぁ」
「そ、その話今するの?」
「いや、あか兄さんに確認しておきたいんですけど、あかちって料理できるタイプなんですか?」
そう言った原田さんはどう見ても明莉の料理の腕を疑っているようだった。一方の明莉は苦い顔をしているので、上手く誤魔化して欲しいのだと僕はすぐにわかる。
「ふ、普通にできるよ。ちゃんとチョコ作っていったのが何よりの証拠だし」
「そうなんですか? なんか普段の話を聞く限りは休みの日はあか兄さんが料理を作っている感じに聞こえるし、前に家庭科で調理実習あった時は何だか危なかっしい感じがしたんですけど」
「き、基本は僕が担当しているけど、時々やることはあるよ」
調理実習がいつの話かわからないけど、実際に明莉が料理するところを目にしていたなら今回のチョコの出来を疑問に思うのは仕方ない。
ただ、手作りできたこと自体は事実なのだ。僕が付きっきりで指導していただけで。
「ふーん……」
「そもそもちゆりんは何でそんなに疑うの? さすがのあかりでも傷付くよ?」
「だって、あかちって基本的に何でもできるタイプだから料理が唯一の弱点だと思ってて……今回も周りのノリで作ることになって大丈夫かなーって思ってたら、しっかり仕上げてくるからびっくりしたから」
「そんな……あかりが完璧超人だったばっかりに……」
そこまでは言ってないけど、原田さんの中の明莉は割と評価の高いようだ。そんな明莉に不得意なことがないと何が都合が悪いのだろう、と明莉は思っているかもしれない。
でも、僕には原田さんが思っていることが何となくわかる。嫉妬や僻みもゼロではないかもしれないけど、近くにいる人があまりに出来過ぎてしまうと、自分の置き所がわからなくなってしまうことはあるものだ。
ここはどちらに助け舟を出すべきか一瞬悩んだけど……僕は明莉に視線を向けた。
「明莉。原田さんだけなら教えてあげてもいいんじゃないか?」
「えっ。でも……」
「別に恥ずかしがることないだろう。というか、言いづらいことなら最初から断るべきだぞ」
「わ、わかった。ちゆりん、実は……」
それから明莉は原田さんに今回の手作りチョコに関わる話を始める。それに続けて僕も先ほど明莉に合わせた嘘を謝罪した。
「……ってことだから作ったのは明莉だけど、お兄ちゃんの指示に従って作りました」
「ごめんね、原田さん。誤魔化すようなこと言って」
それを聞き終えた原田さんを明莉は心配しながら見つめる。そうなるくらいなら最初から真実を話せばいいとは思うけど、見栄を張りたい明莉の気持ちもわからなくはない。
ただ、僕はこの件で原田さんが怒ることはないと思っていた。
「なーんだ。やっぱりあか兄さんに手伝って貰ってたんだ!」
「ええっ!? わ、わかってたの……?」
「いや、本当に調理実習の時のあかりヤバかったの覚えてない? だからいくら初心者用のチョコとはいえ、あかちがまともに作れるわけないと思ってたんだけど、あか兄さんのアシスト付きなら納得できる」
「でも、あかりが作ったことには変わりないから……」
「うんうん。上手くできてえらい」
「もー! なんでちょっと上からなのー!?」
「そんなことよりあたしは少しショックだよ。あかちがあたしに嘘付いてたなんて……さすがに傷付いたかも」
「そこはあかりは悪いけど……ごめん」
「別にいいよ。それより春休みはあたしの家で何かお菓子でも作ろう! あかちの料理の腕を鍛えなきゃね!」
「いや……ちゆりんが作ってくれるならあかりが作らなくてもいいんじゃない?」
「ダーメ! たまにはあたしがあかちに教えたいから!」
明莉と原田さんがわちゃわちゃとした会話を始めたので、僕はそのまま居間からフェードアウトしていった。
僕はこの家に来た時の明莉と原田さんのやり取りしか知らないので、今回僕が予想していたことは外れているかもしれない。
でも、それを抜きにしてもやっぱり明莉にとって原田さんは一番仲が良い友人だとわかったし、原田さんも明莉には素直でいて欲しいのだろうと勝手に思った。
「あか兄さんお久しぶりです! 今日もお邪魔しまーす!」
そんな原田さんは相変わらず元気いっぱいだった。最近の話で言うと、最初は明莉が事前に原田さんが来ることを知らせてくれていたけど、ここ数回は直前に来ることを知るので居間で油断している時に会うことになっている。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「はーい。あっ、そういえばあたしが作ったチョコ食べてくれました? あかちにちょっと分けてあげてって言ったんですけど」
「……明莉さん?」
僕はそのまま明莉に視線を移すけど、明莉は完全に今思い出した表情になる。
「ごめん。すっかり忘れたから全部あかりが食べちゃった」
「えー!? それじゃあ、あか兄さんにホワイトデーのお返し貰えないじゃん!?」
「大丈夫。お兄ちゃんならちゃんとお願いすればおごってくれるから」
「本当っすか!? いや~ じゃあ、お願いしても……」
「いやいや。何で信じちゃってるの」
原田さんはどちらかと言えば良い子だと思っていたけど、慣れてきたのか明莉と似たような振りもしてくるようになってしまった。たぶん、おごって貰える話は明莉から聞かされたのだろうけど。
「冗談ですって。でも、来年はあか兄さんの分も作るようにしておきます。それにしてもあかちがちゃんとチョコ作ってきたのはびっくりしたなぁ」
「そ、その話今するの?」
「いや、あか兄さんに確認しておきたいんですけど、あかちって料理できるタイプなんですか?」
そう言った原田さんはどう見ても明莉の料理の腕を疑っているようだった。一方の明莉は苦い顔をしているので、上手く誤魔化して欲しいのだと僕はすぐにわかる。
「ふ、普通にできるよ。ちゃんとチョコ作っていったのが何よりの証拠だし」
「そうなんですか? なんか普段の話を聞く限りは休みの日はあか兄さんが料理を作っている感じに聞こえるし、前に家庭科で調理実習あった時は何だか危なかっしい感じがしたんですけど」
「き、基本は僕が担当しているけど、時々やることはあるよ」
調理実習がいつの話かわからないけど、実際に明莉が料理するところを目にしていたなら今回のチョコの出来を疑問に思うのは仕方ない。
ただ、手作りできたこと自体は事実なのだ。僕が付きっきりで指導していただけで。
「ふーん……」
「そもそもちゆりんは何でそんなに疑うの? さすがのあかりでも傷付くよ?」
「だって、あかちって基本的に何でもできるタイプだから料理が唯一の弱点だと思ってて……今回も周りのノリで作ることになって大丈夫かなーって思ってたら、しっかり仕上げてくるからびっくりしたから」
「そんな……あかりが完璧超人だったばっかりに……」
そこまでは言ってないけど、原田さんの中の明莉は割と評価の高いようだ。そんな明莉に不得意なことがないと何が都合が悪いのだろう、と明莉は思っているかもしれない。
でも、僕には原田さんが思っていることが何となくわかる。嫉妬や僻みもゼロではないかもしれないけど、近くにいる人があまりに出来過ぎてしまうと、自分の置き所がわからなくなってしまうことはあるものだ。
ここはどちらに助け舟を出すべきか一瞬悩んだけど……僕は明莉に視線を向けた。
「明莉。原田さんだけなら教えてあげてもいいんじゃないか?」
「えっ。でも……」
「別に恥ずかしがることないだろう。というか、言いづらいことなら最初から断るべきだぞ」
「わ、わかった。ちゆりん、実は……」
それから明莉は原田さんに今回の手作りチョコに関わる話を始める。それに続けて僕も先ほど明莉に合わせた嘘を謝罪した。
「……ってことだから作ったのは明莉だけど、お兄ちゃんの指示に従って作りました」
「ごめんね、原田さん。誤魔化すようなこと言って」
それを聞き終えた原田さんを明莉は心配しながら見つめる。そうなるくらいなら最初から真実を話せばいいとは思うけど、見栄を張りたい明莉の気持ちもわからなくはない。
ただ、僕はこの件で原田さんが怒ることはないと思っていた。
「なーんだ。やっぱりあか兄さんに手伝って貰ってたんだ!」
「ええっ!? わ、わかってたの……?」
「いや、本当に調理実習の時のあかりヤバかったの覚えてない? だからいくら初心者用のチョコとはいえ、あかちがまともに作れるわけないと思ってたんだけど、あか兄さんのアシスト付きなら納得できる」
「でも、あかりが作ったことには変わりないから……」
「うんうん。上手くできてえらい」
「もー! なんでちょっと上からなのー!?」
「そんなことよりあたしは少しショックだよ。あかちがあたしに嘘付いてたなんて……さすがに傷付いたかも」
「そこはあかりは悪いけど……ごめん」
「別にいいよ。それより春休みはあたしの家で何かお菓子でも作ろう! あかちの料理の腕を鍛えなきゃね!」
「いや……ちゆりんが作ってくれるならあかりが作らなくてもいいんじゃない?」
「ダーメ! たまにはあたしがあかちに教えたいから!」
明莉と原田さんがわちゃわちゃとした会話を始めたので、僕はそのまま居間からフェードアウトしていった。
僕はこの家に来た時の明莉と原田さんのやり取りしか知らないので、今回僕が予想していたことは外れているかもしれない。
でも、それを抜きにしてもやっぱり明莉にとって原田さんは一番仲が良い友人だとわかったし、原田さんも明莉には素直でいて欲しいのだろうと勝手に思った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる