上 下
310 / 942
1年生3学期

2月7日(月)晴れ 清水夢愛の願望その5

しおりを挟む
 2年生が修学旅行に出発する月曜日。そんな2年生がいない校舎はどこか少し静かな気がした。3年生も時期的に全員が学校へ来ているわけではないから今日から木曜日までの4日間は1年生全員と少しの3年生しかいないこの空気が続くのかもしれない。

 そんな中で僕も2年生の先輩方には知り合いが多いから思わず北海道の天気を確認してしまった。先日はかなり積雪があって木曜日まで全体的に曇り空のようだけど、旅行を楽しむこと自体は問題なさそうだ。

「おっ。先輩からLINE来た! ほら、時計塔だって。結構小さいらしい」

 昼過ぎに松永はそう言ってスマホを見せてきた。移動手段には飛行機を使うらしく、空港に行ってからこの時間にはもう北海道巡りが始まっていた。どういうスケジュールで動くのかわからないけど、最初は少しばかり観光していくらしい。

「松永の先輩、めっちゃ写真送ってるけど怒られないのかな」

「まぁ、名所の撮影だから大丈夫なんじゃない? さすがにスマホ禁止は小学生かよってなるだろうし」

 松永がそう言うけど、恐らくテニス部のグループには数分おきに画像が流れていた。一方、文芸部のLINEはそのような事態になっていない。まぁ、報告する対象が僕か岸本さんくらいになってしまうし、性格的に送るタイプじゃないのもあるのだろう。

 放課後になる頃には何やら学習の時間になっている、と松永からの報告でわかった。逐一言ってくれるのは聞いてる側的には楽しいけど、その先輩が報告に気を取られていないか少々心配になってしまう。

 それから僕は部活がないのでそのまま帰宅して、平日のいつも通りの時間を過ごしていった。その間も松永からは報告の報告が送られてくるので、途中で「もういい」と返しておいた。

 そして、修学旅行のことはすっかり頭から抜けて夜の時間になった頃、LINEに通知が入る。

――雪、凄く積もってた!

 そのメッセージと共に送られてきたのは清水先輩と北海道のどこかしらの風景を写した写真だった。
 でも、僕が驚いたのは雪がないことではなく、清水先輩が自撮りらしき写真をLINEで送ってきたことだった。今までそこそこやり取りしてきたけど、そんなことは一度もなかった。

 それ自体は何でもないはずなのに僕は変に緊張してどう返すか悩んでしまう。

 数分後、「良かったですね。風邪ひかないように気を付けてください」と特にひねりの無い文章を返した。

――ありがとう!
――明日はスキー場とか行くらしい
――楽しみだ

 清水先輩の返しを見た後、また何か返そうと思ったけど、会話が長引いても悪いと思ったので既読だけして終わっておいた。

 その後、もう一度だけ清水先輩の送ってきた写真を見てみたけど……何か悪い気がするのですぐに画面を消した。

 こんな時間にわざわざ送って来ることや普段送らない写真を送っているのは清水先輩も楽しんでいる証拠なのかもしれない。ただ、その送り先が僕なのは……やっぱり変に照れてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼ノ女人禁制地ニテ

フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地―― その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。 柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。 今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。 地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

樹企画第二弾作品集(Spoon内自主企画)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらはspoonというアプリで、読み手様個人宛てに書いた作品となりますが、spoonに音声投稿後フリー台本として公開許可を頂いたものをこちらにまとめました。 1:30〜8分ほどで読み切れる作品集です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

サマネイ

多谷昇太
青春
 1年半に渡って世界を放浪したあとタイのバンコクに辿り着き、得度した男がいます。彼の「ビルマの竪琴」のごとき殊勝なる志をもって…? いや、些か違うようです。A・ランボーやホイットマンの詩に侵されて(?)ホーボーのように世界中を放浪して歩いたような男。「人生はあとにも先にも一度っきり。死ねば何もなくなるんだ。あとは永遠の無が続くだけ。すれば就職や結婚、安穏な生活の追求などバカらしい限りだ。たとえかなわずとも、人はなんのために生きるか、人生とはなんだ、という終極の命題を追求せずにおくものか…」などと真面目に考えては実行してしまった男です。さて、それでどうなったでしょうか。お釈迦様の手の平から決して飛び立てず、逃げれなかったあの孫悟空のように、もしかしたらきついお灸をお釈迦様からすえられたかも知れませんね。小説は真実の遍歴と(構成上、また効果の上から)いくつかの物語を入れて書いてあります。進学・就職から(なんと)老後のことまでしっかり目に据えているような今の若い人たちからすれば、なんともあきれた、且つ無謀きわまりない主人公の生き様ですが(当時に於てさえ、そして甚だ異質ではあっても)昔の若者の姿を見るのもきっと何かのお役には立つことでしょう。  さあ、あなたも一度主人公の身になって、日常とはまったく違う、沙門の生活へと入り込んでみてください。では小説の世界へ、どうぞ…。

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

処理中です...