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1年生3学期
2月2日(水)晴れ 清水夢愛の願望その4
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2月ゾロ目の水曜日。この日の昼休み、僕は清水先輩から久しぶりに中庭へ呼び出される。特に思い当たる節はないので、何を唐突に思い付いたのだろうと考えながら到着すると、桜庭先輩も待っていた。
「よく来たな、良助」
「こんにちは。なんで今日は呼び出されたかわかってるわよね?」
桜庭先輩は流れるようにそう言うけど、本当に何の覚えもないので僕は首をかしげてしまう。まさか桜庭先輩までいるとは思わなかったから思った以上に重大な話なのかもしれない。
でも、ここ最近で何か僕が関わるようなことがあっただろうか。
「よく考えてもわからない?」
「す、すみません。さっぱりわかりません」
「それなら夢愛、しっかり言ってあげなさい」
「ああ。良助……」
「は、はい……」
「……修学旅行のお土産何がいい?」
ひどく真剣な顔のまま清水先輩がそう言うので、僕は一瞬言葉の意味を考えてしまった。ただ、すぐにそれがそれほど考えるほどでもないことに気付く。
「しゅ、修学旅行……?」
「あら、産賀くん知らないの? 高校でも修学旅行は行くのよ」
「それはわかってますけど……そういえば来週の月曜日から行くらしいですね」
文芸部の先輩方から話は聞いていたけど、自分が行くわけではないからすっかり頭から抜けていた。
「それでわざわざお土産の話を?」
「良助は冬休みに京都のお土産をくれたから、そのお礼をしなければと思ってな。ちなみに行くのは北海道だぞ」
「ありがとうございます。ただ、希望は特にないので買えそうなタイミングで適当に選んで貰った大丈夫です」
「あっ、言ったな」
「言ったわね」
清水先輩と桜庭先輩はお互いに確認を取るように頷き合う。
「な、何を企んでるんですか!?」
「いや、そうじゃないよ。こういう時に良助が何て言いそうか小織と話していたらおおよその予想が当たったんだ。希望はないとか、いいタイミングとか」
「まぁ、日本人らしいと言えばそうだけど、あんまり自主性がないもの考えものよ?」
そうは言われてもいきなり欲しい北海道土産を注文するのは難しいことだと思う。でも、自主性がないのは合っているので反論しづらい。
「カニとかウニとかはどうだ? アレルギーある?」
「いや、そういうのは買って帰れないのでは……」
「適当に選んでいいって言ったじゃないか」
「それはそうですけど……じゃあ、お菓子系でお願いします」
「なるほど。了解した。じゃあ、次は小織の分」
「えっ!? 一つで十分ですよ」
「私もお土産貰ったのは同じなんだけど? 夢愛のは受け取れるけど、私のは受け取れないの?」
「い、いえ、そんなつもりは……」
たじたじになる僕を見て、二人は楽しそうに笑う。何だかこの感じは久しぶりだけど、実際からかわれている時間は非常に困ってしまう。
「まぁ、用事としてはそれだけだ。私が留守の間頼むと言っても良助は茶道部じゃないしな」
「そうですね。でも、これくらいならLINEで聞いてくれれば良かったのに」
「なんだ、良助は直接会いたくなかったのか?」
「ち、違いますよ! 先輩方も暇じゃないと思って……」
「わかってるよ。時間を取って悪かった。それじゃあ、今週また会うことがあれば」
「私もこれで。お土産、期待しててね」
そう言って清水先輩と桜庭先輩は中庭から校舎の方へ去って行った。
二人を見送った後の僕はちょっとだけ疲れていたものの、それと同時に嬉しいと思っていた。見返りを期待していたわけじゃないし、それこそ茶道部でも何でもない僕のために今日のことを考えてくれたのは照れくさくなるくらいには嬉しいことだ。
この時期の北海道なら旅行の範囲によっては清水先輩が希望する雪遊びもできることだろう。その姿を想像すると……それまで何とも思っていなかったけど、今年の2年生の修学旅行はどんな感じになるのか気になってしまった。
「よく来たな、良助」
「こんにちは。なんで今日は呼び出されたかわかってるわよね?」
桜庭先輩は流れるようにそう言うけど、本当に何の覚えもないので僕は首をかしげてしまう。まさか桜庭先輩までいるとは思わなかったから思った以上に重大な話なのかもしれない。
でも、ここ最近で何か僕が関わるようなことがあっただろうか。
「よく考えてもわからない?」
「す、すみません。さっぱりわかりません」
「それなら夢愛、しっかり言ってあげなさい」
「ああ。良助……」
「は、はい……」
「……修学旅行のお土産何がいい?」
ひどく真剣な顔のまま清水先輩がそう言うので、僕は一瞬言葉の意味を考えてしまった。ただ、すぐにそれがそれほど考えるほどでもないことに気付く。
「しゅ、修学旅行……?」
「あら、産賀くん知らないの? 高校でも修学旅行は行くのよ」
「それはわかってますけど……そういえば来週の月曜日から行くらしいですね」
文芸部の先輩方から話は聞いていたけど、自分が行くわけではないからすっかり頭から抜けていた。
「それでわざわざお土産の話を?」
「良助は冬休みに京都のお土産をくれたから、そのお礼をしなければと思ってな。ちなみに行くのは北海道だぞ」
「ありがとうございます。ただ、希望は特にないので買えそうなタイミングで適当に選んで貰った大丈夫です」
「あっ、言ったな」
「言ったわね」
清水先輩と桜庭先輩はお互いに確認を取るように頷き合う。
「な、何を企んでるんですか!?」
「いや、そうじゃないよ。こういう時に良助が何て言いそうか小織と話していたらおおよその予想が当たったんだ。希望はないとか、いいタイミングとか」
「まぁ、日本人らしいと言えばそうだけど、あんまり自主性がないもの考えものよ?」
そうは言われてもいきなり欲しい北海道土産を注文するのは難しいことだと思う。でも、自主性がないのは合っているので反論しづらい。
「カニとかウニとかはどうだ? アレルギーある?」
「いや、そういうのは買って帰れないのでは……」
「適当に選んでいいって言ったじゃないか」
「それはそうですけど……じゃあ、お菓子系でお願いします」
「なるほど。了解した。じゃあ、次は小織の分」
「えっ!? 一つで十分ですよ」
「私もお土産貰ったのは同じなんだけど? 夢愛のは受け取れるけど、私のは受け取れないの?」
「い、いえ、そんなつもりは……」
たじたじになる僕を見て、二人は楽しそうに笑う。何だかこの感じは久しぶりだけど、実際からかわれている時間は非常に困ってしまう。
「まぁ、用事としてはそれだけだ。私が留守の間頼むと言っても良助は茶道部じゃないしな」
「そうですね。でも、これくらいならLINEで聞いてくれれば良かったのに」
「なんだ、良助は直接会いたくなかったのか?」
「ち、違いますよ! 先輩方も暇じゃないと思って……」
「わかってるよ。時間を取って悪かった。それじゃあ、今週また会うことがあれば」
「私もこれで。お土産、期待しててね」
そう言って清水先輩と桜庭先輩は中庭から校舎の方へ去って行った。
二人を見送った後の僕はちょっとだけ疲れていたものの、それと同時に嬉しいと思っていた。見返りを期待していたわけじゃないし、それこそ茶道部でも何でもない僕のために今日のことを考えてくれたのは照れくさくなるくらいには嬉しいことだ。
この時期の北海道なら旅行の範囲によっては清水先輩が希望する雪遊びもできることだろう。その姿を想像すると……それまで何とも思っていなかったけど、今年の2年生の修学旅行はどんな感じになるのか気になってしまった。
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