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1年生2学期
12月20日(月)晴れ 清水夢愛の夢探しその14
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今年最後の学校へ行く週。とは言っても金曜日の終業式まではしっかりと授業があるので、気を緩めず過ごしていかなければならない。
そんな日の放課後。僕は懲りずに図書室へ本を読みに行くことにした。この土日も出かけつつも読み進めていたけど、年内に岸本さんへ直接感想を言える時間はそれほど残っていないからどうにか読む時間を作りったかったのだ。
「やぁ、良助。今日も本読みか?」
でも、何となくわかっていた。そう思うと清水先輩が図書室にいるんだって。ただ、今日はこの前と状況が少し違う。
「ああ、先週も図書室で会ったって言ってたわね」
「お疲れ様です。清水先輩、桜庭先輩」
そう、お目付け役かはわからないけど、桜庭先輩が一緒にいるなら清水先輩も集中してくれるはずだ。
「清水先輩は今日こそ宿題やるんですか?」
「なんだ。まるでこの前は宿題やらなかったみたいに言うじゃないか」
「ほぼやってなかったと思うんですけど」
「ほぼなら正しい。一応ノートや教科書は開いてたからな」
そう言われてしまったなら「そうですね」としか返せない。僕は思わず桜庭先輩の方へ視線を移してしまう。
「夢愛が宿題やるなんていつぶりかわからないレベルだから。今日は私も暇だったし、たまには一緒にやってみるのもいいかと思ってね」
「なるほど。桜庭先輩がいれば安心です」
「え? どういう意味だ、良助」
清水先輩の問いかけには愛想笑いをしておいて、僕は少し席を離して本を読み始める。ちょっと雑な対応をしてしまったけど、これで話し始めるとまた清水先輩の集中力が切れてしまうかもしれない。そうなると、ついでに僕の集中力も切らされてしまうので、今日は本を読むためにもそうするしかなかった。
それから30分後。章が一区切りしたところで、僕は清水先輩と桜庭先輩の様子を少し窺う。二人ともそれぞれのノートや教科書に向かって勉強しているので、一見すると宿題は進んでいるように見える。
(あれ……?)
しかし、よく見ると清水先輩の方は何だかシャーペンの動きがおかしい。縦書きでも横書きでも同じ方向に沿ってペンは進むものだけど、清水先輩のは図形でも書いているかのような大胆な動き方をしていた。
(……気になる)
もしかしてあれは落書きをしているんじゃないか。桜庭先輩は自分の方に集中して気付いていない可能性がある。そう思ってしまうと、僕は次の章に進めなくなってしまった。何をしているか確認しに行くべきか、本当に勉強していたら集中力を切らせると悪いので行かないべきか。
(あっ)
そう考えていた瞬間、不意にこちらを向いた清水先輩と目が合う。すると、清水先輩は少し悪い顔で笑った。そして、またノートに謎の動きでペンを走らせ始める。
(……すごく気になる)
それが清水先輩の作戦なのだとしたら、僕はまんまとハマってしまった。がんばって本に意識を持っていこうとしても、少し離れた場所で動くペンが気になってしかたがない。
「何やってるんですか、清水先輩」
とうとう僕は本を閉じて、再び清水先輩のところへ行ってしまった。そこに書かれていたのは……
「英語の教科書の謎キャラクター写してた」
「やっぱり落書きだった……桜庭先輩」
「うー……あら? 結構引っかけるのに時間かかったのね」
伸びをしながらそう言う桜庭先輩に僕は目を丸くする。引っかけるということは……
「意図的にやってたんですか!?」
「産賀くん、図書室では静かに」
「す、すみません……でも、いったいどうしてそんなことに」
「夢愛が産賀くんの塩対応で悲しいって言い出したから、何か反応しそうなことやったらいいんじゃないって言ったらこうなった感じ?」
「桜庭先輩が勧めたんですか……」
「だって、塩対応された時点で夢愛のやる気はもう無くなってたから」
まるで僕が悪いように言われてしまった。いや、確かに雑な対応だとは思っていたけど、それが逆効果になるとは思ってもみなかった。
「わかりました……今後は図書室に来るの止めます」
「いや、そこまでしろとは言ってないぞ!?」
「夢愛、図書室では静かに」
「す、すまん……でも、最近の良助は私に対してちょっとそういうところはあると思うから……あんまり遠慮しないで欲しい」
「遠慮してるわけじゃないんですけど……わかりました。以後、気を付けます」
ちょっとだけ不満そうに言った清水先輩は……正直、ちょっと可愛く見えた。清水先輩がこんなにかまってちゃんだったのは意外だったけど、確かに勉強していく話を聞いてからは少しだけ遠慮するような空気は出してしまっていたかもしれない。
「よし。じゃあ、そろそろ帰るか」
「駄目よ、夢愛。落書きした分ちゃんと宿題しなきゃ」
「え!? あれは今日の分はもうやらなくていいってことじゃなかったのか!?」
「そんなことひと言も言ってないわよ。さぁ、受験勉強の癖を付けるためにもこれからはがんばりなさい」
「良助~!」
助けを求める清水先輩にちょっと笑いそうになりながらも「がんばってください」と僕は言っておく。やっぱり清水先輩をコントロールするのは桜庭先輩ならではの力だ。清水先輩に集中して貰うためにも残りの数日間は図書室の利用を遠慮しようと思う。
そんな日の放課後。僕は懲りずに図書室へ本を読みに行くことにした。この土日も出かけつつも読み進めていたけど、年内に岸本さんへ直接感想を言える時間はそれほど残っていないからどうにか読む時間を作りったかったのだ。
「やぁ、良助。今日も本読みか?」
でも、何となくわかっていた。そう思うと清水先輩が図書室にいるんだって。ただ、今日はこの前と状況が少し違う。
「ああ、先週も図書室で会ったって言ってたわね」
「お疲れ様です。清水先輩、桜庭先輩」
そう、お目付け役かはわからないけど、桜庭先輩が一緒にいるなら清水先輩も集中してくれるはずだ。
「清水先輩は今日こそ宿題やるんですか?」
「なんだ。まるでこの前は宿題やらなかったみたいに言うじゃないか」
「ほぼやってなかったと思うんですけど」
「ほぼなら正しい。一応ノートや教科書は開いてたからな」
そう言われてしまったなら「そうですね」としか返せない。僕は思わず桜庭先輩の方へ視線を移してしまう。
「夢愛が宿題やるなんていつぶりかわからないレベルだから。今日は私も暇だったし、たまには一緒にやってみるのもいいかと思ってね」
「なるほど。桜庭先輩がいれば安心です」
「え? どういう意味だ、良助」
清水先輩の問いかけには愛想笑いをしておいて、僕は少し席を離して本を読み始める。ちょっと雑な対応をしてしまったけど、これで話し始めるとまた清水先輩の集中力が切れてしまうかもしれない。そうなると、ついでに僕の集中力も切らされてしまうので、今日は本を読むためにもそうするしかなかった。
それから30分後。章が一区切りしたところで、僕は清水先輩と桜庭先輩の様子を少し窺う。二人ともそれぞれのノートや教科書に向かって勉強しているので、一見すると宿題は進んでいるように見える。
(あれ……?)
しかし、よく見ると清水先輩の方は何だかシャーペンの動きがおかしい。縦書きでも横書きでも同じ方向に沿ってペンは進むものだけど、清水先輩のは図形でも書いているかのような大胆な動き方をしていた。
(……気になる)
もしかしてあれは落書きをしているんじゃないか。桜庭先輩は自分の方に集中して気付いていない可能性がある。そう思ってしまうと、僕は次の章に進めなくなってしまった。何をしているか確認しに行くべきか、本当に勉強していたら集中力を切らせると悪いので行かないべきか。
(あっ)
そう考えていた瞬間、不意にこちらを向いた清水先輩と目が合う。すると、清水先輩は少し悪い顔で笑った。そして、またノートに謎の動きでペンを走らせ始める。
(……すごく気になる)
それが清水先輩の作戦なのだとしたら、僕はまんまとハマってしまった。がんばって本に意識を持っていこうとしても、少し離れた場所で動くペンが気になってしかたがない。
「何やってるんですか、清水先輩」
とうとう僕は本を閉じて、再び清水先輩のところへ行ってしまった。そこに書かれていたのは……
「英語の教科書の謎キャラクター写してた」
「やっぱり落書きだった……桜庭先輩」
「うー……あら? 結構引っかけるのに時間かかったのね」
伸びをしながらそう言う桜庭先輩に僕は目を丸くする。引っかけるということは……
「意図的にやってたんですか!?」
「産賀くん、図書室では静かに」
「す、すみません……でも、いったいどうしてそんなことに」
「夢愛が産賀くんの塩対応で悲しいって言い出したから、何か反応しそうなことやったらいいんじゃないって言ったらこうなった感じ?」
「桜庭先輩が勧めたんですか……」
「だって、塩対応された時点で夢愛のやる気はもう無くなってたから」
まるで僕が悪いように言われてしまった。いや、確かに雑な対応だとは思っていたけど、それが逆効果になるとは思ってもみなかった。
「わかりました……今後は図書室に来るの止めます」
「いや、そこまでしろとは言ってないぞ!?」
「夢愛、図書室では静かに」
「す、すまん……でも、最近の良助は私に対してちょっとそういうところはあると思うから……あんまり遠慮しないで欲しい」
「遠慮してるわけじゃないんですけど……わかりました。以後、気を付けます」
ちょっとだけ不満そうに言った清水先輩は……正直、ちょっと可愛く見えた。清水先輩がこんなにかまってちゃんだったのは意外だったけど、確かに勉強していく話を聞いてからは少しだけ遠慮するような空気は出してしまっていたかもしれない。
「よし。じゃあ、そろそろ帰るか」
「駄目よ、夢愛。落書きした分ちゃんと宿題しなきゃ」
「え!? あれは今日の分はもうやらなくていいってことじゃなかったのか!?」
「そんなことひと言も言ってないわよ。さぁ、受験勉強の癖を付けるためにもこれからはがんばりなさい」
「良助~!」
助けを求める清水先輩にちょっと笑いそうになりながらも「がんばってください」と僕は言っておく。やっぱり清水先輩をコントロールするのは桜庭先輩ならではの力だ。清水先輩に集中して貰うためにも残りの数日間は図書室の利用を遠慮しようと思う。
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