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1年生2学期
12月16日(木)曇り 清水夢愛の夢探しその13
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特に用事がない木曜日。この日の放課後、僕は久しぶりに学校の図書室へ向かった。その目的は岸本さんから貰った本を読み進めるためだ。家に帰ってコタツに入りながら本を開くのは至福の時間ではあるけど、内容が微妙に頭へ入ってこないので、本を読むに相応しい場所へ行きたかったのだ。
なるべく早く読んで岸本さんへ感想を伝えたいという気持ちと本を読むことで創作意欲が刺激される期待を持ちながら僕は図書室内の席に腰をかける。
「おっ、良助。何してるんだ?」
だが、僕がページを開く前にどこからともなく清水先輩が現れた。割と読む気満々だったので、失礼ながらエンカウントしたことにちょっと残念さを感じてしまう。この感じだと絶対集中して読めないやつだ。
「お疲れ様です。本を読もうとしてました」
「へー 図書室で本を……いや、普通だな」
「はい。清水先輩こそどうしたんですか?」
「私は宿題をやろうと思ってな。家よりもこういう場所の方が捗るというだろう?」
「なるほ……えっ!? 清水先輩、宿題するんですか!?」
「こら、図書室では静かにしろ」
ごもっともな指摘を受けて僕は口を押える。
「それにめちゃくちゃ失礼なこと言ってるぞ」
「すみません。でも、夏休みに宿題しないって聞いてたので……」
「それは夏休みから誕生日前までの私だ。これからの私は勉強も宿題もしっかりやることにしたんだ」
清水先輩は少しだけ誇らしそうに言う。それを褒めてあげたい気持ちはあるけど、よく考えたら多くの学生が普通にしていることだった。
「ちょうど今日の授業で冬休みの宿題の範囲を出してくれた教科があったからちょうどいいタイミングだった」
「そうなんですね。じゃあ、がんばってください」
僕はそれだけ言うと目線を本の方へ移す。本当は今からやると冬休みの宿題の意味がなくなってしまうと言いたかったけど、恐らく冬休み中は自主的に他の勉強をするつもりなのだ。そう思っておこう。
すると、清水先輩は何故か僕の正面の席に座って、ノートやら教材やらを開き始める。
「…………」
「…………」
「……何読んでるんだ?」
「えっ? それ聞きます?」
「だって、気になるだろう。そんな露骨に隠されたら」
ブックカバーを指差して清水先輩はそう言う。ブックカバーの役割はそのためにあるのに。
「『望遠鏡の中の君へ』って本です」
「ほうほう。どういうジャンルの本なんだ?」
「僕も全部読めてないから正確には言えませんけど、ちょっとSFっぽい要素があるラブミステリーみたいな感じです」
「ラブ&ミステリーとな……ざっくりとしたあらすじは?」
「……清水先輩。宿題する気あります?」
「……あるある。今から始めるから」
そう言いながらようやくシャーペンを取り出した清水先輩。僕は再び目線を本へと移す。
この物語は天体観測を趣味とする主人公がある日に望遠鏡を覗くと、そこにはかつて――
「良助……ラブミステリーって何だ?」
「…………」
「ラブとミステリーって同時に存在するものなのか? いや、私がそのジャンルに触れたことがないだけかもしれないが、具体的にどういう――」
「清水先輩。図書室では静かに」
「は、はい。すまん」
清水先輩が口を閉じたのを確認すると、僕は三度……駄目だ。もう集中できない。清水先輩も目的があって偶然ここへ来たのだから責められないけど、こうなってしまった次に何を言われるか気になってしまってまた内容が頭へ入ってこない。
「清水先輩。お先に失礼します」
「もう帰るのか?」
「えっと……少し寒いので帰ってからコタツで読むことにします」
「そうかそうか。じゃあ、私も帰ろうかな」
「えっ? 宿題はいいんですか?」
「それは……まぁ、冬休みの宿題だし、今やらなくてもいいだろう。明日からやるよ」
「それ絶対明日やらないやつですよ」
「そう言われても今までやってこなかったことがすぐにやるのは難しいぞ。逆に言えば図書室へ来て勉強する意志を見せただけでも進歩と言える」
めちゃくちゃポジティブなことを言っているけど、たぶん今日はもう飽きてしまったのだろう。その一因が僕にあるのかもしれないけど、今回はお互い様ということで許して貰いたい。
「私も読んでみるかなぁ。ラブミステリー」
「そのジャンルで絞って読むんですか。そもそも清水先輩は恋愛小説かミステリー小説読んだことあるんです?」
「うーん……一時期にそういうブームが来た時に手当たり次第に読んだような……読んでないような……」
僕と清水先輩は途中まで一緒に帰りながら少しだけ小説ジャンルの話をした。月曜日は清水先輩が少し遠のいてしまうように思ってしまったけど、清水先輩自身が言ったようにすぐに変わるのは難しいから暫くはこんな風に話せる時間はありそうだ。
それは僕からすると少し嬉しい……と一瞬だけ思ったけど、やっぱり宿題はやるべきだから清水先輩が早く習慣づけられるよう願っておこう。
なるべく早く読んで岸本さんへ感想を伝えたいという気持ちと本を読むことで創作意欲が刺激される期待を持ちながら僕は図書室内の席に腰をかける。
「おっ、良助。何してるんだ?」
だが、僕がページを開く前にどこからともなく清水先輩が現れた。割と読む気満々だったので、失礼ながらエンカウントしたことにちょっと残念さを感じてしまう。この感じだと絶対集中して読めないやつだ。
「お疲れ様です。本を読もうとしてました」
「へー 図書室で本を……いや、普通だな」
「はい。清水先輩こそどうしたんですか?」
「私は宿題をやろうと思ってな。家よりもこういう場所の方が捗るというだろう?」
「なるほ……えっ!? 清水先輩、宿題するんですか!?」
「こら、図書室では静かにしろ」
ごもっともな指摘を受けて僕は口を押える。
「それにめちゃくちゃ失礼なこと言ってるぞ」
「すみません。でも、夏休みに宿題しないって聞いてたので……」
「それは夏休みから誕生日前までの私だ。これからの私は勉強も宿題もしっかりやることにしたんだ」
清水先輩は少しだけ誇らしそうに言う。それを褒めてあげたい気持ちはあるけど、よく考えたら多くの学生が普通にしていることだった。
「ちょうど今日の授業で冬休みの宿題の範囲を出してくれた教科があったからちょうどいいタイミングだった」
「そうなんですね。じゃあ、がんばってください」
僕はそれだけ言うと目線を本の方へ移す。本当は今からやると冬休みの宿題の意味がなくなってしまうと言いたかったけど、恐らく冬休み中は自主的に他の勉強をするつもりなのだ。そう思っておこう。
すると、清水先輩は何故か僕の正面の席に座って、ノートやら教材やらを開き始める。
「…………」
「…………」
「……何読んでるんだ?」
「えっ? それ聞きます?」
「だって、気になるだろう。そんな露骨に隠されたら」
ブックカバーを指差して清水先輩はそう言う。ブックカバーの役割はそのためにあるのに。
「『望遠鏡の中の君へ』って本です」
「ほうほう。どういうジャンルの本なんだ?」
「僕も全部読めてないから正確には言えませんけど、ちょっとSFっぽい要素があるラブミステリーみたいな感じです」
「ラブ&ミステリーとな……ざっくりとしたあらすじは?」
「……清水先輩。宿題する気あります?」
「……あるある。今から始めるから」
そう言いながらようやくシャーペンを取り出した清水先輩。僕は再び目線を本へと移す。
この物語は天体観測を趣味とする主人公がある日に望遠鏡を覗くと、そこにはかつて――
「良助……ラブミステリーって何だ?」
「…………」
「ラブとミステリーって同時に存在するものなのか? いや、私がそのジャンルに触れたことがないだけかもしれないが、具体的にどういう――」
「清水先輩。図書室では静かに」
「は、はい。すまん」
清水先輩が口を閉じたのを確認すると、僕は三度……駄目だ。もう集中できない。清水先輩も目的があって偶然ここへ来たのだから責められないけど、こうなってしまった次に何を言われるか気になってしまってまた内容が頭へ入ってこない。
「清水先輩。お先に失礼します」
「もう帰るのか?」
「えっと……少し寒いので帰ってからコタツで読むことにします」
「そうかそうか。じゃあ、私も帰ろうかな」
「えっ? 宿題はいいんですか?」
「それは……まぁ、冬休みの宿題だし、今やらなくてもいいだろう。明日からやるよ」
「それ絶対明日やらないやつですよ」
「そう言われても今までやってこなかったことがすぐにやるのは難しいぞ。逆に言えば図書室へ来て勉強する意志を見せただけでも進歩と言える」
めちゃくちゃポジティブなことを言っているけど、たぶん今日はもう飽きてしまったのだろう。その一因が僕にあるのかもしれないけど、今回はお互い様ということで許して貰いたい。
「私も読んでみるかなぁ。ラブミステリー」
「そのジャンルで絞って読むんですか。そもそも清水先輩は恋愛小説かミステリー小説読んだことあるんです?」
「うーん……一時期にそういうブームが来た時に手当たり次第に読んだような……読んでないような……」
僕と清水先輩は途中まで一緒に帰りながら少しだけ小説ジャンルの話をした。月曜日は清水先輩が少し遠のいてしまうように思ってしまったけど、清水先輩自身が言ったようにすぐに変わるのは難しいから暫くはこんな風に話せる時間はありそうだ。
それは僕からすると少し嬉しい……と一瞬だけ思ったけど、やっぱり宿題はやるべきだから清水先輩が早く習慣づけられるよう願っておこう。
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