257 / 942
1年生2学期
12月16日(木)曇り 清水夢愛の夢探しその13
しおりを挟む
特に用事がない木曜日。この日の放課後、僕は久しぶりに学校の図書室へ向かった。その目的は岸本さんから貰った本を読み進めるためだ。家に帰ってコタツに入りながら本を開くのは至福の時間ではあるけど、内容が微妙に頭へ入ってこないので、本を読むに相応しい場所へ行きたかったのだ。
なるべく早く読んで岸本さんへ感想を伝えたいという気持ちと本を読むことで創作意欲が刺激される期待を持ちながら僕は図書室内の席に腰をかける。
「おっ、良助。何してるんだ?」
だが、僕がページを開く前にどこからともなく清水先輩が現れた。割と読む気満々だったので、失礼ながらエンカウントしたことにちょっと残念さを感じてしまう。この感じだと絶対集中して読めないやつだ。
「お疲れ様です。本を読もうとしてました」
「へー 図書室で本を……いや、普通だな」
「はい。清水先輩こそどうしたんですか?」
「私は宿題をやろうと思ってな。家よりもこういう場所の方が捗るというだろう?」
「なるほ……えっ!? 清水先輩、宿題するんですか!?」
「こら、図書室では静かにしろ」
ごもっともな指摘を受けて僕は口を押える。
「それにめちゃくちゃ失礼なこと言ってるぞ」
「すみません。でも、夏休みに宿題しないって聞いてたので……」
「それは夏休みから誕生日前までの私だ。これからの私は勉強も宿題もしっかりやることにしたんだ」
清水先輩は少しだけ誇らしそうに言う。それを褒めてあげたい気持ちはあるけど、よく考えたら多くの学生が普通にしていることだった。
「ちょうど今日の授業で冬休みの宿題の範囲を出してくれた教科があったからちょうどいいタイミングだった」
「そうなんですね。じゃあ、がんばってください」
僕はそれだけ言うと目線を本の方へ移す。本当は今からやると冬休みの宿題の意味がなくなってしまうと言いたかったけど、恐らく冬休み中は自主的に他の勉強をするつもりなのだ。そう思っておこう。
すると、清水先輩は何故か僕の正面の席に座って、ノートやら教材やらを開き始める。
「…………」
「…………」
「……何読んでるんだ?」
「えっ? それ聞きます?」
「だって、気になるだろう。そんな露骨に隠されたら」
ブックカバーを指差して清水先輩はそう言う。ブックカバーの役割はそのためにあるのに。
「『望遠鏡の中の君へ』って本です」
「ほうほう。どういうジャンルの本なんだ?」
「僕も全部読めてないから正確には言えませんけど、ちょっとSFっぽい要素があるラブミステリーみたいな感じです」
「ラブ&ミステリーとな……ざっくりとしたあらすじは?」
「……清水先輩。宿題する気あります?」
「……あるある。今から始めるから」
そう言いながらようやくシャーペンを取り出した清水先輩。僕は再び目線を本へと移す。
この物語は天体観測を趣味とする主人公がある日に望遠鏡を覗くと、そこにはかつて――
「良助……ラブミステリーって何だ?」
「…………」
「ラブとミステリーって同時に存在するものなのか? いや、私がそのジャンルに触れたことがないだけかもしれないが、具体的にどういう――」
「清水先輩。図書室では静かに」
「は、はい。すまん」
清水先輩が口を閉じたのを確認すると、僕は三度……駄目だ。もう集中できない。清水先輩も目的があって偶然ここへ来たのだから責められないけど、こうなってしまった次に何を言われるか気になってしまってまた内容が頭へ入ってこない。
「清水先輩。お先に失礼します」
「もう帰るのか?」
「えっと……少し寒いので帰ってからコタツで読むことにします」
「そうかそうか。じゃあ、私も帰ろうかな」
「えっ? 宿題はいいんですか?」
「それは……まぁ、冬休みの宿題だし、今やらなくてもいいだろう。明日からやるよ」
「それ絶対明日やらないやつですよ」
「そう言われても今までやってこなかったことがすぐにやるのは難しいぞ。逆に言えば図書室へ来て勉強する意志を見せただけでも進歩と言える」
めちゃくちゃポジティブなことを言っているけど、たぶん今日はもう飽きてしまったのだろう。その一因が僕にあるのかもしれないけど、今回はお互い様ということで許して貰いたい。
「私も読んでみるかなぁ。ラブミステリー」
「そのジャンルで絞って読むんですか。そもそも清水先輩は恋愛小説かミステリー小説読んだことあるんです?」
「うーん……一時期にそういうブームが来た時に手当たり次第に読んだような……読んでないような……」
僕と清水先輩は途中まで一緒に帰りながら少しだけ小説ジャンルの話をした。月曜日は清水先輩が少し遠のいてしまうように思ってしまったけど、清水先輩自身が言ったようにすぐに変わるのは難しいから暫くはこんな風に話せる時間はありそうだ。
それは僕からすると少し嬉しい……と一瞬だけ思ったけど、やっぱり宿題はやるべきだから清水先輩が早く習慣づけられるよう願っておこう。
なるべく早く読んで岸本さんへ感想を伝えたいという気持ちと本を読むことで創作意欲が刺激される期待を持ちながら僕は図書室内の席に腰をかける。
「おっ、良助。何してるんだ?」
だが、僕がページを開く前にどこからともなく清水先輩が現れた。割と読む気満々だったので、失礼ながらエンカウントしたことにちょっと残念さを感じてしまう。この感じだと絶対集中して読めないやつだ。
「お疲れ様です。本を読もうとしてました」
「へー 図書室で本を……いや、普通だな」
「はい。清水先輩こそどうしたんですか?」
「私は宿題をやろうと思ってな。家よりもこういう場所の方が捗るというだろう?」
「なるほ……えっ!? 清水先輩、宿題するんですか!?」
「こら、図書室では静かにしろ」
ごもっともな指摘を受けて僕は口を押える。
「それにめちゃくちゃ失礼なこと言ってるぞ」
「すみません。でも、夏休みに宿題しないって聞いてたので……」
「それは夏休みから誕生日前までの私だ。これからの私は勉強も宿題もしっかりやることにしたんだ」
清水先輩は少しだけ誇らしそうに言う。それを褒めてあげたい気持ちはあるけど、よく考えたら多くの学生が普通にしていることだった。
「ちょうど今日の授業で冬休みの宿題の範囲を出してくれた教科があったからちょうどいいタイミングだった」
「そうなんですね。じゃあ、がんばってください」
僕はそれだけ言うと目線を本の方へ移す。本当は今からやると冬休みの宿題の意味がなくなってしまうと言いたかったけど、恐らく冬休み中は自主的に他の勉強をするつもりなのだ。そう思っておこう。
すると、清水先輩は何故か僕の正面の席に座って、ノートやら教材やらを開き始める。
「…………」
「…………」
「……何読んでるんだ?」
「えっ? それ聞きます?」
「だって、気になるだろう。そんな露骨に隠されたら」
ブックカバーを指差して清水先輩はそう言う。ブックカバーの役割はそのためにあるのに。
「『望遠鏡の中の君へ』って本です」
「ほうほう。どういうジャンルの本なんだ?」
「僕も全部読めてないから正確には言えませんけど、ちょっとSFっぽい要素があるラブミステリーみたいな感じです」
「ラブ&ミステリーとな……ざっくりとしたあらすじは?」
「……清水先輩。宿題する気あります?」
「……あるある。今から始めるから」
そう言いながらようやくシャーペンを取り出した清水先輩。僕は再び目線を本へと移す。
この物語は天体観測を趣味とする主人公がある日に望遠鏡を覗くと、そこにはかつて――
「良助……ラブミステリーって何だ?」
「…………」
「ラブとミステリーって同時に存在するものなのか? いや、私がそのジャンルに触れたことがないだけかもしれないが、具体的にどういう――」
「清水先輩。図書室では静かに」
「は、はい。すまん」
清水先輩が口を閉じたのを確認すると、僕は三度……駄目だ。もう集中できない。清水先輩も目的があって偶然ここへ来たのだから責められないけど、こうなってしまった次に何を言われるか気になってしまってまた内容が頭へ入ってこない。
「清水先輩。お先に失礼します」
「もう帰るのか?」
「えっと……少し寒いので帰ってからコタツで読むことにします」
「そうかそうか。じゃあ、私も帰ろうかな」
「えっ? 宿題はいいんですか?」
「それは……まぁ、冬休みの宿題だし、今やらなくてもいいだろう。明日からやるよ」
「それ絶対明日やらないやつですよ」
「そう言われても今までやってこなかったことがすぐにやるのは難しいぞ。逆に言えば図書室へ来て勉強する意志を見せただけでも進歩と言える」
めちゃくちゃポジティブなことを言っているけど、たぶん今日はもう飽きてしまったのだろう。その一因が僕にあるのかもしれないけど、今回はお互い様ということで許して貰いたい。
「私も読んでみるかなぁ。ラブミステリー」
「そのジャンルで絞って読むんですか。そもそも清水先輩は恋愛小説かミステリー小説読んだことあるんです?」
「うーん……一時期にそういうブームが来た時に手当たり次第に読んだような……読んでないような……」
僕と清水先輩は途中まで一緒に帰りながら少しだけ小説ジャンルの話をした。月曜日は清水先輩が少し遠のいてしまうように思ってしまったけど、清水先輩自身が言ったようにすぐに変わるのは難しいから暫くはこんな風に話せる時間はありそうだ。
それは僕からすると少し嬉しい……と一瞬だけ思ったけど、やっぱり宿題はやるべきだから清水先輩が早く習慣づけられるよう願っておこう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
女神と共に、相談を!
沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。
私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。
部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。
まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry
重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。
そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。
『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。
部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──
サ帝
紅夜蒼星
青春
20××年、日本は100度前後のサウナの熱に包まれた!
数年前からサウナが人体に与える影響が取りだたされてはいた。しかし一過的なブームに過ぎないと、単なるオヤジの趣味だと馬鹿にする勢力も多かった。
だがサウナブームは世を席巻した。
一億の人口のうちサウナに入ったことのない人は存在せず、その遍く全ての人間が、サウナによって進化を遂げた「超人類」となった。
その中で生まれた新たなスポーツが、GTS(Golden Time Sports)。またの名を“輝ける刻の対抗戦”。
サウナ、水風呂、ととのい椅子に座るまでの一連のサウナルーティン。その時間を設定時間に近づけるという、狂っているとしか言いようがないスポーツ。
そんなGTSで、「福良大海」は中学時代に全国制覇を成し遂げた。
しかしとある理由から彼はサウナ室を去り、表舞台から姿を消した。
高校生となった彼は、いきつけのサウナで謎の美少女に声を掛けられる。
「あんた、サウナの帝王になりなさい」
「今ととのってるから後にしてくれる?」
それは、サウナストーンに水をかけられたように、彼の心を再び燃え上がらせる出会いだった。
これはサウナーの、サウナーによる、サウナーのための、サウナ青春ノベル。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
終わりに見えた白い明日
kio
青春
寿命の終わりで自動的に人が「灰」と化す世界。
「名無しの権兵衛」を自称する少年は、不良たちに囲まれていた一人の少女と出会う。
──これは、終末に抗い続ける者たちの物語。
やがて辿り着くのは、希望の未来。
【1】この小説は、2007年に正式公開した同名フリーノベルゲームを加筆修正したものです(内容に変更はありません)。
【2】本作は、徐々に明らかになっていく物語や、伏線回収を好む方にお勧めです。
【3】『ReIce -second-』にて加筆修正前のノベルゲーム版(WINDOWS機対応)を公開しています(作品紹介ページにて登場人物の立ち絵等も載せています)。
※小説家になろう様でも掲載しています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
少女が過去を取り戻すまで
tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。
玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。
初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。
恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。
『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』
玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく────
※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです
※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります
内容を一部変更しています
※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです
※一部、事実を基にしたフィクションが入っています
※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます
※イラストは「画像生成AI」を使っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる