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1年生2学期
11月18日(木)曇り 清水夢愛の夢探しその9
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僕にとってはそれなりの気力がいる日。その名は1年生の球技大会だ。この高校ではだいたいこの時期に行われるようで、明日は2年生とそれぞれ学年ごとにクラス対抗で競い合っていく。
種目としては男子だとサッカーが定番らしく、1年生もその流れに従うことになった。
「りょーちゃんとクラさんはDFかつ補欠で! 一試合は出て貰うから安心して」
運動会の時と同じく運動が得意じゃない組はある程度忖度して貰った。いや、サッカーにおいてDFも重要なポジションなんだろうけど、結局動ける人は前線から戻りつつ防御までこなしてしまうので、得意じゃない組はその時間稼ぎをすれば十分に役割を果たせる。
そんな球技大会は……僕からすると特に見どころなく終わったので速やかに帰宅しようと思った時だ。
「やぁ、良助。今日の球技大会どうだった?」
校門でたまたま清水先輩にエンカウントしてしまう。今日に限っては少々疲れていたので申し訳ないことに会ってしまった感が強かった。
「どうと言われましてもうちのクラス3位に終わりました」
「おお。1年は6クラスだから一応上位入賞じゃないか」
「そうなりますね。まぁ、僕は1試合しか出てないんですけど……」
「そうなのか? 良助は走れるんだから活躍できそうなのに」
清水先輩は何の悪気もなくそう言うけど、その印象は体育祭のことだけで作られたイメージだ。
「この前遊びに行ってわかったと思うんですけど、僕はスポーツ全般駄目なんです。ついでに言うと走れるわけでもありません。あの時は……ほら、早い人を追いかけるとタイムが上がる的なやつです」
「なるほどな。それならサッカーだと……いけそうじゃないか? 敵を追いかけて……」
「仮にできてもその後が無理なんですよ。パスもシュートも下手なのでどうしようもないです」
「むむ。いつになく否定してくるな」
そう言われて僕も否定するのにちょっとムキになっていたことに気付く。過大評価されるとかえってプレッシャーだけど、何も怒り気味にいう必要はない。
「すみません。つい……」
「いやいや。私も最近スポーツブームが来ているからそういう頭になっていたよ」
「スポーツブーム……2年生の球技大会は明日みたいですけど、女子は何をやるんですか?」
「体育館でやるからバレーかバスケのどちらかになるが、私はバスケに出るよ」
「へぇー あっ、この前もちょっとだけバスケやってましたね」
アミューズメント施設では3on3の形式で、僕らは人数的に足りなかったから対戦形式で遊ばなかったけど、清水先輩はレイアップやスリーポイントなどのシュートをどんどんと決めていた。運動神経がいいのもあるし、たぶん身長も少しあることが有利に働いているのだろう。
「清水先輩ならどちらでも活躍できそうですね」
「うーん……実はどちらもそうでもないんだな、これが」
「えっ? どうしてですか?」
「私はチームプレイが苦手だから」
「あー……」
「え。そこはそんなことないって言ってくれるところじゃないのか? 最近の良助はやけに私へ冷たいぞ?」
「自分で言ってるじゃないですか!? それに冷たくしてるつもりはないです! 誤解です!」
本当にそんなつもりはないけど、清水先輩はちょっと不満そうだ。確かに今日も話しかけられた瞬間はテンションが低かったけど、なんだかんだ話し出すと僕も少しだけ元気が出ているからむしろ熱を持って話している……はずだ。
「それならいいが……まぁ、これでも最近はそんな苦手もちょっとは克服できている気がするから明日も上手くやれそうな気がしてるよ」
「もしかして、清水先輩が運動できるのに運動部に入ってないのはそういう苦手意識があったからですか?」
「どうだろうな。小織に誘われたから茶道部に入ったが、それがなければそもそも部活すら入っていない気もする。でも、体育の授業でもそういうチーム戦は苦手な感じはあったからどの道運動部はなかったと思う」
「それって……誰かに任せるのが苦手って感じですか?」
「たぶんそんな感じだ。パスの声出しやアイコンタクトをするものされるのも何だか違和感があって……」
清水先輩にそう言われて僕は気付いた。チームスポーツでは相手に攻められて自分一人ではどうしようもなくなった時、誰かを頼らなければならなくなる。そんな中で僕は運動が得意じゃないからそういう場面を生み出しやすいし、そうなった時にチームの誰かに迷惑をかけると考えてしまう。スポーツを億劫に思う原因の一つも誰かを頼りにする苦手意識が関わっていたかもしれない。
「……良助?」
「あっ、いえ……僕も声出しが苦手とか思い当たるところがあるんです。それで僕は改善できていないから積極的にがんばろうとしている清水先輩は凄いと思います」
「もっと褒めていいぞ?」
「も、もっとですか……よっ、向上心の塊!」
「なんかしっくりこないが、まぁよしとしよう。だが、良助。別に今改善できなくたって落ち込むことはないぞ。私は数年単位でそれが変わらなくて今になってできそうな気がしているんだから、良助もすぐ何とかできるさ」
そう言ってくれる清水先輩は……やっぱり僕のことをだいぶ過大評価している。もしかしたら清水先輩は自分が変わってきたことを僕のおかげと考えてくれているのかもしれないけど、実際は清水先輩自身が殻を破っただけだ。
ただ、そんな評価に少しだけ見合うように僕も色々と前向きに考えるようにしていきたいと思った。
種目としては男子だとサッカーが定番らしく、1年生もその流れに従うことになった。
「りょーちゃんとクラさんはDFかつ補欠で! 一試合は出て貰うから安心して」
運動会の時と同じく運動が得意じゃない組はある程度忖度して貰った。いや、サッカーにおいてDFも重要なポジションなんだろうけど、結局動ける人は前線から戻りつつ防御までこなしてしまうので、得意じゃない組はその時間稼ぎをすれば十分に役割を果たせる。
そんな球技大会は……僕からすると特に見どころなく終わったので速やかに帰宅しようと思った時だ。
「やぁ、良助。今日の球技大会どうだった?」
校門でたまたま清水先輩にエンカウントしてしまう。今日に限っては少々疲れていたので申し訳ないことに会ってしまった感が強かった。
「どうと言われましてもうちのクラス3位に終わりました」
「おお。1年は6クラスだから一応上位入賞じゃないか」
「そうなりますね。まぁ、僕は1試合しか出てないんですけど……」
「そうなのか? 良助は走れるんだから活躍できそうなのに」
清水先輩は何の悪気もなくそう言うけど、その印象は体育祭のことだけで作られたイメージだ。
「この前遊びに行ってわかったと思うんですけど、僕はスポーツ全般駄目なんです。ついでに言うと走れるわけでもありません。あの時は……ほら、早い人を追いかけるとタイムが上がる的なやつです」
「なるほどな。それならサッカーだと……いけそうじゃないか? 敵を追いかけて……」
「仮にできてもその後が無理なんですよ。パスもシュートも下手なのでどうしようもないです」
「むむ。いつになく否定してくるな」
そう言われて僕も否定するのにちょっとムキになっていたことに気付く。過大評価されるとかえってプレッシャーだけど、何も怒り気味にいう必要はない。
「すみません。つい……」
「いやいや。私も最近スポーツブームが来ているからそういう頭になっていたよ」
「スポーツブーム……2年生の球技大会は明日みたいですけど、女子は何をやるんですか?」
「体育館でやるからバレーかバスケのどちらかになるが、私はバスケに出るよ」
「へぇー あっ、この前もちょっとだけバスケやってましたね」
アミューズメント施設では3on3の形式で、僕らは人数的に足りなかったから対戦形式で遊ばなかったけど、清水先輩はレイアップやスリーポイントなどのシュートをどんどんと決めていた。運動神経がいいのもあるし、たぶん身長も少しあることが有利に働いているのだろう。
「清水先輩ならどちらでも活躍できそうですね」
「うーん……実はどちらもそうでもないんだな、これが」
「えっ? どうしてですか?」
「私はチームプレイが苦手だから」
「あー……」
「え。そこはそんなことないって言ってくれるところじゃないのか? 最近の良助はやけに私へ冷たいぞ?」
「自分で言ってるじゃないですか!? それに冷たくしてるつもりはないです! 誤解です!」
本当にそんなつもりはないけど、清水先輩はちょっと不満そうだ。確かに今日も話しかけられた瞬間はテンションが低かったけど、なんだかんだ話し出すと僕も少しだけ元気が出ているからむしろ熱を持って話している……はずだ。
「それならいいが……まぁ、これでも最近はそんな苦手もちょっとは克服できている気がするから明日も上手くやれそうな気がしてるよ」
「もしかして、清水先輩が運動できるのに運動部に入ってないのはそういう苦手意識があったからですか?」
「どうだろうな。小織に誘われたから茶道部に入ったが、それがなければそもそも部活すら入っていない気もする。でも、体育の授業でもそういうチーム戦は苦手な感じはあったからどの道運動部はなかったと思う」
「それって……誰かに任せるのが苦手って感じですか?」
「たぶんそんな感じだ。パスの声出しやアイコンタクトをするものされるのも何だか違和感があって……」
清水先輩にそう言われて僕は気付いた。チームスポーツでは相手に攻められて自分一人ではどうしようもなくなった時、誰かを頼らなければならなくなる。そんな中で僕は運動が得意じゃないからそういう場面を生み出しやすいし、そうなった時にチームの誰かに迷惑をかけると考えてしまう。スポーツを億劫に思う原因の一つも誰かを頼りにする苦手意識が関わっていたかもしれない。
「……良助?」
「あっ、いえ……僕も声出しが苦手とか思い当たるところがあるんです。それで僕は改善できていないから積極的にがんばろうとしている清水先輩は凄いと思います」
「もっと褒めていいぞ?」
「も、もっとですか……よっ、向上心の塊!」
「なんかしっくりこないが、まぁよしとしよう。だが、良助。別に今改善できなくたって落ち込むことはないぞ。私は数年単位でそれが変わらなくて今になってできそうな気がしているんだから、良助もすぐ何とかできるさ」
そう言ってくれる清水先輩は……やっぱり僕のことをだいぶ過大評価している。もしかしたら清水先輩は自分が変わってきたことを僕のおかげと考えてくれているのかもしれないけど、実際は清水先輩自身が殻を破っただけだ。
ただ、そんな評価に少しだけ見合うように僕も色々と前向きに考えるようにしていきたいと思った。
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