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1年生2学期
11月5日(金)曇りのち晴れ 岸本路子との親交その11/清水夢愛の夢探しその7
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流れは早く金曜日。今日も文芸部に清水先輩が来ると連絡が入っていたので、火曜日に話していた件を清水先輩と岸本さんに伝える。
そして、部室へ行く前に僕ら三人は一旦中庭に集まった。
「待たせたな、良助……と岸本さん」
清水先輩の呼びかけに岸本さんはお辞儀で返す。話すことは了承してくれたけど、緊張することには変わりないらしい。
「それじゃあまずは……この前は急に来てすまなかった。ソフィアに先んじて連絡して貰うようにしておけば良かったのにな」
「いえ、わたしこそ顔を見るなり扉を閉めるなんて失礼なことをしてすみませんでした」
「いや、いきなりよくわからん奴がいたらそうなっても仕方ない」
「いえ、わたしがそういう性格で……」
「ストップ! 二人ともひとまず落ち着いて」
いきなり謝罪合戦が始まってしまったので僕は間に入る。お互いに謝り合うことも必要だとは思うけど、今日の目的はそれだけじゃない。
「レフリー、再開はまだか?」
「何と戦ってるんですか……ってそうじゃなくて。この前の件はお互いに急なことだったから起こったということで一つ治めましょう」
「岸本さんがそれでいいなら私は構わない」
「わたしも大丈夫です」
「なら、この話は終わりだな。よし、部活行くか」
「ま、待ってください。もう一つやることがあるんです」
「え? 何かあるのか?」
「僕が二人のことをそれぞれ紹介しようかと……一応、今回の件は僕が招いたようなところもありますし、これからも顔を合わせることがあるならそうして置いた方がいいんじゃないかと思って」
「わざわざ良助を挟む必要は……いや、わかった。頼もうじゃないか」
清水先輩は疑問を口にしかけるけど、一度岸本さんの方を見てから言い直す。そう、これはどちらかと言えば岸本さんのためにしておきたいことだった。
「岸本さん、改めてこの人は2年生の清水夢愛先輩。普段の部活は茶道部。性格的には色んなことに興味を示すけど、熱するのも冷めるのも早いタイプで僕も結構振り回されてるんだ。今回も唐突に小説を書くって言い出したし。でも、ちょっと変わったところ以外はいい人だからそこは安心して」
「良助……今の私の説明、ほとんどいいところがなかった気がするんだが?」
「そ、そんなことないです。好奇心があって根がいい人なら十分じゃないですか」
「いや、やっぱり釈然としないぞ! もっと称えるべきところがあるだろう!」
そう言われても岸本さんに対して学校五大美人の噂や今年のミスコン2位を教えるのは何か違う気がする。清水先輩がそれ以外のところを言っているなら……事前に考えたことでは出てきていない。というか、清水先輩の良さそうなところを言語化するのは難しい。
「それはひとまず置いといて……こちらは岸本路子さん。僕と同じ1年生かつ文芸部の所属です。部内に他の1年生がいないから仲良くさせて貰ってます。本に対する熱意があるので、清水先輩の今の目的に相応しい人かもしれません。何事にも真面目に取り組むタイプですし、それに……」
「う、産賀くん! そんなに詳しく言うの!?」
「えっ? 何かまずいこと言ったかな……?」
「言ってないけれど……そ、その、なんていうか……」
恥ずかしそうにする岸本さんと不服そうな清水先輩は対照的だった。でも、共通しているのは二人とも僕の紹介が思っていた感じと違うということだ。
「うむ、岸本さんが良い子だというのは十分わかった。だが……良助が私のことをそんな風に思っていたとはな」
「そんなに駄目でしたか、僕の清水先輩の説明……」
「岸本さんのやつを聞いた後だと格差を感じるぞ。まさか……あれか!? 日頃弄ってる仕返しか!?」
「そういうわけじゃないですけど、弄るのはやめてください」
「だって、小織が暫くは忙しいから夢愛に任せると言われてるからな」
「あの人の仕業ですか!? というか、別に最近に限った話じゃなくて……」
「ふふっ」
僕と清水先輩のやり取りを見て岸本さんは思わず笑う。
「産賀くん、そういうテンションになることもあるんだ」
「えっ? 僕のテンションいつもと違う……?」
「うん。文芸部の先輩に弄られる時はそんな感じになってる気がするけれど、ずっとその感じは珍しいかも」
「なんだ。弄られ慣れてるんじゃないか」
「慣れてはいません。でも、岸本さんが言うならそうなのかな」
「……清水さん。正直に言うと、清水さんのことを少し勘違いしていました。わたしは話かけるのが下手なタイプなので、清水さんみたいなよく話せる人はどうしても一歩引いてしまって。でも、今の会話を見て清水さんが怖がる必要なんてない人だとわかりました」
「そうだろう。こう見えても私は見た目の印象はいいからな」
ちょっとズレている気がするけど、清水先輩は誇らしげに言う。そうなると、称えるべきところは案外五大美人の方向性で合っていたのかもしれない。
「清水さん、少し遠回りな出会いになったんでるけれど、小説を書くようならわたしもできることは協力します。ただの読書好きですけれど、創作系の本の紹介もできるので」
「あ、それなんだが……私、小説書くの向いてないかもしれない」
「「えっ!?」」
清水先輩がさらりと衝撃的なことを言うので、僕と岸本さんは揃って驚く。
「文芸部の冊子を読んだ時は何か書けそうな気がしていたんだが、その時に思い付いたことは忘れてるし、そもそも私は机に向かって長時間何かするのはあまり得意じゃなかった」
「で、でも、思い付いた時に書き留めておいたり、実際に書き始めると長時間書くのが楽しくなったりすると思うので、諦めるのはまだ……」
「そうだなぁ。ひとまず保留にはしておくか。今度また脳内に雷が降ってくるかもしれないし」
岸本さんの説得で清水先輩は考え直した風なことを言っているけど、この感じだと二度と雨雲は出てこないような気がする。
「それはそれとして、今日も見学はさせて貰うぞ。さぁ、そろそろ行こうか」
清水先輩的にはこの話はもう終わったことになったのか、先に部室へ向かい始めてしまう。
「……岸本さん、ああいう感じだから清水先輩」
「……う、うん。この不思議な感じ……何となく身に覚えがあるような気がする」
それから部室の戻った後、見学を終えると清水先輩はちょっと話すとすぐに帰ってしまった。結局、この件で清水先輩が夢探しについて得たものは少なかったのかもしれない。
「また会おう、良助と……路子」
「い、いきなり呼び捨て……!?」
でも、これをきっかけに岸本さんが清水先輩と知り合いになれて良かった……のか? いや、良かったことにしておこう。
そして、部室へ行く前に僕ら三人は一旦中庭に集まった。
「待たせたな、良助……と岸本さん」
清水先輩の呼びかけに岸本さんはお辞儀で返す。話すことは了承してくれたけど、緊張することには変わりないらしい。
「それじゃあまずは……この前は急に来てすまなかった。ソフィアに先んじて連絡して貰うようにしておけば良かったのにな」
「いえ、わたしこそ顔を見るなり扉を閉めるなんて失礼なことをしてすみませんでした」
「いや、いきなりよくわからん奴がいたらそうなっても仕方ない」
「いえ、わたしがそういう性格で……」
「ストップ! 二人ともひとまず落ち着いて」
いきなり謝罪合戦が始まってしまったので僕は間に入る。お互いに謝り合うことも必要だとは思うけど、今日の目的はそれだけじゃない。
「レフリー、再開はまだか?」
「何と戦ってるんですか……ってそうじゃなくて。この前の件はお互いに急なことだったから起こったということで一つ治めましょう」
「岸本さんがそれでいいなら私は構わない」
「わたしも大丈夫です」
「なら、この話は終わりだな。よし、部活行くか」
「ま、待ってください。もう一つやることがあるんです」
「え? 何かあるのか?」
「僕が二人のことをそれぞれ紹介しようかと……一応、今回の件は僕が招いたようなところもありますし、これからも顔を合わせることがあるならそうして置いた方がいいんじゃないかと思って」
「わざわざ良助を挟む必要は……いや、わかった。頼もうじゃないか」
清水先輩は疑問を口にしかけるけど、一度岸本さんの方を見てから言い直す。そう、これはどちらかと言えば岸本さんのためにしておきたいことだった。
「岸本さん、改めてこの人は2年生の清水夢愛先輩。普段の部活は茶道部。性格的には色んなことに興味を示すけど、熱するのも冷めるのも早いタイプで僕も結構振り回されてるんだ。今回も唐突に小説を書くって言い出したし。でも、ちょっと変わったところ以外はいい人だからそこは安心して」
「良助……今の私の説明、ほとんどいいところがなかった気がするんだが?」
「そ、そんなことないです。好奇心があって根がいい人なら十分じゃないですか」
「いや、やっぱり釈然としないぞ! もっと称えるべきところがあるだろう!」
そう言われても岸本さんに対して学校五大美人の噂や今年のミスコン2位を教えるのは何か違う気がする。清水先輩がそれ以外のところを言っているなら……事前に考えたことでは出てきていない。というか、清水先輩の良さそうなところを言語化するのは難しい。
「それはひとまず置いといて……こちらは岸本路子さん。僕と同じ1年生かつ文芸部の所属です。部内に他の1年生がいないから仲良くさせて貰ってます。本に対する熱意があるので、清水先輩の今の目的に相応しい人かもしれません。何事にも真面目に取り組むタイプですし、それに……」
「う、産賀くん! そんなに詳しく言うの!?」
「えっ? 何かまずいこと言ったかな……?」
「言ってないけれど……そ、その、なんていうか……」
恥ずかしそうにする岸本さんと不服そうな清水先輩は対照的だった。でも、共通しているのは二人とも僕の紹介が思っていた感じと違うということだ。
「うむ、岸本さんが良い子だというのは十分わかった。だが……良助が私のことをそんな風に思っていたとはな」
「そんなに駄目でしたか、僕の清水先輩の説明……」
「岸本さんのやつを聞いた後だと格差を感じるぞ。まさか……あれか!? 日頃弄ってる仕返しか!?」
「そういうわけじゃないですけど、弄るのはやめてください」
「だって、小織が暫くは忙しいから夢愛に任せると言われてるからな」
「あの人の仕業ですか!? というか、別に最近に限った話じゃなくて……」
「ふふっ」
僕と清水先輩のやり取りを見て岸本さんは思わず笑う。
「産賀くん、そういうテンションになることもあるんだ」
「えっ? 僕のテンションいつもと違う……?」
「うん。文芸部の先輩に弄られる時はそんな感じになってる気がするけれど、ずっとその感じは珍しいかも」
「なんだ。弄られ慣れてるんじゃないか」
「慣れてはいません。でも、岸本さんが言うならそうなのかな」
「……清水さん。正直に言うと、清水さんのことを少し勘違いしていました。わたしは話かけるのが下手なタイプなので、清水さんみたいなよく話せる人はどうしても一歩引いてしまって。でも、今の会話を見て清水さんが怖がる必要なんてない人だとわかりました」
「そうだろう。こう見えても私は見た目の印象はいいからな」
ちょっとズレている気がするけど、清水先輩は誇らしげに言う。そうなると、称えるべきところは案外五大美人の方向性で合っていたのかもしれない。
「清水さん、少し遠回りな出会いになったんでるけれど、小説を書くようならわたしもできることは協力します。ただの読書好きですけれど、創作系の本の紹介もできるので」
「あ、それなんだが……私、小説書くの向いてないかもしれない」
「「えっ!?」」
清水先輩がさらりと衝撃的なことを言うので、僕と岸本さんは揃って驚く。
「文芸部の冊子を読んだ時は何か書けそうな気がしていたんだが、その時に思い付いたことは忘れてるし、そもそも私は机に向かって長時間何かするのはあまり得意じゃなかった」
「で、でも、思い付いた時に書き留めておいたり、実際に書き始めると長時間書くのが楽しくなったりすると思うので、諦めるのはまだ……」
「そうだなぁ。ひとまず保留にはしておくか。今度また脳内に雷が降ってくるかもしれないし」
岸本さんの説得で清水先輩は考え直した風なことを言っているけど、この感じだと二度と雨雲は出てこないような気がする。
「それはそれとして、今日も見学はさせて貰うぞ。さぁ、そろそろ行こうか」
清水先輩的にはこの話はもう終わったことになったのか、先に部室へ向かい始めてしまう。
「……岸本さん、ああいう感じだから清水先輩」
「……う、うん。この不思議な感じ……何となく身に覚えがあるような気がする」
それから部室の戻った後、見学を終えると清水先輩はちょっと話すとすぐに帰ってしまった。結局、この件で清水先輩が夢探しについて得たものは少なかったのかもしれない。
「また会おう、良助と……路子」
「い、いきなり呼び捨て……!?」
でも、これをきっかけに岸本さんが清水先輩と知り合いになれて良かった……のか? いや、良かったことにしておこう。
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