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1年生2学期

10月26日(火)晴れ 岸本路子との親交その8

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テストが終わり通常授業に戻った火曜日。昨日から部活動が再開されたので、文芸部も活動を始める。

 そして、今日は岸本さんにとって文化祭前以来の部室訪問になる。僕は1組の前で岸本さんと合流してから部室へ向かった。岸本さんはLINEのグループでは既に先輩方へ迷惑をかけた謝罪をしているけど、実際に顔を合わせるのはかなり緊張することだろうと思っての行動だ。

 部室の扉の前で一旦立ち止まった岸本さんは大きく深呼吸する。

「岸本さん、無理はしなくても大丈夫だから……」

「……うん。ありがとう、産賀くん。でも、大丈夫」

 ゆっくりと扉を開くといつも通り黒板前に森本先輩がいて、その周りにソフィア先輩と水原先輩も集まっていた。

「お疲れ様です。それと……この度はご迷惑を――」

「おー 岸本ちゃん久しぶり~ 今日は新しいことするから楽しみにしといて~」

「おい、沙良。最後まで聞いてから言わなきゃ駄目だろう。すまんな、岸本」

「えー? あたしが珍しく部長らしい発言をしたのにー」

「あ、あの……」

「岸本ちゃん! 今日はね、ソフィアがおすすめ本を紹介するの! あっ、LINEでも見たと思うけど……」

 岸本さんが色々言う前に森本先輩やソフィア先輩が他の話に引き込んでしまった。先輩方からすれば岸本さんの謝罪はもう聞き終えたもので、本当に久しぶりの再会として今日は接した方がいいと思ったのだろう。

 すると、水原先輩が僕の方へ近づいてくる。

「産賀。色々とありがとう。私たちは岸本のことであまり動けなかったが、おかげで岸本が戻ってきてくれた」

「いえ、僕は特に何もしていません。岸本さんが自分で乗り越えたことですから……」

「本当か? この前の岸本のメッセージには産賀のおかげと書いてあったが……」

「そ、それはその……僕と岸本さんの友人のおかげっていうのが正しいです。でも、本当に僕は何も……」

「ははっ、そうか。そういうことにしておこう」

 岸本さんはグループへのメッセージとは別に普段から特にお世話になっている先輩方へもメッセージを送っていたらしい。その全文を僕が知ることはないけど、水原先輩にそう言われてしまうくらいには僕のことを良く書いてくれていたようだ。



 岸本さんを囲んだわちゃわちゃが一区切りついた後、今日の本題に移りだす。机を班でまとまる時の引っ付けて顔を合わせる形で部員が座ると、真ん中にいる森本先輩が説明を始める。

「えー、今日からは今後の創作に役立つような知識を身に付けるあれこれをしていきまーす。たまに現代文の授業っぽいことになるかもしれませんが、基本はゆるーくやっていくので居眠りだけしないようにしてくれればあとは自由でーす。それと毎週火曜日には皆さんにおすすめ本を紹介して貰いまーす」

 おすすめ本というのは文化祭の展示とは別に読んだことがある、もしくは今読んでいる本を部内で共有していくらしい。ここ最近は創作するばかりで本を読めていないので、僕も新しく本を探しておいた方がいいかもしれない。

「今週はソフィアに発表して貰いまーす」

「はーい! ソフィアがおすすめする本は『恋する三葉虫』です。これは今度映画化されるからなるべくネタバレなしで紹介します。この物語は二人の男女のすごーくせつない恋愛モノで……」

 それからソフィア先輩は身振り手振りを交えて作品をおすすめしていく。内容をネタバレなしで魅力的に伝えるのはかなり難しいことだと思うけど、ソフィア先輩は気にさせるような引きで説明を終えた。

「ソフィアありがとー それでは座学的な方に移りますかー」

 その後は文章表現に関する本を参考にしながらみんなで議論……と題した雑談をしていく。それは僕がここの文芸部に入部するまでイメージしていた文芸部らしい活動だった。

「岸本ちゃん、真剣にメモ取ってるけど、別にテストとかないから気楽にねー」

「は、はい。でも、参考になる話なので」

「沙良もこういうところは見習うべきだな」

「えー? それって普段の勉強の話してなーい?」

「そういえば森ちゃん部長は今回のテストどうだったの?」

 ……いや、結局は文化祭前と変わらなかったかもしれない。それがこの文芸部のスタイルなら仕方ないし、この空気だからこそ僕も毎週参加しているところはある。

「そんなことないです。わたしもテストは……ふふっ」

 何より不安があった岸本さんも輪に入って笑えているのがこの空気のいいところだと思う。
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