206 / 942
1年生2学期
10月26日(火)晴れ 岸本路子との親交その8
しおりを挟む
テストが終わり通常授業に戻った火曜日。昨日から部活動が再開されたので、文芸部も活動を始める。
そして、今日は岸本さんにとって文化祭前以来の部室訪問になる。僕は1組の前で岸本さんと合流してから部室へ向かった。岸本さんはLINEのグループでは既に先輩方へ迷惑をかけた謝罪をしているけど、実際に顔を合わせるのはかなり緊張することだろうと思っての行動だ。
部室の扉の前で一旦立ち止まった岸本さんは大きく深呼吸する。
「岸本さん、無理はしなくても大丈夫だから……」
「……うん。ありがとう、産賀くん。でも、大丈夫」
ゆっくりと扉を開くといつも通り黒板前に森本先輩がいて、その周りにソフィア先輩と水原先輩も集まっていた。
「お疲れ様です。それと……この度はご迷惑を――」
「おー 岸本ちゃん久しぶり~ 今日は新しいことするから楽しみにしといて~」
「おい、沙良。最後まで聞いてから言わなきゃ駄目だろう。すまんな、岸本」
「えー? あたしが珍しく部長らしい発言をしたのにー」
「あ、あの……」
「岸本ちゃん! 今日はね、ソフィアがおすすめ本を紹介するの! あっ、LINEでも見たと思うけど……」
岸本さんが色々言う前に森本先輩やソフィア先輩が他の話に引き込んでしまった。先輩方からすれば岸本さんの謝罪はもう聞き終えたもので、本当に久しぶりの再会として今日は接した方がいいと思ったのだろう。
すると、水原先輩が僕の方へ近づいてくる。
「産賀。色々とありがとう。私たちは岸本のことであまり動けなかったが、おかげで岸本が戻ってきてくれた」
「いえ、僕は特に何もしていません。岸本さんが自分で乗り越えたことですから……」
「本当か? この前の岸本のメッセージには産賀のおかげと書いてあったが……」
「そ、それはその……僕と岸本さんの友人のおかげっていうのが正しいです。でも、本当に僕は何も……」
「ははっ、そうか。そういうことにしておこう」
岸本さんはグループへのメッセージとは別に普段から特にお世話になっている先輩方へもメッセージを送っていたらしい。その全文を僕が知ることはないけど、水原先輩にそう言われてしまうくらいには僕のことを良く書いてくれていたようだ。
◇
岸本さんを囲んだわちゃわちゃが一区切りついた後、今日の本題に移りだす。机を班でまとまる時の引っ付けて顔を合わせる形で部員が座ると、真ん中にいる森本先輩が説明を始める。
「えー、今日からは今後の創作に役立つような知識を身に付けるあれこれをしていきまーす。たまに現代文の授業っぽいことになるかもしれませんが、基本はゆるーくやっていくので居眠りだけしないようにしてくれればあとは自由でーす。それと毎週火曜日には皆さんにおすすめ本を紹介して貰いまーす」
おすすめ本というのは文化祭の展示とは別に読んだことがある、もしくは今読んでいる本を部内で共有していくらしい。ここ最近は創作するばかりで本を読めていないので、僕も新しく本を探しておいた方がいいかもしれない。
「今週はソフィアに発表して貰いまーす」
「はーい! ソフィアがおすすめする本は『恋する三葉虫』です。これは今度映画化されるからなるべくネタバレなしで紹介します。この物語は二人の男女のすごーくせつない恋愛モノで……」
それからソフィア先輩は身振り手振りを交えて作品をおすすめしていく。内容をネタバレなしで魅力的に伝えるのはかなり難しいことだと思うけど、ソフィア先輩は気にさせるような引きで説明を終えた。
「ソフィアありがとー それでは座学的な方に移りますかー」
その後は文章表現に関する本を参考にしながらみんなで議論……と題した雑談をしていく。それは僕がここの文芸部に入部するまでイメージしていた文芸部らしい活動だった。
「岸本ちゃん、真剣にメモ取ってるけど、別にテストとかないから気楽にねー」
「は、はい。でも、参考になる話なので」
「沙良もこういうところは見習うべきだな」
「えー? それって普段の勉強の話してなーい?」
「そういえば森ちゃん部長は今回のテストどうだったの?」
……いや、結局は文化祭前と変わらなかったかもしれない。それがこの文芸部のスタイルなら仕方ないし、この空気だからこそ僕も毎週参加しているところはある。
「そんなことないです。わたしもテストは……ふふっ」
何より不安があった岸本さんも輪に入って笑えているのがこの空気のいいところだと思う。
そして、今日は岸本さんにとって文化祭前以来の部室訪問になる。僕は1組の前で岸本さんと合流してから部室へ向かった。岸本さんはLINEのグループでは既に先輩方へ迷惑をかけた謝罪をしているけど、実際に顔を合わせるのはかなり緊張することだろうと思っての行動だ。
部室の扉の前で一旦立ち止まった岸本さんは大きく深呼吸する。
「岸本さん、無理はしなくても大丈夫だから……」
「……うん。ありがとう、産賀くん。でも、大丈夫」
ゆっくりと扉を開くといつも通り黒板前に森本先輩がいて、その周りにソフィア先輩と水原先輩も集まっていた。
「お疲れ様です。それと……この度はご迷惑を――」
「おー 岸本ちゃん久しぶり~ 今日は新しいことするから楽しみにしといて~」
「おい、沙良。最後まで聞いてから言わなきゃ駄目だろう。すまんな、岸本」
「えー? あたしが珍しく部長らしい発言をしたのにー」
「あ、あの……」
「岸本ちゃん! 今日はね、ソフィアがおすすめ本を紹介するの! あっ、LINEでも見たと思うけど……」
岸本さんが色々言う前に森本先輩やソフィア先輩が他の話に引き込んでしまった。先輩方からすれば岸本さんの謝罪はもう聞き終えたもので、本当に久しぶりの再会として今日は接した方がいいと思ったのだろう。
すると、水原先輩が僕の方へ近づいてくる。
「産賀。色々とありがとう。私たちは岸本のことであまり動けなかったが、おかげで岸本が戻ってきてくれた」
「いえ、僕は特に何もしていません。岸本さんが自分で乗り越えたことですから……」
「本当か? この前の岸本のメッセージには産賀のおかげと書いてあったが……」
「そ、それはその……僕と岸本さんの友人のおかげっていうのが正しいです。でも、本当に僕は何も……」
「ははっ、そうか。そういうことにしておこう」
岸本さんはグループへのメッセージとは別に普段から特にお世話になっている先輩方へもメッセージを送っていたらしい。その全文を僕が知ることはないけど、水原先輩にそう言われてしまうくらいには僕のことを良く書いてくれていたようだ。
◇
岸本さんを囲んだわちゃわちゃが一区切りついた後、今日の本題に移りだす。机を班でまとまる時の引っ付けて顔を合わせる形で部員が座ると、真ん中にいる森本先輩が説明を始める。
「えー、今日からは今後の創作に役立つような知識を身に付けるあれこれをしていきまーす。たまに現代文の授業っぽいことになるかもしれませんが、基本はゆるーくやっていくので居眠りだけしないようにしてくれればあとは自由でーす。それと毎週火曜日には皆さんにおすすめ本を紹介して貰いまーす」
おすすめ本というのは文化祭の展示とは別に読んだことがある、もしくは今読んでいる本を部内で共有していくらしい。ここ最近は創作するばかりで本を読めていないので、僕も新しく本を探しておいた方がいいかもしれない。
「今週はソフィアに発表して貰いまーす」
「はーい! ソフィアがおすすめする本は『恋する三葉虫』です。これは今度映画化されるからなるべくネタバレなしで紹介します。この物語は二人の男女のすごーくせつない恋愛モノで……」
それからソフィア先輩は身振り手振りを交えて作品をおすすめしていく。内容をネタバレなしで魅力的に伝えるのはかなり難しいことだと思うけど、ソフィア先輩は気にさせるような引きで説明を終えた。
「ソフィアありがとー それでは座学的な方に移りますかー」
その後は文章表現に関する本を参考にしながらみんなで議論……と題した雑談をしていく。それは僕がここの文芸部に入部するまでイメージしていた文芸部らしい活動だった。
「岸本ちゃん、真剣にメモ取ってるけど、別にテストとかないから気楽にねー」
「は、はい。でも、参考になる話なので」
「沙良もこういうところは見習うべきだな」
「えー? それって普段の勉強の話してなーい?」
「そういえば森ちゃん部長は今回のテストどうだったの?」
……いや、結局は文化祭前と変わらなかったかもしれない。それがこの文芸部のスタイルなら仕方ないし、この空気だからこそ僕も毎週参加しているところはある。
「そんなことないです。わたしもテストは……ふふっ」
何より不安があった岸本さんも輪に入って笑えているのがこの空気のいいところだと思う。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
終わりに見えた白い明日
kio
青春
寿命の終わりで自動的に人が「灰」と化す世界。
「名無しの権兵衛」を自称する少年は、不良たちに囲まれていた一人の少女と出会う。
──これは、終末に抗い続ける者たちの物語。
やがて辿り着くのは、希望の未来。
【1】この小説は、2007年に正式公開した同名フリーノベルゲームを加筆修正したものです(内容に変更はありません)。
【2】本作は、徐々に明らかになっていく物語や、伏線回収を好む方にお勧めです。
【3】『ReIce -second-』にて加筆修正前のノベルゲーム版(WINDOWS機対応)を公開しています(作品紹介ページにて登場人物の立ち絵等も載せています)。
※小説家になろう様でも掲載しています。
#星色卒業式 〜きみは明日、あの星に行く〜
嶌田あき
青春
2050年、地球の自転が止まってしまった。地球の半分は永遠の昼、もう半分は永遠の夜だ。
高校1年の蛍(ケイ)は、永遠の夜の街で暮らしている。不眠症に悩む蛍が密かに想いを寄せているのは、星のように輝く先輩のひかりだった。
ある日、ひかりに誘われて寝台列車に乗った蛍。二人で見た朝焼けは息をのむほど美しかった。そこで蛍は、ひかりの悩みを知る。卒業したら皆が行く「永遠の眠り」という星に、ひかりは行きたくないと言うのだ。
蛍は、ひかりを助けたいと思った。天文部の仲間と一緒に、文化祭でプラネタリウムを作ったり、星空の下でキャンプをしたり。ひかりには行ってほしいけれど、行ってほしくない。楽しい思い出が増えるたび、蛍の胸は揺れ動いた。
でも、卒業式の日はどんどん近づいてくる。蛍は、ひかりに想いを伝えられるだろうか。そして、ひかりは眠れるようになるだろうか。
永遠の夜空に輝くひとつの星が一番明るく光るとき。蛍は、ひかりの驚くべき秘密を知ることになる――。
片思いに未練があるのは、私だけになりそうです
珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。
その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。
姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。
そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。
少女が過去を取り戻すまで
tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。
玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。
初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。
恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。
『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』
玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく────
※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです
※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります
内容を一部変更しています
※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです
※一部、事実を基にしたフィクションが入っています
※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます
※イラストは「画像生成AI」を使っています
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
青春
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる