184 / 942
1年生2学期
10月4日(月)晴れ 桜庭小織の野望その3
しおりを挟む
文化祭前の一週間の始まり。この日の朝、生徒会選挙の結果が校内放送と掲示板によって発表される。結果は全員新任とわかりきったものであったけど、桜庭先輩が無事に野望を達成したと思うと、僕としては安心できる結果だった。
――おはよう産賀くん。今日の昼休みの時間貰える?
だけど、その校内放送を聞いた直後に安心できないメッセージが現副会長から送られてきた。桜庭先輩から呼び出されるのは久しぶりで、今はそれほど心配する必要はないけど、どうしても身構えてしまう。
それから昼休み。中庭に向かった僕は桜庭先輩と合流する。
「わざわざ悪かったわね、産賀くん」
「いえいえ。副会長就任おめでとうございます」
「ありがとう。……どうしたのきょろきょろして?」
「あっ、いえ。現副会長と一緒にいるのを見られて良いものかと……」
「別に生徒会になっても権力者やアイドルになるわけじゃないから問題ないんじゃない? それとも産賀くんは何か不都合があったりするの?」
桜庭先輩は少しからかうように言うけど、実際ちょっとだけ不都合がある。主に茶道部の野島さんについて。このことをついでに桜庭先輩へ言っておきたいけど、呼び出したのは桜庭先輩の方だから僕は先に要件を聞かなければならない。
「いえ、ありません。それより桜庭先輩の用事って何ですか?」
「あら、称賛の言葉を貰いたかっただけよ」
「えっ!?」
「嘘よ。副会長として権力を得た今、学園をどう支配しようか相談したくて……」
「さっき権力者じゃないって言ったじゃないですか。それで本当は何なんですか?」
「二回目は驚いてくれないのね。そう、私の用事は副会長になった本当の理由を知っておいて欲しいと思ってね。長くはならないから聞いて貰える?」
どうして僕が知る必要があるのだろうかと思ったけど、必要がなければここに呼ばれていない。僕は頷いて聞く姿勢になる。
「一つは私が誰かを支えるのが結構好きだから。会長じゃなくて副会長にしたのは……スピーチを聞いてくれていたと思うけど、中心となるよりもサポートする方が性にあってるし、いきなり会長よりも副会長なら狙いやすいかもっていう打算的な考えがあったの。もう一つは新しいことを初めてみたかったから。何でもいいとまでは言わないけど、なるべく早く始められて自分の身になる何かがしたかった。それで目に留まったのが生徒会だったってわけ」
「なるほど」
「……と、ここまでの二つの理由は建前」
「ええっ!? 結構しっかりした理由なのに」
「もちろん、少しは思ってるわ。でも、本題は……夢愛に自由になって欲しいから」
そう言った桜庭先輩の表情は決して嘘や冗談を言っている風ではなかった。でも、その理由は同然ながら疑問符を浮かべてしまう。
「桜庭先輩が副会長になると、どうして清水先輩が自由に……?」
「夢愛と喧嘩したおかげで色々腹を割って話せたのは確かで、最近は色々とマシになってきてるけど……それでもまだ夢愛は縛られてるの。性格とか考え方とか色々と」
「そうなんですか?」
「まぁ、産賀くんから見れば……ううん。普段の夢愛なら私から見ても自由を象徴するような言動をしているように思えるけど、その実は踏み込めない部分も多いの。私との関係性もそうだけど、どこかブレーキをかけてるからあの子」
その点については長く付き合いのある桜庭先輩が言うのだから間違いないのだろう。僕がいつも向き合う清水先輩はそういう印象はあまりないけど、桜庭先輩の言っていることが何となく当てはまりそうな気もしている。それはたぶん、清水先輩のことを未だに不思議な人だと思っているからだ。
「だから、私は夢愛との件も解決したし、ここは一つ夢愛から少し遠のくようなことをしてみようと思って。それで副会長になることを決めて、夢愛にあることないことを吹き込んでみたの」
「なんか最後だけ良くないこと言ってません?」
「そんなに悪質なことは言ってないわ。私は副会長を糧にして将来は何らかの支配層になりたいとか」
「十分悪質ですよ」
「まぁ、これは半分冗談だけど、とりあえず私は夢愛と違って次の目標や夢を見ているわよーってアピールをしておいたの。そして、今の夢愛はそれが効き始めてる。たぶん、産賀くんも何か言われてでしょ?」
その言い方からして清水先輩が言ったわけじゃないから僕や清水先輩の感じから何か読み取ったのだろう。本当に支配層になれそうな観察眼だ。
「それを踏まえて、何か言われた産賀くんにはこれからの夢愛の面倒というか、話を聞いてあげてと言っておきたかったの」
「それは構いませんけど……桜庭先輩はいいんですか?」
「それが狙いだからいいの。あっ。別にいつ何時も対応して欲しいわけじゃないわよ? 必要な時に必要なだけ聞いたり話したりしてくれればいいから」
「わかりました。僕としては普段からそうしてるつもりでしたし、現状維持でいきます」
「ありがとう。こんな用事でごめんなさいね」
対清水先輩用の僕への信頼がどうしてそんなにあるのかという疑問はさておき、こんな話を聞いてしまったからには僕も尚更清水先輩の夢について協力できることはしていきたい。
「それにしても……」
「うん? どうかした?」
「……何でもないです。これで失礼します」
建前があったとしても一人の友人のために副会長になってしまうなんてとんでもないことだ、と思わずに口に出してしまいそうだった。その行動はある意味究極のサポートであるので、桜庭先輩の性に合っているのは間違いない。
それと同時に、結局は桜庭先輩が動くことで清水先輩が動けたのだからお互いに影響されているんだなぁと勝手に思うのだった。
――おはよう産賀くん。今日の昼休みの時間貰える?
だけど、その校内放送を聞いた直後に安心できないメッセージが現副会長から送られてきた。桜庭先輩から呼び出されるのは久しぶりで、今はそれほど心配する必要はないけど、どうしても身構えてしまう。
それから昼休み。中庭に向かった僕は桜庭先輩と合流する。
「わざわざ悪かったわね、産賀くん」
「いえいえ。副会長就任おめでとうございます」
「ありがとう。……どうしたのきょろきょろして?」
「あっ、いえ。現副会長と一緒にいるのを見られて良いものかと……」
「別に生徒会になっても権力者やアイドルになるわけじゃないから問題ないんじゃない? それとも産賀くんは何か不都合があったりするの?」
桜庭先輩は少しからかうように言うけど、実際ちょっとだけ不都合がある。主に茶道部の野島さんについて。このことをついでに桜庭先輩へ言っておきたいけど、呼び出したのは桜庭先輩の方だから僕は先に要件を聞かなければならない。
「いえ、ありません。それより桜庭先輩の用事って何ですか?」
「あら、称賛の言葉を貰いたかっただけよ」
「えっ!?」
「嘘よ。副会長として権力を得た今、学園をどう支配しようか相談したくて……」
「さっき権力者じゃないって言ったじゃないですか。それで本当は何なんですか?」
「二回目は驚いてくれないのね。そう、私の用事は副会長になった本当の理由を知っておいて欲しいと思ってね。長くはならないから聞いて貰える?」
どうして僕が知る必要があるのだろうかと思ったけど、必要がなければここに呼ばれていない。僕は頷いて聞く姿勢になる。
「一つは私が誰かを支えるのが結構好きだから。会長じゃなくて副会長にしたのは……スピーチを聞いてくれていたと思うけど、中心となるよりもサポートする方が性にあってるし、いきなり会長よりも副会長なら狙いやすいかもっていう打算的な考えがあったの。もう一つは新しいことを初めてみたかったから。何でもいいとまでは言わないけど、なるべく早く始められて自分の身になる何かがしたかった。それで目に留まったのが生徒会だったってわけ」
「なるほど」
「……と、ここまでの二つの理由は建前」
「ええっ!? 結構しっかりした理由なのに」
「もちろん、少しは思ってるわ。でも、本題は……夢愛に自由になって欲しいから」
そう言った桜庭先輩の表情は決して嘘や冗談を言っている風ではなかった。でも、その理由は同然ながら疑問符を浮かべてしまう。
「桜庭先輩が副会長になると、どうして清水先輩が自由に……?」
「夢愛と喧嘩したおかげで色々腹を割って話せたのは確かで、最近は色々とマシになってきてるけど……それでもまだ夢愛は縛られてるの。性格とか考え方とか色々と」
「そうなんですか?」
「まぁ、産賀くんから見れば……ううん。普段の夢愛なら私から見ても自由を象徴するような言動をしているように思えるけど、その実は踏み込めない部分も多いの。私との関係性もそうだけど、どこかブレーキをかけてるからあの子」
その点については長く付き合いのある桜庭先輩が言うのだから間違いないのだろう。僕がいつも向き合う清水先輩はそういう印象はあまりないけど、桜庭先輩の言っていることが何となく当てはまりそうな気もしている。それはたぶん、清水先輩のことを未だに不思議な人だと思っているからだ。
「だから、私は夢愛との件も解決したし、ここは一つ夢愛から少し遠のくようなことをしてみようと思って。それで副会長になることを決めて、夢愛にあることないことを吹き込んでみたの」
「なんか最後だけ良くないこと言ってません?」
「そんなに悪質なことは言ってないわ。私は副会長を糧にして将来は何らかの支配層になりたいとか」
「十分悪質ですよ」
「まぁ、これは半分冗談だけど、とりあえず私は夢愛と違って次の目標や夢を見ているわよーってアピールをしておいたの。そして、今の夢愛はそれが効き始めてる。たぶん、産賀くんも何か言われてでしょ?」
その言い方からして清水先輩が言ったわけじゃないから僕や清水先輩の感じから何か読み取ったのだろう。本当に支配層になれそうな観察眼だ。
「それを踏まえて、何か言われた産賀くんにはこれからの夢愛の面倒というか、話を聞いてあげてと言っておきたかったの」
「それは構いませんけど……桜庭先輩はいいんですか?」
「それが狙いだからいいの。あっ。別にいつ何時も対応して欲しいわけじゃないわよ? 必要な時に必要なだけ聞いたり話したりしてくれればいいから」
「わかりました。僕としては普段からそうしてるつもりでしたし、現状維持でいきます」
「ありがとう。こんな用事でごめんなさいね」
対清水先輩用の僕への信頼がどうしてそんなにあるのかという疑問はさておき、こんな話を聞いてしまったからには僕も尚更清水先輩の夢について協力できることはしていきたい。
「それにしても……」
「うん? どうかした?」
「……何でもないです。これで失礼します」
建前があったとしても一人の友人のために副会長になってしまうなんてとんでもないことだ、と思わずに口に出してしまいそうだった。その行動はある意味究極のサポートであるので、桜庭先輩の性に合っているのは間違いない。
それと同時に、結局は桜庭先輩が動くことで清水先輩が動けたのだからお互いに影響されているんだなぁと勝手に思うのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
2度めの野球人生は軟投派? ~男でも野球ができるって証明するよ~
まほろん
青春
県立高校入学後、地道に練習をして成長した神山伊織。
高校3年時には、最速154キロのストレートを武器に母校を甲子園ベスト4に導く。
ドラフト外れ1位でプロ野球の世界へ。
プロ生活2年目で初めて1軍のマウンドに立つ。
そこで強烈なピッチャーライナーを頭部に受けて倒れる。
目覚めた世界で初めてみたプロ野球選手は女性たちだった。
ジェンダーレス男子と不器用ちゃん
高井うしお
青春
エブリスタ光文社キャラクター文庫大賞 優秀作品
彼氏に振られたOLの真希が泥酔して目を覚ますと、そこに居たのはメイクもネイルも完璧なジェンダーレス男子かのん君。しかも、私の彼氏だって!?
変わってるけど自分を持ってる彼に真希は振り回されたり、励まされたり……。
そんなかのん君の影響で真希の世界は新しい発見で満ちていく。
「自分」ってなんだろう。そんな物語。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。
青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。
大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。
私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。
私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。
忘れたままなんて、怖いから。
それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。
第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。
カノジョのいる俺に小悪魔で金髪ギャルの後輩が迫ってくる
中山道れおん
青春
鎌ヶ谷右京(かまがや うきょう)は高校一年生のときに人生で初めてのカノジョができた。
恋人である市川栞梨(いちかわ しおり)と少しずつ関係を深めていき、幸せな日々を送る右京。
しかし高校二年生に進級すると、中学生のときの後輩である野田良子(のだ りょうこ)と再会したことがきっかけとなり、右京の幸せな日々は歪に形を変えていくのであった。
主人公もヒロインもそれぞれ一途な想いを持っている。
だけど、なぜか不純愛の世界へと導かれていく。
果たして、それぞれの一途な想いはどこへ向かっていくのか。
この物語は一途な想いを持つ者たちによる不純愛ラブコメである!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる