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1年生2学期

9月25日(土)晴れ 大山亜里沙との距離間その4

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 一旦創作から解放された土曜日。ただ、短歌も文化祭までには納得できるものを仕上げないといけないから暇な時間に考えておく必要がある。
 そんなことを書いておきながらこの日は彼岸の墓参りを済ませた後、暇を持て余すという最上級に贅沢な時間を過ごしていた。

 しかし、その時間は松永からの電話で破られることになる。

『もしもし、りょーちゃん?』

 事前に電話をかける許可を取らないのはいつものことだったけど、松永の口調はいつものような元気さがなかった。

「急にどうしたんだ?」

『いやー……そのー……』

「なんだ、歯切れが悪いな。言いづらい話なのに電話したのか?」

『一応メッセージより口で伝えた方がいいかと思って』

「だったら、遠慮せず言ってくれ」

 今更松永から何を言われようとそれほど驚くことはない。それでも松永は少し時間をかけて恐らく言葉を選び終わった後に話し出す。

『実は月曜日の振替休日にまた集まりがあるんだ。いつものぽんちゃんと大山ちゃんのやつね』

「あー……なるほど。大丈夫、僕は暇だから――」

『いや、そうじゃなくて……今回からりょーちゃんは無理に参加しなくてもいいって言おうと思ってさ』

「……えっ?」

『りょーちゃんは協力したいって気持ちはまだあるだろうけど、こういうの得意じゃないから結構無理してたのはわかってた。それでも夏休み中は他のメンツにするのが難しくて付き合って貰ってたんだけど』

「それは……うん」

『それから大山ちゃんが遊ぶなら4人組までがいいって、りょーちゃんのおかげでわかったから今回からそんなに大所帯にしなくてもいいかなーって思って』

 尚も遠慮しながら話す松永は夏休みの最後の方で僕が本田くんと大山さんの件で悩んでいたことを気にしてくれていたのだろう。その一方で僕が本田くんに協力すべきだと思っているからそこについても解決しようとしてくれている。

『あっ。他のみんなには俺が上手い事言っとくから、そこは気にしないでいいよ』

「……わかった。こういうのは松永に任せた方が間違いないし、僕はまた手伝いがいるようだったら協力するよ」

 それを早い段階で読み取れたから僕は食い下がることなく、松永の厚意に甘えることにした。

『OK。ぽんちゃんにもそう伝えとく。それよりさ、りょーちゃん――』

 それから松永はもう一つの話題へ上手く切り替える。

 こうして、僕は本田くんと大山さんの件についてはひとまず一歩引いた立場で見ることになった。戦力外通告とも取れてしまうことを松永は気にしていたのかもしれないけど、実際に夏休み中の僕は最後の夏祭りのセッティング以外で役立った気はしていない。

 それに僕は他人の恋を応援する前に自分が本気で恋をしたことがないのだから上手く立ち回れるはずがなかったのだ。その点、松永は僕よりも圧倒的に進んでいて頼りがいがある。

 ……なんて風に書いてみるけど、付いて行けない自分にほんのちょっとだけやるせなさを感じてしまった。
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