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1年生夏休み
8月21日(土)曇り 清水先輩との夏散歩その5
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夏休み32日目。今日も清水先輩から呼び出されたけど、その時間帯は珍しくお昼過ぎだった。お盆前に午後でも暇なので誘ってくださいと言ったので、律儀にもそれを実行してくれたのだろう。そう思って集合場所に向かうと、そこにいた清水先輩はいつもと違う様子だった。
「き、来たか。良助」
「こんにちは、清水先輩。じゃあ、出発しましょうか」
「良助、今日は目的地がある」
「そうなんですか。どこに行くんです?」
「……私の家だ」
「……へ?」
一瞬、言われている意味が理解できなかった。確かに今日は「暇か?」ではなく「来て欲しい」だったけど、それで清水先輩の家……家に誘われている!?
「な、なんで家なんですか……?」
「それは……」
「は、はい……」
「”ヤツ”が出たからだ……」
「やつ……?」
「と、とにかく行くぞ!」
しかし、切羽詰まった様子の清水先輩を見ると、どうやら僕が変に勘違いする必要は無さそうだった。そこその距離を徒歩で移動する最中も全く会話がないまま、清水先輩の家に向かって行く。
◇
40分後。到着した清水先輩の家はかなり大きな一戸建てだった。だけど、家に関する感想を述べる前に清水先輩は玄関の前で立ち止まる。その時点で僕は何となく家まで誘われた理由がわかった。
「清水先輩、もしかして何ですけど……」
「良助、私の家に”G”が出た」
「やっぱりゴキブリですか」
「こら! 軽々しく言うもんじゃないぞ!」
今までにない勢いで怒られた。家の中に現れて入れなくなるような存在と言えばゴキ……Gやハチみたいな生き物だとは思っていたけど、清水先輩は苦手なタイプだったようだ。
「すみません。それでそのGが出て、僕が呼ばれたのは……退治しろってことですか?」
「できるのか!?」
「いえ、何も持って来てないので見つけて退治するのは難しいと思います」
「そうか……うぬぬ」
「部屋に撒くやつとか買ってきて対策するしかないですね」
僕としては好きなわけじゃないけど、見つければ退治できると思う。ただ、それには殺虫剤やら叩くものやら色々必要になるので、装備なしでは恐らく勝てない。
「とりあえず近くのお店へ買いに行きましょう」
「わ、わかった……」
珍しく怯える清水先輩は正直ちょっといつもと違う感じがして可愛らしく見える。いや、決してそういう趣味ってわけじゃなく、そもそも清水先輩は元々が美人なんだけど、いつもそれを忘れてしまっているからこういう反応は新鮮だった。
◇
清水先輩の家からドラッグストアまでは10分程の距離があったけど、その間も清水先輩の足取りに軽やかさはない。
「清水先輩、虫系は駄目だったんですね」
「いや、他の虫は全然いい。普通に触れる」
「えっ……逆に凄いですね。僕はたぶん触れないです」
「そうか? 私は触れられないのに退治できる方が凄いと思うが」
「退治する時は別に触らないでいいですし……でも、それだとどうしてGだけは駄目なんですか?」
僕が何気なくそう聞くと、清水先輩は肩を震わせた。思い出すとそうなってしまうレベルなら僕の振りは失敗だったけど、清水先輩はそれでもゆっくりと喋り始める。
「実は……子ども頃にも家に出たんだ。その時はまだ今みたいに嫌悪感とかそういう負の感情はなかった」
「確かに子どもの時ならあんまり気にしなかったかもしれません」
「だから……私はその時の事情からヤツとコンタクトを取ることにした」
「ど、どんな事情なんですか!?」
「その頃の私は……いや、その話は今はいい。それで何も知らない私はヤツに近づくと……ヤツは素早く動いて私の手に飛びかかったんだ」
「ああ……」
それを聞くとさすがに僕も少し震えた。退治する時はなるべく触れないようにしているからその感触は想像でしかないけど、恐らく生理的に無理なものだ。
「最悪だった……カマキリとかカブトムシとか他の虫と訳が違った」
「普通は逃げるはずなのに相手から来ちゃったんですね」
「ああ。それ以来、地球上の生き物でヤツだけは無理になった」
「なるほど。それじゃあ、その時以来Gに遭遇した時はどうしてたんですか?」
「覚えてない。たぶん家から逃げた」
それで退治できていないのだとすると、あの大きな家にはそれなりにGたちが巣食っているいるのかもしれない。恐らくホイホイ的なやつは置いてるのだろうけど、ヤツらはそれ以上数がいるものだ。
ただ、その話を聞いていくと一つの疑問が生じる。
「あれ? だったら、今日僕が呼ばれたのって……?」
「……言われてみればなんで良助を呼んだんだろうな。わざわざすまない」
「いえ。別に呼ばれて困ることではなかったので」
「見つけてどこに行ってから普段は逃げていたんだが……今日はなぜか良助を呼んでしまった。本当になんでだ?」
清水先輩は自問自答し出すけど……それに関して僕が少しだけ浮かれていいのだとしたら、咄嗟に頼りにした相手が僕だったことになる。これで僕もGが苦手だったら成立しなかったけど、無事に冷静な対処ができそうだ。
「良助? なんで嬉しそうな顔してるんだ?」
「ええ? そんなことないっすよー」
「いや、口調がいつもと違うんだが……?」
その後、ドラッグストアでスモークタイプの殺虫剤を買って、一瞬だけ清水先輩の家に上がったけど、焚き出したらすぐに清水先輩は家から出たいと言ったので、いつも通り散歩の時間になった。ただし、この日の僕がちょっとばかり浮かれていたことだけはいつも通りではなかった。
「き、来たか。良助」
「こんにちは、清水先輩。じゃあ、出発しましょうか」
「良助、今日は目的地がある」
「そうなんですか。どこに行くんです?」
「……私の家だ」
「……へ?」
一瞬、言われている意味が理解できなかった。確かに今日は「暇か?」ではなく「来て欲しい」だったけど、それで清水先輩の家……家に誘われている!?
「な、なんで家なんですか……?」
「それは……」
「は、はい……」
「”ヤツ”が出たからだ……」
「やつ……?」
「と、とにかく行くぞ!」
しかし、切羽詰まった様子の清水先輩を見ると、どうやら僕が変に勘違いする必要は無さそうだった。そこその距離を徒歩で移動する最中も全く会話がないまま、清水先輩の家に向かって行く。
◇
40分後。到着した清水先輩の家はかなり大きな一戸建てだった。だけど、家に関する感想を述べる前に清水先輩は玄関の前で立ち止まる。その時点で僕は何となく家まで誘われた理由がわかった。
「清水先輩、もしかして何ですけど……」
「良助、私の家に”G”が出た」
「やっぱりゴキブリですか」
「こら! 軽々しく言うもんじゃないぞ!」
今までにない勢いで怒られた。家の中に現れて入れなくなるような存在と言えばゴキ……Gやハチみたいな生き物だとは思っていたけど、清水先輩は苦手なタイプだったようだ。
「すみません。それでそのGが出て、僕が呼ばれたのは……退治しろってことですか?」
「できるのか!?」
「いえ、何も持って来てないので見つけて退治するのは難しいと思います」
「そうか……うぬぬ」
「部屋に撒くやつとか買ってきて対策するしかないですね」
僕としては好きなわけじゃないけど、見つければ退治できると思う。ただ、それには殺虫剤やら叩くものやら色々必要になるので、装備なしでは恐らく勝てない。
「とりあえず近くのお店へ買いに行きましょう」
「わ、わかった……」
珍しく怯える清水先輩は正直ちょっといつもと違う感じがして可愛らしく見える。いや、決してそういう趣味ってわけじゃなく、そもそも清水先輩は元々が美人なんだけど、いつもそれを忘れてしまっているからこういう反応は新鮮だった。
◇
清水先輩の家からドラッグストアまでは10分程の距離があったけど、その間も清水先輩の足取りに軽やかさはない。
「清水先輩、虫系は駄目だったんですね」
「いや、他の虫は全然いい。普通に触れる」
「えっ……逆に凄いですね。僕はたぶん触れないです」
「そうか? 私は触れられないのに退治できる方が凄いと思うが」
「退治する時は別に触らないでいいですし……でも、それだとどうしてGだけは駄目なんですか?」
僕が何気なくそう聞くと、清水先輩は肩を震わせた。思い出すとそうなってしまうレベルなら僕の振りは失敗だったけど、清水先輩はそれでもゆっくりと喋り始める。
「実は……子ども頃にも家に出たんだ。その時はまだ今みたいに嫌悪感とかそういう負の感情はなかった」
「確かに子どもの時ならあんまり気にしなかったかもしれません」
「だから……私はその時の事情からヤツとコンタクトを取ることにした」
「ど、どんな事情なんですか!?」
「その頃の私は……いや、その話は今はいい。それで何も知らない私はヤツに近づくと……ヤツは素早く動いて私の手に飛びかかったんだ」
「ああ……」
それを聞くとさすがに僕も少し震えた。退治する時はなるべく触れないようにしているからその感触は想像でしかないけど、恐らく生理的に無理なものだ。
「最悪だった……カマキリとかカブトムシとか他の虫と訳が違った」
「普通は逃げるはずなのに相手から来ちゃったんですね」
「ああ。それ以来、地球上の生き物でヤツだけは無理になった」
「なるほど。それじゃあ、その時以来Gに遭遇した時はどうしてたんですか?」
「覚えてない。たぶん家から逃げた」
それで退治できていないのだとすると、あの大きな家にはそれなりにGたちが巣食っているいるのかもしれない。恐らくホイホイ的なやつは置いてるのだろうけど、ヤツらはそれ以上数がいるものだ。
ただ、その話を聞いていくと一つの疑問が生じる。
「あれ? だったら、今日僕が呼ばれたのって……?」
「……言われてみればなんで良助を呼んだんだろうな。わざわざすまない」
「いえ。別に呼ばれて困ることではなかったので」
「見つけてどこに行ってから普段は逃げていたんだが……今日はなぜか良助を呼んでしまった。本当になんでだ?」
清水先輩は自問自答し出すけど……それに関して僕が少しだけ浮かれていいのだとしたら、咄嗟に頼りにした相手が僕だったことになる。これで僕もGが苦手だったら成立しなかったけど、無事に冷静な対処ができそうだ。
「良助? なんで嬉しそうな顔してるんだ?」
「ええ? そんなことないっすよー」
「いや、口調がいつもと違うんだが……?」
その後、ドラッグストアでスモークタイプの殺虫剤を買って、一瞬だけ清水先輩の家に上がったけど、焚き出したらすぐに清水先輩は家から出たいと言ったので、いつも通り散歩の時間になった。ただし、この日の僕がちょっとばかり浮かれていたことだけはいつも通りではなかった。
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