上 下
128 / 942
1年生夏休み

8月9日(月)曇り時々雨 大山亜里沙との夏遊びその2

しおりを挟む
 夏休み20日目。懸念していた台風は何とか温帯低気圧に変わり、今日は予定通り第2回本田くんや大山さんたちと遊びに行く回だ……もっとそれらしいタイトルがあった方がいいだろうか。僕としてはそれほど恒例になって欲しいわけではない。だけど、本田くんの想いを最初に知ってしまった身である以上、できれば協力したい気持ちはある。

 そんな本日の遊び場所はボウリング場だ。高校からそれほど遠くない位置にあることから現地集合になったので、僕と松永は自転車で向かう。今回もほとんど意味のない作戦会議をした結果、「男女チーム戦に持ち込もう。ところでりょーちゃんはどっちと組みたい?」という前にも聞いたような話になった。

 到着してから10分ほど待つと全員集まって、ボウリング場へ入って行く。この近くで遊べる場所といえばここかカラオケくらいになるから、いつも人は多いけど、夏休みはそこに家族連れが増えて更に多くなっているように見える。それでも待ち時間はなく、真ん中辺りのレーンに通された。

「あれ、ボールっていくつがいいんだっけ……」

「りょーちゃん、ボウリングって久々?」

「うん。あんまり得意じゃないから……」

 ついでに言うと、先ほど借りるシューズの大きさにも迷ってしまった。松永と遊びに行く時もカラオケの方が多いからボウリングは数年ぶりになる。

「よーし、3人分のスコア表示だから男女3人で別れてチーム戦をしよう! その方が戦力的にもちょうど良さそうだし」

 松永は自然な流れで作戦を遂行した。受付も松永に任せていたから計画通りなんだろう。

「じゃあ、私は産賀くんと組もっかなー」

「わっ!?」

 栗原さんはそう言うと、僕と腕を組んできた。また彼氏さんに申し訳ないことを……いや、これはたぶん栗原さんの距離間なんだ。あまり気にしないようにしよう。

 その流れで松永は斎藤さんと組んだから予定通り本田くんと大山さんが組むことになった。

 すると、僕の隣に座った栗原さんは小さな声で話しかけてくる。

「ね、ね。これでいいんでしょ?」

「えっ? まぁ、うん……」

 松永から話を通されてる……わけじゃない気がする。これは栗原さんなりに協力してくれているのだろう。前回のプールでそこまで感じ取ってしまったのだ。

 そして、ゲームが始まっていく。

「斎藤ちゃん、ナイス~!」

「おー 本田、ストライクばっかですごいじゃん!」

「部活内で結構来るんだ。割と自信あるよ」

「アタシも足引っ張らないようにしないとー」

 交互に投げていく中で、2チームは良い成績を残していく。特に松永と本田くんはそこそこ経験値があるおかげか好投を続けていた。

 それに対して、僕は……

「あはは。産賀くん、どんまーい!」

 ガーターの連続だった。ボウリングってこんなに難しいものだったっけ? 以前来た時は得意ではないにしろ、もう少しできていた気がする。でも、今日はレーンに着いてから投げるまで、全くタイミングが合わない。栗原さんもストライクを取っているわけじゃないけど、僕はそれ以前の問題だった。

「良ちゃん、そんなに振りかぶり過ぎないで。投げる時も自然に離す感じがいい」

 あまりに下手だったのか、とうとう本田くんが僕を指導し始めた。何だか申し訳ない。主目的はこっちではないはずなのに、無駄な労力をかけさせてしまった。ただ、そのおかげで僕も感覚を取り戻せ……

「おしー 産賀くん、まだ力んでるよー」

「りょーちゃん、次はいけるぞー」

 ……なかった。もしかしたらもう少しできた記憶も気のせいだったのだろうか。交互にやって2ゲームが終わっても僕はかすって何とか数本倒せる程度だった。

「ご、ごめん。栗原さん」

「あはは、別にいいよ~ それにあれでしょ? 本田くんに見せ場を作ってあげた的な?」

「そういうわけじゃなくて、普通に下手だっただけだよ……」

「だったら、下手でナイスだったってことでいいんじゃない?」

 栗原さんはポジティブに思ってくれたみたいだけど、僕としては上手くいってなかった。



「私、腕疲れちゃったー」

「アタシも。結構久しぶりだったからかなー」

 3ゲーム目も終わると、女子3人は既に満足している感じだった。かく言う僕も腕がボールの重さに負けてしまっていたからこれ以上続けられると困る。

「じゃあ、ちょっと休憩してからどこかお店でも寄ろうかー」

「松永、お手洗い行ってきていいか?」

「いいよ。りょーちゃんのシューズも返しとくねー」

 松永にお礼を言ってから僕はトイレへ向かう。

(なんか……どっと疲れた)

 それは腕の疲れだけじゃなくて、気疲れの方もあった。僕は協力したいと思っているけど、今日みたいな場になると返って邪魔になってしまうような気がしてならない。そもそも女子も混ざって遊ぶこの感じは松永のように慣れていない。そんなことを考えながらだと、変に疲れてしまった。

 それでも気持ちを切り替えて、僕はみんなのところへ戻ろうとしたその時。

「あっ、うぶクン」

 ちょうど大山さんも化粧直しをしていたようで、ばったりと会う。夏休み中に遊ぶのは二回目のはずだけど、なぜだか久しぶりな気持ちになる。

「お、お疲れ」

「ほんと疲れたよねー ていうか、うぶクンって瑞姫とあんなに仲良かったっけ?」

「いや、それは……いつの間にかなんとなくそうなったというか……」

「ふーん……」

 それが大山さんと本田くんをくっつけることがきっかけだったなんて言えない。でも、大山さんからすれば教室で話していなかった二人が急によく話しているのは不自然かもしれない。

 すると、大山さんは心配そうな表情で僕を見る。

「……うぶクン、ちゃんと楽しめてる?」

「えっ?」

「うぶクンがあんまり混ざれてなかったように見えて……あっ、別に上手い下手で言ってるワケじゃないよ?」

「わ、わかってる。だけど、僕も普通に楽しんでるよ。みんなの上手いプレイ見るのは面白いし」

「そ、そっか……うん、良かった」

 何だか大山さんらしくない微妙な反応だ。一応、楽しさがあるのは本当だけど、僕の疲れている感じがわかってしまったのだろうか。どう言葉を返せばいいか僕が迷っていると、また大山さんはゆっくりと口を開く。

「うぶクン。アタシね、あんまり大人数で遊ぶの……得意じゃないんだ」

「そ、そうなの!?」

「やっぱアタシってそういう感じには見えないよね?」

「いや……ごめん。勝手に驚いて」

「もー またうぶクン謝ってるじゃん。アタシから言ったことだから」

「でも……」

「アタシさ、一緒に遊べる人数の限界って4人だと思ってるの。なんていうか……それ以上になると、全員のこと見れなくなって、どうしても隔たりができちゃうから。それが男女混ざると余計にね」

 そう言った大山さんは何だか物憂げな表情に見えた。さっきボウリングをしていた時はそんな風では……いや、わからない。今日のボウリングもこの前のプールも、僕は大山さんがどういう表情をしていたか、よく見ていなかった。

「だから、今日のうぶクンもそうなってる気がして」

「そう、だったんだ」

「ご、ごめんね。変な話しちゃって。アタシが勝手に思っただけだから、気にしないで!」

 そう言い残して、大山さんは先にみんなのところへ戻って行った。

 その後、ファミレスで軽食を取りながらみんなと喋っていた時、大山さんは楽しそうな表情だった。それがいつも通りかと言われると……僕はわからなくなってしまった。これまでの僕や松永、それに栗原さんの言動は本田くんのためにと思ってやってきたものだ。でも、それは大山さんのことは何も考えていないことになる。
 
 僕も会話に混ざっていたけど、そのことが心に引っかかってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

終わりに見えた白い明日

kio
青春
寿命の終わりで自動的に人が「灰」と化す世界。 「名無しの権兵衛」を自称する少年は、不良たちに囲まれていた一人の少女と出会う。 ──これは、終末に抗い続ける者たちの物語。 やがて辿り着くのは、希望の未来。 【1】この小説は、2007年に正式公開した同名フリーノベルゲームを加筆修正したものです(内容に変更はありません)。 【2】本作は、徐々に明らかになっていく物語や、伏線回収を好む方にお勧めです。 【3】『ReIce -second-』にて加筆修正前のノベルゲーム版(WINDOWS機対応)を公開しています(作品紹介ページにて登場人物の立ち絵等も載せています)。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

#星色卒業式 〜きみは明日、あの星に行く〜

嶌田あき
青春
 2050年、地球の自転が止まってしまった。地球の半分は永遠の昼、もう半分は永遠の夜だ。  高校1年の蛍(ケイ)は、永遠の夜の街で暮らしている。不眠症に悩む蛍が密かに想いを寄せているのは、星のように輝く先輩のひかりだった。  ある日、ひかりに誘われて寝台列車に乗った蛍。二人で見た朝焼けは息をのむほど美しかった。そこで蛍は、ひかりの悩みを知る。卒業したら皆が行く「永遠の眠り」という星に、ひかりは行きたくないと言うのだ。  蛍は、ひかりを助けたいと思った。天文部の仲間と一緒に、文化祭でプラネタリウムを作ったり、星空の下でキャンプをしたり。ひかりには行ってほしいけれど、行ってほしくない。楽しい思い出が増えるたび、蛍の胸は揺れ動いた。  でも、卒業式の日はどんどん近づいてくる。蛍は、ひかりに想いを伝えられるだろうか。そして、ひかりは眠れるようになるだろうか。  永遠の夜空に輝くひとつの星が一番明るく光るとき。蛍は、ひかりの驚くべき秘密を知ることになる――。

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
青春
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

処理中です...