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1年生夏休み

8月9日(月)曇り時々雨 大山亜里沙との夏遊びその2

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 夏休み20日目。懸念していた台風は何とか温帯低気圧に変わり、今日は予定通り第2回本田くんや大山さんたちと遊びに行く回だ……もっとそれらしいタイトルがあった方がいいだろうか。僕としてはそれほど恒例になって欲しいわけではない。だけど、本田くんの想いを最初に知ってしまった身である以上、できれば協力したい気持ちはある。

 そんな本日の遊び場所はボウリング場だ。高校からそれほど遠くない位置にあることから現地集合になったので、僕と松永は自転車で向かう。今回もほとんど意味のない作戦会議をした結果、「男女チーム戦に持ち込もう。ところでりょーちゃんはどっちと組みたい?」という前にも聞いたような話になった。

 到着してから10分ほど待つと全員集まって、ボウリング場へ入って行く。この近くで遊べる場所といえばここかカラオケくらいになるから、いつも人は多いけど、夏休みはそこに家族連れが増えて更に多くなっているように見える。それでも待ち時間はなく、真ん中辺りのレーンに通された。

「あれ、ボールっていくつがいいんだっけ……」

「りょーちゃん、ボウリングって久々?」

「うん。あんまり得意じゃないから……」

 ついでに言うと、先ほど借りるシューズの大きさにも迷ってしまった。松永と遊びに行く時もカラオケの方が多いからボウリングは数年ぶりになる。

「よーし、3人分のスコア表示だから男女3人で別れてチーム戦をしよう! その方が戦力的にもちょうど良さそうだし」

 松永は自然な流れで作戦を遂行した。受付も松永に任せていたから計画通りなんだろう。

「じゃあ、私は産賀くんと組もっかなー」

「わっ!?」

 栗原さんはそう言うと、僕と腕を組んできた。また彼氏さんに申し訳ないことを……いや、これはたぶん栗原さんの距離間なんだ。あまり気にしないようにしよう。

 その流れで松永は斎藤さんと組んだから予定通り本田くんと大山さんが組むことになった。

 すると、僕の隣に座った栗原さんは小さな声で話しかけてくる。

「ね、ね。これでいいんでしょ?」

「えっ? まぁ、うん……」

 松永から話を通されてる……わけじゃない気がする。これは栗原さんなりに協力してくれているのだろう。前回のプールでそこまで感じ取ってしまったのだ。

 そして、ゲームが始まっていく。

「斎藤ちゃん、ナイス~!」

「おー 本田、ストライクばっかですごいじゃん!」

「部活内で結構来るんだ。割と自信あるよ」

「アタシも足引っ張らないようにしないとー」

 交互に投げていく中で、2チームは良い成績を残していく。特に松永と本田くんはそこそこ経験値があるおかげか好投を続けていた。

 それに対して、僕は……

「あはは。産賀くん、どんまーい!」

 ガーターの連続だった。ボウリングってこんなに難しいものだったっけ? 以前来た時は得意ではないにしろ、もう少しできていた気がする。でも、今日はレーンに着いてから投げるまで、全くタイミングが合わない。栗原さんもストライクを取っているわけじゃないけど、僕はそれ以前の問題だった。

「良ちゃん、そんなに振りかぶり過ぎないで。投げる時も自然に離す感じがいい」

 あまりに下手だったのか、とうとう本田くんが僕を指導し始めた。何だか申し訳ない。主目的はこっちではないはずなのに、無駄な労力をかけさせてしまった。ただ、そのおかげで僕も感覚を取り戻せ……

「おしー 産賀くん、まだ力んでるよー」

「りょーちゃん、次はいけるぞー」

 ……なかった。もしかしたらもう少しできた記憶も気のせいだったのだろうか。交互にやって2ゲームが終わっても僕はかすって何とか数本倒せる程度だった。

「ご、ごめん。栗原さん」

「あはは、別にいいよ~ それにあれでしょ? 本田くんに見せ場を作ってあげた的な?」

「そういうわけじゃなくて、普通に下手だっただけだよ……」

「だったら、下手でナイスだったってことでいいんじゃない?」

 栗原さんはポジティブに思ってくれたみたいだけど、僕としては上手くいってなかった。



「私、腕疲れちゃったー」

「アタシも。結構久しぶりだったからかなー」

 3ゲーム目も終わると、女子3人は既に満足している感じだった。かく言う僕も腕がボールの重さに負けてしまっていたからこれ以上続けられると困る。

「じゃあ、ちょっと休憩してからどこかお店でも寄ろうかー」

「松永、お手洗い行ってきていいか?」

「いいよ。りょーちゃんのシューズも返しとくねー」

 松永にお礼を言ってから僕はトイレへ向かう。

(なんか……どっと疲れた)

 それは腕の疲れだけじゃなくて、気疲れの方もあった。僕は協力したいと思っているけど、今日みたいな場になると返って邪魔になってしまうような気がしてならない。そもそも女子も混ざって遊ぶこの感じは松永のように慣れていない。そんなことを考えながらだと、変に疲れてしまった。

 それでも気持ちを切り替えて、僕はみんなのところへ戻ろうとしたその時。

「あっ、うぶクン」

 ちょうど大山さんも化粧直しをしていたようで、ばったりと会う。夏休み中に遊ぶのは二回目のはずだけど、なぜだか久しぶりな気持ちになる。

「お、お疲れ」

「ほんと疲れたよねー ていうか、うぶクンって瑞姫とあんなに仲良かったっけ?」

「いや、それは……いつの間にかなんとなくそうなったというか……」

「ふーん……」

 それが大山さんと本田くんをくっつけることがきっかけだったなんて言えない。でも、大山さんからすれば教室で話していなかった二人が急によく話しているのは不自然かもしれない。

 すると、大山さんは心配そうな表情で僕を見る。

「……うぶクン、ちゃんと楽しめてる?」

「えっ?」

「うぶクンがあんまり混ざれてなかったように見えて……あっ、別に上手い下手で言ってるワケじゃないよ?」

「わ、わかってる。だけど、僕も普通に楽しんでるよ。みんなの上手いプレイ見るのは面白いし」

「そ、そっか……うん、良かった」

 何だか大山さんらしくない微妙な反応だ。一応、楽しさがあるのは本当だけど、僕の疲れている感じがわかってしまったのだろうか。どう言葉を返せばいいか僕が迷っていると、また大山さんはゆっくりと口を開く。

「うぶクン。アタシね、あんまり大人数で遊ぶの……得意じゃないんだ」

「そ、そうなの!?」

「やっぱアタシってそういう感じには見えないよね?」

「いや……ごめん。勝手に驚いて」

「もー またうぶクン謝ってるじゃん。アタシから言ったことだから」

「でも……」

「アタシさ、一緒に遊べる人数の限界って4人だと思ってるの。なんていうか……それ以上になると、全員のこと見れなくなって、どうしても隔たりができちゃうから。それが男女混ざると余計にね」

 そう言った大山さんは何だか物憂げな表情に見えた。さっきボウリングをしていた時はそんな風では……いや、わからない。今日のボウリングもこの前のプールも、僕は大山さんがどういう表情をしていたか、よく見ていなかった。

「だから、今日のうぶクンもそうなってる気がして」

「そう、だったんだ」

「ご、ごめんね。変な話しちゃって。アタシが勝手に思っただけだから、気にしないで!」

 そう言い残して、大山さんは先にみんなのところへ戻って行った。

 その後、ファミレスで軽食を取りながらみんなと喋っていた時、大山さんは楽しそうな表情だった。それがいつも通りかと言われると……僕はわからなくなってしまった。これまでの僕や松永、それに栗原さんの言動は本田くんのためにと思ってやってきたものだ。でも、それは大山さんのことは何も考えていないことになる。
 
 僕も会話に混ざっていたけど、そのことが心に引っかかってしまった。
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