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1年生夏休み
8月3日(火)曇り 伊月茉奈との再会(?)
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夏休み14日目。文芸部が停止された火曜日の朝、僕はまた呼び出しを喰らうことになる。しかし、そのメッセージは清水先輩からではなく……松永からだった。
――今日、彼女と会わせたいんだけど大丈夫だよね?
いや、まず僕が暇かどうかを聞いてくれ……って、彼女と会わせる!? なんでだよ!? 暇だけど、何がどうなったらそうなるんだよ!?
そんな風にメッセージが来た瞬間は少し取り乱してしまったけど、明莉も含めて気になっていた松永の彼女の詳細が直接わかるチャンスだ。特に断る理由もないし、僕は暇だから会っていいと返事する。
そして、僕は集合場所へ向かい始めるけど……そこでまた冷静になって考えた。友達の彼女と会うのって普通のことなんだろうか。これから行くことで僕は惚気話でも聞かされる? それともただ紹介されてその後は二人の時間だからそこで解散? 僕にとって初めの経験だから何もわからない。
「りょーちゃん、お疲れー」
集合場所では既に松永ともう一人の人物……松永の彼女さんが待っていた。その彼女さんの第一印象は松永が好きそうな芸能人っぽい可愛らしさと透明感がある子だと思った。
「ああ、お疲れ。それで今日は……」
「立ち話はなんだし、ファミレスでも行くか―」
「いや、その前に……」
「自己紹介が先でしょ、浩太くん」
はきはきとした声で言う彼女さんに指摘されて、松永は「そうだったー」と軽く返す。後輩なのは間違いないけど、主導権を握っているのは彼女さんの方に見える。
「りょーちゃん、こちらは俺が春休みから付き合ってる伊月茉奈ちゃん。りょーちゃんは見たことあると思うけど」
「3年の伊月茉奈です。浩太くんがいつもお世話になってます」
お辞儀をする伊月さんを見て僕は……申し訳ないことに全然覚えてなかった。松永と伊月さんがそう言うからには同じ中学の後輩なんだろうけど、女の子の顔と名前は同級生を把握するので精一杯だった。
「産賀良助です。えっと……僕はあまり覚えがないんだけど、お久しぶりになるのかな?」
「すみません。私は全然覚えてないので、ほとんど初めましてになります」
はっきり覚えてないと言われてしまった。松永の交友関係は広かったから僕はその数いる中の一人に見られても不思議ではない。
「なーんだ、お互いに覚えてなかったんだ。でも、今日は茉奈ちゃんがりょーちゃんに会いたいって言ったから来て貰ったんだよ?」
「えっ? そ、そうなの……?」
「はい。浩太くんの話でよく聞くので、本当はどんな人なのか会ってみたくなったんです」
そう言った伊月さんの表情はどこか期待を含んでいるような気がした。松永はいったいどんな話をしているんだ。というか、彼女と会話に高頻度で出せるほど僕は面白いことはしていないはずだ。何だか今更緊張してきた。
そして、ファミレスに到着すると、僕は松永と伊月さんと向かい合って座った。緊張してしまった僕にはこれから面接でも始まるような雰囲気である。
「産賀さん、改めてお話を聞かせて貰いたいんですけど……」
「う、うん。そんなにかしこまらなくてもいいよ」
「いや、かしこまってるのりょーちゃんの方でしょ」
松永の指摘に伊月さんはクスリと笑う。よし、これで伊月さん……とついでに僕の緊張も少し解けた。何がウケるかわからないけど、話していくしかない。
「それで……高校だと浩太くんはどんな風にしてますか?」
「えっ? どんな風……?」
「話には聞いているんですが、産賀さんから見るとどんな感じです?」
ああ、そうか。てっきり僕は僕自身の面白エピソードを話さなければいけないのかと思ったけど、伊月さんが聞きたいのは彼氏である松永の話なんだ。いや、よく考えたらそうに決まっていた。慣れないせいで変な思考になっていた。
となると、普段の松永の話をするのだけど……その前に僕は一瞬だけ松永の方に目線を向ける。すると、松永は首を縦にも横にも振らなかった。つまりは自由に話していいのだろう。悪く言うつもりはないけど、ありのままを話そう。
「伊月さんの前だと松永がどういう感じかわからないけど、今日みたいな雰囲気でいるよ。自由気ままで面白おかしくやってる感じ」
「やっぱりそうなんですね。私の前でも基本そんな感じなので……」
「じゃあ、苦労す……じゃなくて、退屈しないでしょ?」
「……はい。浩太くんといると楽しいです」
頬を赤らながら言う伊月さんを見て松永は微笑みかける。ベタ惚れしているのはどうやら伊月さんのようだ。楽しく過ごせるという面では僕も松永は間違いないと思うので納得するけど、目に見えて好感触な女の子を見たのは意外に初めてな気がする。
「それで……産賀さん。そんな浩太くんなんですけど……」
「うんうん」
「他の女子とは……どんな感じですか?」
「うん? まぁ、松永は結構話すタイプだと思うけ……」
そこまで言いかけて、僕は咄嗟に思い出す。先日プールへ行く前、松永が他の女子と遊んでいるのを彼女さんがどう思うのか。その答えはあまり良くないというものだった。
「……ど、全然モテる感じではないね! うん!」
「本当ですか?」
「どっちかというとぞんざいに扱われてるかな!」
「そういうキャラクターじゃないんだけどなー」
松永は余計なひと言を付け加える。僕が方向転換したんだから余計なことは言うな。というか、ぞんざいな扱いについては別に間違ってない。
「産賀さんが言うなら……そうなんでしょうね」
「あの……伊月さんは松永から僕のことどう聞いてるの? もちろん、今言ったのは真実だけど、やけに信頼されてるような……」
「それは……本当によく浩太くんの話に出てくるので、よほど仲が良いとわかったからです。それだけ一緒にいる時間が長い友人なら嘘は付かないと思います」
「そ、そうだね……」
なんだろう。ちょっとだけ下駄を履かせたから胸が痛い。ただ、それよりも伊月さんが気持ちがいいくらい誠実な人なのがよくわかった。そんな子がなぜ松永に……というよりはそんな子だからこそ松永が好きになったんだと思う。松永は普段はお気楽だけど、根っこの部分が誠実なのは僕もわかっている。
「でもさ、りょーちゃん。茉奈ちゃんってば結構長い間、りょーちゃんのこと……」
「浩太くん!? それは言わないで!」
「えー? でも、りょーちゃんは当事者なわけだし、知っても大丈夫だと……」
「そうだとしても私の前では言わないで! 産賀さん、気にしないでくださいね!」
松永と伊月さんはそんな風なやり取りをしながらその後の時間も楽し気に話していた。それはもう僕がちょっと邪魔者じゃないかと思うくらいに。二人からすれば惚気るつもりはないんだろうけど、彼氏彼女の関係になればそういう距離間にもなるのだろう。
僕も想像くらいはしたことはあるけど……実際に彼女ができた友人を見ると、少しだけ違う世界に行ってしまったと思ってしまう日だった。
――今日、彼女と会わせたいんだけど大丈夫だよね?
いや、まず僕が暇かどうかを聞いてくれ……って、彼女と会わせる!? なんでだよ!? 暇だけど、何がどうなったらそうなるんだよ!?
そんな風にメッセージが来た瞬間は少し取り乱してしまったけど、明莉も含めて気になっていた松永の彼女の詳細が直接わかるチャンスだ。特に断る理由もないし、僕は暇だから会っていいと返事する。
そして、僕は集合場所へ向かい始めるけど……そこでまた冷静になって考えた。友達の彼女と会うのって普通のことなんだろうか。これから行くことで僕は惚気話でも聞かされる? それともただ紹介されてその後は二人の時間だからそこで解散? 僕にとって初めの経験だから何もわからない。
「りょーちゃん、お疲れー」
集合場所では既に松永ともう一人の人物……松永の彼女さんが待っていた。その彼女さんの第一印象は松永が好きそうな芸能人っぽい可愛らしさと透明感がある子だと思った。
「ああ、お疲れ。それで今日は……」
「立ち話はなんだし、ファミレスでも行くか―」
「いや、その前に……」
「自己紹介が先でしょ、浩太くん」
はきはきとした声で言う彼女さんに指摘されて、松永は「そうだったー」と軽く返す。後輩なのは間違いないけど、主導権を握っているのは彼女さんの方に見える。
「りょーちゃん、こちらは俺が春休みから付き合ってる伊月茉奈ちゃん。りょーちゃんは見たことあると思うけど」
「3年の伊月茉奈です。浩太くんがいつもお世話になってます」
お辞儀をする伊月さんを見て僕は……申し訳ないことに全然覚えてなかった。松永と伊月さんがそう言うからには同じ中学の後輩なんだろうけど、女の子の顔と名前は同級生を把握するので精一杯だった。
「産賀良助です。えっと……僕はあまり覚えがないんだけど、お久しぶりになるのかな?」
「すみません。私は全然覚えてないので、ほとんど初めましてになります」
はっきり覚えてないと言われてしまった。松永の交友関係は広かったから僕はその数いる中の一人に見られても不思議ではない。
「なーんだ、お互いに覚えてなかったんだ。でも、今日は茉奈ちゃんがりょーちゃんに会いたいって言ったから来て貰ったんだよ?」
「えっ? そ、そうなの……?」
「はい。浩太くんの話でよく聞くので、本当はどんな人なのか会ってみたくなったんです」
そう言った伊月さんの表情はどこか期待を含んでいるような気がした。松永はいったいどんな話をしているんだ。というか、彼女と会話に高頻度で出せるほど僕は面白いことはしていないはずだ。何だか今更緊張してきた。
そして、ファミレスに到着すると、僕は松永と伊月さんと向かい合って座った。緊張してしまった僕にはこれから面接でも始まるような雰囲気である。
「産賀さん、改めてお話を聞かせて貰いたいんですけど……」
「う、うん。そんなにかしこまらなくてもいいよ」
「いや、かしこまってるのりょーちゃんの方でしょ」
松永の指摘に伊月さんはクスリと笑う。よし、これで伊月さん……とついでに僕の緊張も少し解けた。何がウケるかわからないけど、話していくしかない。
「それで……高校だと浩太くんはどんな風にしてますか?」
「えっ? どんな風……?」
「話には聞いているんですが、産賀さんから見るとどんな感じです?」
ああ、そうか。てっきり僕は僕自身の面白エピソードを話さなければいけないのかと思ったけど、伊月さんが聞きたいのは彼氏である松永の話なんだ。いや、よく考えたらそうに決まっていた。慣れないせいで変な思考になっていた。
となると、普段の松永の話をするのだけど……その前に僕は一瞬だけ松永の方に目線を向ける。すると、松永は首を縦にも横にも振らなかった。つまりは自由に話していいのだろう。悪く言うつもりはないけど、ありのままを話そう。
「伊月さんの前だと松永がどういう感じかわからないけど、今日みたいな雰囲気でいるよ。自由気ままで面白おかしくやってる感じ」
「やっぱりそうなんですね。私の前でも基本そんな感じなので……」
「じゃあ、苦労す……じゃなくて、退屈しないでしょ?」
「……はい。浩太くんといると楽しいです」
頬を赤らながら言う伊月さんを見て松永は微笑みかける。ベタ惚れしているのはどうやら伊月さんのようだ。楽しく過ごせるという面では僕も松永は間違いないと思うので納得するけど、目に見えて好感触な女の子を見たのは意外に初めてな気がする。
「それで……産賀さん。そんな浩太くんなんですけど……」
「うんうん」
「他の女子とは……どんな感じですか?」
「うん? まぁ、松永は結構話すタイプだと思うけ……」
そこまで言いかけて、僕は咄嗟に思い出す。先日プールへ行く前、松永が他の女子と遊んでいるのを彼女さんがどう思うのか。その答えはあまり良くないというものだった。
「……ど、全然モテる感じではないね! うん!」
「本当ですか?」
「どっちかというとぞんざいに扱われてるかな!」
「そういうキャラクターじゃないんだけどなー」
松永は余計なひと言を付け加える。僕が方向転換したんだから余計なことは言うな。というか、ぞんざいな扱いについては別に間違ってない。
「産賀さんが言うなら……そうなんでしょうね」
「あの……伊月さんは松永から僕のことどう聞いてるの? もちろん、今言ったのは真実だけど、やけに信頼されてるような……」
「それは……本当によく浩太くんの話に出てくるので、よほど仲が良いとわかったからです。それだけ一緒にいる時間が長い友人なら嘘は付かないと思います」
「そ、そうだね……」
なんだろう。ちょっとだけ下駄を履かせたから胸が痛い。ただ、それよりも伊月さんが気持ちがいいくらい誠実な人なのがよくわかった。そんな子がなぜ松永に……というよりはそんな子だからこそ松永が好きになったんだと思う。松永は普段はお気楽だけど、根っこの部分が誠実なのは僕もわかっている。
「でもさ、りょーちゃん。茉奈ちゃんってば結構長い間、りょーちゃんのこと……」
「浩太くん!? それは言わないで!」
「えー? でも、りょーちゃんは当事者なわけだし、知っても大丈夫だと……」
「そうだとしても私の前では言わないで! 産賀さん、気にしないでくださいね!」
松永と伊月さんはそんな風なやり取りをしながらその後の時間も楽し気に話していた。それはもう僕がちょっと邪魔者じゃないかと思うくらいに。二人からすれば惚気るつもりはないんだろうけど、彼氏彼女の関係になればそういう距離間にもなるのだろう。
僕も想像くらいはしたことはあるけど……実際に彼女ができた友人を見ると、少しだけ違う世界に行ってしまったと思ってしまう日だった。
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