121 / 942
1年生夏休み
8月2日(月)晴れ 清水夢愛との夏散歩その2
しおりを挟む
夏休み13日目。ご察しの通り、僕はその日も早起きすることになった。今日の場合は7時だったけど、僕を起こした通知音は「良助、暇か?」と3つのスタンプによるものだった。
「いや、2日連続で呼ばれるとは思わないじゃないですか」
「え? 良助、暇だから来たんじゃないのか?」
「暇は暇ですけど……」
高校付近のコンビニに着くと、昨日同様に清水先輩は仁王立ちで待っていた。到着早々文句を垂れてしまったけど、確かに来てしまう僕も僕である。
「別に嫌なわけじゃないんです。ただ、昨日僕が行ったなら今日は桜庭先輩を誘う流れじゃないんですか?」
「いや、ない。小織とは先月嫌と言うほど会って話をしたからな」
「それは……仕方ないですね」
ちょっと嫌味を言えるくらい仲良くなっているならいいけど、その嫌味が駄目な方向に働かなくて良かった。そうでなければ僕と清水先輩は2日連続で暑い中散歩できていなかった……今のは嫌味じゃない。
それから今日も特に目的地もなく歩き始める。もはやそれにツッコまなくなってしまったけど、僕は話し相手がいるから全然退屈してないだけで、清水先輩がいつも一人で歩いている時は適当に歩いた方が景色が変わっていいのかもしれない。
「清水先輩って桜庭先輩とどんな話をするんですか?」
せっかく話題に出したから今日は桜庭先輩との話を聞いてみることにした。
「それは喧嘩の時の話か?」
「いえ、そうじゃなくて、普段の話です」
「うーん……それを良助に聞かせるのはどうなんだ?」
珍しく……と言ったら失礼だけど、良識的な返しをされてしまった。確かに男子の僕が女子の先輩二人の会話内容が気になると言うのは引かれても仕方ない。
「というか、良助。私と小織の喧嘩のことは全然聞いてこないじゃないか」
「えっ? だってもう解決した話ですし、蒸し返すのはどうかと……」
「いや、良助は知っててもいいと思うぞ」
「そ、そう言われましても……」
「小織は強情なところがあって本当に困った」
「聞いてないのに言った!?」
二人が話しているところを見た時は何となく桜庭先輩が押しているように見えたけど、清水先輩も物申したいことはあったようだ。そうじゃなかったらもっと話し合いは早く解決していたのかもしれない。
「私はすぐに引き下がったんだ。喧嘩を長く続けたくなかったから。だが、小織はそれじゃダメだと言って、何がダメなんだと聞いたら、それじゃ意味がないと言ってきた。最初のうちはこれの繰り返しだ」
「で、でも、結果的には清水先輩も意味がわかったから仲直りできたんですよね……?」
「まぁ、そうだな。だけど、その間も小織はよく考えてとか、もう一度考えてとか、保護者か教師に促されている気分になるほど言われたんだ。ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないか」
「あはは……」
終わったことなので僕は同意も反論も口に出せないけど、清水先輩を突き動かすにはそれくらい徹底した働きかけが必要だったのかもしれない。もちろん、清水先輩が言う通り、桜庭先輩の性格上のやり方も含んでいるのだろうけど。
「うむ……こういう話を誰かに言っておくのはいいものだな」
「はい。でも、あんまり他人へ言い過ぎると、悪口になってしまうので……」
「それなら心配ない。これは小織本人にも直接言ったことだ」
「あっ、そうだったんですか。なら、良かったです」
「いや、良くない。言ったら私の良くないところを10個言い返された」
それはまた随分と多い。それだけ小学校の時からうっぷんが貯まっていたなら桜庭先輩が言ったように、僕が関わらなくてもいつか爆発していた可能性は十分ある。
「だが……言い合いができて良かったとも思う。私は自分でもわかっているが、飽きっぽいところはある。それでも長く言い合いをしたのは、小織に対してそういう扱いをしたくなかったからだ。今までみたいに避けて終わりにしたくなかった」
「じゃあ……やっぱり良かったです」
清水先輩がいきなり喧嘩の話を持ち出したのは……前と同じように自分の中で整理したかったからだろう。既に終わったことではあるけど、他の人に話せばまた思い返せる。それはきっといい結果に終わったことを噛み締めるためだ。
「……それはそれとして、小織について言いたいことはまだある」
「えっ」
「だいたい小織は……」
その後も今日の会話の8割くらいは清水先輩による桜庭先輩に対する愚痴や物言いだった。終わり良ければ総て良しの原理を採用するならこの件は円満に終わっている……はずだ。だから、僕はもう何も心配する必要はないし、今日のことも明日には忘れておこう。
「いや、2日連続で呼ばれるとは思わないじゃないですか」
「え? 良助、暇だから来たんじゃないのか?」
「暇は暇ですけど……」
高校付近のコンビニに着くと、昨日同様に清水先輩は仁王立ちで待っていた。到着早々文句を垂れてしまったけど、確かに来てしまう僕も僕である。
「別に嫌なわけじゃないんです。ただ、昨日僕が行ったなら今日は桜庭先輩を誘う流れじゃないんですか?」
「いや、ない。小織とは先月嫌と言うほど会って話をしたからな」
「それは……仕方ないですね」
ちょっと嫌味を言えるくらい仲良くなっているならいいけど、その嫌味が駄目な方向に働かなくて良かった。そうでなければ僕と清水先輩は2日連続で暑い中散歩できていなかった……今のは嫌味じゃない。
それから今日も特に目的地もなく歩き始める。もはやそれにツッコまなくなってしまったけど、僕は話し相手がいるから全然退屈してないだけで、清水先輩がいつも一人で歩いている時は適当に歩いた方が景色が変わっていいのかもしれない。
「清水先輩って桜庭先輩とどんな話をするんですか?」
せっかく話題に出したから今日は桜庭先輩との話を聞いてみることにした。
「それは喧嘩の時の話か?」
「いえ、そうじゃなくて、普段の話です」
「うーん……それを良助に聞かせるのはどうなんだ?」
珍しく……と言ったら失礼だけど、良識的な返しをされてしまった。確かに男子の僕が女子の先輩二人の会話内容が気になると言うのは引かれても仕方ない。
「というか、良助。私と小織の喧嘩のことは全然聞いてこないじゃないか」
「えっ? だってもう解決した話ですし、蒸し返すのはどうかと……」
「いや、良助は知っててもいいと思うぞ」
「そ、そう言われましても……」
「小織は強情なところがあって本当に困った」
「聞いてないのに言った!?」
二人が話しているところを見た時は何となく桜庭先輩が押しているように見えたけど、清水先輩も物申したいことはあったようだ。そうじゃなかったらもっと話し合いは早く解決していたのかもしれない。
「私はすぐに引き下がったんだ。喧嘩を長く続けたくなかったから。だが、小織はそれじゃダメだと言って、何がダメなんだと聞いたら、それじゃ意味がないと言ってきた。最初のうちはこれの繰り返しだ」
「で、でも、結果的には清水先輩も意味がわかったから仲直りできたんですよね……?」
「まぁ、そうだな。だけど、その間も小織はよく考えてとか、もう一度考えてとか、保護者か教師に促されている気分になるほど言われたんだ。ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないか」
「あはは……」
終わったことなので僕は同意も反論も口に出せないけど、清水先輩を突き動かすにはそれくらい徹底した働きかけが必要だったのかもしれない。もちろん、清水先輩が言う通り、桜庭先輩の性格上のやり方も含んでいるのだろうけど。
「うむ……こういう話を誰かに言っておくのはいいものだな」
「はい。でも、あんまり他人へ言い過ぎると、悪口になってしまうので……」
「それなら心配ない。これは小織本人にも直接言ったことだ」
「あっ、そうだったんですか。なら、良かったです」
「いや、良くない。言ったら私の良くないところを10個言い返された」
それはまた随分と多い。それだけ小学校の時からうっぷんが貯まっていたなら桜庭先輩が言ったように、僕が関わらなくてもいつか爆発していた可能性は十分ある。
「だが……言い合いができて良かったとも思う。私は自分でもわかっているが、飽きっぽいところはある。それでも長く言い合いをしたのは、小織に対してそういう扱いをしたくなかったからだ。今までみたいに避けて終わりにしたくなかった」
「じゃあ……やっぱり良かったです」
清水先輩がいきなり喧嘩の話を持ち出したのは……前と同じように自分の中で整理したかったからだろう。既に終わったことではあるけど、他の人に話せばまた思い返せる。それはきっといい結果に終わったことを噛み締めるためだ。
「……それはそれとして、小織について言いたいことはまだある」
「えっ」
「だいたい小織は……」
その後も今日の会話の8割くらいは清水先輩による桜庭先輩に対する愚痴や物言いだった。終わり良ければ総て良しの原理を採用するならこの件は円満に終わっている……はずだ。だから、僕はもう何も心配する必要はないし、今日のことも明日には忘れておこう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる