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1年生夏休み
7月28日(水)晴れ 大山亜里沙との夏遊び
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夏休み8日目。今日は色んな思惑があるプールへ行く日だ。ということで場面はプール……ではなく、僕の家を出たところから始まる。集合場所へ行く前に松永と合流することになっていたのだ。
「りょーちゃん、作戦会議を始める」
その理由は松永の言葉通り、今日の作戦会議をするためらしい。松永から一方的に言われたので僕は何のことだかさっぱりだった。
「えっと……具体的に何の?」
「そりゃあ、ぽんちゃんと大山ちゃんを上手いこと引っ付ける作戦」
「本田くんの……知ってたんだ」
「知ってなきゃ今回のやつに参加してないよ。まー、りょーちゃんはだいぶ前から知ってたみたいだけど」
その言い方からして松永が本田くんの恋煩いを知ったのは結構最近のことなのだろう。その場合、本田くんから松永に相談したのか、松永が本田くんから感じ取ったのか。何となく後者である気がするけど、今日のところはその疑問は置いておこう。
「でも、あんまり露骨にやるわけにはいかないだろ。今日のは普通に遊ぶ目的だし」
「だから、何となくぽんちゃんと大山ちゃんがペアになるタイミングを作るって作戦。ちょうど男女3人ずつでそれっぽくなるでしょ?」
なるでしょ?と言われても僕が考えると、3人ずつだったところで男女ペアにはできない確立の方が高いと思ってしまう。というか、そのために人数調整されていたのか。
「ちなみにりょーちゃんは栗原ちゃんと斎藤ちゃんだとどっちがいい?」
「ど、どっちって……そういう言い方はちょっと……」
「いや、りょーちゃんが話しやすい方がいいかと思って」
そういうことなら……と思ったけど、それはそれで困る選択だ。今日来る大山さん以外の二人は、斎藤さんは中学が同じだし、話したことはあるけど、松永を通して話すことがほとんどだったから仮にペアになってもどう話せばいいかわからない。
一方で、栗原さんは宿泊研修で同じ班だったし、席替えするまでは話すこともあったけど、こっちは大山さんを通して話すことが多かったから状況としてはあまり変わらない。つまり、どちらを選んでも詰んでいる。
「松永がどっちか選んだら僕が選ばなかった方を担当するから……」
「いや、俺は選びづらいところあるんだよねぇ」
「なんでだ。僕だって選びづらいのに」
「俺は彼女いるから」
「…………は?」
突然のカミングアウトに僕は固まってしまう。いや、こいつどさくさに紛れてとんでもないことを言っているな!?
「か、彼女って、いつ!? 誰!?」
「ははっ。りょーちゃん、聞き方雑になってる。春休みに入ったくらいから後輩と」
「なんで言わなかったんだ!?」
「おー、やっぱり言った」
「やっぱりって何だよ!?」
「いやー 別に聞かれなかったから言うタイミングなかった」
確かにまるで気付いてない僕も僕だけど、だとしたら何で今日このタイミングで言うんだ!? 完全に今の流れで済ましておこうって言い方だった!
「まー とりあえず成り行きで何とかするか」
「成り行きって……そもそも彼女いるのに他の女の子と遊んで大丈夫なのか?」
「りょーちゃん、そういうの気にするタイプ?」
「気になるようなこと言い出したのお前の方だ」
「そんなに怒んないでよー 俺の彼女は……気にするかどうかで言えば気にするかも。だから、今後りょーちゃんが会うことがあったらナイショにしていて」
「松永、お前……」
別にやましいことをするわけじゃないから僕が心配することでもないだろうけど、やっぱり今日聞きたくない情報だった。本田くんと大山さんの方で手一杯になるかもしれないのに松永のことにまで意識を持っていかれたくない。
「あっ、ぽんちゃんお疲れ~」
そんなことを考えているうちに集合場所へ着いてしまった。それから少しすると、女子3人もやって来たから碌に作戦会議ができないままバスに乗車した。プールは高校を基準にすると少し離れた位置にある屋内のアミューズメントプールだ。20分ほどかかって到着すると、受付を済ませて男女分かれて更衣室へ入っていく。
「ぽんちゃん、りょーちゃん、覚悟はできてるな?」
その更衣室での着替えの途中、松永はそんなことを言ってきた。本田くんはまだしも僕にも必要な覚悟とはなんだ。ポカンとする本田くんと僕を見て松永は話を続ける。
「今から3人の水着姿を拝むことになるってこと。まぁ、ぽんちゃんはそこが狙いではあるんだろうけど」
「狙いじゃない……と言ったら嘘になる」
言われてみると同級生の、しかも異性の水着姿を見るのは遠い昔の小学校以来になる……って、そういうことを考えると、変に意識してしまうじゃないか。いやいや、考えちゃ駄目だ。こういうノリは男子だけの空間に留めておかなければ。
◇
プールへ入場すると、夏休みということもあって小さな子どもを連れた家族や僕たちと同じような男女の集まりが大勢いた。久しく学校以外のプールに来てなかったけど、いつか来た時もこんな混み合った光景だったことを思い出す。
「お待たせ~」
僕たちが入ってから5分ほど経つと、大山さんたちがやって来た。
「おお! みんないい感じじゃん!」
「別に松永の感想は求めてないんですケドー」
「ひどいなぁ。じゃあ、ぽんちゃんはどう?」
「……ああ、よく似合ってる」
「新しく買ったからねー」
三人の水着は僕が想像していたよりも……結構大胆な感じだった。いや、これを言うと僕がまるでウブなやつに思われるかもしれないけど、お腹は隠れておらず、布面積も決して大きいわけじゃないから少々目のやり場に困ってしまった。もちろん、似合っているのは間違いない。
「じゃー まずは流れていきますか!」
そんな僕をよそに松永は率先してみんなを引き連れて行く。ここに着く前は一瞬松永への信頼を失いそうだったけど、やっぱりこういう場面はいてくれた方が助かる。実際、本田くんに頼られたところで僕には色々なセッティングはできない。
「わっ!」
「わぁ!? び、びっくりしたぁ」
いきなり後ろから声をかけてきたのは大山さんだった。
「うぶクン、なにぼーっとしてるの? もしかしてアタシたちの水着に見惚れちゃった?」
「いや、あの、その……」
「あれ? マジなやつだった?」
そう言われて改めて近くで水着を見ると、やっぱり刺激的だ。何というか普段は制服の姿しか見ていないからどうしても恰好は気になってしまうし、それに僕も興味がないかといえば……ってこんなこと考えてる場合じゃない。僕が大山さんと話してどうする。
「ほ、ほら、早く流れに行こう!」
逃げるようにして他のみんなと合流すると、このアミューズメントプール内で一番広いプールである流れるプールに入る。プールの施設としては定番だけど、正直なところ、ここで具体的にどう遊ぶ場所なのかはよくわかっていない。他のお客さんが持っているような色々な形の浮き輪に乗ってゆるりと過ごすのが正解なんだろうか。
「斎藤ちゃんとプール来るの久しぶりだなー 前に来たのはいつだっけ?」
「大山はここ来たことあるのか?」
松永と本田くんはそれぞれ流れに身を任せながら斎藤さんと大山さんと話し始める。特に打ち合わせしなかったのに本田くんも積極的にいけるのは距離間が近くなった証拠かもしれない。ただ、二人がそうやって話すとなると、僕が話さなければいけないのは……
「産賀くん、なんか久しぶりだねー あはは!」
「ど、どうも……」
栗原さんになる。いや、栗原さんは苦手なタイプというわけじゃなく、純粋に何を話せばいいかわからない。こんなところまで来て学校の話題を振るのも何だし、かといってプールに絡めて話せることは……み、水着か。水着を褒める……のはセーフなんだろうか。
「ねぇ、産賀くんさー」
「は、はい!」
「本田くんって亜里沙のこと狙ってるの?」
「……ええっ!?」
予想していなかった話題に思わず僕は本田くんと大山さんの方を見る。二人は先に流れていったから話は聞こえていないはずだ。
「な、なんのこと……」
「ほー その反応は……合ってるぽいね」
にやりと笑う栗原さんを見て誤魔化しがきかないとすぐにわかった。この話題を振ったのも二人が先に行っているのをわかって言ったんだろう。
「僕ってそんなにわかりやすい顔してる?」
「うーん? 別に産賀くんだけじゃなくて、夏休み前とか今日のこの集まりとかなんとなーく考えたらそうかなって思ったの。もしかして私、名探偵だったりする?」
「……少なくとも僕はそう思うかも」
「あはは! 何それウケるー!」
軽いノリで返してくるけど、その推察力に僕は驚いていた。確かに今日の集まりでは察せられる部分もあったかもしれない。それでも本田くんと大山さんの二人をズバリ言い当てるのは凄いことだ。
「まぁ、そういうことならそれでいいと思うけど。亜里沙も楽しそうにしてるし」
「それなら良かった……」
「産賀くんは?」
「えっ?」
「ほら、一時期は亜里沙と噂が……」
「あれは誤解だから! 誰が言い出したのかわからないけど……」
「冗談だって。私もナシよりのナシだと思ってたし」
その噂話がどれくらい広まっているかは知りたくないけど、少なくともクラスの女子はそれなり知っていたことが推測できる。その当時に何か言われないで本当に良かった。
「あっ、ちなみに私は彼氏いるから」
「別に何も言ってないよ!?」
「あはは! 産賀くんはからかいがいあるな~」
今日だけで他の人の彼氏彼女事情がどんどんと入ってくるのは開放的な空気のせい……ではなく、高校生くらいになるとそういう関係ができあがってくるのが普通で、僕が話に付いていけてないだけなのかもしれない。現に本田くんも自分の恋のために今日は奮闘している。
「それじゃあ、私たちも追いつこうかー 産賀くん、連れてってー」
「うわぁ!? な、何してるの!?」
「浮き輪とかないから代わり~!」
栗原さんに腰を掴まれた僕は彼氏さんに悪く思われないだろうか……とまたその場にいない人のことを考えてしまいながら更に流れに乗って行った。
◇
それからウォータースライダーやら貸し出しのボールやらプールの様々なアクティビティをしながら2時間ほどでプールでの遊びはお開きとなった。その間も僕は栗原さんの話し相手になって、普段の話とか彼氏さんの話とかを聞かされたけど……疲れたせいか内容は半分も覚えてない。
でも、栗原さんが僕と一緒にいたのは本田くんと大山さんのことを考えてのことだったようにも思える。プールでの時間は二人でよく話していたし、栗原さんも言ったように大山さんが楽しそうだったから今回は大成功だった。
「じゃあ、今度はボウリング行こうか。みんな予定教えてー」
ただ、第二弾にまで巻き込まれるのは聞いてなかった。帰りのバスで松永がまた予定を聞いているから、僕を含めてメンバーはこれで固定されてしまったようだ。
すると、栗原さんが僕の方へ来てこっそり耳打ちする。
「二人がどうなるか、楽しみだね……あはは!」
僕はそれに対して愛想笑いしか返せなかった。本田くんに協力したいのは山々だけど……この空気に巻き込まれるのはやっぱり気疲れする。
「りょーちゃん、作戦会議を始める」
その理由は松永の言葉通り、今日の作戦会議をするためらしい。松永から一方的に言われたので僕は何のことだかさっぱりだった。
「えっと……具体的に何の?」
「そりゃあ、ぽんちゃんと大山ちゃんを上手いこと引っ付ける作戦」
「本田くんの……知ってたんだ」
「知ってなきゃ今回のやつに参加してないよ。まー、りょーちゃんはだいぶ前から知ってたみたいだけど」
その言い方からして松永が本田くんの恋煩いを知ったのは結構最近のことなのだろう。その場合、本田くんから松永に相談したのか、松永が本田くんから感じ取ったのか。何となく後者である気がするけど、今日のところはその疑問は置いておこう。
「でも、あんまり露骨にやるわけにはいかないだろ。今日のは普通に遊ぶ目的だし」
「だから、何となくぽんちゃんと大山ちゃんがペアになるタイミングを作るって作戦。ちょうど男女3人ずつでそれっぽくなるでしょ?」
なるでしょ?と言われても僕が考えると、3人ずつだったところで男女ペアにはできない確立の方が高いと思ってしまう。というか、そのために人数調整されていたのか。
「ちなみにりょーちゃんは栗原ちゃんと斎藤ちゃんだとどっちがいい?」
「ど、どっちって……そういう言い方はちょっと……」
「いや、りょーちゃんが話しやすい方がいいかと思って」
そういうことなら……と思ったけど、それはそれで困る選択だ。今日来る大山さん以外の二人は、斎藤さんは中学が同じだし、話したことはあるけど、松永を通して話すことがほとんどだったから仮にペアになってもどう話せばいいかわからない。
一方で、栗原さんは宿泊研修で同じ班だったし、席替えするまでは話すこともあったけど、こっちは大山さんを通して話すことが多かったから状況としてはあまり変わらない。つまり、どちらを選んでも詰んでいる。
「松永がどっちか選んだら僕が選ばなかった方を担当するから……」
「いや、俺は選びづらいところあるんだよねぇ」
「なんでだ。僕だって選びづらいのに」
「俺は彼女いるから」
「…………は?」
突然のカミングアウトに僕は固まってしまう。いや、こいつどさくさに紛れてとんでもないことを言っているな!?
「か、彼女って、いつ!? 誰!?」
「ははっ。りょーちゃん、聞き方雑になってる。春休みに入ったくらいから後輩と」
「なんで言わなかったんだ!?」
「おー、やっぱり言った」
「やっぱりって何だよ!?」
「いやー 別に聞かれなかったから言うタイミングなかった」
確かにまるで気付いてない僕も僕だけど、だとしたら何で今日このタイミングで言うんだ!? 完全に今の流れで済ましておこうって言い方だった!
「まー とりあえず成り行きで何とかするか」
「成り行きって……そもそも彼女いるのに他の女の子と遊んで大丈夫なのか?」
「りょーちゃん、そういうの気にするタイプ?」
「気になるようなこと言い出したのお前の方だ」
「そんなに怒んないでよー 俺の彼女は……気にするかどうかで言えば気にするかも。だから、今後りょーちゃんが会うことがあったらナイショにしていて」
「松永、お前……」
別にやましいことをするわけじゃないから僕が心配することでもないだろうけど、やっぱり今日聞きたくない情報だった。本田くんと大山さんの方で手一杯になるかもしれないのに松永のことにまで意識を持っていかれたくない。
「あっ、ぽんちゃんお疲れ~」
そんなことを考えているうちに集合場所へ着いてしまった。それから少しすると、女子3人もやって来たから碌に作戦会議ができないままバスに乗車した。プールは高校を基準にすると少し離れた位置にある屋内のアミューズメントプールだ。20分ほどかかって到着すると、受付を済ませて男女分かれて更衣室へ入っていく。
「ぽんちゃん、りょーちゃん、覚悟はできてるな?」
その更衣室での着替えの途中、松永はそんなことを言ってきた。本田くんはまだしも僕にも必要な覚悟とはなんだ。ポカンとする本田くんと僕を見て松永は話を続ける。
「今から3人の水着姿を拝むことになるってこと。まぁ、ぽんちゃんはそこが狙いではあるんだろうけど」
「狙いじゃない……と言ったら嘘になる」
言われてみると同級生の、しかも異性の水着姿を見るのは遠い昔の小学校以来になる……って、そういうことを考えると、変に意識してしまうじゃないか。いやいや、考えちゃ駄目だ。こういうノリは男子だけの空間に留めておかなければ。
◇
プールへ入場すると、夏休みということもあって小さな子どもを連れた家族や僕たちと同じような男女の集まりが大勢いた。久しく学校以外のプールに来てなかったけど、いつか来た時もこんな混み合った光景だったことを思い出す。
「お待たせ~」
僕たちが入ってから5分ほど経つと、大山さんたちがやって来た。
「おお! みんないい感じじゃん!」
「別に松永の感想は求めてないんですケドー」
「ひどいなぁ。じゃあ、ぽんちゃんはどう?」
「……ああ、よく似合ってる」
「新しく買ったからねー」
三人の水着は僕が想像していたよりも……結構大胆な感じだった。いや、これを言うと僕がまるでウブなやつに思われるかもしれないけど、お腹は隠れておらず、布面積も決して大きいわけじゃないから少々目のやり場に困ってしまった。もちろん、似合っているのは間違いない。
「じゃー まずは流れていきますか!」
そんな僕をよそに松永は率先してみんなを引き連れて行く。ここに着く前は一瞬松永への信頼を失いそうだったけど、やっぱりこういう場面はいてくれた方が助かる。実際、本田くんに頼られたところで僕には色々なセッティングはできない。
「わっ!」
「わぁ!? び、びっくりしたぁ」
いきなり後ろから声をかけてきたのは大山さんだった。
「うぶクン、なにぼーっとしてるの? もしかしてアタシたちの水着に見惚れちゃった?」
「いや、あの、その……」
「あれ? マジなやつだった?」
そう言われて改めて近くで水着を見ると、やっぱり刺激的だ。何というか普段は制服の姿しか見ていないからどうしても恰好は気になってしまうし、それに僕も興味がないかといえば……ってこんなこと考えてる場合じゃない。僕が大山さんと話してどうする。
「ほ、ほら、早く流れに行こう!」
逃げるようにして他のみんなと合流すると、このアミューズメントプール内で一番広いプールである流れるプールに入る。プールの施設としては定番だけど、正直なところ、ここで具体的にどう遊ぶ場所なのかはよくわかっていない。他のお客さんが持っているような色々な形の浮き輪に乗ってゆるりと過ごすのが正解なんだろうか。
「斎藤ちゃんとプール来るの久しぶりだなー 前に来たのはいつだっけ?」
「大山はここ来たことあるのか?」
松永と本田くんはそれぞれ流れに身を任せながら斎藤さんと大山さんと話し始める。特に打ち合わせしなかったのに本田くんも積極的にいけるのは距離間が近くなった証拠かもしれない。ただ、二人がそうやって話すとなると、僕が話さなければいけないのは……
「産賀くん、なんか久しぶりだねー あはは!」
「ど、どうも……」
栗原さんになる。いや、栗原さんは苦手なタイプというわけじゃなく、純粋に何を話せばいいかわからない。こんなところまで来て学校の話題を振るのも何だし、かといってプールに絡めて話せることは……み、水着か。水着を褒める……のはセーフなんだろうか。
「ねぇ、産賀くんさー」
「は、はい!」
「本田くんって亜里沙のこと狙ってるの?」
「……ええっ!?」
予想していなかった話題に思わず僕は本田くんと大山さんの方を見る。二人は先に流れていったから話は聞こえていないはずだ。
「な、なんのこと……」
「ほー その反応は……合ってるぽいね」
にやりと笑う栗原さんを見て誤魔化しがきかないとすぐにわかった。この話題を振ったのも二人が先に行っているのをわかって言ったんだろう。
「僕ってそんなにわかりやすい顔してる?」
「うーん? 別に産賀くんだけじゃなくて、夏休み前とか今日のこの集まりとかなんとなーく考えたらそうかなって思ったの。もしかして私、名探偵だったりする?」
「……少なくとも僕はそう思うかも」
「あはは! 何それウケるー!」
軽いノリで返してくるけど、その推察力に僕は驚いていた。確かに今日の集まりでは察せられる部分もあったかもしれない。それでも本田くんと大山さんの二人をズバリ言い当てるのは凄いことだ。
「まぁ、そういうことならそれでいいと思うけど。亜里沙も楽しそうにしてるし」
「それなら良かった……」
「産賀くんは?」
「えっ?」
「ほら、一時期は亜里沙と噂が……」
「あれは誤解だから! 誰が言い出したのかわからないけど……」
「冗談だって。私もナシよりのナシだと思ってたし」
その噂話がどれくらい広まっているかは知りたくないけど、少なくともクラスの女子はそれなり知っていたことが推測できる。その当時に何か言われないで本当に良かった。
「あっ、ちなみに私は彼氏いるから」
「別に何も言ってないよ!?」
「あはは! 産賀くんはからかいがいあるな~」
今日だけで他の人の彼氏彼女事情がどんどんと入ってくるのは開放的な空気のせい……ではなく、高校生くらいになるとそういう関係ができあがってくるのが普通で、僕が話に付いていけてないだけなのかもしれない。現に本田くんも自分の恋のために今日は奮闘している。
「それじゃあ、私たちも追いつこうかー 産賀くん、連れてってー」
「うわぁ!? な、何してるの!?」
「浮き輪とかないから代わり~!」
栗原さんに腰を掴まれた僕は彼氏さんに悪く思われないだろうか……とまたその場にいない人のことを考えてしまいながら更に流れに乗って行った。
◇
それからウォータースライダーやら貸し出しのボールやらプールの様々なアクティビティをしながら2時間ほどでプールでの遊びはお開きとなった。その間も僕は栗原さんの話し相手になって、普段の話とか彼氏さんの話とかを聞かされたけど……疲れたせいか内容は半分も覚えてない。
でも、栗原さんが僕と一緒にいたのは本田くんと大山さんのことを考えてのことだったようにも思える。プールでの時間は二人でよく話していたし、栗原さんも言ったように大山さんが楽しそうだったから今回は大成功だった。
「じゃあ、今度はボウリング行こうか。みんな予定教えてー」
ただ、第二弾にまで巻き込まれるのは聞いてなかった。帰りのバスで松永がまた予定を聞いているから、僕を含めてメンバーはこれで固定されてしまったようだ。
すると、栗原さんが僕の方へ来てこっそり耳打ちする。
「二人がどうなるか、楽しみだね……あはは!」
僕はそれに対して愛想笑いしか返せなかった。本田くんに協力したいのは山々だけど……この空気に巻き込まれるのはやっぱり気疲れする。
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