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1年生1学期
7月20日(火)晴れ 岸本路子との交流その16
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1学期の終業式。入学してからの約3ヶ月は長いようで短かった……というテンプレートな振り返りをしてしまうけど、実際のところ普段の授業は延々と続くように感じられたし、テスト前の時間はこんなにも短いのかと感じたりもした。
全校生が集まった終業式は滞りなく進んでいく。僕はその中で、ふと2年生の列を見た。文芸部の先輩方も恐らくいる中で、僕が気にしていたのは清水先輩と桜庭先輩だ。結局、この終業式の日まで桜庭先輩のから連絡は来なかった。
つまりは話が平行線のまま、清水先輩と桜庭先輩は夏休みを迎えてしまう。それを僕が気にしたところでどうにかできるわけではないけど、やるせなく思ってしまう。
終業式の後、教室で夏休みの諸注意を受けると、1学期はそこで終了した。いつもの3人や大山さんとは夏休み中も何かしら声を聞いたり、顔を合わせたりすることはあるだろうけど、他のクラスメイトとは暫しのお別れとなりそうだ。「また夏休み明けに」という言葉を繰り返して、僕は教室を出た。
「産賀くん」
すると、いつかと同じように廊下で岸本さんが待っていた。次に会うのは金曜日と思っていたけど、何か用事があるのだろうか。
「どうしたの、岸本さん? 今日は部活に行かない予定だったけど……」
「今日は部活の用事じゃなくて……」
岸本さんが手で指す方を見ると、そこには一人の女子生徒がいた。どことなく見覚えのあるその子はしっかり岸本さんの隣にいたのに、紹介されるまで気が付かなかった。
「えっと……」
「産賀くん、彼女が花園さん。この前、産賀くんのことを話したら一度会っておきたいと言って……」
「こんにちは。産賀良助さん」
小さくお辞儀をした花園さんに僕も軽くお辞儀しながら「どうも」と返す。なるほど、この子が花園さんか。1組の教室で見た時は後ろ姿と口元しかわからなかったから薄っすらとした記憶だったんだ。
「お話は岸本さんから常々伺っておりました」
「僕も時々話は聞いてました。でも、わざわざ会ってくれるとは思ってなかったです」
「はい。ぜひ岸本さんの初めてを奪った男子の顔を見ておきたかったのです」
「……は!?」
突然の花園さんの言葉に僕は周りを見てしまう。でも、岸本さんは全く気にしていないし、他の人も聞いていなかったみたいだ。
「は、花園さん、今のはどういう……?」
「産賀良助さんは岸本さんの初めのお友達になったと聞いていたのですが」
「そ、そうですけど……その表現はちょっと」
「問題があるでしょうか?」
あると言いたいところだけど、よく考えたら花園さんとは初対面だった。お互いに話を聞いているとはいえ、初対面のやつが発言に目くじらを立てるのは気分が良くないだろう。それに周りが……特に岸本さんが変な意味に取っていないなら僕から言えることは何もない。
「いえ、僕が聞き間違ってしまったみたいです」
「そうでしたか。それでは産賀良助さん、また会う日まで」
「えっ? あっ、はい……また」
「岸本さんもさようなら。あの件、楽しみにしていますね」
それだけ言って花園さんは岸本さんを置いて先に帰ってしまった。
「本当に顔だけ見に来たんだ……」
「産賀くん、時間を取ってくれてありがとう」
「ううん。岸本さんが花園さんと仲良くなれたみたいで良かったよ」
「そう見えたのならいいのだけれど……まだこれからだと思うわ」
岸本さんはそう言うけれど、今日みたく一緒に行動するくらいだから僕から見れば岸本さんと花園さんは友人関係になっている。あとは岸本さん自身が納得するだけだ。
「産賀くん、良ければ途中まで帰りましょう。あっ、本当に良ければだけれど……」
「全然大丈夫。でも、花園さんは何で先に帰っちゃったんだろう」
「それは……結構そういうところがあるの、花園さん」
「そういうところ……?」
「なんて表現するのか正しいのかわからないのだけれど……こう、ふわっとした感じというか、時折読めない感じというか……」
「不思議な感じ?」
「それが近いかもしれないわ」
それから途中まで岸本さんと帰りながら花園さんのことを聞いたけど、それなりに話している岸本さんでもわからないところが多いらしい。そんな花園さんが岸本さんと話すようになったのは……僕が清水先輩に興味を持たれたような、花園さんにしかない感覚があったからなのかもしれない。
全校生が集まった終業式は滞りなく進んでいく。僕はその中で、ふと2年生の列を見た。文芸部の先輩方も恐らくいる中で、僕が気にしていたのは清水先輩と桜庭先輩だ。結局、この終業式の日まで桜庭先輩のから連絡は来なかった。
つまりは話が平行線のまま、清水先輩と桜庭先輩は夏休みを迎えてしまう。それを僕が気にしたところでどうにかできるわけではないけど、やるせなく思ってしまう。
終業式の後、教室で夏休みの諸注意を受けると、1学期はそこで終了した。いつもの3人や大山さんとは夏休み中も何かしら声を聞いたり、顔を合わせたりすることはあるだろうけど、他のクラスメイトとは暫しのお別れとなりそうだ。「また夏休み明けに」という言葉を繰り返して、僕は教室を出た。
「産賀くん」
すると、いつかと同じように廊下で岸本さんが待っていた。次に会うのは金曜日と思っていたけど、何か用事があるのだろうか。
「どうしたの、岸本さん? 今日は部活に行かない予定だったけど……」
「今日は部活の用事じゃなくて……」
岸本さんが手で指す方を見ると、そこには一人の女子生徒がいた。どことなく見覚えのあるその子はしっかり岸本さんの隣にいたのに、紹介されるまで気が付かなかった。
「えっと……」
「産賀くん、彼女が花園さん。この前、産賀くんのことを話したら一度会っておきたいと言って……」
「こんにちは。産賀良助さん」
小さくお辞儀をした花園さんに僕も軽くお辞儀しながら「どうも」と返す。なるほど、この子が花園さんか。1組の教室で見た時は後ろ姿と口元しかわからなかったから薄っすらとした記憶だったんだ。
「お話は岸本さんから常々伺っておりました」
「僕も時々話は聞いてました。でも、わざわざ会ってくれるとは思ってなかったです」
「はい。ぜひ岸本さんの初めてを奪った男子の顔を見ておきたかったのです」
「……は!?」
突然の花園さんの言葉に僕は周りを見てしまう。でも、岸本さんは全く気にしていないし、他の人も聞いていなかったみたいだ。
「は、花園さん、今のはどういう……?」
「産賀良助さんは岸本さんの初めのお友達になったと聞いていたのですが」
「そ、そうですけど……その表現はちょっと」
「問題があるでしょうか?」
あると言いたいところだけど、よく考えたら花園さんとは初対面だった。お互いに話を聞いているとはいえ、初対面のやつが発言に目くじらを立てるのは気分が良くないだろう。それに周りが……特に岸本さんが変な意味に取っていないなら僕から言えることは何もない。
「いえ、僕が聞き間違ってしまったみたいです」
「そうでしたか。それでは産賀良助さん、また会う日まで」
「えっ? あっ、はい……また」
「岸本さんもさようなら。あの件、楽しみにしていますね」
それだけ言って花園さんは岸本さんを置いて先に帰ってしまった。
「本当に顔だけ見に来たんだ……」
「産賀くん、時間を取ってくれてありがとう」
「ううん。岸本さんが花園さんと仲良くなれたみたいで良かったよ」
「そう見えたのならいいのだけれど……まだこれからだと思うわ」
岸本さんはそう言うけれど、今日みたく一緒に行動するくらいだから僕から見れば岸本さんと花園さんは友人関係になっている。あとは岸本さん自身が納得するだけだ。
「産賀くん、良ければ途中まで帰りましょう。あっ、本当に良ければだけれど……」
「全然大丈夫。でも、花園さんは何で先に帰っちゃったんだろう」
「それは……結構そういうところがあるの、花園さん」
「そういうところ……?」
「なんて表現するのか正しいのかわからないのだけれど……こう、ふわっとした感じというか、時折読めない感じというか……」
「不思議な感じ?」
「それが近いかもしれないわ」
それから途中まで岸本さんと帰りながら花園さんのことを聞いたけど、それなりに話している岸本さんでもわからないところが多いらしい。そんな花園さんが岸本さんと話すようになったのは……僕が清水先輩に興味を持たれたような、花園さんにしかない感覚があったからなのかもしれない。
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