上 下
104 / 942
1年生1学期

7月16日(金)曇り 岸本路子との交流その14

しおりを挟む
 火曜日は終業式になるから夏休み前の最後の部活。

「岸本さん、テストの調子はどう?」

 部室に入って岸本さんの隣に座った僕はそう話しかける。思えば中間テストの時はまだこんな風な話ができていなかったし、今回は一緒に勉強したから気になるところだった。

「おかげで数Ⅰは赤点じゃなく、平均くらいは取れたわ」

「それは良かった。僕もコミュ英語を岸本さんと一緒に勉強できたからちょっとだけ点数が良くなったよ」

「本当に? わたし、特別得意なわけじゃないからそんなに役立っていないと思うのだけれど……」

「いやいや、覚え方とか教えれくれたからそれで印象に残ってたやつもあったから」

 どうやらこのままの調子でいけばお互いに補講は回避できそうだ。終業式の20日以降は夏休みになるけど、赤点だったり、普段の出席日数が足りなかったりする人は21日から約一週間の期間で設けられた補講に参加しなければならない。出席の方は問題ないから後は月曜日に返却されるテストの結果次第だ。

「次部室へ来るのは23日の金曜日かな?」

「ええ。わたしは今のところ予定はないわ」

「僕も。というか、僕は今日からでもちゃんと創作始めないと……」

「産賀くん、それを邪魔して悪いのだけれど……」

「何?」

「わたしが友達になりたいって思っていた子の話」

 それは久しぶりに感じる話題だった。僕の方も色々あったからそのことを聞くのをすっかり忘れていたけど、関係はしっかり続いていたみたいだ。

「最近は休み時間に少しだけ話せるようになったわ」

「おお! 何か共通の話題が見つかったとか?」

「そういうわけではないのだけれど、一応、産賀くんの言った通り本が好きなことを話したら、その子も好きなものを教えてくれて、それからお互いに趣味について聞くようになったの」

 なるほど。そういう質問し合うパターンで話せることもあるのか。でも、お互いのパーソナルな部分をわざわざ聞くということは岸本さんだけじゃなく、相手の子も仲良くなりたい気持ちがあるに違いない。

「それで、また産賀くんに相談なのだけれど」

「うん。大丈夫だよ」

「……その子に産賀くんのこと、話していい?」

 ん? なんでそこに僕が出てくるんだ? そう一瞬思ってしまったけど、特に断る理由はないし、そもそも許可を取られるようなことでもない。

「全然構わないよ。部活の話するなら伏せても変だろうし」

「ううん。今までも直接的に名前は出さずに産賀くんのことは話してたわ」

「そりゃそうだよね。じゃあ、僕のことって……どういうこと?」

「名前とか具体的な話が聞きたいって」

「それも構わないけど……その子、そんなに知りたがってるの?」

「ええ。いろいろ聞いておく必要があるって……」

 そう言われた瞬間、僕は何故か身震いした。決してドキドキの予感とかではなく、むしろ嫌な予感に近いものが。

「あっ。その子の方から代わりに自分の苗字を教えていいと言われたわ。花園はなぞのさんっていうの」

「花園さん……」

「産賀くんのこと、悪いようには言わないからそこは安心して」

 岸本さんに対しては何の心配もしてないんだけど、清水先輩とは別の方向で不思議な感じがする花園さんに目を付けられたのはどういう意味なのか。虫の知らせが気のせいだと思っておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

樹企画第二弾作品集(Spoon内自主企画)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらはspoonというアプリで、読み手様個人宛てに書いた作品となりますが、spoonに音声投稿後フリー台本として公開許可を頂いたものをこちらにまとめました。 1:30〜8分ほどで読み切れる作品集です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

サマネイ

多谷昇太
青春
 1年半に渡って世界を放浪したあとタイのバンコクに辿り着き、得度した男がいます。彼の「ビルマの竪琴」のごとき殊勝なる志をもって…? いや、些か違うようです。A・ランボーやホイットマンの詩に侵されて(?)ホーボーのように世界中を放浪して歩いたような男。「人生はあとにも先にも一度っきり。死ねば何もなくなるんだ。あとは永遠の無が続くだけ。すれば就職や結婚、安穏な生活の追求などバカらしい限りだ。たとえかなわずとも、人はなんのために生きるか、人生とはなんだ、という終極の命題を追求せずにおくものか…」などと真面目に考えては実行してしまった男です。さて、それでどうなったでしょうか。お釈迦様の手の平から決して飛び立てず、逃げれなかったあの孫悟空のように、もしかしたらきついお灸をお釈迦様からすえられたかも知れませんね。小説は真実の遍歴と(構成上、また効果の上から)いくつかの物語を入れて書いてあります。進学・就職から(なんと)老後のことまでしっかり目に据えているような今の若い人たちからすれば、なんともあきれた、且つ無謀きわまりない主人公の生き様ですが(当時に於てさえ、そして甚だ異質ではあっても)昔の若者の姿を見るのもきっと何かのお役には立つことでしょう。  さあ、あなたも一度主人公の身になって、日常とはまったく違う、沙門の生活へと入り込んでみてください。では小説の世界へ、どうぞ…。

陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君
青春
俺に青春など必要ない。 新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!? 絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく… 本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ! なろう、カクヨムでも連載中! カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601 なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/

彼ノ女人禁制地ニテ

フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地―― その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。 柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。 今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。 地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

処理中です...