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1年生1学期
6月25日(金)曇り 清水夢愛との時間その8
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今日の部活は岸本さんと会った昨日の話題に始まり、結局あの後も観察していたけど、特に進展はなかったという報告を受けた。それに対して僕は自分が口が軽くないことを念押ししながら松永の話をした。
そんないつも通り雑談で終わってしまった部活帰り。部室はだいたい18時前後で締められるから家に帰る頃には晩ご飯の時間になる時だ。
「良助、今帰りか?」
待ち構えていたわけじゃないだろうけど、偶然、清水先輩と出会う。
「はい。清水先輩もですか?」
「私はとっくに学校は出たが、この辺りをうろうろしていたらこんな時間になった」
「この辺りにそんなうろうろするとこありましたっけ……?」
「それより、帰るということは暇だな。付き合って貰うぞ」
有無を言わさず決定されたので僕は自転車を降りて清水先輩に付いて行く。帰る=暇ではないと思うけど、どちらにせいよ上手く言い訳できなかったろうから運命は変わらないだろう。
いったいどこに連れまわされるかと思って数分ほど歩くと、目的地にはあっさり着いた。
「コンビニ……?」
「この前のお礼をしようと思ってな。ほら、パンのやつ」
「あれはお代貰ったのでもう大丈夫ですよ?」
「それはそれだ。単純にあの日の昼ごはんが食べられたお礼だよ。今日は私がおごろう」
そう言いながらコンビニ内に入って行く清水先輩を追う。ちょっと意外だ。清水先輩はこういう貸し借りを気にしないタイプだと思っていた。
「それで何をおごって欲しいんだ?」
「えっと……じゃあ、よくコンビニへ行くみたいなんで清水先輩のおすすめをお願いします」
「なるほど、そうきたか。そうだな……この前リニューアルだが何だかした鯖ほぐし弁当。あれは結構美味しかった気がする」
「その情報はありがたいんですけど、できればこの後の晩ご飯に響かない軽食とか飲み物とかでお願いします」
「何だ。良助は食べ盛りじゃないのか」
例え食べ盛りだったとしても学校帰りに弁当をおごって貰うのは何か違うと思う。勝手なイメージかもしれないけど。
でも、対象を絞ったはずなのに清水先輩はさらに悩みだしてしまった。
「うーん……難しいな」
「もしかして予算が決まってるとかですか? 僕は適当な一品でも……」
「いや、お金は別に大丈夫だ。そうではなく、誰かに何かをおごるのはこれが初めてだし、しかも私が選ぶとなると、妙に悩んでしまってな」
「へぇ、おごるの初めてなんですね」
「なんだ、自分は慣れているみたいな言い方だな」
「いえ、僕の場合は妹におごらされてて……」
「ははっ、可愛い話じゃないか。って、早く考えないと……軽食……飲み物……」
コンビニ内をうろうろしながら清水先輩は真剣に悩み続ける。そんなに悩んでくれるとちょっと申し訳ないけど、それ以上に何だか嬉しく感じてしまう。思わず帰る時間を忘れてしまうくらいには。
それから10分ほど経って、清水先輩はようやく結論にたどり着いた。
「よし! このフライドチキンにしよう! 軽食だしな!」
それはもう間違いない選択で、何なら最初に思い付いても良かったと思うけど、おごられる側の僕は何も言えない。ちゃっかり自分の分も購入した清水先輩は僕に包みを一つ渡す。
「そこにちょうどいい席があるから食べていこう」
「フードコートですか?」
「ああ、ちょうど席は選びたい放題だ」
てっきり食べ歩いて帰るものと思っていたからその提案はちょっと予想外だ。あるのは知っていたけど、実は座るのが初めてだったコンビニのフードコートはちょっと狭く感じる。でも、こういう買い食いで座るには十分な席だった。
「では、いただこう」
「ご馳走になります」
そう言って僕はフライドチキンを頬張る。うん、やっぱり間違いなく美味しい。毎日とは言わないけど、定期的に食べたくなるジャンクらしさがある。
でも、こうして清水先輩と食べていると何だか変な感じだ。というか……女子の先輩とコンビニのフードコートで買い食いなんて、普通の青春っぽい気がする。
「……ん?」
「どうしたんですか、清水先輩?」
「いや、フライドチキンってこんな味だったのかと」
「えっ? 以前と味変わってます? 僕も時々食べますけど、味は変わってないような……」
「ああ。味に変化はない。ただ……なんか美味しい気がするんだ」
「うーん? なんでですかね?」
「たぶん……良助と一緒に食べてるからじゃないか?」
さらりと言ってのけた清水先輩の方に僕は大きく振り向いてしまう。別に殺し文句として言ったわけじゃなく、清水先輩は尚もフライドチキンを食べ進めていた。だけど、そうだとしても……今のはドキッとするに決まっている。
「良助?」
改めて確認するまでもないけど、五大美人なんて呼ばれる先輩とこんなよくわからない関係になっているのは……どうしてこうなったんだ? まずい、変に緊張してきた。今までそんな意識したことなかったのに。そもそも今日も誘って貰って……
「食べ終わったか? そろそろ帰るぞ?」
そんな僕を放っておいて、清水先輩は立ち上がってしまう。
「えっ、ちょっと……」
「軽食なんだからすぐ食べられるだろ?」
「それは……はい」
そう言われた僕は急いで残りのフライドチキンを食べ終えた。
「じゃあ、また会おう、良助」
コンビニを出てすぐに清水先輩はそう言い残して帰って行った。それを見送った僕は……正直、名残惜しいと思ってしまった。本当ならフードコートでもう少し話したかったし、コンビニを出た後もうだうだしながら時間を潰してみたかった。
だけど、それはあくまで僕が望んだことで、清水先輩は単に借りを返したかっただけなんだ。そして、恐らくこういう意識のすれ違いが、いつか清水先輩に飽きられてしまう原因になるのかもしれない。
(でも、さっきのはなぁ……)
誰に相談できるわけもないモヤモヤが残った日だった。
そんないつも通り雑談で終わってしまった部活帰り。部室はだいたい18時前後で締められるから家に帰る頃には晩ご飯の時間になる時だ。
「良助、今帰りか?」
待ち構えていたわけじゃないだろうけど、偶然、清水先輩と出会う。
「はい。清水先輩もですか?」
「私はとっくに学校は出たが、この辺りをうろうろしていたらこんな時間になった」
「この辺りにそんなうろうろするとこありましたっけ……?」
「それより、帰るということは暇だな。付き合って貰うぞ」
有無を言わさず決定されたので僕は自転車を降りて清水先輩に付いて行く。帰る=暇ではないと思うけど、どちらにせいよ上手く言い訳できなかったろうから運命は変わらないだろう。
いったいどこに連れまわされるかと思って数分ほど歩くと、目的地にはあっさり着いた。
「コンビニ……?」
「この前のお礼をしようと思ってな。ほら、パンのやつ」
「あれはお代貰ったのでもう大丈夫ですよ?」
「それはそれだ。単純にあの日の昼ごはんが食べられたお礼だよ。今日は私がおごろう」
そう言いながらコンビニ内に入って行く清水先輩を追う。ちょっと意外だ。清水先輩はこういう貸し借りを気にしないタイプだと思っていた。
「それで何をおごって欲しいんだ?」
「えっと……じゃあ、よくコンビニへ行くみたいなんで清水先輩のおすすめをお願いします」
「なるほど、そうきたか。そうだな……この前リニューアルだが何だかした鯖ほぐし弁当。あれは結構美味しかった気がする」
「その情報はありがたいんですけど、できればこの後の晩ご飯に響かない軽食とか飲み物とかでお願いします」
「何だ。良助は食べ盛りじゃないのか」
例え食べ盛りだったとしても学校帰りに弁当をおごって貰うのは何か違うと思う。勝手なイメージかもしれないけど。
でも、対象を絞ったはずなのに清水先輩はさらに悩みだしてしまった。
「うーん……難しいな」
「もしかして予算が決まってるとかですか? 僕は適当な一品でも……」
「いや、お金は別に大丈夫だ。そうではなく、誰かに何かをおごるのはこれが初めてだし、しかも私が選ぶとなると、妙に悩んでしまってな」
「へぇ、おごるの初めてなんですね」
「なんだ、自分は慣れているみたいな言い方だな」
「いえ、僕の場合は妹におごらされてて……」
「ははっ、可愛い話じゃないか。って、早く考えないと……軽食……飲み物……」
コンビニ内をうろうろしながら清水先輩は真剣に悩み続ける。そんなに悩んでくれるとちょっと申し訳ないけど、それ以上に何だか嬉しく感じてしまう。思わず帰る時間を忘れてしまうくらいには。
それから10分ほど経って、清水先輩はようやく結論にたどり着いた。
「よし! このフライドチキンにしよう! 軽食だしな!」
それはもう間違いない選択で、何なら最初に思い付いても良かったと思うけど、おごられる側の僕は何も言えない。ちゃっかり自分の分も購入した清水先輩は僕に包みを一つ渡す。
「そこにちょうどいい席があるから食べていこう」
「フードコートですか?」
「ああ、ちょうど席は選びたい放題だ」
てっきり食べ歩いて帰るものと思っていたからその提案はちょっと予想外だ。あるのは知っていたけど、実は座るのが初めてだったコンビニのフードコートはちょっと狭く感じる。でも、こういう買い食いで座るには十分な席だった。
「では、いただこう」
「ご馳走になります」
そう言って僕はフライドチキンを頬張る。うん、やっぱり間違いなく美味しい。毎日とは言わないけど、定期的に食べたくなるジャンクらしさがある。
でも、こうして清水先輩と食べていると何だか変な感じだ。というか……女子の先輩とコンビニのフードコートで買い食いなんて、普通の青春っぽい気がする。
「……ん?」
「どうしたんですか、清水先輩?」
「いや、フライドチキンってこんな味だったのかと」
「えっ? 以前と味変わってます? 僕も時々食べますけど、味は変わってないような……」
「ああ。味に変化はない。ただ……なんか美味しい気がするんだ」
「うーん? なんでですかね?」
「たぶん……良助と一緒に食べてるからじゃないか?」
さらりと言ってのけた清水先輩の方に僕は大きく振り向いてしまう。別に殺し文句として言ったわけじゃなく、清水先輩は尚もフライドチキンを食べ進めていた。だけど、そうだとしても……今のはドキッとするに決まっている。
「良助?」
改めて確認するまでもないけど、五大美人なんて呼ばれる先輩とこんなよくわからない関係になっているのは……どうしてこうなったんだ? まずい、変に緊張してきた。今までそんな意識したことなかったのに。そもそも今日も誘って貰って……
「食べ終わったか? そろそろ帰るぞ?」
そんな僕を放っておいて、清水先輩は立ち上がってしまう。
「えっ、ちょっと……」
「軽食なんだからすぐ食べられるだろ?」
「それは……はい」
そう言われた僕は急いで残りのフライドチキンを食べ終えた。
「じゃあ、また会おう、良助」
コンビニを出てすぐに清水先輩はそう言い残して帰って行った。それを見送った僕は……正直、名残惜しいと思ってしまった。本当ならフードコートでもう少し話したかったし、コンビニを出た後もうだうだしながら時間を潰してみたかった。
だけど、それはあくまで僕が望んだことで、清水先輩は単に借りを返したかっただけなんだ。そして、恐らくこういう意識のすれ違いが、いつか清水先輩に飽きられてしまう原因になるのかもしれない。
(でも、さっきのはなぁ……)
誰に相談できるわけもないモヤモヤが残った日だった。
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