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1年生1学期

6月24日(木)晴れ時々雨 岸本路子との交流その11

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「りょーちゃん、1組行くからちょっと付いて来てくんない?」

 昼休み、昼食を終えたいつもの面々はそれぞれ用事があったので解散していた。そして、残念ながら用事がなかった僕は松永捕まった。

「なんで?」

「一人だと寂しいじゃん? あと、りょーちゃん暇でしょ?」

「まぁ、そうだけど」

 それで気を遣ってくれたなら付いて行くしかあるまい。4組である僕らは体育の授業で一緒になることはないから1組については物理的距離もあってあまり知らない。男子は同じ中学の人くらいは把握しているけど、女子についてはさっぱりだった。

「あっ……」

 だから、岸本さんが1組だったことも知らなかったのである。

「はいよ。この前貸して貰った漫画。それでさ~」

 松永が恐らくテニス部の友人と話す中、僕は岸本さんの方へ目を向ける。僕が一瞬にして岸本さんを見つけられたのは席替えをして位置が変わったのだろうか、後ろの扉から入った時に主人公たる窓際の一番後ろの席に着席していたからだ。

 いや、それだけではない。岸本さんは本を読むフリをしながら何やら観察しているようだった。これは僕が岸本さんと気付いて注目したからわかったことかもしれないけど、それはもう不自然な行動だ。

 話しかけるべきか否か。少し考えたけど、松永に言われた通り引き続き暇だった僕は声をかけることにした。

「あの、岸本さ――」

「う、産賀くん!? なぜこのクラスに……?」

「気付いてなかったんだ。ちょっと友達の付き添いで」

「それなのにわざわざ声をかけてくれたの?」

「まぁ、僕はあんまりかかわりがないから。それと岸本さんが何を見てたのか気になって」

 それを指摘すると、岸本さんは本で顔を隠した。何だろう。教室にいるせいか部室とはまた違った岸本さんを見ている気がする。

「ごめん。あんまり長居しない方がいいよね。それじゃ……」

「ち、違うわ! そういう意味じゃなくて……見てたの、あっちの席の子」

 再び顔を覗かせた岸本さんが指差したのは岸本さんの席からちょうど対角線上、つまりは黒板側の扉のすぐ傍にある一番前の席だった。

「もしかして、あの子が?」

「うん……わたしが友達になりたいと思ってる」

「そうか。よりにもよって一番遠い位置か……」

「本当なら席は関係ないと思うのだけれど……でも、あそこで話すのはちょっと勇気が……」

「確かに扉の前になっちゃうもんね」

 それにしても岸本さんの意中の子は昼休みに座ったまま動かず、かといって本を読んでいるわけでも勉強をしているわけでもない。さっきの岸本さんほどではないけど、不自然な感じがする。

「なんだか……」

「えっ?」

「産賀くんが教室にいると変な感じがするわ」

「ああ、ごめん。そろそろ……」

「あっ、嫌ってわけじゃなくて。友達と教室で話してるのが変な感じというか……」

「そ、そうかな? 岸本さんが良ければもうちょっと……」

「りょーちゃん、ナンパ?」

 せっかくの空気に割り込んできたのは松永だった。まぁ、付き添いで来なきゃ岸本さんに会うことはなかったからあまり文句は言えない。

「違う。部活の友達の……」

「あー、岸本ちゃんね。俺、りょーちゃんの幼馴染の松永。よろしく!」

「よろし……な、なんで名前知ってるんですか!?」

「いやぁ、りょーちゃん口軽いからねぇ」

「そうなの……?」

 純粋に信じた目で見る岸本さんを見て、僕は松永の方を軽く叩く。

「普通に話してただけだから! その、岸本さんが嫌だったら申し訳ないことしたけど……」

「ううん。大丈夫」

「めでたしめでたしだね。俺は用事済んだけど、りょーちゃんは?」

 岸本さんの方を見ると、「もう大丈夫」といった感じで手を振っていたから僕も手を振り返して松永に付いて行った。

「松永、前の扉から出ていい?」

「んー? 別にいいけど?」

 わざわざ少し遠回りをしたのは岸本さんの意中の子がどんな子なのか、興味本位で見てみたくなったからだ。その子はまっすぐ前を向いているから横目に見れば確認できる。

(顔を見て何かわかるわけじゃないだろうけど……)

 そんな呑気なことを考えて前の席を横切った時だ。

「……ウフフ」

 ちょうど横切った瞬間、目が合ったわけじゃないけど、その笑い声と薄く笑う唇が見えた。いや、そこ以外見えなかった。まるで意図的に目を逸らされたように。

「……不思議な子だ」

「りょーちゃん?」

「なんでもない」

 結局、顔の全体はわからなかったけど、不思議な子であることはよくわかった。
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