72 / 942
1年生1学期
6月14日(月)曇り時々晴れ 清水夢愛との時間その6
しおりを挟む
今日はお昼ご飯の確保のため、気になっていた購買へ行くことにした。母さんが弁当を作れない日はコンビニで買うばかりだったので、利用するのは今回が初めてだ。
1階にある校内の購買は小さな窓口で、ドラマやアニメで描写されるような盛況する場所ではない。それでも毎日利用する人は一定数いるらしく、ちゃんと商品を選びたいなら3時間目終わりの休み時間がちょうど入荷するタイミングでおすすめと利用したクラスメイトから言われた。
そのアドバイス通り、3時間目終わりの休み時間で購買へ向かうと……初めて行く珍しい場所だと会ってしまう人が、窓口から少し離れた位置で仁王立ちしていた。
「おお、良助。こんなところで珍しいな」
様子を見るため隣に行くと、清水先輩は顔だけこちらへ向けてそんなことを言う。
「こんにちは。清水先輩もお昼ご飯買いに来たんですか?」
「ああ。昼食はここかコンビニでいつも買っているからな」
なるほど。それなら初めて来る僕を見て珍しいと言うのも納得がいく。僕からすればまたも偶然の出会いだと思っていたけど、清水先輩からすれば購買や少し前に会ったコンビニはいつもの行動範囲だったのか。
「それで……どうして遠目に購買を見てるんですか?」
「買う時に迷ったらいけないからな」
「清水先輩、結構選ぶのに迷うタイプなんですね」
「いや、それがだな……今日入っている食品は全て一度は食べたものなんだ」
「あー……何回も来てるから食べ飽きてると」
「時々新しいものも出ているが、基本はそれほど変わらない。だが、一度食べたものを何回も食べるのは面白くない」
「な、なるほど」
面白くないという表現はちょっとわからないけど、長く食べ続けていて同じものに飽きてしまう感覚はわかる。でも、選択肢がないと結局は定番のものになってしまい、それが繰り返されると今の清水先輩の状態になってしまうこともあるものだ。
「良助は何を買うんだ?」
「商品を見てからじゃないとわからないですけど、パン系にしようかと。何かおすすめあったりします?」
「ふむ。パンならどれも美味しいぞ」
「そ、そうですか……」
もしかして清水先輩は本当に面白くないから迷っているだけで、食べ物自体のこだわりはそんなにないのかもしれない。このまま清水先輩を見ていても仕方ないので、僕は自分の目で確かめに行く。
窓口に行くと、店員の後ろにはいくつかの文房具とトレーに入ったおにぎりやパン、小さなお弁当があった。一人が買う量にも寄るけど、一日の入荷数はだいたいひとクラスの半分ほどのようだ。
それから僕はそれほど悩まず購入を終えた後、一応気になる清水先輩に声をかける。
「清水先輩、決まりました?」
「決まらん! 良助は結局何買ったんだ?」
「焼きそばパンとウインナーパンです。定番ですけど、見たことないパッケージでした」
「ああ、その二つも普通に美味しかった。……うーん」
「そろそろ決めないと休み時間が……」
「むむむ……仕方ない、今日は諦めるか」
「えっ? 諦めるって……」
「今日の昼食はなしということだが?」
「そういう意味ですか!? いやいや、食べておかないと」
「一回くらい抜いても何ともないだろ」
「そうかもしれないですけど……」
後から考えれば女の子がダイエットとしてお昼を食べないのは珍しくないのかもしれないし、たぶん清水先輩は桜庭先輩と一緒に食べるのだから、何も買っていなくても桜庭先輩が何とかしていたに違いない。でも、この時の僕は何を焦っていたのかそんなところまで頭が回らなかった。
「わかりました。清水先輩、これ食べてください」
僕はそう言って焼きそばパンを清水先輩に手渡す。
「え? これ良助の昼食じゃ……」
「食べないと5時間目以降に支障が出ますから! それじゃあ、僕は戻ります!」
そのまま急いで教室に戻ったから清水先輩がどんな反応をしていたかわからない。でも、話しかけられてしまったからには知り合いがこのまま昼食を食べない選択をされるのはなんとなく嫌だったのだ。清水先輩なら本当に食べそうにない気がするから余計に。
「りょーちゃん、パン一個で足りるの?」
「……もう一個買えばよかった」
今までの人生で一番いらないお節介をした気がするけど……あの場の僕が良いと思ったのなら良しとしよう。
1階にある校内の購買は小さな窓口で、ドラマやアニメで描写されるような盛況する場所ではない。それでも毎日利用する人は一定数いるらしく、ちゃんと商品を選びたいなら3時間目終わりの休み時間がちょうど入荷するタイミングでおすすめと利用したクラスメイトから言われた。
そのアドバイス通り、3時間目終わりの休み時間で購買へ向かうと……初めて行く珍しい場所だと会ってしまう人が、窓口から少し離れた位置で仁王立ちしていた。
「おお、良助。こんなところで珍しいな」
様子を見るため隣に行くと、清水先輩は顔だけこちらへ向けてそんなことを言う。
「こんにちは。清水先輩もお昼ご飯買いに来たんですか?」
「ああ。昼食はここかコンビニでいつも買っているからな」
なるほど。それなら初めて来る僕を見て珍しいと言うのも納得がいく。僕からすればまたも偶然の出会いだと思っていたけど、清水先輩からすれば購買や少し前に会ったコンビニはいつもの行動範囲だったのか。
「それで……どうして遠目に購買を見てるんですか?」
「買う時に迷ったらいけないからな」
「清水先輩、結構選ぶのに迷うタイプなんですね」
「いや、それがだな……今日入っている食品は全て一度は食べたものなんだ」
「あー……何回も来てるから食べ飽きてると」
「時々新しいものも出ているが、基本はそれほど変わらない。だが、一度食べたものを何回も食べるのは面白くない」
「な、なるほど」
面白くないという表現はちょっとわからないけど、長く食べ続けていて同じものに飽きてしまう感覚はわかる。でも、選択肢がないと結局は定番のものになってしまい、それが繰り返されると今の清水先輩の状態になってしまうこともあるものだ。
「良助は何を買うんだ?」
「商品を見てからじゃないとわからないですけど、パン系にしようかと。何かおすすめあったりします?」
「ふむ。パンならどれも美味しいぞ」
「そ、そうですか……」
もしかして清水先輩は本当に面白くないから迷っているだけで、食べ物自体のこだわりはそんなにないのかもしれない。このまま清水先輩を見ていても仕方ないので、僕は自分の目で確かめに行く。
窓口に行くと、店員の後ろにはいくつかの文房具とトレーに入ったおにぎりやパン、小さなお弁当があった。一人が買う量にも寄るけど、一日の入荷数はだいたいひとクラスの半分ほどのようだ。
それから僕はそれほど悩まず購入を終えた後、一応気になる清水先輩に声をかける。
「清水先輩、決まりました?」
「決まらん! 良助は結局何買ったんだ?」
「焼きそばパンとウインナーパンです。定番ですけど、見たことないパッケージでした」
「ああ、その二つも普通に美味しかった。……うーん」
「そろそろ決めないと休み時間が……」
「むむむ……仕方ない、今日は諦めるか」
「えっ? 諦めるって……」
「今日の昼食はなしということだが?」
「そういう意味ですか!? いやいや、食べておかないと」
「一回くらい抜いても何ともないだろ」
「そうかもしれないですけど……」
後から考えれば女の子がダイエットとしてお昼を食べないのは珍しくないのかもしれないし、たぶん清水先輩は桜庭先輩と一緒に食べるのだから、何も買っていなくても桜庭先輩が何とかしていたに違いない。でも、この時の僕は何を焦っていたのかそんなところまで頭が回らなかった。
「わかりました。清水先輩、これ食べてください」
僕はそう言って焼きそばパンを清水先輩に手渡す。
「え? これ良助の昼食じゃ……」
「食べないと5時間目以降に支障が出ますから! それじゃあ、僕は戻ります!」
そのまま急いで教室に戻ったから清水先輩がどんな反応をしていたかわからない。でも、話しかけられてしまったからには知り合いがこのまま昼食を食べない選択をされるのはなんとなく嫌だったのだ。清水先輩なら本当に食べそうにない気がするから余計に。
「りょーちゃん、パン一個で足りるの?」
「……もう一個買えばよかった」
今までの人生で一番いらないお節介をした気がするけど……あの場の僕が良いと思ったのなら良しとしよう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
雨上がりに僕らは駆けていく Part2
平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女
彼女は、遠い未来から来たと言った。
「甲子園に行くで」
そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな?
グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。
ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。
しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる