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1年生1学期
6月10日(木)晴れ 清水夢愛との時間その5
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折り返しを過ぎた木曜日。久しぶりに戻ってきた通常授業に少しだけ疲れを感じ始めているけど、弱音を言ってはいられない。なんと6月は祝日が存在せず、今週の土曜日は登校日だからまだまだ授業はたっぷりなのだ。
「りょーちゃん、2年の廊下見に行かない?」
そんな日の昼休み。松永はそんなことを唐突に言い出す。今日は本田くんと大倉くんは用事があるらしく、珍しく二人で過ごしていた。
そして、僕の口から出るのは当然「なんで」という言葉である。
「五大美人の清水さん、久しぶりに見たくなったから。あの後も何回か会ったんでしょ?」
「まぁ、そうだけど……用事もなく上級生のエリアに行くのは……」
「だから、知り合いのりょーちゃんを連れて行くんだよ」
「僕も用事はないぞ」
「いいよなー りょーちゃんはいつでも会えるんだから」
いつでも会えない。むしろ、今までも僕から意図して会ったことは一度もない。それからあーだこーだ言い合うけど、こうなってしまうと僕が根負けするか、諦めるかで松永の行動は実行されてしまう。
「それじゃ、出発~」
2年の廊下自体は職員室や部室へ行く際に通っていくけど、一番人が多そうな昼休みに行くのは初めてだった。予想通り、廊下には一定の間隔で談笑している先輩集団が多数ある。
「おっ、浩太じゃん。隣は誰?」
「お疲れっす。こいつが幼馴染のりょーちゃんですよ」
「あー これがあのりょーちゃんくん」
通りがかった松永に話しかけたのはテニス部の先輩だろうか……いや、待て。あのりょーちゃんくんって何だ。僕はテニス部内でどんな話題にされているんだ。
「清水さんって何組なん?」
「知らないよ。それより松永、僕の知らないところでどれだけ僕の話をしてるんだ」
「えっ? 普通でしょ。りょーちゃんも俺のこと誰かに話すことあるだろうし」
「まぁ、それはそうなんだけど……知らない先輩に認識されるレベルとは思わないだろ。どんな話してるんだ?」
「幼馴染の昔話だって。あっ、先輩! ちょっと聞きたいんっすけど……」
今度は別の先輩に松永が話しかけると……そのまま別の人が集まりだして、賑やかな会話が始まった。この高校のテニス部は結構多いらしいから2年への顔も広いのだろう。手持ち無沙汰になってしまった僕はひとまず人が少なそうな廊下の奥の方へ避難する。
(何組だなんて聞く発想すらなかった)
校内で遭遇することが少ないせいか、清水先輩は外の知り合いであるように錯覚しているけど、図書室や校門で会ったから確かに学校にはいるはずだ。でも、あの清水先輩が長めの昼休みに教室や廊下でじっとしているだろうか。いるとしたらもっと突拍子もないところにいそうだ。
「そう、例えばこの第2視聴覚室から……」
「やぁ、良助。こんなところで何してるんだ?」
適当なことを言った瞬間、扉を開いて出てきたのはお目当ての清水先輩だった。今回は僕がそう聞かれるのが正しい。本当にいるとは思わなかった。
「えっと……友達と知らない場所を探検……的な?」
「なるほどな。そういう気持ちはわかるぞ」
「わかるんですか……清水先輩は視聴覚室で何を?」
「うーん……何か空いてたから入った。普段は締まってるんだがな」
そんな手頃な家があったから入る空き巣みたいな言い分を聞かされても困ってしまう。確かにこういう部屋は次の時間で使わない限りは締まっていそうだ。
「締め忘れとかですかね? ここ授業で使うことないから全然わからないんですけど……」
「使うのはたまに学年で集まる時くらいだな。まぁ、ついさっきまでは二人入ってたけど」
「えっ? 二人って……」
「私を入れると三人か。私が入った後に来て、咄嗟に隠れたからバレてなかったとは思うが……」
「……清水先輩、その二人のこと見たり聞いたりしてないですよね?」
「ああ。ちょっとウトウトしてたから全く覚えてない」
その状況でよく眠くなれるなと思ったけど、不幸中の幸いだったかもしれない。本当の内容はともかく、清水先輩にとってもその二人にとっても鉢合わせしなかった方が都合がいいだろう。
「良助、二人は何の用事だったんだろうな?」
「わかりません。あっ、これ以上僕に情報を与えないでください」
「え? なんでだ?」
「世の中には知らない方がいいこともあるんです」
純粋に聞いてくる清水先輩をあしらっていると、僕を探して松永がやって来た。
「りょーちゃん、ごめ……あっ、清水さん見つけたんだ」
「おお、良助のご友人。久しぶりだな」
「こちらこそ、あれからもりょーちゃんがお世話になってます」
「ははっ、大したことはしてないぞ」
前にも見たやり取りが始まろうとしていたけど、その瞬間、昼休みが終わるチャイムが鳴り出した。
「それではまた会おう、良助……とそのご友人」
そう言って去っていく清水先輩は2組の教室に入っていった。これは……知っていてもしょうがない情報な気がする。だって、今日も全く予想していなかった場所に現れたのだから。
「……清水さん、俺の名前忘れてない?」
「それは……そうかも」
ちょっとだけ凹む松永を慰めながら僕は教室に戻るのだった。
「りょーちゃん、2年の廊下見に行かない?」
そんな日の昼休み。松永はそんなことを唐突に言い出す。今日は本田くんと大倉くんは用事があるらしく、珍しく二人で過ごしていた。
そして、僕の口から出るのは当然「なんで」という言葉である。
「五大美人の清水さん、久しぶりに見たくなったから。あの後も何回か会ったんでしょ?」
「まぁ、そうだけど……用事もなく上級生のエリアに行くのは……」
「だから、知り合いのりょーちゃんを連れて行くんだよ」
「僕も用事はないぞ」
「いいよなー りょーちゃんはいつでも会えるんだから」
いつでも会えない。むしろ、今までも僕から意図して会ったことは一度もない。それからあーだこーだ言い合うけど、こうなってしまうと僕が根負けするか、諦めるかで松永の行動は実行されてしまう。
「それじゃ、出発~」
2年の廊下自体は職員室や部室へ行く際に通っていくけど、一番人が多そうな昼休みに行くのは初めてだった。予想通り、廊下には一定の間隔で談笑している先輩集団が多数ある。
「おっ、浩太じゃん。隣は誰?」
「お疲れっす。こいつが幼馴染のりょーちゃんですよ」
「あー これがあのりょーちゃんくん」
通りがかった松永に話しかけたのはテニス部の先輩だろうか……いや、待て。あのりょーちゃんくんって何だ。僕はテニス部内でどんな話題にされているんだ。
「清水さんって何組なん?」
「知らないよ。それより松永、僕の知らないところでどれだけ僕の話をしてるんだ」
「えっ? 普通でしょ。りょーちゃんも俺のこと誰かに話すことあるだろうし」
「まぁ、それはそうなんだけど……知らない先輩に認識されるレベルとは思わないだろ。どんな話してるんだ?」
「幼馴染の昔話だって。あっ、先輩! ちょっと聞きたいんっすけど……」
今度は別の先輩に松永が話しかけると……そのまま別の人が集まりだして、賑やかな会話が始まった。この高校のテニス部は結構多いらしいから2年への顔も広いのだろう。手持ち無沙汰になってしまった僕はひとまず人が少なそうな廊下の奥の方へ避難する。
(何組だなんて聞く発想すらなかった)
校内で遭遇することが少ないせいか、清水先輩は外の知り合いであるように錯覚しているけど、図書室や校門で会ったから確かに学校にはいるはずだ。でも、あの清水先輩が長めの昼休みに教室や廊下でじっとしているだろうか。いるとしたらもっと突拍子もないところにいそうだ。
「そう、例えばこの第2視聴覚室から……」
「やぁ、良助。こんなところで何してるんだ?」
適当なことを言った瞬間、扉を開いて出てきたのはお目当ての清水先輩だった。今回は僕がそう聞かれるのが正しい。本当にいるとは思わなかった。
「えっと……友達と知らない場所を探検……的な?」
「なるほどな。そういう気持ちはわかるぞ」
「わかるんですか……清水先輩は視聴覚室で何を?」
「うーん……何か空いてたから入った。普段は締まってるんだがな」
そんな手頃な家があったから入る空き巣みたいな言い分を聞かされても困ってしまう。確かにこういう部屋は次の時間で使わない限りは締まっていそうだ。
「締め忘れとかですかね? ここ授業で使うことないから全然わからないんですけど……」
「使うのはたまに学年で集まる時くらいだな。まぁ、ついさっきまでは二人入ってたけど」
「えっ? 二人って……」
「私を入れると三人か。私が入った後に来て、咄嗟に隠れたからバレてなかったとは思うが……」
「……清水先輩、その二人のこと見たり聞いたりしてないですよね?」
「ああ。ちょっとウトウトしてたから全く覚えてない」
その状況でよく眠くなれるなと思ったけど、不幸中の幸いだったかもしれない。本当の内容はともかく、清水先輩にとってもその二人にとっても鉢合わせしなかった方が都合がいいだろう。
「良助、二人は何の用事だったんだろうな?」
「わかりません。あっ、これ以上僕に情報を与えないでください」
「え? なんでだ?」
「世の中には知らない方がいいこともあるんです」
純粋に聞いてくる清水先輩をあしらっていると、僕を探して松永がやって来た。
「りょーちゃん、ごめ……あっ、清水さん見つけたんだ」
「おお、良助のご友人。久しぶりだな」
「こちらこそ、あれからもりょーちゃんがお世話になってます」
「ははっ、大したことはしてないぞ」
前にも見たやり取りが始まろうとしていたけど、その瞬間、昼休みが終わるチャイムが鳴り出した。
「それではまた会おう、良助……とそのご友人」
そう言って去っていく清水先輩は2組の教室に入っていった。これは……知っていてもしょうがない情報な気がする。だって、今日も全く予想していなかった場所に現れたのだから。
「……清水さん、俺の名前忘れてない?」
「それは……そうかも」
ちょっとだけ凹む松永を慰めながら僕は教室に戻るのだった。
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