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1年生1学期

5月25日(火)曇り 清水夢愛との時間その3

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 テスト2日目。今日はなぜか起きてから眠気が続いていた。昨晩は特に夜更かししたわけじゃないのにこうなるのは、帰ってからテスト勉強して思った以上に疲れていたせいなのかもしれない。でも、このままテスト本番に望むわけにはいかないから、僕はコンビニでコーヒーを買っていくことにした。

 自宅から学校まで行くいつもの道筋にはコンビニは5件ほどあり、どのコンビニも朝方はそこそこ人がいる印象がある。この日入ったのは学校側絡みて2番目に近いコンビニだ。コーヒーはどこで買ってもそれほど変わらなと思っているので完全に気分で選んでいた。

「あっ……」

 だから、今日のこの出会いもまた偶然だと言える。入店してすぐにレジへ向かおうとした時、ふと駄菓子コーナーに目をやると、腕を組んででコーナーを見つめる清水先輩がいた。僕の方から見つけるのは今日が初めてだ。

『もし……夢愛が産賀くんに飽きて絡まない日が来ても……悪く思わないでね』

 3日前の桜庭先輩の言葉が頭をよぎる。もう少しだけ付き合ってあげてとも言われたけど、もしかしたら今日この時点で清水先輩が僕のことを飽きているかもしれない。そう思うと、声をかけない方がいい気がしてしまう。

「おっ? 良助じゃないか、ちょっとこっちに来てくれ!」

 そんな風に考えながら見ていた僕の目線を感じ取ったのか、急にこちらを向いた清水先輩がコンビニの中で出す声にしては大きめの声で呼んでくる。その場にいた何人に注目されつつ、僕は清水先輩の方へ向かった。

「清水先輩、ここ店内なんですからちょっとボリュームを……」

「んん? いいじゃないか。それよりおはよう、良助」

「……おはようございます」

 この感じはまだ桜庭先輩が言っていた状態にはなっていないらしい。いつも通り過ぎて若干困ってしまうくらいだ。

「それで何で僕を呼んだんですか?」

「それが今日は何となくお菓子が食べたい気分になったんだが、どのお菓子を食べればいいか迷っているんだ」

「清水先輩が好きなお菓子でいいと思いますけど」

「私はお菓子はあまり食べないから特に好きなお菓子はないぞ」

 じゃあ、なんで食べたくなったんですか、というツッコミはこらえておこう。僕も無性に特定のお菓子が食べたいって思うことはあるから、なぜかわからないけど何となくお菓子が食べたい時あるのだろう。

「じゃあ、敢えて今まで食べてないお菓子に挑戦するとか?」

「うーん……ポテトチップスは食べたことはあるが、それ以外はほとんどない。絞るにしてももう少し絞ってくれ」

「そのレベルで食べないんですか。まず、しょっぱい系か甘い系……って清水先輩は甘ったるいの駄目なんでしったけ?」

「えっ? なんで知ってるんだ?」

「スイーツバイキングの時に言ってましたよ」

「ははっ、良助はよく覚えてるな」

 清水先輩は僕と会った回数は覚えているのに、内容の方は曖昧なことがある。記憶力はそれほどでもないと思っている僕も清水先輩から見れば記憶力がある方に……ってそんなこと考えている場合じゃなかった。コーヒーを買うために早く家を出たわけじゃないから、もたもたしてるとテストなのに遅刻してしまう。

「清水先輩、辛いのは大丈夫ですか? めちゃくちゃ辛いのじゃなくて、ちょっと辛い感じのやつ」

「え? 激辛は食べたことはないが、ちょっとなら大丈夫だと思うぞ」

「じゃあ、これ。カラムーチョにしましょう」

「からむーちょ? おお、何だか刺激的なパッケージだな」

「これは野菜と合わせても美味しいんですけど……」

「そうか。だったら野菜もついでに……」

「いえ、余計なことでした! そのままで大丈夫なので僕はこれをおすすめします! それでは、僕はコーヒーを買ってくるからこれで!」

 半ば強引に清水先輩に袋を渡して僕は缶コーヒーを手に取ってレジへ向かう。本当は店頭のコーヒーが良かったけど仕方ない。

 そして、会計を終えた僕はそのまま学校へ向おうと置いていた自転車へ行くと……

「良助、ちゃんと買ったぞ。うむ、程よく辛くて美味しい」

 僕の自転車の後部に座りながらカラムーチョを頬張る清水先輩がいた。お菓子を食べたいって今すぐの話だったのか。

「じゃなくて! 何普通に座ってるんですか!? 」

「確か良助の自転車だと思って。それじゃ出発……」

「……二人乗りはしませんよ」

 しぶしぶ降りた清水先輩をそのまま置いて……いくわけにもいかなかったので僕は自転車を押して清水先輩と登校することになってしまった。テストは普通に間に合ったけど、周りの目が気になりながらの登校はコーヒーを飲むより目が覚める時間だった。

「良助も一ついるか?」

「喉乾くからいいです……」
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